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やくそく  作者: 龍川夏樹
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第一話 


ここは、山梨県翔第一中学校

 今日はまだ桜が満開だというのに少し蒸し暑い、世の中の学生にとってはとても耐えがたくめんどくさくなるであろう日だ。しかも始業式………なんとなく、セミの鳴き声が聞こえるのは、きっと気のせいだろう。


 チャイムがその日の終わりを告げた。そのとたん、先ほどまで授業中にもかかわらず、べらべらと話をしていた二人の女子が教室の隅ですでに帰ろうとしている女子に声をかけた。

「ねえ!羅月、今日ひま?あたしたちと遊ばない?」

女子は少し困ったような表情をした。

「ええっと…ごめん!今日はちょっと用事があって…」

「そっかぁ、じゃあしょうがないよ。また今度ね。」

「うん。ほんっとごめんね!じゃっまた明日っっ」

「じゃあねぇ〜〜」

 断った方の女子は、そういいきるか切らないかのところですぐさま教室を飛び出し、学校が見えなくなる桜広場まで走った。ここは、およそ50本の桜の木が公園を取り囲んでおり、春には観光客もたくさん訪れる場所である。ただし、今日のような蒸し暑い日には誰も訪れはしないだろうが……


 予想通りだった。公園には犬の散歩のおじいさんと一組のカップル、コンビニ弁当を食べているサラリーマンしかいなかった。まあ、当然の結果だろう。

(今日はほんとに無理だからさっさと帰ろうと思ってたのにこんな早く誘われるとはな〜)

公園のど真ん中で地団太を踏んでいるこの女子は、名前を鳴海羅月【なるみ らつき】という。ちなみに学校で今学期の目標は?とか聞かれると「誰とでも仲良くしよう!」と答える平凡な子供だ。今日で、中学二年生になった。

「だけど今日は絶対はずせない、と〜っても大事な用事があるんだよね〜」

 羅月は一人でにまーっとにやけた。

 そのとたん、羅月のすぐ隣を一台のオートバイが走りぬけた。オートバイは道路の次の角を猛スピードで曲がり、あっというまに消えていった。

「あっっっあぶっ危なかったぁ……」

 そう思いつつ、ほっと力を抜くと羅月はその場にぺたんと倒れこんでしまった。すると、地面になにか輪っかのようなものが落ちているのが見えた。ずるずると移動してそれを手にとって見てみると、それは腕輪だった。鉄でできているようで、表面に黄緑色のきれいな宝石がついていた。

「なんだろこれ?腕輪…だよね?というかこれって宝石!?どっどうしよう!」

辺りを見回しても探していそうな人はどこにもいなかった。羅月がどうしようときょろきょろしていると、犬の散歩をしていたおじいさんが声をかけてきた。

「お嬢さん大丈夫じゃったか?さっきのバイク、常識知らずじゃの〜。人がおるのに突っ込んできおった。全く最近の若いやつは・・・・」

「えっ?あぁ、そうですよねぇ…私もそう思います。最近の世の中はどうなってんでしょうか?危なすぎますよ。同じ若い者としてまったくもって理解できません。」

「ほほう、なかなか言うのう、その心が大切なんじゃ。気に入った!話が合いそうじゃが、どうじゃ?これから家でお茶でもしながらこれからの日本について語り明かさんかね?うちはお茶の名家での、店をやっとんじゃ。」

「そうですか?いいですねぇ!…って、ごめんなさい!今日は大事な用事があって…」

「用事?はてさて、これからの日本より大事な用事とはどんな用事なんじゃ?」

羅月は満面の笑顔で答えた。

「昔の親友に会うんです!だからごめんなさい。急ぐのでお話はまたの機会にしてください。では、失礼しま〜す。」

そういって、まだ諦めがつかないようなおじいさんを一人置いて、羅月は家までの道を駆けていった。


 家に着いた羅月は群がってくるちびっこ達を押しのけて靴を脱ぐと、自分のロッカーに入れた。その後すぐに部屋に行き、着替えを済ませて食堂にいった。

…………さて、ここで羅月の「家」について、少し疑問には思わないだろうか?

    群がってくるちびっこ 自分のロッカー 食堂。


 羅月は生まれてすぐに、捨てられていたところを児童養護施設「神風園」(しんふうえん)の園長に拾われ、今まで育ってきたのだった。

 そんな身の上の羅月が、今まで一度も曲がることなく、素直に成長していった事は、職員たちの中での謎でもあった。

    

 5歳の春、羅月は同い年の少女、日向深砂【ひゅうが みさご】に出会った。

 深砂は、親が一緒に住めなくなったという理由で預けられた。

親に裏切られたということからか、暗く沈んでいた深砂はなかなかみんなに心を開かなかった。ほとんどの人が深砂の態度に苛立ちを隠せず、無視するようになっていった中、羅月だけは粘り強く深砂と向き合い、徐々にその心を開かせていった。やがて深砂は明るさを取り戻し、二人は常に行動を共にするようになり、まわりから「親友」と呼ばれるまでに仲良くなった。

 しかし、二人が十一歳、小学校五年生の終わりに、深砂の親が深砂を引き取りたいと言ってきた。深砂はいまさら、と言って取り合わなかったが、羅月は親元に帰れるなら、と戻るように勧めた。深砂は羅月に推されるがままに親のところへ帰ることを決めた。

 そして二人は「3年後、もう一度ここで会おう。」という約束をかわし、離れ離れになった。深砂はお互いを頼って違う学校で孤立してはいけないからと、住所や電話番号は誰にも教えず、自分も連絡はしないと言い切った。それから三年間、本当に二人は一度も接触をすることなく毎日を過ごしてきたのだ。

 そして、今日はあの日からちょうど三年後、二人が再会を約束した日である。学校があってもいいようにと、時間は午後4時にしてある。羅月はそこからご飯でも食べに行けばいいだろうと思っていた。一時期、深砂は意外と近くにいるのではないかと考えたこともあったが、さっき言ったとおり二人は一度も会うことはなかった。

 

 食堂に行った羅月はご飯を食べ、まだ午後二時だというのに、風神園を飛び出していった。後ろから先生の声が聞こえた。

「ちょっと、羅月ちゃーん?浮かれてないで早めに帰るのよ!気をつけてね。」

「はいは〜い!じゃあ、いってきまーす。深砂にはよろしく言っとくからねー」


 羅月は今日をとても楽しみにしていた。なにしろ、小さい頃の「親友」に会うのだから。


 再会する約束をした場所は、鳥が浜という砂浜だ。

ここはなかなかの絶景なのだが季節的に今は春、いくら暑いとはいえ泳ぐ人もおらず、桜広場と同じく人はほとんどいなかった。

「やっぱり早かったよな〜……」

砂浜に腰を下ろした羅月は砂をすくっては落とし、すくっては落としを繰り返していた。

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