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魔術に愛されなかった男は神になる  作者: 迦楼羅
第1章 出会いと戦争編
2/12

2・悲しき過去

「ふ〜〜〜くった、食った」

「美味しかったです」

 

 腹をさすり満足げな顔を晒すゼスとアテナは幸せそうな顔をしていた。

「ふふ、お粗末様です」

 そんな余韻に浸っている二人を背に、口直し様の紅茶を用意していたメ

イドは笑顔で感謝を言う。

 

 三人分の紅茶をそれぞれに配り、イーナが自分の席に腰を落ち着けるの

を、律儀に待つ。

 

 普通ならメイドと主人が一緒の食卓を囲むことは無いだろう。しかし、

とある理由で没落した元貴族オグマ家に、愛想を尽かさず一緒にいてくれ

た。イーナ・イージスと主人であるゼス、アテナの絆は深く固い。ゆえに、

三人は自分達は主従では無く家族に近いと思っている。

 

 さしずめ姉と弟。姉と妹と言った関係だろうか。

 

 そんな三人は、用意された紅茶を飲みながら談笑していた。

「で、ですね、イーナ。兄さんたら、まんまと騙されたんですよ。あの時

の赤面した顔は見物でしたよ」

 

 どうやら先ほどの一部始終をアテナが、笑いの種に使って要るようだ。

「それは残念でした。ゼス様の赤面したお顔を拝見したかったですわ」

「......」

 若干一名を除いた談笑は大いに盛り上がりを見せた。その傍らゼスは明

後日の方向を向いて沈黙し、顔は赤を通り越して真っ白だったらしい。

 

 そして、主にゼスをネタにした女子二人の談笑は、ゼスの降参宣言と共

に終わりを迎えた。

 

 ●


「たく、あいつら、人の弱みにつけ込んで、言いたい放題言いやがって」

 先ほどの事にブツブツ文句を言いながら、ゼスは自室にて寝間着から普

段着に着替えていた。

 

 ゼス達が住む港町は、最近になって夏を迎え、寝間着は半パンにシャツ

と非常にラフな格好で、とても涼しそうである。

 

 涼しげな寝間着を放り投げ、手っ取り早く着替えを済ませる。そのさな

か鏡に写る自分がたまたま目についた。

 浅い小麦色の肌に無駄な肉が付いてない筋肉質の体。

 

 それと肩から臍まで届く一本筋の傷痕があった。

 

 見るだけで痛々しい傷痕をゼスは上から這うように撫でる。と、同時に

余り思い出したくない幼少時の記憶が蘇る。

 

 アレはいつだったか。

 まだゼスとアテナの両親が居てオグマが貴族であった頃だったか。

 

 当時の俺は虐められ子で、よく泣いては親友や両親に助けられたよ。

 

 いや、アレは本当に酷かったね。

 暴言を吐かれるのは当たり前、石や物を投げられるのは普通だったし喧

嘩自体は俺が圧勝だったけど、魔術は反則だよ。

 

 それも全部は俺の体質に問題があった。

 

 俺は妹のアテナと目の色が違う。

 妹は俺達が住むグラム王国ではごく一般的な黄金色の目をしている。

 母さん譲りでとても綺麗だ。

 

 親父は異国出身の所為かくすんだ紫色の珍しい色をしていたが、珍しい

だけでごく自然な目であった。

 

 対して俺の目は黒これがまた厄介な代物でね。

 魔術が発展し、世の中が魔法時代なんて呼ばれてる。時代に黒い目をし

てる事は、ある呪いを生まれ持つ事を示す。

 

 俺の呪いは魔術類いが一切使えないんだ。

 

 ハハ、笑えるだろ。

 

 この呪いは必ず黒い目を持つ者に発現する。

 理由は分かっていないが、ちまたでは悪魔に憑依されてるとか、生前に

悪逆非道を行った者の生まれ変わりだとか言われてる。

 

 おかげで、ぼろくそに虐められるは散々な目に遭ったよ。

 特に一本筋の傷これは特に酷かった。

 

 アレは俺が王都の家で11歳の誕生日を迎えた翌日だったか。

 寒さが身にしみる時期の朝だった。

 余りにも寒かったから温かいココア飲みたくて、イーナが居るメイド室

に行く途中の廊下で、俺を呼ぶ声が聞こえて振り返ると。

 

 風邪が裂かれる音がして、服の下が熱くなりだんだんと痛くなって手で

押さえると血がダラダラと流れていた。

 

 スゴく、怖かったのを覚えてる。

 

 その後の記憶はほとんど覚えていない。

 

『これでまた一人悪魔が死んだ』

 意識が薄れる中聞こえた男の声と。


『お兄ちゃん? なんで寝てるの ね、起きて。あれ、濡れてる?......う

そ、血? お兄ちゃん、お兄ちゃん、起きてッ!!』

 後から来た妹の叫び声が今でも繊細に思い出せる。

 

 次に目を覚ましたのは家族が見守るベットの中だった。

 俺は死んでも可笑しくない深手を負ってなお生きてた。

 まさに奇跡と医者は言ったが、俺だけは知ってる。

 

 俺を救ったのはアテナだ。

 あの時妹は多分泣いた。そしてその涙が俺を救った。

 何でかは知らないがアテナの涙が傷口に染みたとき心地良い暖かさを感

じ、痛みも消えた。

 

 確信は無い、でもあの時側に居たのは妹だけで何か出来たのも妹だけだ。


 確証は無いが俺は妹に感謝する。

 

 ほんと俺は誰かにいつも助けられて守られて、どうしようもない男だ。

 守るべき妹にも助けられて、普通逆だろ。

 

 ほんとださい男だ。

 

 ......ああ、止めだ。辛気くさくなった。

 

 んで、話を戻すと一連の事件の首謀者は、『魔術絶対主義』を旗に掲げる

一部のイカれた魔術師一団による仕業らしい。

 コイツらは魔術を使えない者や種族となると誰でも殺す。子供、女、赤

ん坊、老人、貴族、王様すら殺しまくって、魔術師だけの完璧な世界を作

ろうとしてる狂信者共だ。

 

 なんで奴らの犯行だと分かったか? 簡単奴らは自分らが掲げる旗の印。

赤い太陽をもしたペンダントを死体の首にかける。

 

 太陽とは魔術の祖であり、神話の大戦を止めた一人。

 太陽と魔術の神ソロモンを象徴する。

 

 奴らは自分らこそ神に選ばれた神の代弁者だと勘違いし、自分達を神の

執行者『ソロモンの執行者』と自称し大量虐殺を行ってる。

 

 そんな奴らにとってこの目は、格好の標的であり憎むべき悪魔の印らし

い。

 そして、連中は何もしていない黒い目を持つ人間を殺すどころかその関

係者はては住んでいた街すらも蹂躙する。

 

 いつしか黒い目を持つ人間は災いを招く。そんな噂が流れ黒目の人間は

迫害や虐めの対象となった。

 

 だが、そんな噂を真実面と向かって俺達と接する者達もいた。

 俺の家族を初め心の優しい者達は最初は数こそ少なかったが、徐々に数

を増やす。

 

 その先立てとなり市民に勇気を与えたのが、元グラム王国王妃アテイシ

ャ・エクレス・グラムその人である。

 

 彼女もまた黒い目を持つ一人であった。

 

 市民は最初こそ激怒した。

 自分達を騙したのかと。

 災いの王妃を殺せと。

 

 市民の怒りはクーデターを起こす寸前だったが、その勢いはすぐ沈下す

る。

 彼女のアテイシャ王妃の勇気ある行動恐れを感じさせない姿をみた民衆

は、彼女の慈愛を勇気を思いを聴き考えを改めた。

 

 人々は考えを改め悪いのは、黒目の人間では無くそれを弾圧する狂信者

なのだと。

 こうして王妃の勇気ある行動は人々考えを変え、黒目の人間の迫害はグ

ラム王国では法律で禁止となった。

 

 俺が14の時両親を亡くしたその年の出来事だ。

 

 両親は現国王の冒険者時代の仲間で、その腕を買われ王直属の近衛隊隊

長、副隊長だった。

 当時は王妃の護衛だったため、家に帰ってくるのは月に一度あるかない

かで、寂しかったけど誇りに思った。

 

 俺達の救いである王妃を両親が守ってるんだ。ガキだった俺はそれがス

ゴく嬉しかっただって、俺達を守ってくれる王妃を両親が守ってるってこ

とは両親も俺を守ってくれる。

 

 そう思ったからスゲー嬉しかった。

 

 そんな矢先あの事件が起こった。

 

 王都で王妃の勇気を称えるパレードが行われた。

 主席者にはアテイシャ王妃も参列していて、護衛の両親達もいた。

 俺は両親と王妃が見たくて、イーナとアテナと一緒にパレードを見に来

ていたんだ。

 

 パレードは厳戒態勢の警備で行われており、黒目の人間も多くいて、人々

は新たな時代に歓喜した。

 

 が、歓喜は悲鳴と変わった。

 

 王妃を守るはずの両親を除く近衛兵が反旗を翻したのだ。

 

 両親は戦った王妃を息子の希望を守るために戦って死んだ。

 

 俺は両親の死を間近で見ていたが、不思議と涙は出なかった。

 かっこよかった、父さんも母さんもかっこよかった。

 最後まで王妃を守り抜き逝った。

 

 そして託された家族をオグマの名を二つの剣を。

 

 「ああ、ほんと守られてバッカだよ。

 まだ、親孝行も、ありがとうも言ってない」

 (逝かないでくれよ。父さん、母さんもっと、側にいれくれよ)

 

 俺は鏡の前で泣いていた。

 

 クソ、思い出し泣きだ。

 

 あの時は泣かなかった癖に、年かね。俺も今日で二十歳だ。

 いつまでも思い出に浸っている訳にはいかないよな。

 

 ゼスは涙を拭い私服に着替える。

 その、背後部屋の外ではアテナが一つの杖を抱え、頬には一筋の涙が光

っていた。


「兄さん......もっと私を頼ってください」

アテナの心痛に呟きその場を後にする。

 

 

 

 

 ●

 

 

 思い出に浸って無駄な時間を費やしたゼスは着替えを済ませ、一階の玄

関に来ていた。


「遅いです! 兄さん。何をしてるんですか!?」

「ふふ、ゼス様お待ちしておりました」


 そこにはやけに不機嫌なアテナと笑顔で一礼するイーナが待っていた。

 

 「すまんすまん、ちょっと着替えるのに手間取った」

 「手間取ったって......いつもの格好じゃないですか? 手間取る要素あ

りませんよね」

 

 アテナの指摘どおり、俺の格好は白いシャツに黒いパンツと両腰に剣を

携えたシンプルな服装である。

 間違っても数分で着替えれるのだが、二人に泣いていたなんて言えるわ

けも無く。

 適当に言葉を選んだら几帳面なアテナに指摘されてしまった。


「待たせたのは悪かったよ。そんな事より早く行かないとヘラがうるさい」

「大丈夫ですよ。姉様は兄さんには甘いですから、かまって貰うと良いで

す」

 

 なんか機嫌悪くねアテナ。


 俺は横にいたイーナにコッソリと訪ねてみた。

「イーナ、何かあったのか? アテナ」

「ふふ、大丈夫ですよ。アテナ様は少し拗ねているだけです」

「そうか」


 ゼスはなにか納得した顔でアテナに近づく。

「な、何をするんですか?! 兄さん」

 

アテナの側に寄り添い彼女の頭を活きよいよく撫でた。

「んな、ムクレってと可愛い顔が台無しなんだよ。お前は笑ってる方が最

高だから、もっと笑ってろ......

んじゃ、イーナ仕事行ってくる」

「いってらっしゃいませ」


 ゼスは言うだけ言いアテナを置いて先に行ってしまった。


「ま、待ちなさい! 兄さん。話は終わってません!!」

 ズキズキする頭を押さえ、慌てて後をを追う。


「あらあら、お二人とも今日も仲が良いですね。」

 メイドは最後に一礼し、仕事に戻る。


 






 


 

 



 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 



 

 

 




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