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魔術に愛されなかった男は神になる  作者: 迦楼羅
第1章 出会いと戦争編
9/12

9・誕生日パーティー

「皆様お帰りなさいませ。パーティーの準備は整っておりますので、リビ

ングにご足労お願いします」

「いいにおい......ゼスの家」


 我が家に入ると空腹に染みる香ばしい匂いが立ちこめ、チトは靴に付い

た泥を落とす前にリビングに行こうとして、イーナに止められた。

 グラム王国は基本家の中は土足で、過ごす決まりになっている。これは、

いつ何時非常時に陥るのか分からない今のご時世で、靴を履いたまま過ご

せば瞬時に脱出できるからだ。

 

 だが外から帰ってきてそのまま入ると、床が汚れてしまうので魔術か魔

法道具で靴を綺麗にしてから、入るのが常識となってる。

 チトは匂いにつられて綺麗にする前に入ろうとしたので、止められたわ

けだ。まだ、綺麗にする魔術を覚えていないチトに、玄関棚に入れてある

魔法道具を渡し使い方も教えた。

 

 魔法道具の使い方は至って簡単で、円筒の筒に魔力を込め足の間に置け

ば良いだけなのだが、込める魔力の分量を間違えると中の魔石が壊れる可

能性がある。俺は子供の頃魔力制御が出来ず4,5回壊したことがある。

 

 一度壊しすぎてイーナからお叱りを受けて事もある。

 いや、あの時のイーナはマジで怖かった。

 

「これを......使えばいいの?」

「ああ、やり方はさっき見せたとおりに、魔力の加減を忘れるな」


 チトすげぇーもう、魔力制御を完璧にこなしてやがる。ヘラの言うとお

り魔術の才能がずば抜けて高いな。

 記憶が無いのにここまで出来るとは、天才なのかも知れない。

 

 俺とチト以外の全員が魔術で、汚れを落とし終わりリビングに向かう。

 リビングに入るといつの間にか豪華に飾り付けられた内装に、匂いを嗅

いだだけでヨダレが出てしまう料理の数々が、テーブルに並べられていた。


中には俺が買ってきた材料を使ったと思われる品に、別口の材料を使った

料理が見て取れた。それと、特別な時にしか出さないイーナ自慢のフルコ

ースに、それ以外の料理が大皿に並べられ、バイキング形式になっている。

 

「すごく......綺麗だ」


 そして何より、リビングの内装がスゴく凝っていて、空中に浮かぶ光石

がキラキラ輝きまるで満点の星々を眺めているみたいだ。それ以外にも音

楽を再生する魔法道具に、幻惑魔法でおとぎ話に出てくるような幻想的な

森の風景になっていて、部屋にいるのに森に居るような変わった嗜好が凝

られてる。

 

 これを全てイーナ一人でやったとは思えないほどの素晴らし出来栄えで、

時を忘れるほどに見入ってしまった。

 

「ゼス様以下かでしょうか? これら全てが私からのプレゼントとなりま

す。お気に召してくれたら幸いです」

「スゴい、スゴいぞイーナ! こんなに美しいプレゼントは生まれて初め

てだ! ありがとう」


 子供のようにはしゃぐゼスをみて、イーナはサプライズが成功したこと

に肩の荷が下りたのかホッと胸を撫で下ろす。

 

 さて部屋にいるのに最高の風景を堪能したところで、お次は豪勢な料理

を食べよう。

 

「えーでは、皆飲み物は行き届いたかな? それでは愛しき家族、友と新

しい家族に心からの感謝を込めて、乾杯!!」


 ゼスの音頭と同時にパーティーが開始される。

 

  各々が好きな料理を小皿に乗せて堪能してる横で、チトだけが料理を

見ながら思案していた。

 

「チト料理に手を付けていないようだが、どうした? もしかして、さっ

きの塩焼きでお腹満腹なんだろ」

 少し意地悪げにからかってみると、チトに睨まれた。どうもチトは全て

の料理を堪能しようと、効率良く食べれるよう順番を確認していたみたい

だ。

 

 邪魔したのは悪かったから、そんなに睨まないでくれ。怖すぎる。

 

 ゼスは謝る代わりに、自分が一番好きな料理を教えてチトに許して貰っ

た。そしてゼスが進めた料理を初めに食べて、他の料理を黙々と食べる。

 

 チトって意外と大食いなんだな。まっ、美味しそうに食べてるからいい

か。そこそこにしとけよ。

 

 さてと俺も食べるか......このパイうま!

 

 パリパリした生地の中から垂れる肉汁にトロッとしたチーズのアクセン

トが良いハーモニーをかなで中々にうまい。

 次はアクア貝を使った米料理を食べてみた。アクア貝は名前の通り体の

半分に水を蓄える特徴があり、真水を使わずアクア貝と米を一緒に炊くと

蓄えられた水で米が甘みがありモチッと炊きあがる。お好みで魚介類や野

菜を入れるとさらに旨くなる。


 アクアライスも噛む毎に甘みが増してうまいし、これだけで何杯もイケ

るがテオターレの酸味がかった肉と一緒に食べるとさらに旨い!

 

 テーブル中央にあるウサギが一回り大きくなったテオターレは、内臓を

全て取り出しその中に様々な香草を入れてオーブンで焼くことでどくどく

な酸味が出る。これは焼くことでクエン酸が増加するのが原因で、貴族の

中では燻製にして嗜好品として嗜む人もいるらしい。

 

 普通に食べた方が、万倍も旨いのに。

 

 チトにも進めるが、酸っぱいのが嫌だったのか一切れ食べると顔しかめ

て涙目になっていた。

 意外と子供舌なんだな。

 

 そんな風に料理を食べてると、横から酒臭いヘラが抱き寄ってきた。

「ぜ〜す〜くん、の〜でる? ぼ〜くはす〜ごくよって〜るぉ。だ〜から

ぜ〜すくんにだきつぃちゃ〜う! きゃっ! ぼ〜く〜ってだ〜い〜た〜

ん!!」


 なんだこの酔っ払いわ! 酒クサッ! どんだけ飲んだんだコイツ!!

 

 ソファーではヘラの酒盛りに付き合っていたギルが、飲み過ぎでダウン

していた。隣ではイーナが魔術をかけて回復させているが、何を飲んだら

ああなるんだ?


 とゼスはふとヘラの持っているやたらと高そうな空の酒瓶を持っている

ことに気づく。

「......おい、まさかテメレスの酒を全部飲んだのか?」

「そ〜だ〜よ、コ〜レすっごいお〜ぃしの。ぜ〜すくんのぶ〜んものんじ

ゃ〜たへど、ぼ〜くとキスすれ〜ばあじ〜はわかるよ」


 だめだ完全にできあがってる。おい、俺の首に手をまわしてキスしよう

とするなセクハラ娘め。

 

 無理矢理キスしてくるヘラの顔面を鷲掴みなんとか押しのけようとする

が、暴走状態の酔っ払いの力の方が強く押し負ける。

 

「なんて力だ! このままじゃ俺のファーストキスが酔っ払いに蹂躙され

る。誰かアテナ助けてくれ!!」

 

 ちょうどいたアテナに助けを求めるが、アテナからもちょっとアルコー

ルの匂いがした。

 

 まさか!?

 

アテナは呼ばれて振り返ると。

「な〜へふか? に〜さ〜ん」


「この馬鹿ヘラ! 妹にも飲ませたな! ああ、どうするんだお前以上に

呂律が回っていないぞ!」

「え〜へぇ〜それほどで〜も」


 褒めてねぇーよ!


 さすが全てを酔わす酒と言われてるだけある。ちょと飲んだだけでアレ

か。ってか、ヘラはそんな酒を大量に飲んで立ってられるなんて化け物か。

 

「ぜ〜すく〜んすきあ〜りぃ!」

「なっ!!?」


 隙を憑かれ唇に柔らかい感触が、酒の味と一緒に来た。

 

「うぅぅうう!!! プハー! おまっなんてことを!」

「や〜た、ぜ〜すくんの、初ちゅ〜ゲット〜」


 狂うように喜ぶヘラを見たアテナも酔った勢いで迫ってくる。


「ああ、ね〜さん〜ずぅるぃ〜に〜はんわたしも」


 やめろアテナ俺達は兄妹っ! 

 ゼスの反撃もむなしく妹と幼馴染みに唇を為すがままに蹂躙され、危う

く窒息死する寸前でした。

 けっきょく疲れて眠るまで続き、後日昨日の記憶があるか問いただして

みると、酔っ払いあるある、覚えてないと言われた。

 

 そしてゼスが蹂躙されてる横で、黙々と食べ続けるチトがその光景を見

ると。

「むぅ〜〜さきをこされた」

 意味深な事を言い羨ましそうにその光景を座視する。


「あらあら、ゼス様はモテモテですね。ふふ」

「いや、イーナさんアレは襲われてるだけですよ」

 ギルを介抱していたイーナは三人を微笑ましく見守り、復活したギルも

生暖かい目でゼスを見守る。

 

 泥酔した肉食娘に貪り食われるゼス兎は逃げることを許されず、ただ欲

望のままに食されるか。すまんなゼス俺もまだ生きたんだ。

 外野は大人しくしてるに限る特に女が絡むと特にな。

 

 

 ●

 

 

 同時刻ハーナ近海。

「あらら、なんだか〜向こう側はやけにうるさい感じですか〜?」

 海上を進む一隻の戦艦から顔を覗かせるゴスロリ服を纏い髪を半々ずつ

黒と白に染める少女は黒い日傘を杖代わりに水平線上の彼方グラム王国の

ハーナがある方角を向いていた。

 

「ヘカーティー、あまり乗り出すと危険だぞ」

「あらら、テュラン〜心配してくれるの? ウザいから口を閉じて下さい」

 ゴスロリ少女に注意する半裸で大剣を背負う筋骨隆々の大男はなにも文

句を言わず口を閉じた。


「あらら、王国の兵隊さん達は、脆いですね〜 もう少し期待していたの

に、肩すかしを食らった気分です。つまらない、つまらない。そう思うで

しょテュラン〜何を黙ってるの喋りなさい」

「我々帝国が強かっただけのこと」


 ゴスロリ少女と大男が乗る帝国の旗を靡かせる戦艦とその後ろに続く大

艦隊は、無数の残骸が浮かぶ海を優雅に進む。

 

「報告! 王国第3艦隊の完全撃破を確認。海には多数の生存者が浮かん

でおりますがどういたしますか!」

「全員殺しなさい」


ゴスロリ少女は部下からの報告に冷たい笑みで即答する。


「は? 全てですか」

「あらら、私の声が聞こえなかったの〜能無しだか死になさい」


 ゴスロリ少女が手を下げると同時に横に居た大男が、報告してきた兵士

を大剣で真っ二つ切り裂く。


「あはあは、死んだわ。あ〜血がドクドク溢れて綺麗だわ。そうだこの海

も血で真っ赤にすれば綺麗になる感じかしら」


 ゴスロリ少女は海に浮かぶ王国兵士に手をかざすと、大量の王国兵が宙

に浮き上がった。

 

「ま、待てわしは王国海軍第三艦隊総司令官メイトリック将軍だ。我々は

貴君らに投降する。部下だけでも良い、助けてくれ!!」

 生き残りの中にあの親バカ艦長の姿会った。彼は自分を犠牲にしてでも

部下を守ろうとゴスロリ少女に投降宣言をする。


「あらら、負け犬が無様に助けてだって笑えるわねテュラン〜どうしまし

ょう? 助けようかしら。ウソ、助けないわよ貴方たちは負けたのだから

死んで海を綺麗にする画材になる感じかしら、ふふ残念でした」

「己帝国畜生が、貴様達は狂ってる! 我が祖国に手を出してみろ。ゆる

さん、許さんぞ!!」

 

 ゴスロリ少女は最後にバイバイと手を振るうと、直後王国兵士達に異変

が起きる。穴という穴から血が流れ出し、悲鳴を上げながら絶命していく。

 

 「ああ......メイカ......約束を破る父を......許してくれ。ワシは......あの

世で......おまえを............みまっ」

 メイトリックは最後まで悲鳴を上げること無く死ぬ間際まで最愛の娘を

案じながら逝った。

 

「あらら、最後まで悲鳴を聴けなかったわ。残念な感じかしら、まー良い

わ次はもっと悲鳴を聴ける場所にハーナ(・・)に行きましょう」


ゼス達が平和の時を過ごしている傍らで絶望は刻一刻と迫ってくる。


 帝国艦隊ハーナ到着まであと12時間。




メイトリック将軍に心よりの冥福を……我々は素晴らしい軍人をまた一人失った。

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