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陰に陽に  作者: 若松ユウ
18/22

018「フロート」

「どうですか、お嬢さん。シャチに乗った気分は?」

「良い気分よ。質感が安っぽいビニールでなければ、最高だけど」

 シャチの形をしたフロートの背中に横座りする樒と、それを押して泳ぐ椚が、他愛もない会話をしている。

「贅沢ですね。このへんで勘弁してくださいな。よっ、美人秘書!」

「おだてても、何も出ないわよ」

「嫌だな。見返りは、何にも求めてませんって。あっ。兄ちゃんと椛ちゃんが、こっちに手を振ってる。俺は手が離せないんで、代わりに手を振り返してもらって良いですか?」

「言われなくても、合図を送るつもりよ。妹は、ともかく。彼氏が手を振ってるんだから」

 そう言いながら、櫁は浜辺に向け、ゆっくりと優雅に手を振る。

「フー! お熱いことで。結構ですな」

「おじさん臭いことを言わないでちょうだい」

「これは、失敬。それにしても、向こうはビーチバレーをやってるみたいですね。楽しそうだな、あの二人」

「そうね。盛り上がってるわね」

「そういえば、この前の夜なんですけどね」

「何かしら? 急に話を変えるわね、椚くん」

「たぶん、兄ちゃんは半分、眠ってたと思うんですけど、椛ちゃんに気があるようなことを、寝言で言ってたんですよ」

「嘘でしょう? また、私のことを揶揄おうとして」

「いやいや、これは本当ですって。妹に出し抜かれると、姉として肩身が狭いんじゃありませんか?」

「そりゃあ、万が一にでも、そのままゴールインしたら、先を越されたと思うわよ。……もう。変なことを言うから、にわかに不安になってきたじゃない」

「すみませんね、一言多くて。戻りますか、お客さん?」

「リムジンからタクシーになったのね。良いわ。すぐに、車を出してちょうだい」

「へい、了解です。――あれ? 兄ちゃんが、こっちに泳いで来てる」

  *

「倉庫でパスケースを拾ってから、ずいぶん途中下車したものね」

「遅延証明書かな。それで、櫁の答えは?」

「せっかちね。私につり合う男が、椿くん以外に居ると思って?」

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