4・心強い幼馴染み
活気のある一階からゼスはもの静かな五階に来ていた。
階段から微かに聞こえる音を、背に質素だが高級感溢れる扉の前に立つ。
「やっぱ戻ろうかな?」
階段を上るときもなるべく音が出ないようしたし、トンズラかませば今
ならバレないだろう。
俺も扉の中が普通なら入っていたよ。でも、扉に俺以外の入室を禁ずる
何て張り紙に書いてあるんだ。
アイツの事だ厄介毎に決まってる。
しかし、その考えが間違っていて本当なら、何かしらの相談事があるか
も知れない。それにここで逃げたら、ヘラを傷つけアテナにも嫌われてし
まう。
......それは、やだな。
「仕方ない入るか」
コンコンとノックをして入室の許可を待つ。
「ダレ〜?」
間の抜けた声だな俺以外が聞いたらどうするんだ。
「俺だ。開けるぞ」
「ああ、入ってくれて良いよ」
部屋の主の許可も得たので、扉を開ける。
それにしても声に覇気がないな。どうしたんだ?
ゆっくりと扉を開けるとそこには、机に項垂れている幼馴染みの姿があ
った。
俺の考えは的中していたのか。
余計なことを考えずトンズラすればよかった。いや今からするか。
項垂れる少女に気づかれないよう今度はゆっくりと閉めようとする。
「ま、まて君は幼気な僕を置いてどこに行く気だッ?」
うぉ、早すぎて見えなかった。どんだけ必死なんだよ。
項垂れていたはずの少女は目に見えないスピードで扉にしがみつく。
「離せっ、お前のどこが幼気なのか知らんがとにかく離せ。ヘラ!」
「いやだね、僕の話を聞くまでは離さない」
クソ。コイツのどこにこんな力が、アドレナリンでリミッターが解除さ
れたのか?
「どうだゼス君諦めて話を聞くになったか!?」
力みすぎて顔が赤くとんでもないことになっている。
このままではさらに女の子がしてはいけない顔になってしまう。
はぁー仕方ない。
俺は掴んでいた扉の取っ手を手放すと、全体重を使って扉を掴んでいた
ヘラが反動で尻餅をついた。
「痛いッ! 何をするんだ」
「話を聞いてやるから手を離した」
淡々と説明しゼスは来客用の長椅子に腰掛ける。
「んで、俺に話したい事ってなんだ?」
ヘラはお尻を撫でながら俺の反対側の長椅子に座った。
「うぅ、僕のデリケートなお尻に弁明はないのかい」
「悪かった」
感情の籠もっていない一言であるが、ヘラは渋々許してくれた。
「ちゃんと謝って欲しいけど、今はそれどころじゃない。ゼス君よく聞い
てくれ、今朝父様から内密の情報が僕に届いた」
ヘラの雰囲気が変わった。先ほどの間の抜けた感じから、商会の会長に
ふさわしいオーラが発せられる。
ただ事じゃないと感じ俺も真剣な顔つきで話を聞く。
「なにがあった?」
「苛ただし事に帝国が開戦宣告を全世界に告げたようなんだ。まだ一般人
には公言されてないが、父様の情報だ。確定と考えていい」
「なっ!!......」
ゼスは唐突に告げられた内容に、驚き立ち上がる。
「......ゼス君座りなよ」
唯一冷静なヘラが声をかけるまで、放心状態だったゼスは我を取り戻し
座り直す。
「す、すまん......叔父さんは他に何て?」
「うん、どうも王国上層部も突然の出来事に一時パニック状態だったけど、
国王様が出張ってきてから落ち着いた見たい。で、国王命令でハーナ近海
に防衛網を引くために艦隊が、今朝入港してきた。僕が知っている情報は
これだけかな」
「そうか......それは何よりの朗報だ」
ティタノマキア帝国。
グラム王国のある地ロニア大陸と海を挟んだ西の浮遊大陸に君臨してい
る。魔術が発達し終幕戦争後に台頭してきたかの国は圧倒的な軍事力でた
びたび世界を脅かし何度も戦争を起こし負けその都度力を増していき、7
0年前の帝国と連合国との戦争では辛くも撃退できた。
「でも、もしまった帝国が戦争を起こしたら、今度こそ帝国を除く12の
国々は滅ぶと言われてる。しかも運の悪いことに現在それぞれの国々では
災厄や魔物の増長、飢饉に奴隷問題で、戦争どころじゃない」
間が悪すぎる。いやコレを狙って帝国は戦争を仕掛けたのか?
どちらにせよ最悪のタイミングだ。
「唯一戦えるのは僕たちグラム王国ぐらいか? いずれにせよこのままで
は負ける。ってゼス君聞いているのかい」
「......ああ、聞いてる」
俺はヘラの説明を聞きながら考えていた。
もしこのまま戦争が始まったら、俺は家族をアテナやイーナ目の前に居
るヘラを守れるのか?
不安と恐怖が入り乱れ考えれば考えるほど、無理だと心の中の俺が結論
づけてしまう。
なんで今なんだ。
「ゼス君、おーい返事しろ。返事しろってッ!」
「なっ、何をする?!」
いきなりヘラが俺の額にデコピンをしてきた。痛くはなかったが集中し
ていたのからかビックリした。
「何をクヨクヨしているんだ君らしくないぞ。戦争が起こるんだったら立
ち向かえばいい、負けが分かっていても戦え、君の言葉だ」
「俺達のいや、お前達の生死がかかってるんだぞ!」
バンとヘラが机を力一杯に叩く。
「それでもだ! 僕は僕の理想のために理不尽な力に屈しない。例え死ん
でも僕は抗い続ける。だから君も誰かしらを守るために剣を取れ。君のお
父さんの言葉だ」
「ッ!!」
ああ、クソ生意気なんだよ。泣き虫の癖になんてカッコイイ目して泣いて
んだよ。
「そうだよな、まだ負けてないし始まってもいないんだ。帝国め来るなら
来い返り討ちにしてやる!」
「そう、その息だよゼス君。やっといつもの君に戻った」
たく泣くか笑うかどっちかにしろよな。
でもコイツの笑顔は暖かくていい感じだ。
「さてゼス君。戦争が始まっても僕たち商人はやることが沢山ある。猫の
手も借りたいほどに、そこで君には何でも屋の仕事は一旦休んで貰ってや
って欲しいことがあります」
「おう、なんでもやるぜ」
その言葉を聞いたヘラの目が一瞬光りニヤっと笑ったように見えた。
あれ嫌な予感がする。
その予感の原因はすぐに判明し、俺は後で後悔することになる。
「じゃあ、このメモに書いてある品物を買ってきてね。宜しく頼んだよ」
俺はメモを受け取り内容を確認する。
「なになに、シザーフィシュッ五匹・七つ草4束・テオターレ丸々一匹・
アクア貝あるだけ買う・シュクの実50個・最後にテメレスの酒・以上を
買ってくること......なんだこれ?」
「うん、今日のパティーに出す料理の材料だけど? なにか」
「何がじゃねー、ふざけんな! 何で自分の誕生日に食う飯の材料を俺が
買わないといけないんだ。しかもこの材料全部高級食材じゃないか、特に
テメレスの高級酒って一つ10王金もする馬鹿高ぇ酒だろ?」
メモの内容に驚愕し声が裏返ってしまっている。
「お金に関しては問題ないよ僕が全部出す。それとテメレスの酒はウチの
倉庫にあるから取りに行けばいいだけだよ。商品だけど一つ消えたぐらい
なら、僕が書類にちょちょいっとすれば問題ない」
それって横領じゃ......いや何でもない。
「なんで俺が行かないとイケないんだよ?」
「えっ! 何でもするって言ったのにアレは嘘だったのかい。僕泣いち
ゃうな」
ぐっ、卑怯だ。横暴だ。やり方が汚すぎる。けど何でもするって言った
し、言い逃れするのはださい。
「わーたよ。行きますやらせて貰いますよ。さっさと金よこせ」
「ふふん、僕は話の通じる幼馴染みが居てラッキーだよ。はいお金だよ」
アテナは金庫から大量の金貨が入った袋を重そうに取り出し、ゼスに渡
す。
俺はそれを受け取りさっさと買い物に行くことにした。
「いってらっしゃいゼス君。くれぐれも盗まれないようにね」
俺は振り返ること無く軽く手を上げることで返答する。
まずは市場でも行くかな。
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