016「ホール」
「家族じゃなかったら、宿無しになってたところよ。反省しなさい」
「二度としないから、許してください」
観葉植物が置かれた休憩室で、櫁と椛が、ソファーに座って会話をしている。
「まあ、いいわ。他のみんなは、椚くんも含めて、歓迎ムードだから」
「梢さんや樫野くんも、人数が多いほうが楽しいって言ってたものね」
「私としては、いますぐ段ボール箱に入れて、ナマモノのシールを貼って、宅配便で家まで送ってやりたいところだけど」
「おお、怖い。私は、ハムやフルーツじゃないわよ」
「そうね。そんな上等なものじゃないわ」
「ちょっと、お姉ちゃん。それ、どういう意味よ?」
「野宿したい?」
「いえ、何でもアリマセン」
沈黙する二人へ、梢が駆け寄り、片手で椛の腕を取りながら言う。
「お話し中、失礼しまーす。ねえ、櫁ちゃん。椛ちゃんを借りても良いかしら?」
「どうぞ、どうぞ。存分に、こき使ってやって」
「じゃあ、お言葉に甘えて。――こっちよ、椛ちゃん」
椛は、梢に腕を引かれて立ち上がると、その場を去りながら言う。
「え? あっ、はい。あの、どちらへ?」
「いいから、いいから」
*
「楓くんから聞いたんだけど、櫁ちゃんと梅田くんを、いま以上にくっ付けたいんでしょう?」
「ええ、そうなんです。それで」
「ヤキモチを焼かせるために、梅田くんと好意があるフリをしようっていうんでしょう? 私と楓くんも、作戦に協力するわ」
「わあ。ありがとうございます。――そっちのトマト、大ぶりで美味しそうじゃないですか?」
梢と椛は、めいめいに買い物かごを持ちつつ、直売所で生鮮食品を見て回っている。
「本当。少し青みが残ってるけど、大きいし、安いわね。これは、買いだわ」
「レタスもありますし、サラダの材料は、これくらいで良いですね」
「そうね。――話を戻すけど、明日の予定は、櫁ちゃんから聞いてるかしら?」
「はい。たしか、海水浴に出かけるんですよね?」
「そうそう。そのときに、弟くんが櫁ちゃんを海のほうへ連れて行くから、椛ちゃんは、そこから見える範囲で、梅田くんを連れて浜辺で遊んで欲しいの」
「浜辺ですね。遊ぶ内容は、何でも良いんですか?」
「うん、任せるわ。ビーチフラッグでも、砂の城造りでも、好きにして。何なら、西瓜割りでも良いわよ?」
「いや、この時期に西瓜は売ってないでしょう。ビーチバレーでもしますよ」
「そうね。それが一番良いかも。ダブルスなら、私と楓くんも参加するわ」
「良いですね。……あれ? そのあいだ、梓ちゃんと楠見さんは?」
「屋根と扇風機がある場所で、荷物の番をしてるそうよ。絶対に肌を焼きたくないんだって」
「強い日差しを浴びると、灰になりそうですもんね、楠見さん」
「ハハッ。言えてる」
そう言いながら、梢は買い物かごの中からトマトを手に取って言う。
「これ、半分ジュースにしよっか」




