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ジェミニの天秤と運命の石 「星の伝説 ~リブラの章~」

作者: ふぃろ

神々のパワーバランスによって争いは起き

神々のパワーバランスによって平和が保たれている。

我々の世界は天秤に掛けられた皿の如く

常に揺れ動いているのだろう。

どちらかの比重が増すと

バランスを失い片側からはジリジリとパワーがこぼれ落ちていく。

かくして、世界の格差は広がっていくことだろう。

第1章 リブラの章

神の子として、生まれた子によって

リブラのバランスが揺れ始めた。

1人は母親の愛を受け継ぎ、1人は父親の愛を受け継ぎ

揺れながら成長していく。

生まれた双子は、それぞれ別々の石を持って生まれた。石にはなんの刻印もなく、どちらが運命を背負う子なのか両親にはわからなかった。

生まれてすぐに二人は引き離された。

カシミール「あなた!どこへ連れて行くの?」

ジェミニ「これからの試練のために、オレはこいつを育てなければならない」

カシミール「どうするの?この子だってジェミニの子よ!」

ジェミニ「すまない。お前に預ける。頼んだよ」

カシミール「私、1人を置いていくの?私に責任を押し付けて・・・・」

ジェミニ「頼んだ・・・」

カシミール「身勝手よ・・・」

俺が生まれた時も石を持って生まれた。石にはジェミニの刻印が印されていた。

俺の名前はジェミニ。刻印の無い石を持って生まれた双子のうち一人を連れて、俺は旅立つことに決めた。既に決まっていた人生だ。

そう運命によって定められた俺の子によって、世界は混沌となることは伝記によって印されている。俺は迷わず二人を引き離すことに決めていた。

母親であるカシミールとは意見が別れていた。

ジェミニの刻印の石を持っていることを伝えたのは、妊娠を知ってからだった。もし双子が生まれるようなことになれば、その時は迷わず二人を引き離さなければならない。

その時が来たのだ。

この世には12の石があると聞く。その一つは俺が持っているジェミニの刻印の石だ。この石には大きな力が宿っている。この力を使いこなせるようにならなければならない。

都会から離れた森に囲まれた田舎町に移り住み、時が来るのを待っていた。冒険とは無縁だが石の力をコントロールする術は山や森が教えてくれた。

刻印のない石にどんな力が備わっているのか今はわからない。二人を近づけてはいけないのだ。

人気のない山奥に身を潜め、俺の子に力の全てを教えよう。

・・・

この世界は不思議だ。

生まれてすぐに全ての子供や獣たちが

決められた運命をたどることが分かっている。

生まれた子どもの運命を知るための全ての子供が石を手にして生まれてくる。石を持たずに生まれてくる子供は生まれてすぐに亡くなる定めすらあるほどにその石に刻まれた運命は計り知れない。

獣たちは石が体に埋め込まれていることがほとんどだ。

町外れで獣たちに遭遇したら、肉体から石を取り外せと初めに教わるのだ。

石が付いている限り、獣たちは蘇る。

石には皆、刻印が何かしら刻まれている。火の刻印、水の刻印などが一般的だ。

人や獣がこの世に生まれると同時に、精霊もまた誕生する。

通常、刻印に刻まれている精霊がその者の傍にいる。

火の刻印を印した石を持って生まれた人には、火の精霊が人生の助言者としてまとわりつくのだ。

人生の役割分担は相手の精霊を見ればすぐに分かる。

火を起こして欲しい時、水の精霊には頼まない。火の精霊を持つ人にお願いすればいいのだ。

カシミールには常に光の精霊が付いていた。おそらく光の刻印をした石を持っているのだろう。

そう、おそらくだ。我々は滅多なことでは自分の運命を司る石を相手には見せない。

それは将来をも見透かされてしまいかねない危険が伴うからだ。

それはたとえ結婚したとしてもそうなのだ。

力のある人間は、水の刻印を持つ石を持っていても、相手には水の精霊を見せないことができる。隠しておいて、自分の周りには火の精霊と一緒にいることができるのだ。これは大人の特権だろう。

子供の頃はまだ力が弱い。そのため、生まれたばかりの刻印と同じ精霊の指導が必要となるのだ。

俺の子にはそう、刻印がない。

なんの力も持たないのか、はたまたどんな力でも吸収してしまうのか。

この運命が決まっていない子供にどのような人生を歩ませればよいか。

俺が決めてやらなければならないのだ。

・・・

俺は子供に、ジュニアと名前を付けた。

何の変哲もない二世という意味だ。これといって良い名前が浮かばず、安直に名前を決めたのだ。

ジュニアは俺の適当な子育てにもかかわらず勝手に育って行った。

子供とはこのようなものなのだろうか。

石の精霊を友達のように呼び出し、今では立派に狩りをし、すくすくと育っている。

この世界には精霊の力で火を起こしたり、水を湧き出したり、明かりを灯したり、風を吹かせたり、道を作ったりと何でもできる。

植物に宿る精霊の力は、風が多く、山のふもとにも河川を作る水の精霊がたくさんいる。

森には多くの精霊の力が自然と溢れているのだ。

ここに連れて来たのはやはり正解だったようだ。

もう一人のカシミールに預けた子供はどのように育っているだろうか?

今ではそればかりが気がかりでならない。

やはり、引き離すべきではなかったのだろうか?

年を重ねるごとに後悔の念にさらされていた。

ジュニアは大きな力を持っている。

それはつまり、もう一人の子は力なく育っているということだ。力のない子に世界を動かすことはできない。それは世の常だ。

今はこのジュニアの力をコントロールすることに注力しなければならない、この子を野放しにすることの方が世界を破滅に追い込む恐ろしい結果になるのだろう。

どんなにもう一人の子が気になるとしても、ジュニアから離れることはできないのだ。

・・・

ジュニアは賢い子供だ。

精霊が自分の石に居ない事は幼くして感じていた。

そして、誰もが考えないような変わった質問を目を丸くして真面目に聞いてくるのだ。

ジュニア「なぜ、僕の石には刻印がないの?精霊も付いてないよ」

ジェミニ「それはお前が人生を決めていいという事だ。他の人にはない特別なことなんだ」

ジュニア「この石は河川にある石と何が違うの?そのまま忘れてきたらどこに置いたのか区別が出来ないよね」

ジェミニ「あぁ、そうだな…でも、手放すなよ。それが他人の手に渡るとお前の人生も他人の手に落ちることになる。石を粉砕されたらお前の命もそれまでだ」

ジュニア「この石にそんな力があるようには見えないんだけどなぁ」

ジュニアはお手玉遊びをするかのように自分の石を弄んだ。

ジェミニ「こらっ!石が傷ついたらお前も傷つくから止めろ!」

こんなやり取りをもう五年以上も続けている。ジュニアは13の歳を数えるまで成長していた。

いつものように、森で集めた精霊たちと楽しげに話をしていたが、ある時人生を狂わす話をジュニアは精霊たちから聞かされた。

風の精霊「君はいつまで森の中に住んでいるの?他の人間たちと一緒に麓の城下町に移り住まないの?」



精霊には決まった姿はない。鳥になったり、霧になったり、形無く空中を彷徨っている。形を作るのは精霊が支配された時か契約した時だけだ。

形無く自由に人間の周りを飛び回ることは滅多に起きないことだが、ジュニアの周りではそれが日常の如く起きていた。

ジュニア「この森で修行してるんだ。将来、僕に降りかかる災の為にね」

風の精霊「強くなりたいの?」

ジュニア「うん。そうだね。たぶん…」

風の精霊「ふぅ〜ん。じゃぁさ。やっぱ、この山の麓にある城下町のお城に行ったほうが強くなれるよ」

ジュニア「えっ?なんで?」

風の精霊「あの城にはね。珍しい刻印が記された石があるんだよ。誰でも手に触れていいんだって。君が触れたらなんか凄いパワーが開放されたりして。うふふ」

ジュニア「へぇー、なんか面白そう。お父さんに聞いてみよぉー」

ジュニアが精霊たちから聞かされた話を知っていたが、ジュニアに触れさせてはいけないと俺の心には警笛が鳴っていた。森から出ること山から降りること、これらを禁じたのはその為でもある。

ジュニアをここに閉じ込めていたかったのだ。

俺の気持ちも知らずに精霊たちがジュニアをけしかけた。もちろん、大反対だ。

俺は今まで見せた事ない怒号と苛立ちを露わにしてジュニアを叱り飛ばした。

ジュニアはその反応にビックリすると共に怯えるでもなく猛反発の反論を始めた。

初めての反抗期、初めての大喧嘩の末、ジュニアは勝手に一人山を降りていった。

走るスピードは風の精霊に力を借り、風の如く早く、俺の操る風の精霊をするりと交わし、終いには俺の精霊への束縛を無力化し開放し俺を無力に追い込んだ。

俺にはなす術もなく、あっという間にジュニアを見失ってしまった。

これでは、まずい!ジュニアを探し出さなければ。



第2章 スコーピオの章

カシミールは残された1人の子を大事に育てた。名前をキッドと決めた。

昔から高い壁に囲われたこの街には、外からの訪問者もなく多くの人が顔見知りだった。

カシミール「キッド!絶対に悪いことしたらいけませんよ。お友達とは仲良くしなさい」

母親の出かける前のお約束のフレーズにニッコリと微笑みを返しキッドは玄関の扉を開けた。

キッド「お母さん。行ってくるよ」

近所にある学校へと向かう道のり。

そして、いつもと同じ人との朝の会話。

八百屋のおじさん「キッド!おはよぉ。今日から新学期だな!がんばれよぉ」

キッド「ありがとう。八百屋のおじさん」

遠くから手を振る八百屋のおじさんに手を振り返し、元気良く道を歩く。

清々しい朝の光は、この街の暖かさの象徴のようでいて、このままの平和が続いていくように感じていた。

新たな学校で起きている些細な喧嘩やイジメは日常の平和を乱してはいたが、大きな問題に発展することはなくいつものように、キッドによって沈下させられていた。

キッドは街一番の正義心の持ち主だ。

母親はそのことに誇りを持っていた。

母親のカシミールから光の石を持つように教育され、光の精霊を操れるまでになったのは5歳になったころ、外に出れば多くの精霊の刻印が記された石を持ち帰り、その後すぐに多くの精霊を操れるまでに成長していた。

いつのまにかこの街では、すでに敵う者がいないほどの実力になっていた。

精霊は命令を下し、操る生き物だ。

精霊を野放しにすると火事や豪雨などとんでもない災害が起きる。

カシミール家族はこの街では神の末裔だとささやかれるようになっていた。

カシミールが常に光の精霊といるように、キッドもまた光の精霊と過ごす日々が多かった。

カシミールもまた、ジェミニと同様に後悔の念が強くなっていた。

あの時、強引にでもジェミニを引き止めていれば、二人の子供を引き離すべきではなかったのではないか。

カシミール「今年1年だけこの街で過ごします。来年には父親ともう一人の子を共に探しに行く旅を始めましょう。家族は一緒に暮らすべきよ」

そうキッドに伝えたのは、13歳の花々が美しい季節のことだった。

・・・

キッドが学校に付くと、1人の少女が話しかけてきた。

プレア「どうしたの?浮かない顔して?」

キッド「あぁ、僕には双子の兄弟がいるって話し、したことあるでしょ?お母さんがどうしても来年になったら探しに行こうって・・・」

プレア「それでどうして浮かない顔になるの?会いたいって前に言ってたじゃない」

キッド「うん。でも、プレアやみんなに会えなくなる・・・」

二人は顔を見合わせて、少し照れくさそうに目線を逸らした。

プレア「そ、それなら私も一緒に探しに行くよ!」

若い二人の沈黙を遮るかのように、とっさに出た言葉でその願いが叶うかなどはこの時点では分かってはいなかった。

キッドもそれを承知の上で「それは嬉しいな」と寂しげな笑みを返すことが精一杯だった。

・・・

新学期から数ヶ月が過ぎて、プレアは母親に思いを打ち明けた。

プレア「ねぇ。レグリー」プレアがレグリーと呼ぶ女性は、プレアの母親だ。プレアはママとかお母さんと呼んだことはない。

プレア「カシミールとキッドが来年になったら、お父さん達を探しに旅に出るんだって、何か聞いてる?」

プレア家のダイニングは、キッチンから向かい合わせに見える小さな丸い机のみのそれほど広くはない部屋となっていた。

母子家庭で父親は居なく、二人で暮らすには申し分ない家だった。

レグリー「あら、やだ。カシミールったらそんなこと一言も教えてくれないんだから、今度あったら厳しく追求してみるわ」

レグリーはキッチンで料理をしながら、プレアに顔色をうかがった。

プレア「ねぇ。私も一緒に行ってもいい?」

ガチャンと鍋の蓋が落ちる音が響く。

レグリーは言われそうな覚悟はしていたものの、本当に言われたことに驚いて手を滑らせていた。

レグリー「キッド君のこと、そんなに好きになっちゃったのね?」

プレアは軽くコクリと頷いた。



数日後、レグリーはカシミールの家にティータイムで訪れた。

レグリー「カシミール、私達に話さなきゃいけないことあるんじゃない?」紅茶を片手にプレアとの約束の話を切り出す。

カシミール「え?なんの話?」お茶菓子の支度をしながら答え、ひと息つきにレグリーの前の椅子へ腰を下ろした。

その行動を見つめながら、レグリーはイタズラな笑顔でカシミールの持ってきたお茶菓子を手に取った。

レグリー「とぼけないで頂戴。キッド君からうちの子が話を聞いているわ。私達も着いていきますからね」話し終えるとお茶菓子を口に運んだ。

カシミール「そう、プレアちゃんには話しちゃったのね。内緒にするつもりじゃなかったのよ。でも、危険な旅になるかもしれないわ。私のワガママに二人を巻き込めないわ」ゆっくりと紅茶をすする。

レグリーは口の中のお茶菓子を食べ終わり、カシミールが紅茶をすするタイミングと同じく紅茶をすすった。

二人が同時に紅茶カップを机に下ろす。

レグリー「真実の刻印を知る仲じゃない。私はカシミールから離れないわ。とくにキッド君とはね。それにうちの子のプレアだって、キッド君とは離れたくないの。わかるでしょ。二人の将来に関わることよ」徐ろに刻印の石を机に置く。

カシミール「ちょっと、レグリーそれは止めて。早く隠して頂戴。いいわ。わかったわ。一緒に行動しましょ。うちの子もその方が喜ぶかもね。もう、強引なんだから」机の上には小さなレオの精霊がお茶菓子を燃やしていた。

レグリー「そうと決まれば、話しは早いほうがいいわ。街の皆とのお別れ会の支度しましょ」ティータイムをそそくさと終わらせ、じゃあまたねと声をかけ外へと出て行く。カシミールはその後姿に「来年よ!」と叫んだがレグリーの耳には届いていないようだった。

カシミール「やだ。どうしましょ。レグリーったら・・・、まだ心の準備も旅の支度も済んでないのに。この街から追い出されちゃうわ。でも、それでいいのかしらね」独り言をぼやきながらティータイムの後片付けを行い、残りの家事を片付け始めた。

夕刻にはレグリーの話しは街中に響き渡り、カシミールの家にはお別れの言葉を届けに来る人で列を作っていた。

もうすでに、玄関先ではお別れ会の装いが感じられ、これからお別れ会を始めるかのように飾り付けのボランティアが始まっていた。

キッドが家に帰る頃には友達からもお別れの挨拶があったが、その度に「え?来年のはずだけど」と答えることが精一杯で、友達を引き連れて家についた時には「ほらな」と友達から言い返される状態であった。

キッド「ちょっと、お母さんどういうこと!」玄関の人混みをかき分けながら、カシミールに詰めかかる。

カシミール「プレアちゃんとこのママが来てね。こうなっちゃったわけ」肩をすくめて見せた。

キッド「え~~~、どうするの!もう行くの??」キッドはカシミールが旅支度を急いで行っているのをみかねて、手伝いながら横目でカシミールを確認した。

カシミール「そうしましょうか?」粗方の旅支度が終わり荷物を肩にかけ、玄関へと向かう。

キッドは足早に友達のところへ駆け寄り、家庭事情を説明しつつやっぱり今日行くことになったらしいと伝えた。

カシミールとキッドのお別れ会が玄関先で盛大に盛り上がるなか、この原因を作ったレグリーがプレアを連れて現れた。

これがお別れ会終了の合図となった。

人々は最後に4人にお別れの言葉を伝えて、散り散りに帰っていった。

レグリーとプレアがカシミールとキッドと向かえ合わせに顔を見合わせ、満面の笑みのレグリーに「さあ、行きましょうか」と急かされる。

プレア「ごめんね。キッド。レグリーが・・・」横列に並んだ二人は手を握った。

キッド「でも、一緒に行けるんだね♪」二人は笑顔を取り戻した。





第3章 カプリコーンの章

ジュニアが勢い良く森を抜けた先には大きな城下町が広がっていた。

街の中にはあらゆる場所で精霊たちが我を失い操られている光景を目撃する。

ジュニアは心を痛めた。自分が森で見てきた精霊たちと雰囲気が違う。

まるでジェミニが使う精霊たちのようで、精霊たち全てが敵に見えた。

街の人々は、一風変わった少年に目を向ける。

みすぼらしい姿に、精霊を持たない少年。

森の精霊たちは街までは付いて来なかった。

ジュニアは完全に孤立していた。

ジュニアが訪れた街は、アンタレス国の城下町で、いたる所にサソリのエンブレムを施した王旗が国王を称えるように飾られていた。

アンタレス国王旗ジュバ.png


シャウラ王女「アクベンス。あの子供はなぜ精霊と一緒にはいないのか?なぜ、我々は石に縛られて生きていかなければならない?」

アンタレス国のシャウラ王女は近衛兵のアクベンスを連れて城下町を歩いていた。シャウラ王女にとっては国の見回りは、息苦しい城生活からの一時的な開放の時間であった。

アクベンス「あの者は時期に亡くなるでしょう。石を持たず生きていくことなどはできません。我々はそのように定められた生き物なのです。精霊が命を運んで来ております」

シャウラ王女は、暇な生活を少しでも面白くするためにはどんな災いごとにも積極的に参加するお天馬な王女だった。アクベンスの回答を理解できなかった訳ではない。王女が生きた年月の間に、石を砕かれた者が衰弱して無くなってしまう姿を王女は、何度も目にしていたし石と命が結びついていることを深く理解もしていた。

それでも、なぜか何処から来たのかわからない青年に興味を抱き、あのままには出来ないという思いを強く感じていた。

シャウラ王女「我が城へあの者を招待し介抱するとしよう。アクベンス、頼んだぞ」

アクベンスは深くお辞儀をして、他の近衛兵に伝令した。ジュニアを城内の医療施設へ連れて行き手厚く介抱するようにと。

城内の医療施設は、ことさら大忙しの日々で、医療技術は他国を圧倒するレベルと言われるほどであった。

その理由は、サジテリアスの刻印が記された「生」の石を持つ女医の力が大きいからだった。

女医の名前をヨウフェーメーという。

この世界に一つとない「生」の石は、冥界にて迷いし魂を連れ戻し、無為な石にその魂を刻む力を持っていた。

即ち、それは新しい人生を作り与える事ができる唯一無二の力だった。

猛獣の住む森で石を失った騎士たちの命を、ひとりの女医が懸命に看病する姿は、まるで女神の偉業と讃えられていた。

シャウラ王女「すまない。また一人増やしてしまった。世話になるぞ。ヨーメー。私にもお前の力が使えれば、どれだけお前を楽にさせてやれるものか」

城に戻ったシャウラ王女は、ヨウフェーメーのもとを訪れた。城下町の見回りの後は、大概厄介事を持ち込むため、ヨウフェーメーのもとに足を運ぶことも既に日課のようになっていた。

これはジェミニと出会ってから、丸2日後のことである。

ヨウフェーメー「お気遣いありがとうございます。お嬢様。大丈夫です。これが私の運命ですから」

しなやかにお辞儀をする優雅さと美しさは、この世界でも1・2を争うほどであるだろう。女性であるシャウラ王女ですら、その美しさには圧倒されていた。「この者には何事も敵うまい」

ヨウフェーメー「お嬢様。とても言い難いことですが、この度お連れいただいた方は、アクベンス殿の手配のものによって運ばれてきましたが、こちらに着いた時には既に意識がなく、生死の間を彷徨っております。生への渇望も乏しく、私の力を持ってしても、もしかしたら危ういかと存じます。このような事は、初めてのことでして、不思議と彼の運命を捕まえることが出来ません」

申し訳無さそうに項垂れるヨウフェーメーに、シャウラ王女はそっと近づいて肩を抱いた。

シャウラ王女「そうか、ありがとう。よほどのことなのだろう。ヨーメーが手こずるなど、今の今までなかったのだからな。それにしても不思議な少年だ。このまま死ぬような者とは思えないのよ。私の幻想かもしれないのだけど」

ヨウフェーメーとシャウラ王女の歳の差は、母と娘ほども年齢差があった。もちろん、ヨウフェーメーの方が年上で、シャウラ王女は、ジェミニをこの少年というほどにも年が離れておらず、年齢で言うとひとつ上ほどの年齢である。ただ、世間が王女に向ける期待度は非常に高く、幼くして大人びた言動をせざる負えない状況であった事が、少女の言動から子供っぽさが消えていったしまったのだ。

ヨウフェーメーといる時は、時折少女に戻る時がある。まるで、母親に甘えるように。

ヨウフェーメー「お嬢様。少年は生死の間を彷徨っておりますが、決して亡くなることはありません。少年の石は別のところにあるのです。そして、その石は少年から離れていても、この少年を生かし続けることでしょう。その為、別の石を用立てようとしても、彼の運命を刻むことができないのだと思います。なので、石さえ見つけることが出来れば、彼は息を吹き返します」

この時、西の国境に到着したジェミニは、風の精霊、火の精霊、水の精霊、土の精霊を引き連れて、精霊を解き放ち街中を清掃するかのようにジュニアを探すべく街中に精霊をばらまいた。その力があまりにも強かったため、それはまるでタイフーンの目となって家屋や人々を傷つけていた。城下町の中央に近づけば近づくほどにジェミニの力は強くなるように、もの言わぬ精霊達はその力を最大限に発揮していた。

その一報が、アンタレス国王の耳に報告された。

国王ジュバ「サンガス、ギルタブ。兵団を率いて、この災害に対処するように」

サンガス、ギルタブ「かしこまりました。父上」

国王ジュバのいた王座の大広間を出たサンガスは弟の肩を小突いた。

サンガス「ギル。俺だけで十分だ。お前は残れ」

そんな上から目線のサンガスにギルタブはいつも不機嫌に反発した。

ギルタブ「サンガ。今回は俺に仕事を任せてくれ。俺にもやれる所を見せてやるよ」

それもそのはず、ギルタブはサンガスよりも精霊を操る力が弱く、いつも兄に尻拭いをしてもらっていたからだ。サンガスにとってはギルタブは足手まといだった。

ただ、ギルタブ率いる兵団はとても優秀だった。この国が健在なのは、二人の兄弟の力だけでなく、国民の力のバランスがとても優れていたからに他ならなかったのだ。

そして二人の兄弟が引き連れる兵団は城から城下町へとなだれ込んでいった。その数、約2万人。1兵団約1万人の規模を持っていた。

先方にギルタブ。少し遅れて後方にサンガスである。

精霊が暴れまくっているという状況は、自然災害の最も脅威となる所であり、人間同士の小競り合いなどというものとは、ケタ違いの攻撃力を放っていると考えられた。それが、この人数を必要としていた。これが自然災害を小さくしたいという人の強い意志でもあった。

この時にはまだ、ジェミニ一人がもたらしている自然災害として、認知されていたわけではない。

ギルタブがジェミニが放った精霊に出会うまでそれから1週間の時を数えた。

シャウラ王女「お父様!何故私にもお声をかけてくれなかったのですか!」

シャウラ王女が城下町の噂を耳にした時、2兵団は既に出発しており、シャウラ王女を置き去りにしていた。近衛兵のアクベンスの計らいで、2兵団の出発する時期にシャウラ王女は、城下町の災害が起きている反対側を見回っていたからである。

国王ジュバ「シャウラ。お前はまだ子供じゃないか。それに、お前には近衛兵を預けておるではないか。城から離れないのが本来の務めだぞ。城下町を散歩することがお前の仕事じゃないんだがな」

国王ジュバにとっては可愛い娘であることは間違いなく、年齢もまだ初陣には早かった。その為、国王はいつも大人びた考えをする娘を子供扱いしているが、シャウラ王女にはそれが不当な扱いに感じられていた。

シャウラ王女「まあ!散歩ですって!お父様は私がまだ遊んでいると思っているのね!お母様!なんとか言ってください」

隣りに座る物静かな女王は困ったわねという顔で国王を見るだけで、何も言ってやることが出来なかった。

国王ジュバ「こら、シャウラ。ウェイを困らせるな」

国王も娘には少々甘い所がある。決まって困って目を向けるのはアクベンスにである。彼は事のほか、シャウラ王女の気持ちを鎮めるのがうまかった。



第4章 サジテリアスの章

シャウラ王女「スピアにこの仕事を依頼して、褒美はいつもの倍出す」

アクベンスは一礼すると書状と共に城を後にした。

町人「お~い。スピア~。客人だぞ~」

スピカ「だから、スピカだ!カ!アじゃね~」

ったく、なんで覚えられねえんだよ。みんなワザと間違えてるとしか思えねえ。

この街一番の大富豪スピカ様の名前をワザと間違えるなんて呪ってやる!一生金に苦労しやがれ!

アクベンスが書状を託した配達人がスピカの元に着いた時には、既にギルタブがジェミニの精霊に苦戦し、後退を初めていた頃だった。

ちょうどその時、カシミール一行がスピカの元を訪れていた。

カシミール「この街の情報屋さんって聞いて来ました。ある人、うちの主人と息子を見つけて欲しくって」

スピカはご婦人二人と子供二人を見てから「ちょっと待ってください」と言い軽く手を上げ、封書を見せた。

その封書にはアンタレス国の刻印が刻まれていた。お国からの重要な仕事の依頼だということをさっと諭す意味で封書を見せ、すまないと言いたげに部屋に入っていった。

町人「すまないね。タイミング悪く、配達人と被っちゃってさ」町人はそう告げると、「待ってりゃ出てくるさ。んじゃ、後はよろしく」と言ってその場を去った。

人探しなどという仕事は俺にとっては朝飯前だ。直ぐに解決してやると、この時は意気込んでいた。

それがこんな形ですれ違うことになるなんて、この時の俺には想像も出来ていなかった。

シャウラ王女からの書状を開き、街の情報を提供するという仕事は、何年も前から続けている。今に始まったことではないが、何か急を要する事でもあったのだろうか。

書状には石を持たない少年を見つけた、その少年の石探しと同時に少年の行方不明者が街にいないかを探って欲しいという内容だった。

さっきの町人と話がどうやら被るようだと直感した。

なんて容易い仕事なんだ。俺の運は最高だな。

仕事が雪崩式に舞い降りて、時間がそれを解決へと導く、これで何年も食べていけるだけの富が俺の懐に舞い込んでくる。

さっきの町人たちにはこの書状の内容は伏せておいてだ。

共に探すことにして、しびれを切らして諦めそうな時に、城に向かうことにしよう。

当面、ギルタブがサンガスと入れ替わる頃には、城への道も遮断されて通れなくなっているだろうし、街の外側で何が起こっているのかを調査して知らせるのも俺の仕事ではあるのだから、さっきの町人4人を引き連れて、国中を一周でもしよう。

もしかしたら、その間に別の探しているという父と息子に偶然出会うなんてことだって良くあることだしな。

この書状に書いている少年とその息子って言う人物が同一人物ってことも、まあ期待薄いかもしれないしな。

大体、人の運命の石を探すなんて仕事は、今回初めての依頼だ。

遠くはなれた所に置き忘れれば、その人間は確実に石とともに命を落とす。石も自然石に変わってしまう。時間が経てば、シャウラ王女の探している石は無くなり、少年も亡くなるかもしれない。

急ぐ必要は無いだろう。いつも大丈夫。時が解決してくれる。

俺は扉を開けて町人4人と対面した。

カシミール「お忙しいのにすみません。先ほどお話した事ですが」

カシミールが話しを切り出そうとしたのを遮り、スピカから提案を持ちかけた。

スピカ「ああ、大丈夫。話はさっき聞きました。それでなんですが、お金の話の前にお願いがありまして、私、これから旅に出なければなりません。最近、街の騒がせている精霊の反乱とでもいいますか?あれの調査にですね。で、そこで皆様にも旅のお供をお願いします。いえ、一人が寂しいからではなくてですね。共に探し人の情報を探して回りませんか?ということなんですね。まあ、ご心配なさらずとも直ぐに情報は集まりますよ。私も長年、情報屋やってますから、あたりはあるんですね。こういうことはまず何より行動ですよ。そうでしょ?え~っと」

カシミール「カシミールです。私の名前はカシミールと申します。」

話に詰まっていると代表者らしき女性が名前を教えてくれた。このカシミールという方の旦那さんと息子さんを探せば良いのか。

スピカ「そうでしょ?カシミールさん。ところで、旦那さんと息子さんの似顔絵とかありますか?」

人探しに必要なのは、その人物の容姿であり、どんなことをするのかという人格が最も重要ではある。まあ、今回はその辺り真剣に聞かずとも良さそうだが、お城の少年と同じ人相かどうかを調べるのにも役立つだろう。

カシミール「ありません」

頭を垂れて申し訳無さそうにしている女性とは対象的な印象のもう一人の女性が話しだした。

レグリー「カシミールはね。あっ、私の名前はレグリーね。カシミールの子供は赤ん坊の時に父親と別れたの。父親は似顔絵を残すことが好きな人じゃなかったから、二人共の似顔絵は手元にないのよ。ちょっと、ある入れ違いが起きてね。二人共別れる必要なんてなかったのに、子供も大きくなったし、ね!キッドくん。それで探す旅をしようってことになったんだけど、どう探したらいいのかもわからない状態で、なんとか見つけられるのかしら?」

聞いてもいないことをベラベラと喋る女性だが、まあ要するにこの子供と兄弟ということか。

スピカ「息子さんはどちらに似ておりますか?父親ですか?息子ですか?」

レグリー「キッドくんは、息子と双子の兄弟だから、きっとそっくりだと思うわ。父親とはどうなのかな~。ほら、キッドくんってカシミールに似てるじゃない。だから、父親と言うよりかはね」

要するにあまり分からないのだな。まあ、無理も無いか。双子だからといって顔が同じだという保障もないが、何も無いよりはマシだろう。

スピカ「それで先程の私からの提案なのですが、よろしいでしょうか?あまり手がかりがない状態のようですし、人探しには十分な旅になるかと思います」

カシミールはスピカの提案をのみ、スピカの旅に同行することになった。

カシミール一行の旅のリーダーはここで、スピカへと変わった。

そのスピカ一行は、明日ギルタブが衝突している場所を避け、少し離れた安全な土地を目指し情報収集することに合意した。

この時より、スピカ一行はジェミニより遠ざかりジュニアに少し近づいていく道のりを歩き始める。





第5章 アリエスの章

側近「ジュバ国王!大変です。東の外れより大量の鳥達が、この国に向かって急速接近しております!このままのスピードでこの城を目指されれば到着はおよそ1時間後とのこと!直ちに城門等、全ての扉をお閉めになられますよう、ご命令ください!」

西ではジェミニが暴れて精霊を操り、東で今度は大量の鳥達がこの国へ向かって飛んできている。これまでにない大荒れの天気であることは確かだ。

今、アンタレス国は国家存亡の危機に直面している。

ジュバ国王「ついにこの時が来てしまったか!よりにもよってこんな時に」

恐らく、どんなに優秀な国王だったとしても、取り乱したであろう。

鳥の大群は、他国を飛び回り災いをもたらしながら少しづつアンタレス国に近づいていた。

その頃、猛スピードでアンタレス国の東の一帯を飛び回っていた大群は、緑青色の小さなドラゴンを先頭にハト、タカ、ワシ、カラスと大型の鳥達を引き連れて飛んでいた。

メリク(緑青色の小さなドラゴン)「ファクトよ。北の土地を調べよ。運命の石を見つけたら報告せよ」

ファクト(ハト)「了解!」

メリクの指示に従って、ハトの大群がファクトと呼ばれた少し大きめの白い鳩に連れられ、城より北にある土地に飛んでいった。

メリク「タイル、シャイン。南と西の土地を調べよ。運命の石を見つけたら報告せよ」

タイル(タカ)、シャイン(ワシ)「了解!」

タカやワシの大群もメリクの指示に従って、南と西の土地に飛んでいった。

メリク「アルキバ。ここに残れ!東の土地を調べよ。見落としがあるかもしれない」

アルキバ(カラス)「へいへい」

カラスの大群は東の土地に留まり、その他の鳥の大群はメリクの後を追い、アンタレス城を目指した。アンタレス城は、アンタレス国の中央よりもやや東側にあり、鳥達の城への到着は早かった。

他国を大捜索し終えた鳥達の大群は、アンタレス国中にその勢力を広げ飛び立っていった。

メリク(我の運命の石が、この地の何処かにあるはずだ。アリエスの刻印を刻んだ石よ。待っているがいい。このようなナマクラな石。アクエリアスの刻印など、誰が要りようか!本来の持ち主の顔面目掛けて吐き出してやる!)

その頃、シャウラ王女は珍しくアクベンスの度重なる説得に応じることもなく2人の兄弟の元へと向かっていた。

シャウラ王女とアクベンスがサンガスの元にたどり着いた頃、アンタレス城にメリク達が到着し、城の周りを取り囲んでいた。

メリク「この国に運命の石があると聞いた!それを全て集めてここへ持って来い。さすれば、この国を滅ぼすことはしない。国王よ。聞いているな!」

ジュバ国王「西の地はどうなっておる。隣国はいつ滅びた?」

王座より数段下にいる側近にジュバ国王が尋ねた。

側近は国王に向き直り深々とお辞儀をし、頭を上げずに話し初めた。

側近「隣の国々は滅びてはいないようです。運命の石の噂が世界に広まったようです。最近の王女様のご活躍によるものかと・・・」

目を合わすこともなく話し終えた側近は、またいつもの見張り位置へと向き戻った。

ジュバ国王「シャウラか、仕方がない子だ。シャウラは今何処にいるのか?」

誰に尋ねる事もなく、独り言のようにつぶやく国王に側近達はあたふたと情報をかき集めるべく動き始めた。側近達が玉座の間より数人出ようと扉に手をかけた時、バタン!と扉が開き、ヨウフェーメーとシャウラ王女の侍女アルレシャが玉座の間に入ってきた。

ヨウフェーメーは国王の前で可憐に頭をもたげ、美しい瞳を国王に向けた。

ヨウフェーメー「運命の石なら私が持っております。目当ては私でありましょう。行って話してまいります」

ヨウフェーメーにささやかに魅了されながらも、正気を保ちながら国王はヨウフェーメーを諌めた。

ジュバ国王「話の通じる相手ではあるまい。神の子よ。ドラゴンに身を捧げてはなりませぬ。あなたの力はまだ我々には必要です。どうか、留まりください」

国王にとって、ヨウフェーメーは絶大な力を持つ神の子である。国王よりも身分の上の人間を安々と表に出すようなことがあれば、国の笑いものとなることは明らかで暴君として後世語り継がれかねないのは事実であった。既に世界に噂されるヨウフェーメーの力の源である運命の石を差し出すことは憚れたのだ。

その頃、ヨウフェーメーが目を離している間に、ジュニアが目を覚ました。

目を覚ましたというよりかは、むしろ操られるような足取りでふらふらと動き出したのだ。

自らの意思を持って動いているのとは違い、生きる屍のように地を這うように体が勝手に動いていた。

城に飾られている鎧兜が持つ大槍を無造作にむしり取ると、それをズルズルと引き釣りながら城門から外に出て行った。

ジュニアの行動を通り掛かる近衛兵達が目撃していたが、メリクの襲来によって混乱した城内では、誰も彼を引き止めるものがいなかった。

ジュニアの目線の先に、城壁の塔のてっぺんにいるメリクがいた。

また、メリクも城門から一人出てきたジュニアに目が止まる。

メリクは、ジュニアに生まれて初めての恐れを感じていた。

メリク「こやつ!石を持たぬもの・・・何故生きている!」

メリクの合図で大鳥達がジュニアに襲いかかるが、ジュニアに近づく手前で意識を失い地面へと落下する。死んだのではない。身動きが取れなくなったと言えるだろう。飛び立つことも出来ず、地面を少し這うのが精一杯であった。

玉座の間からもその様子は見えていた。

側近たちに外の様子を見て欲しいと教えられ、国王とヨウフェーメーそれにアルレシャは外をのぞき見た。

ヨウフェーメー「あれは!?」

ジュバ国王「知っておるのか?」

アルレシャ「シャウラ王女が西より見つけた石の持たぬものです。気を失っていつ命が尽きてもおかしくない状態でありました」

ジュバ国王「これはどういうことか?」

ヨウフェーメー「ありえない。自力で生還することもありえないが・・・あの少年何をしている」

玉座の間で困惑した三人にも、当の本人であるジュニアにも今何が起きているのかを知ることは出来ないでいた。

恐れを感じその場を飛び立とうとしたメリクに突然大槍が飛んでくる。ジュニアが投げた大槍はメリクを羽ばたかせるのを阻止しただけでなく、塔の上から引き釣り下ろした。

大槍はメリクの羽根を貫通し、どこかへと飛んでいった。常人の技ではなかった。

地面に落ちたメリクの上にジュニアが覆いかぶさり、喉元を掴みかかる。そのスビードは目にも留まらぬ速さで、玉座の間にいた三人はジュニアもメリクもいつの間にか視界に収まらず、何が起きたのかわからない状態だった。国王は側近に探させるよう指示を出し、玉座の間から下方を注意深く覗き見ていた。

メリクに覆いかぶさったジュニアの手の中に、リブラの刻印が記された石が収まる。メリクが遠方より探しあて手にしていた石で、持ち主が不在だった石だ。

リブラの刻印を手にしたジュニアは、メリクと共に姿を消した。

鳥達は宿主を失い、知性を失い、元の姿へと返り散り散りに飛び去っていった。



第6章 キャンサーの章

スピカ一行が、タイル率いる鳥の軍勢とニアミスで南東に到着した頃、アルキバもまた南東に到着していた。

スピカ一行が鳥の大群に襲われなかったのは、その時点でメリクがジュニアの手にかかり、消息不明の状態にあったためである。

アルキバ「おいおい。凄い御一行様見つけちゃったよ。みんな運命の石の持ち主じゃないか。こんな時に、メリクさんは何処に行っちゃったのかな?まあ、俺の知ったこっちゃないけどね。カカカカカ」

大ガラスのアルキバは、メリクの力を失った後も、知能が衰えることがなく、鳥達の統制が取れなくなったことをいいことに、自由を満喫していた。

小さな南東の町は、大ガラスのアルキバ達によって食物は荒らされ、時々人間までも襲われる状態となっていた。

町の住民は、鳥達に怯え外には出てこず、皆家の中に閉じこもっている状態で、町中を歩いている人は一人もいなかった。

鳥達が一斉に蜘蛛の子を散らすように解散したことを、町の住民はまだ知らなかった。

スピカ一行が、この地域に足を踏み入れた時に見た惨劇は、尋常ではなかった事は確かだ。

近くの家の扉を一軒一軒訪ね歩いても、誰も応じる気配がしない。

スピカ一行は、スピカを先頭に、その後ろをカシミール、レグリー。次いで後ろにキッド、プレアがついて来る形で歩いていた。

レグリー「ああ、もう。どうなっちゃったの?この町は。何が起きたの?」

プレア「レグリー、休憩したいなあ。キッドも休憩したいよね?」

プレアは、レグリーの服をひっぱりながら隣のキッドを見る。

キッド「あっ、う、うん。そろそろ休憩だよね」

キッドは、カシミールを軽く覗き込みながら様子を伺った。

カシミール「そうは言ってもね。この状況じゃねえ。スピカさん、この近くにお知り合いの方はいらっしゃらないの?」

カシミールは、前を歩くスピカの背中に問いかけた。

スピカ「あ~、今向かっているところだ。もうすぐ彼の家だよ。でも、この状況、一体何があったってんだ」

軽く振り向きはしたものの、この状況を早く知りたいという気持ちからみんなよりも少し早足になっておりジリジリと距離が離れていた。

レグリー「私に任せて、ちょっと周辺を調べさせるわ」

スピカ「調べさせる?誰にだい?」

スピカはレグリーの言葉を少し気にし、振り向き歩みを止める。

プレア「それは駄目よ。レグリー」

プレアは、レグリーの服の端を持ったまま、また軽く引っ張った。

カシミール「えっ、まさか。そんなにちょいちょい使わないで頂戴。いつも隠してって言ってるでしょ」

一行の歩みは止まった。

レグリー「何よ。こんな時こそ、これを使わないでどうするの?」

レグリーは手のひらに石を持っていた。それはレオの刻印が刻まれた運命の石。

さあ、こんな時だからこそ、役に立って頂戴。私の精霊。行ってきて。

プレア「レグリー、この町を火事にしないでよ」

レグリー「大丈夫よ。たぶん・・」

そんな心配そうな顔で見なんで、プレア。

大丈夫よ。そんなに力は強くはないわ。

レグリー「さあ、スピカさんのお知り合いの家に行きましょ。そこで休憩ね」

スピカ「今の石は、運命の石ですね。あなたも精霊の力を使えるのですか。本当にあるんだなあ。これはきっと本当に12個の運命の石があるぞ」

レグリー「あら?あるわよ。他にも。他の石は秘密だけどね。運命の石は、普段持ち歩いていなくても、その人を生かし続けてくれるわ。他の石とパワーの源が違うみたいね」

スピカ「なんですって?そんな力があるのですか・・・知らなかった」

スピカは一人ブツブツとつぶやきながら先頭をまた歩き始めた。何かを思いつめて考え込んでいるようだ。一行は、スピカの後を追いかけた。

プレア「レグリー。話しすぎ。石の力は、おおっぴらにしちゃダメって、先生だって言ってたよ」

プレアはレグリーと並び、小さな声で自分の母親を叱りつけた。

レグリー「あら?心配症ね。誰に似たのかしら?」

笑みを浮かべながらレグリーは、プレアの成長ぶりに少し喜びを感じながら頭を撫でている。

一行が歩み始めて、程なくしてスピカの知り合いの家に到着した。

コンコンコン。

スピカ「アルカス。アルカスはいるか?俺だ。スピカだ」

ガチャ

アルカス「見たかい。この町の状態を、ひどい有様だろう。まあ、お前さんの事だからもう知っているのだろうけど、大ガラスや鳥の大群が町に押し寄せてきてよ。大変だったんだ。なんとかしてくれねえか?」

スピカ「話は、お前の家の中で聞かせてくれ。玄関先で話しをする内容でもないだろう」

スピカは少し疲れきった面持ちで、中に入れてくれるよう強要した。

アルカス「おう。わりぃわりぃ。浮足立っちまってよ。中に入ってくれ?おや?結構、大勢でお越しになってくれたのか」

どうぞどうぞと、一行を手招きし全員が家の中に入ってから玄関の戸を閉めた。

スピカ「今回は町の状況を知ってから来たんじゃないんだよ。まあ、みんな寛いでくれ。アルカス、二人きりで別の部屋で話がしたい」

スピカは自分の家の中を招待するように一行を自由にさせた。アルカスを連れて別の部屋へと入っていった。

レグリー「あらやだ。ナイショ話かしら。私達だって事情が知りたいのに一人でこそこそとひどいわね」

近くの椅子に一番に腰掛け寛ぐ。

ふう、そろそろ頃合いかしら?帰っておいで、精霊。

カシミール「スピカさんも色々ご苦労があるのよ。きっと」

レグリー「そうね。きっと。さっき、送った精霊を戻すわ」

カシミール「何処まで遠くに送ったの?」

カシミールもレグリーの隣に腰掛けて座った。

その前にプレアとキッドが腰掛けた。

椅子は円形の机の周りを囲うように置かれており、2人がけの幅の広い椅子となっている。

レグリー「それはちょっとわからないわ。野放しにしちゃったから」

プレア「え~、大丈夫なの?もう、レグリーったら」

レグリー「大丈夫よ。私の精霊は大人しいの」



・・・

ギルタブ兵団が後退しながら、サンガス兵団と交わった時、事態は急転した。これまで激しく荒れていた精霊達が全て消えてしまったからだ。

まるで、途中で台風が温帯低気圧に変わったかのように姿をくらました。



第7章 レオの章 パートⅠ

ギルタブ「アクベンス。よく来た。しかし、来るのが遅すぎたようだ。事態は終息した」

ギルタブはアクベンスを作戦指令所に迎え入れた。

アクベンスはサンガスの指示を受け、一足早くギルタブに接触していた。

アクベンス「ギルタブ殿下、何が起きていたのでしょうか?」

アクベンスはギルタブの間に置かれている地図を眺めながら、事態の状況を把握しようと務める。ギルタブも考えあぐねているようだ。

ギルタブ「自然のものとは、違う。中心に操るものがいた。そう予測はしている」

ギルタブは、精霊の反乱が起きた中心部を突きながらアクベンスに答えた。

アクベンス「あのような巨大な精霊の反乱を引き起こす軍隊が中心にいると言うのですか」

それならば、もっと早く予兆に気がついたはず、何処の国から軍隊が押し寄せて来たというのだ。

まさか、隣国ヌンキが攻めてきたとでも・・・最近、そのような予兆があるという知らせは一切なかったというのに、何故この時期に。

ギルタブ「アクベンス。お前が来たということは、シャウラも兄と合流しているのだな。直ちに城に引き返すよう務めよ。事は深刻だ。兄に伝えた後、お父上ジュバ国王へ、この書状を届けよ。2つ町が消滅した。私は兄と中央へ向かう」

アクベンスは深く敬礼し、書状を受け取った後、近衛兵のマントを翻しながら早足で馬に乗り込み早馬を駆った。

2つも町が消滅したのか、こんなにも強力な精霊使いとは一体、何を企んでいる。

アクベンスの早馬は一刻でサンガスの元に到着し、状況報告を済ませた。

アクベンス「シャウラ王女!ご一緒に城へ。この書状を国王へ届けるようにと」

アクベンスはシャウラ王女には状況報告はせず、とにかく一大事のため城へ書状を届ける務めを受けたと話だけ済ませ、馬を駆るように急がせた。

シャウラ王女「アクベンス、私にも教えよ。何故精霊は静まった」

シャウラ王女の関心事は、事態が何故、終息したのかという点だ。私にはそれが答えられない。

アクベンス「申し訳ございません。状況はまだ掴めておりません。現状の報告を済ませ・・・」

アクベンスが話をしている途中でシャウラ王女は馬を駆るのを止め、方向を兵団の方へ向けた。

シャウラ王女「ならば、城へは行かぬ」

アクベンスの馬もまた前足を大きく上げ、方向を翻した。

アクベンス「なりません!今は書状を・・」

シャウラ王女「状況がわからぬまま引き返すなど出来るか!」

アクベンスが乗る馬の方が早く、シャウラ王女の駆る馬の前に躍り出た。

アクベンス「シャウラ王女!城に危険が迫っているやもしれません。近衛兵団である我々が城を空けていたとあっては、もしものことがあったとしたら離れていた罪を問われかねません!もし、今回の事態がヌンキ国の軍隊によるものだとしたら・・・」

シャウラ王女は、また馬を翻し、城へ向け駆け出した。

シャウラ王女「すまない。アクベンス。急ごう・・・」

アクベンス「御意に」

シャウラ王女が、行動的なのも困り者だな。今までは良いように働いていたが、これからは少し注意が必要だ。今後も、この私にシャウラ王女を抑えておくことが出来るだろうか。

シャウラ王女とアクベンスが荒廃した西の町から城へと辿る荒野の道のりを暫く走らせていると、前方より一頭の馬が駆け寄ってくる。辺りは人気のない森の道で、太陽はようやく西に傾く頃合いである。

アルレシャ「シャウラ王女、アクベンス殿。王様より言付けを受けてまえりました」

馬に乗ったまま、アルレシャはシャウラ王女とアクベンスに話しかける。

嫌な予感が的中したのか、この段階で侍女のアルレシャを国王が使わされるとなると・・・

森の奥から争い合う音が三人の耳に届く。

シャウラ王女「話は後だ!」

三人は馬に乗ったまま森の中へと駆け出した。

オオワシが一人の男を攻撃している。男は木の棒で必死に防戦するのがやっとで、オオワシを返り討ちすることは出来ないでいる。

シャイン「お前の石をよこせ!メリクさんにはそれが必要なんだよ!」

オオワシの鋭い爪が男の木の棒を払い飛ばすと、男の胸元目掛けてオオワシの鋭い爪が襲いかかる。

男は何処からか取り出した木の棒で、またその攻撃を防いだ。

辺りには木の棒がたくさん落ちており、数時間に渡ってこの争いが続いていたことを物語っていた。

男はだいぶ攻撃されていたようで、体を纏う衣服はズタズタになり傷ついてフラフラとしていた。

これ以上はまずい・・・攻撃を受ければ、男の命は危ない。

アクベンスは馬を駆り男とオオワシの間に割って入った。

鋭い剣を華麗に操り、オオワシの爪の攻撃を受け流した。

オオワシは空高く舞い上がり、体制を整え急降下して男目掛けて鋭い爪を突き立てるが、アクベンスがその攻撃を剣先でいなす。

シャイン「邪魔するな!」

アクベンス「鳥ぶぜいにやらせはしない!」

くそう!空を飛ばれていては、剣も当てられない。

使うしか無いか・・・精霊よ。

シャウラ王女「精霊よ!!」

え?まさか!!

アクベンス「シャウラ王女!お待ちを!」

空中に歪んだ黒い影が発生し、オオワシを飲み込もうとしている。

オオワシは抵抗してバタバタと飛んでいるが、空中に出来たブラックホールに飲み込まれようと前進せず後退していた。

シャイン「なんだ。この力は!お前も運命の石を・・・」

ブラックホールは少しずつ大きくなっていた。

シャウラ王女は、少し苦しそうに馬から崩れ落ちる。

それをアルレシャが馬から飛び降り支えた。

開放されたブラックホールは力を維持しながら、巨大に開いた穴を広げ始めた。

その時、大量の木の棒がブラックホールの中に吸い込まれ、入り口を塞ぐ。木の棒が吸い込まれながら、ブラックホールは少しづつ力を弱め消滅した。

ラム「馬鹿め!こんな所でその力を使いやがって!」

オオワシは吸い込まれず、ブラックホールが消えた瞬間に、その場を飛び去ってはるか遠くの空に一瞬で舞い上がっていった。



第7章 レオの章 パートⅡ



シャウラ王女「い、いつもならば、こんなに力が強くはならないのに・・・」

そうだ。いつもならばだ・・・精霊の力が強くなっている。

それも運命の石に宿っている精霊の力が・・・

私も感づいていた。だから、オオワシの退治に利用することを少しためらってしまった。

ラム「運命の石の力は今、引き合っている。我々がここに集まっているということで、それは証明された。ここにいる皆、運命の石に導かれたのだ」

この男、やけに詳しい。運命の石を持つ男のようだ。

ラム「くっそ!どいつもこいつも・・・またか!」

遠くから森が焼ける匂い、そして熱風、全てを灰にしながら4人の元に近づいてくる。巨大な炎の精霊レオ。

アクベンスの目の前にたどり着くと、その巨大さに圧倒される。熱風は周辺の草木を灰としていた。アクベンスを守るように熱風は反対方向に吹き出した。目の前の森が燃え尽きると、4人の姿が炎の精霊レオの前に晒される。

炎の精霊レオ「アクベンス。我の宿主よ。我が石を受け取れ!」

アクベンス「それは出来ない!ここへ何しに来た!」

レグリーめ!何故解放した!精霊よ!

小さな蟹の精霊が炎の精霊レオの前に浮遊する。

炎の精霊レオ「はははははっ。小さき者よ。戦いに来たのではない。自らの宿主を殺すわけがなかろう。安心せよ。まだ我が石は自由にはなってはおらん。時期に呼び戻されよう。何が起きているのかと問うておるのだ。お主の口より言付けよ」

炎の精霊レオは、アクベンスに隙あれば取り付こうとしているように見えるが、周りの人間の動向を観察しながら面白がっているようでもあった。

ラム「レオよ。わからぬ訳ではなかろう」

傷だらけの男が会話に割って入ってきた。

炎の精霊レオ「おお、生くら石の宿主か。人間の世界においても対して役にはたっていないようだな。何だその身なりはボロボロじゃないか」

シャウラ王女を助け起こして、アクベンスの元にアルレシャが近づいた。シャウラ王女に目を向けた後、アクベンスと炎の精霊レオとの間に立ちアクベンスとシャウラ王女に話し始めた。

アルレシャ「私からまず、シャウラ王女とアクベンス殿にお話しなければならないことが御座います」

アルレシャはシャウラ王女とアクベンスに交互に目を配り、振り向いて炎の精霊レオを見つめた。

アルレシャ「昨日、小さき緑青色のドラゴンが鳥の大群を引き連れ、運命の石を探して城に攻撃を仕掛けてきました。先ほど、襲われていたこの男も同じ鳥の大群に襲われていたものと思います」

鳥に襲われていた男が口を挟む。

ラム「ああ、そうだ。最初は鳥の大群に襲われていたが、途中で鳥達の統制が崩れてな。リーダー格のオオワシしか残らなくなったのよ。あいつは本当にしつこいのなんのって」

アルレシャは振り向き、次にシャウラ王女とアクベンスに話し始めた。

アルレシャ「その危機を防いだのが、王女の連れてきた石の持たぬ男の子でした。小さき緑青色のドラゴンと共に姿を消しました。国王より、シャウラ王女とアクベンス殿には、そのドラゴンと男の子の捜索を行うようにと言付けを受けて、ここまで参りました」

なんていうことだ。この短い間に西の国境での災難と、城にドラゴンの奇襲。何が動き出したというのか。

炎の精霊レオ「状況は承知した。我が宿主よ。もう暫くお前を自由にしてやろう」

炎の精霊レオは言い残すと、元来た道を滑るように後退して炎の塊に変わりボンッと姿を消した。

シャウラ王女「そこのもの、名前を教えよ。色々と知っているような口ぶりであったな」

鳥に襲われていた男にシャウラ王女は、剣先を向けた。

アクベンス「王女様、お止めください。無理に口を割ろうとしても口を開いたりは致しません」

アクベンスはシャウラ王女と鳥に襲われた男の間に立った。

アルレシャ「この者はラムと言います。そして小さき緑青色のドラゴンが探している運命の石を持つ男でございます」

アルレシャがシャウラ王女に少し歩み寄り、鳥に襲われていた男を見る。

シャウラ王女「アルレシャよ。ずいぶん詳しいじゃないか」

アルレシャ「私の彼氏です」

アルレシャは少し顔を赤らめながら、付け加えた。

こんなにも身近に運命の石を持つものが集まるとは、他の石も既に近くにあるということなのだろうか。

アクベンスは書状をアルレシャに渡し、国王に届けるよう伝えた。

ラムはドラゴンと鉢合わせ無いようアルレシャと共に城へ向かうことで同意した。

我々は、少年とドラゴンを探しださなければならない。



第8章 ピーシーズの章 パートⅠ

レグリーの精霊レオが小さなサイズとなって戻って来た。

プレア「ちゃんと戻ってきたね」

精霊レオは黒い煙となりボワッという音を出してプレアの目の前で消える。

プレア「それで何か分かったの?」

レグリー「そうね。取り敢えず、大ガラスは捕まえないとダメみたいね」

レグリーはゆっくりと窓の外を眺めた。

それにつられて皆が窓の外を眺める。

4人は暫くの間、外を眺めていた。

そこに話を終えて戻ってきたスピカが加わる。

スピカによると、鳥の軍団が城を襲い、この街も襲い始めたのだということまでは突き止めた。しかし、その後に何故鳥達が散り散りにいなくなったのかまでは事情を把握していないとの事だった。

レグリー「あら?あれだけの時間でそれだけなの?スピカさんは、私たちに何か隠してるのではなくって?」

レグリーはぶつぶつと小言を言いながら、この後に話しを付け加える。

城で鳥の軍団を統制していた青龍メリクが少年に襲われ消息を絶ったというのだ、スピカはその情報を何処で手に入れた?と聞き返しながら、もしかしたらその少年が探しているジェミニが連れて行った子供なのではないかと皆に伝えた。

実は皆と合流する前に、シャウラ王女からその少年の運命の石を探して欲しいという言付けを受けていたことを皆に伝える。

しかし、スピカが聞いてもレグリーに確認を求められても、カシミールは、ジェミニが連れて行った子の運命の石については、頑なに口にすることはなく、それだけは話せないと言う。

スピカ「アイツを?大ガラスを生け捕りにするっていうのか?やっつけられるかも分からないのに」

レグリー「私の精霊ならチョチョイのチョイよ」

プレア「レグリーの精霊だと、焼き鳥になっちゃうわ」

もう、レグリーったら調子に乗ると直ぐ使いたがるんだから、他の方法があるはずよ。

キッド「僕がやろうか?」

カシミール「ダメよ。危ない。こういうのは大人の仕事でしょ。スピカさん何とかなりませんか?」

スピカ「いや、そう言われましてもね」

キッド「追い込んでくれれば、僕が木の精霊で鳥カゴ作って捕まえるよ」

私に何が出来るかな?キッドならきっと簡単に捕まえてくれるわ。

そうだ。私も大ガラスを追い込むのを手伝おう。

プレア「じゃあ、私が風の精霊使って、キッドの前に大ガラスを追い込むわ」

私の運命の石は、風の精霊よ。

レグリー「そうね。プレアは風の精霊使うの上手よね。私も風の精霊を使ってキッド君のお手伝いするわ」

私とママの力で風の精霊を使えば、どんな鳥だって羽ばたけなくなるわ。

カシミール「スピカさん。大ガラスを見つけるの手伝ってくださる?それと何処か大きな木のある場所を紹介してください。私もキッドと鳥カゴを作ってお待ちします」

スピカ「わかった。それは私が引き受けよう。そうだな。少し小高い丘がある。そこまで大ガラスを追い込もう。案内する」

一行は、スピカに着いて行き、アルカスの家を出た。

スピカ「やい!バカガラス!近くにいるなら姿を見せろ!」

スピカは皆と打ち合わせし、それぞれの場所に隠れさせ大声を張り上げながら、街中を歩き回った。

あんなやり方で大丈夫かしら?

どうか私の目の前に大ガラスが現れますように。そして、見事キッドが作った鳥カゴに私の風の精霊で……

両手を結び目を閉じてお祈りをすると、ママがそっと肩を叩いた。

レグリー「大丈夫よ。うまくいくわ」

私は両目をしっかりと開けて、遠くに目を凝らし、大ガラスが目の前に現れる瞬間を待った。

もう暗くなって来たわ?鳥目って夜はダメなのよね。

スピカ「ああ、暗くなってきやがった。夜には持ち込みたくないぜ」

スピカの後方からバサッバサッと大きな鳥の羽根の音が近づいて来る。

4人からは大分離れた場所まで来ていた。

誰からも支援は得られなそうだ。

アルキバ「お前の石。面白そうだな。オレによこせよ」

アルキバはスピカの石を気に入り、空からスピカのことをずっと見ていた。そして、一人きりになるのをじっと待っていた。

スピカは風の精霊を使い、突風を起こす。

アルキバが微妙にバランスを崩すが、すぐに体制を整えた。

バサッバサッ

アルキバ「おいおい。手荒な真似はしねえよ。それはお前の運命の石じゃないんだろ?ちょっと貸してくれりゃいいのさ」

スピカは虚を突かれた。

スピカ「俺の石じゃないだと?俺の運命の石が何かなんて、なんでお前に分かる!」

バサッバサッ

アルキバ「知らねえよ。メリクの野郎が石の力で俺たちに運命の石の匂いを嗅ぎ分けられるようにしたんだよ。それがお前のかなんてのは直ぐにわかっちまうのさ」

バサッバサッ

スピカ「分かった。じゃ、あの丘まで一緒に行ってくれたら考えてやっても良い」

バサッバサッ

アルキバ「馬鹿か!お前たちの行動をずっと空から見てたんだよ。俺をおびき寄せようなんて百万年早えっての」

バサッバサッ

突然、突風が巻き起こり、大ガラスは体制を崩して地面に足を下ろした。

アルキバ「なんだ!今の」

アルキバはチョンチョンっと陸の上を飛び跳ねて、向きを変えて後ろを振り向く。

スピカさんのあとお追いかけてて良かったわ。

プレアがスピカを気にかけならが、後を追いかけていた。

アルキバはスピカに気を取られていたため、他の四人が隠れた後にどう行動していたのかをじっくり観察していなかった。四人の中でもとりわけ、プレアは体も小柄なため、遠くの空からは目立たなかったのだろう。

風の精霊!お願い。私の願いを叶えて!

プレア「精霊!大ガラスをあの丘まで飛ばして!」

小さな竜巻が地面に出来上がると、ぐるぐると回りながら大きさを変えて大ガラスの周りを一つ、二つ、三つと数を増やして近づいていく。

アルキバは、地面に足を下ろしたまま、チョンチョンと少しずつ飛びながら、飛び立とうとはせずに右へ左へと移動した。





第8章 ピーシーズの章 パートⅡ

アルキバ「カカカ、お嬢ちゃんには俺を操れねえよ。おい、そこの男。さっきの話考えてやってもいいぞ。それと引き換えにお前の探してる石も見つけてやるよ」

スピカ「ああ、わかった。取引成立だ」

ちょっと、何の話をしているの?

早く、この大ガラスを丘まで飛ばして!

プレア「精霊!もっと力を!!」

レグリー「ちょっと、プレア。一人で勝手に行動しちゃ……あらやだ。風の精霊!力を貸して」

複数に増えた竜巻は、レグリーの作り上げる竜巻も混ざり、大ガラスを中心に集まり大きな竜巻となって大ガラスを飲み込んだ。大ガラスはまるで風に身を任せるかのように、小高い丘へと連れ去られていった。

プレアとレグリーの活躍も有り、アルキバはキッドとカシミールが作った鳥カゴの中に入っていった。

当たりは既に暗くなり、キャンプファイアーを取り囲んで、大ガラスと対峙する。

アルキバ「カカカ、あんた達。ホントに面白いな。運命の石探し、手伝ってやるよ」

運命の石探しって?キッド君の双子のもう一人を一緒に探してくれるってこと?

そういえば、さっきスピカさんと大ガラスが何か会話していたわ。取引成立って、もしかして、私とママが使った風の精霊の力でここに連れてきたんじゃないのかな?

カシミール「あなたは何を知っているの?」

アルキバ「俺には誰が運命の石の所有者か分かるんだよ。ここに来る前にメリクっていうドラゴンにその力を宿されてな。メリクが欲しがってるのは木の刻印が刻まれた石さ。あんたらは皆不合格だ。だから俺にゃ関係がない石さ」

カシミール「運命の石の所有者。人も見つけられるの?」

アルキバ「ああ、粗方な」

カシミール「ジェミニ……ジェミニの石を持つ男を見つけて!」

アルキバ「カ~?なんで俺がお前の言うことを聞いてやらなきゃならねえんだよ」

カシミールの操る木の精霊の力で大ガラスの首根っこが締め付けられる。

キッドのお母さんって怒るとちょっと怖いのね。キッドも子供の頃、怒られて締め上げられたりしたのだろうか?まあ、そんなことはないかな。

カ、カ、カ……大ガラスは息をも絶え絶えにスピカを見つめる。

大ガラスとスピカさんの取引ってなんなのだろう?

レグリー「ダメよ。殺しちゃ。カシミール。カシミール??」

ママが少し取り乱してるなんて、キッドのママも相当ね。

スピカ「カシミールさん。私が大ガラスと話しを付けます。どうか落ち着いて、こいつと二人きりにしてください」

さっきの事もあったし、スピカと大ガラスを二人きりで会話させたくないわ。でも、ママになんて言おうかしら。

レグリー「いいわ。任せるわよ」

ちょっとママ~。もう、そうやっていつも勝手に決めて~。

プレア「ちょっと、待って!スピカと大ガラスを二人きりになんてできない。だって、さっきなんか取引成立とか話してたもん!」

スピカはバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。

スピカ「別に隠し立てするつもりはなかったんだよ。確かにこいつと取引をした。それは俺が持っている、この運命の石についてだ。皆の事とは関係がない」

スピカは徐ろにヴァーゴの刻印が記された運命の石を見せた。

スピカ「こいつは俺にとってお守りみたいなものだった。金のなる木みたいなものだ。何か特別な精霊が操れるわけじゃない。というか、よくわからなかった。使い方がね。そしたら、こいつがこれが俺の運命の石じゃねえって言いやがってよ」

レグリー「わかったわ。そういうことね」

レグリーが突然間に入って話しを止めた。

ママ??何が分かったっていうの?もう!また勝手に話しを進めないで!

アルキバ「こいつの運命の石を頂く代わりに、一つだけ探し物を手伝ってやるよ」

アルキバの言葉で、スピカに視線が集まる。

カシミール「スピカさん。私達の為に、その石を手放していただけるのですか?」

スピカ「運命の石は手元になくっても生きていけるっていうんなら、手放すぐらい良いかと思うね。でもな。これが俺のじゃないっていうのが、まだ信じられないんだよ」

アルキバ「だろうな。お前のは特別に本物を見つけて渡してやるよ。俺の言ってることが正しかったことを証明するためにな。それ以外は聞かねえぞ」

カシミール「スピカさん。お願いします。ジェミニを見つけてください」

スピカが持っている運命の石を、ヴァーゴの石をアルキバに飲み込ませると、カシミールとキッドは鳥カゴを解いた。

アルキバは一声大声を上げると、周りを見つめ、そこに眠りについた。

アルキバ「夜が明けてからだ。鳥目じゃ空は飛べねえ」



第9章 トーラスの章 パートⅠ

アルキバを捕獲した頃、シャウラ王女たちはラムが作った急ごしらえのログハウスで休息を取っていた。

アルレシャ「アクベンス、手伝って」

アクベンス「承知した」

アルレシャは風と土の精霊を操り薬の粉を作り出し、アクベンスは火と水の精霊を操り薬の粉に火を入れて塗り薬を作り出した。

その作り出した塗り薬をラムの傷口に塗り固める。

癒やしの薬を作り出すのは高度な技量が必要で一部の薬剤師にしか出来ない。アルレシャとアクベンスはそれを共同で軽々と熟していた。

朝方になってラムの傷が癒えると早々に城へと旅立ち。シャウラ王女とアクベンスは共に城の北方を目指した。

アルレシャ「ねえ。ラム♪二人きりなんて久しぶりね。まるでデートみたい♪」

ラム「おいおい。城に書状を届けに戻るだけだぞ。それに、今起きてることは少なからず俺たちにだって関係があるんだからな」

アルレシャ「分かってるわよ。これから何があるか分からないんだから今を楽しみたいの♪」

馬にまたがるアルレシャは、前で手綱を引くラムの体に抱きついて、ふくよかな胸をラムの背中に押し当てた。

急いで城に戻らなきゃならないのは分かっているわ。でも、この短い時間でも一緒に入られることを大事にしたいの。

ラム「急ぐぞ!」

もう、ゆっくり馬を歩かせればいいじゃない。私が抱きついたら走らせるなんて、そんなに私と一緒にいる時間が苦痛だっていうの?

太ももつねってやる!

ラム「いたっ!何するんだよ!」

アルレシャ「知らない!」

暫く、馬を走らせているとラムが何かを察知して、馬を止めた。

ラム「まずい……」ラムはボソリと呟いた。

アルレシャ「どうしたの?」

何をボソボソ言っているの?聞こえないわよ。

ラムは馬を城へ向かう方向とは逆の方向に向けて走り始めた。

アルレシャ「ちょっと、どういうつもり?私は城に向かわないと」

ラム「城には行けない。あいつらはまだ城にいる。シャウラ王女に伝えに行こう」

アルレシャ「え?嘘……私が城から出てきた時は、何処にもいなかったは」

ラム「ああ、恐らく目に見えない速さで動いていたのだろう。一晩中速度を落とさず、尋常じゃないぞ。あんな奴らと遭遇なんて出来るか。書状はシャウラ王女に持たせて、オレは身を隠したほうがいい。他にも俺のことを見張っているヤツがいる」

ラムは上空を見上げた。

あの時のオオワシだわ?!

シャイン「くそっ!鴨がネギ背負って城へ向かって行くと思っていたのに、あいつ感がいいな。だが……」

オオワシは速度を上げて城の方向へと飛び去っていった。

ラム「くそっ!急ぐぞ!とにかく、シャウラ王女と合流しよう。遂に来るぞ!」

私はまたラムの背中をきつく抱き寄せた。

少し体が大きくなったメリクの尻尾に叩き落とされたジュニアは城より西にある林に落ちていった。

メリクは、また元のフクロウ大の大きさに戻る。

メリク「今、少しだけ近づいたな。分かるぞ。お前にも分かるように、我にも分かる」

オオワシのシャインが猛スピードでメリクの元に訪れた。

シャイン「メリク様!見つけました!ご案内致します」

メリク「でかしたぞ。シャイン!」

ラムがシャウラ王女の後方を捕らえようとする時、巨大な青龍メリクがその姿を4人の前に晒した。

青龍メリクはドスンと地面に地響きを与えて、シャウラ王女とラムの間に着地した。

シャウラ王女とアクベンスがその音を聞きつけ、後ろを振り返る。ただならぬ状況であることは一見して見て取れた。

精霊レオと同じかそれよりも一回りも大きな体となった青龍メリクは目に見えぬ速度は出せなくなったが、その力強さは運命の石の精霊の中でも一・二を争うものだろう。

メリクは口から石を吐き出しラムへと飛ばした。

ラムがその石を素手で受け止めると、ジュワッと手を焦がした。



第9章 トーラスの章 パートⅡ

ラムの運命の石が、ラムの手の下に帰ってきたのだ。

メリク「お前にお似合いのなまくら石だ。せいぜい大事にしろよ。そして、俺の石を返せ」

ラム「それは出来ない相談だ。ただ、俺の石を先に返してくれたことにはお礼を言わせて頂こう。この石の力を侮りすぎたな。精霊!」

メリクの前に巨大な水瓶が現れると水瓶の中の水をメリクにぶっ掛けた。すると、たちまちメルクはするすると元のフクロウ大の大きさに戻っていった。

メリク「くそっ!何をした!貴様!!」

メリクが地面からシャインが上空から、ラムに向かって猛烈なスピードで飛びかかってくる。

その間に突如、土の壁がせり上がりメリクとシャインの爪が土の壁にめり込んだ。土の壁はそのままメリクとシャインを地面に押し潰すかのように倒れるが、メリクとシャインは間一髪の所で爪が土から外れ、猛スピードで上空へと舞い上がった。

ラム「アルレシャ。ありがとう。君はアクベンス殿と城へ向かってくれ」

ラムとアルレシャは馬から降り、シャインとメリクの第二波の攻撃に備えながら、大声でアクベンスとシャウラ王女を呼び寄せた。すでに近くまで駆け寄っていたシャウラ王女とアクベンスは馬の走る速度を緩めずに駆けつけた。

シャウラ王女「今のはなんだ!」馬上よりシャウラ王女が叫ぶ。

ラム「説明は後だ!君の探している男の子も近くに居るはずだ。私だけではこの青龍を食い止められない。見つけてくれ!それからアクベンス殿!アルレシャを連れて急ぎ城へ書状と現状の報告を!」

ラムは木の精霊を使って大量の木をメリクとシャイン目掛けて投げつけながら叫んだ。

アルレシャ「ダメよ!ラム一人になってしまうわ!私はここに!アクベンス!書状はお返しするわ!」

アルレシャは土の精霊を使って、土の塊をメリクとシャイン目掛けて投げつけながら叫ぶ。

ラム「駄目だ!俺は自分を守ることは出来ても、他の誰かを守ることはできない!アルレシャ!分かってくれ!危険過ぎる!」

アクベンスは馬から降りること無く、アルレシャの腕を引き上げて後ろに乗せる。

それを見たラムは、木の檻で自らを閉じ込めた。

シャインとメリクの攻撃がラム一点に絞られ、爪が木の檻を引き裂く。

穴が空きそうになると、直ぐに木の枝が伸びて新しい檻が出来上がる。

メリクが木の檻を燃やすために口から火を吐くと灰となって崩れ落ちるが、またその内側に新しい檻が出来る。

ラムの籠城作戦は時間の問題で破壊されるだろう。急がないと……

シャウラ王女とアクベンスの駆る早馬は、ラムからあっという間に遠ざかっていた。

それを追いかけてきたのが、オオワシのシャインだ。しかし、早馬の速度にオオワシはやっと追いついていた。

暫く走っていると、荒れた山林が目に飛び込んできた。恐らくここで一晩中メリクと少年が戦っていたのだろう。

シャウラ王女「私はここで少年を探す。アクベンスはそのまま城へ向かえ」

アクベンス「オオワシがまだいます。お気をつけて」

シャウラ王女「分かってる。気にするな」

アルレシャ「王女様。お気をつけて」

シャウラ王女は街道を外れ、山林の中に消えていった。

オオワシのシャインがそれを見つけ追いかけてゆく。

アクベンスとアルレシャは、追っ手もなくなったが走る速度を緩めることもなく、城下町に足を踏み入れた。

アクベンスは腰にぶら下げていたラッパを吹きながら城下町を滑走していく。遠くから聞こえるラッパの音を聞きつけた住民たちは道を空け、何事なのかと通りを眺める。その前を猛スピードでアクベンスの馬がすり抜けてゆく。

ラッパの音が城の城門まで聞こえると、門番は大急ぎで城の門を開放した。

アクベンスは馬から降りることもなく、城内に馬を駆け上がらせ玉座の間まで走りこんでいった。

玉座の間に到着すると、アルレシャは馬から飛び降り、国王の前で膝をつき一礼するだけで、書状を直接国王に渡した。





第10章 ヴァーゴの章 パートⅠ

ヨウフェーメー「アクベンス!馬のまま玉座の間に入るとは何事か!ん?アルレシャか。シャウラ王女は一緒ではないのか」

ヨウフェーメーも慌てて駆け上がってきたのであろうが、息を荒らすでもなく優雅な出で立ちでアクベンスの近くまで歩み寄った。

ヨウフェーメー「アルレシャ、アクベンス殿と一緒ということは……」

アルレシャ「はい。伝えてあります」

アルレシャは軽くヨウフェーメーにお辞儀した。

ジュバ国王「それでシャウラ王女は、何処におるのだ。近衛兵団を率いて城下の安全確保に努めさせたいのだが」

ジュバ国王は、書状を開かずにアルレシャとアクベンスへ問いかける。

アクベンス「国王陛下、シャウラ王女は例の男の子を探して山林へ入って行きました。青龍が力をつける前に倒さねばなりません。それには例の男の子が必要です」

アクベンスはジュバ国王の前で膝をついて深く頭を下げて伝えた。

アクベンスに習うように、アルレシャも国王の前で膝をつき頭を下げる。

ヨウフェーメーは優雅に二人に近づき、ジュバ国王に立礼して話を切り出した。

ヨウフェーメー「例の男の子とは、シャウラ王女が連れて参ったものだな。青龍が城を襲って来た時に、対峙して一緒に消えたもの」

ジュバ国王は、ヨウフェーメーを見た後、アクベンスを見た。

ジュバ国王「おお、そのものか。彼がいなければ城は破壊されておったかも知れぬ。何処に居るのだ?二人とも頭をあげよ。話し難くていかん」

ジュバ国王は玉座より起立して歩き始め、玉座の間の脇にある扉を開けさせると、中に入るようにと三人を手招いた。

そこは起立式会議室のように、中央には机が高く競り立っているような空間で四人が入ると狭い部屋に感じられた。

ジュバ国王は形式張った重いマントをハンガースタンドに無造作に掛けると書状を開いて読み始めた。

ジュバ国王「ギルタブもサンガスも早とちりしすぎる傾向があるな。中央に向かっても軍隊なぞおるまいに。まあ、これも経験か。アクベンス、アルレシャよ。書状はしかと受け止めた。この件は二人に任せよう。それよりも重大なのは青龍だ。こやつは一匹で一国を潰しかねない。どう対処する。シャウラは何をしている。詳しく説明せよ」

ジュバ国王は書状を裏返しにして、そこに書き出すようペンをアクベンスへ差し出した。

アクベンスは鳥の大群に襲われていたラムという男と遭遇したところから、アルレシャの彼氏である事を伏せたまま、今まで城に走り戻るまで起きた一部始終を事細かに書き記した。

運命の石のバランスが崩れ始め、それぞれの石が力をつけ始めたこと、青龍の探していた石をラムという男が持っていたこと、今の今まで例の男の子が青龍と戦っていたが、運命の石のパワーバランスによって例の男の子は倒され、そして今まさに青龍がラムという男から石を取り上げようと紛争していることだ。

青龍を止めるには、例の男の子の力も必要で、シャウラ王女は例の男の子が落ちた地を探しているということをだ。

ヨウフェーメー「私もシャウラ王女と共に例の男の子を探しに行こう。城は大丈夫だ。ただし、例の男の子が復活しなければ、この国は青龍に滅ぼされるやもしれない。私の力が必要だ」

私には思い当たるフシもある。今ならば例の男の子の持つ石を復活させられるかもしれない。私が行かなければ。

運命の石の力が集まりすぎている。力が有り余っている今であれば、私の石の力もまた力を増しているということだろう。

どんな命であれ救う力となっている。私の運命の石とはそういうものだ。

力が強くなっているのであれば、災害地へ行けばそこのあらゆる生命だって意のままに蘇らせることも出来よう。

ここに留まっている理由などあるものか。

ジュバ国王「神の子よ。すまない。頼む。アルレシャよ。神の子の補佐をお願いする。シャウラ王女が戻るまでの間、アクベンスは、信頼できる近衛兵を城内警備にあて、自らも城に留まれ」

ジュバ国王に命じられたアクベンスは「御意」とお辞儀をするもアルレシャが口を挟んだ。

アルレシャ「お待ち下さい。国王陛下。アクベンス殿の力が必要です。彼も運命の石を持つものです。青龍に例の男の子とラムだけでは力不足かもしれません」

ジュバ国王は無言のままアクベンスを見つめる。

ヨウフェーメー「国王陛下。私からもお願いします。アクベンス殿の力は必要です。シャウラ王女が見つかりましたら、シャウラ王女を城に戻しましょう。シャウラ王女を青龍と戦わせるわけには行きませんので、私が連れて戻りましょう」

ジュバ国王「わかった。アクベンスよ。神の子の補佐を頼む。信頼できる近衛兵にシャウラが戻るまで真摯に務めるよう指導してやってくれ」

アクベンス「御意に」

アクベンスは起立式会議室を抜け出し、近衛兵を呼び集める笛を吹いて、近衛兵部屋へと向かった。

次いで、アルレシャとヨウフェーメーが会議室から出ると、最後に出てきたジュバ国王に一礼して、アクベンスを城下の門で待つべく歩み始めた。

程なくして、近衛兵が準備しておいた早馬に、三人は跨がりシャウラ王女と別れた地点を目指し走り始めた。





第10章 ヴァーゴの章 パートⅡ

ヨウフェーメー一行は、シャウラ王女と別れた地点に辿り着く。

青龍とジュニアとの戦いで荒れた山林の奥深くにシャウラ王女は、ジュニアを抱き寄せて泣いていた。

ジュニアの手の中で、リブラの刻印が刻まれた石が真っ二つに割れていた。

ヨウフェーメー「シャウラ王女。彼を私にお預けください」

ゆっくりとシャウラ王女を驚かせないよう近づきながら、そっと耳元で囁いた。何度目の言葉だっただろう。シャウラ王女は、ハッと驚いた顔を私に向けた。

シャウラ王女「ヨーメー!ヨーメーか!城はどうした!何でここにいる!こいつを……。こいつを蘇らせろ!!」

どれだけ長い間、泣いていたのだろう。

目を充血させて泣きながら、男の子を抱えていたのだろう。

この割れたリブラの刻印がこの男の子の運命の石だったのだろうか?

でも、この石を元に戻せれば、この男の子は蘇るかもしれない。

やるだけのことはやってみよう。

ヨウフェーメー「シャウラ王女。お任せください。精霊っ」

力強くもなく囁くように優しく風のような声で、目を瞑り手をそっと男の子にかざした。

優しい光がリブラの刻印が刻まれている石を包み、男の子を包み始める。

暫くすると、石は元の形に戻りはしたものの、男の子は目覚める様子がない。

このリブラの刻印の石がこの子の運命の石ではないのか?

そもそも、この子は私の力で目覚めたのではなく、自らの意志で目覚め、自らの意思で青龍と戦い始めたのだ。

私が初めて会った時と同じ状態に、今この子はなっている。死んでいるわけではない。意識不明というわけでもない。この子を動かす動機が無くなってしまったかのような、機械的には充電切れのようなニュアンスに近い。精霊の力を充電しているようなイメージだ。

そうか、ならば、この辺りにいる木の精霊、水の精霊、火の精霊、風の精霊、彼らの力でこの子は目覚めるのかもしれない。

私の精霊の石に、周辺精霊の力を集めよう。

そして、この子に。

ヨウフェーメー「さあ、精霊達よ。力を貸してください」

ヨウフェーメーの運命の石の力に精霊の力が交じり合い、七色の輝きをあたり一面に輝かせていた。

これまでに見たこともない精霊の力が、一つになって男の子の体に入り込むと体の中に入っていた運命の石が輝きだした。

ヨウフェーメー「なんていうことだ。この子は……そうだったのか……」

シャウラ王女に抱えられていた男の子は、目を覚まして起き上がった。

自分が何者であるのかをこの時初めて、城下で助けてくれたシャウラ王女に伝えた。

シャウラ王女「お前の名前はジュニアというのか」

アクベンス「では、あの精霊の反乱は……」

ジュニア「恐らく僕のお父さんが」

アクベンス「一人でやったのか……サンガス・ギルタブ陛下に伝えなければ!」

アルレシャが飛び出して行きそうなアクベンスを静止させた。

アルレシャ「そちらは私が!アクベンス殿は、ラムを青龍をお願いします」

ヨウフェーメー「シャウラ王女は私と城へ。国王陛下が心配なさります」

シャウラ王女「いや、まだ戻れぬ。ジュニアの父上の事も気がかりだし、ラムと青龍をこのままにはしておけぬ。一刻を争う急ごう。アルレシャ、まずはラム殿と青龍からだ。その後、ジュニアの父上を探す。連れて行ってくれ」

シャウラ王女はアルレシャに手を伸ばし、馬に乗せるよう指示した。

アルキバ「おお、いたいた」

大烏がヨウフェーメーに襲いかかる。

アクベンス「青龍の使い鳥か!こんな時に邪魔しに来やがって」

アクベンスは、剣を抜いて切っ先をアルキバに向ける。

アルキバ「ちっ!ミスったか。これはまずったな。話し合おうじゃないか」

アルキバは、アクベンスをちら見すると交渉を要求し始めた。

アルキバ「俺は戦いに来たんじゃない。もう青龍メリク様とは関係がねえ。あんたの持っている運命の石が必要なんだよ。それはあんたの運命の石じゃないだろう」

アルキバはヨウフェーメーに向き合うと、地面に着地した。

アルキバ「俺はお前の運命の石を持っている」

そういうとスピカより受け取った運命の石を地面に吐き出した。

まばゆい金色の光を放ち、ヨウフェーメーに引き寄せられる。アルキバは足で掴んで地面に踏みつける。

アルキバ「一石二鳥とはこの事か。一石二人か。まあいい。そこの男。お前の母子がお前のことを探しまわってるぞ。まあ、そのうち引き寄せられるか。運命の石の力によってさ」

アルキバはジュニアを見つめた。

ヨウフェーメー「それが私の本当の運命の石とはどういうことだ。私の運命の石はこの生の石だ」

アルキバ「違う違う。それはスピカってやつのものだ。お前さんはヴァーゴだよ。サジテリアスはスピカだよ」

アクベンス「スピカ殿も運命の石の持ち主だったのか!」

シャウラ王女「スピアか。あながち間違いでもないか」

ヨウフェーメー「なぜ、お前がその石を持っていた。スピカ殿をどうした!」

アルキバは殺気立つ一行から距離を置くために翼を広げて空中でホバリングを始める。

アルキバ「おいおい。誤解しないでくれ。俺はスピカに頼まれてきたんだ。あと、その旅の一行にそこの男の子を見つけてくれってさ。ここに集まる皆と真逆の運命の石を持った一行だったよ。そこのオジサンの石も合ったぜ」

アクベンス「レグリーか……」

アルキバ「とにかく、自分の石を持ってみろよ」

アルキバは無造作に足に持っていた運命の石をヨウフェーメーに投げた。

ヨウフェーメーは、金の運命の石を手に持つと、リブラの刻印が光を放ち呼応した。

ヨウフェーメー「大烏よ。生の石をスピカへお渡しください。そして、直ぐにこちらへと連れて来てください」

ヨウフェーメーが地面に降りたアルキバに生の石を渡している時に、アクベンスがアルキバの羽根を踏みつけ剣先を向けた。

アルキバ「なんだよ。まだ疑ってるのかよ」

アクベンス「おい!大烏。俺の運命の石を持って来い!」

アルキバ「俺にも一応名前ってのがあるんだよ。アルキバって呼んでくれ。だがな。そいつは俺の契約に含まれちゃいねえんだ。諦めな!」

アクベンス「生の石をスピカに返しに行くのだろう?その時にレグリーという女に伝えるだけでいい。運命の石を返して欲しがっているって、それで分かるはずだ」

シャウラ王女がアクベンスの肩を叩く。

シャウラ王女「アクベンス!お前の精霊は、あの炎に包まれたレオじゃないのか。危険だ!」

アクベンス「青龍が復活したなら、あれぐらいのやつが居なければ」

アルレシャ「まだよ。まだ復活してない!ラムが居るわ!私だって!アルキバを放しなさい!アクベンス!」

今度はアルレシャがアクベンスに剣先を向ける。

アクベンスはそっと踏みつけていたアルキバの羽根を開放した。

ヨウフェーメー「リブラの天秤が揺れている。一処に留まることを拒んでいるかのようだ。力が溢れ出している」



第10章 ヴァーゴの章 パートⅢ

アクベンスがアルキバの羽根を踏みつけていたのを開放すると、アルキバは素早く遠くの空へと姿を消していった。

オオワシのシャインはアルキバの気配を察するとさらに高い場所に舞い上がり、誰にも察知されぬよう、この一幕を邪魔することもなく見ていた。

シャイン「アルキバめ!」

シャインはタイルにだけ聞き取れる甲高い声で鳴き、アルキバの後を追った。



アルレシャがアクベンスへ向けた剣先を下ろす。

アルレシャ「すまない。王女様の意思も尊重してください」

アクベンス「分かっている。こちらこそすまなかった。急いでラム殿の元へ向かおう。気がかりはまだ終わっていない」

アルレシャとアクベンスは話しながら早馬に跨った。

シャウラ王女「そうだな。ジュニアも共に来てくれ。君の力が必要だ。ヨーメーはリブラの石を持って城へ戻ってくれ。あなたにその石をお任せしたい」

シャウラ王女は、ジュニアを見て手を差し伸べる。目で渡してくれないかと合図するがジュニアはすぐに応じようとはせず、そっと胸元に両手を添えた。

ジュニア「ちょっと、待ってください。この石は……。僕に預けてください。それに、精霊の力は多い方がいい。アクベンスさんのレオもきっとコントロール出来ますよ」

ジュニアはシャウラ王女に石を渡すのを拒んだ。

シャウラ王女「君がその石の適任者だとして、その石のコントロールが出来るのかまだ分かっていない。ヨーメーの石も私が預かりたいと思っている。しかし、これから私らは戦地に向かう、私らが相応しいかも分からない。万が一壊してしまっては申し訳ない。しかし……」

戸惑いながらシャウラ王女は、ヨウフェーメーを見つめる。

ヨウフェーメー「お気遣いには及びません。シャウラ王女。ヴァーゴをお預け致します。この石にどのような力があるのかは分かりません。私に生の石の力がなくなった今、神の子でも無くなりました。城に戻って王様にこの事伝えなければなりません。戦地ではお役に立てませんが、これまで培ってきた医療技術ならまだ残っています。その石をお役立てください。私は後方支援に務めさせて頂きます。ジュニア殿、今リブラに必要なのは私です。私にお預けください。私が大切に守ります」

ヨウフェーメーはシャウラ王女に話しながら優雅に歩みを進め、ジュニアに石を差し出すように前に出したシャウラ王女の手のひらに自らの運命の石ヴァーゴを乗せ預けると、ゆっくりと振り返りジュニアに石を差し出すようジュニアを見つめた。

リブラの石はジュニアの意思に反するかのように、自らの意思でするりとジュニアの手の中からこぼれ落ち、ヨウフェーメーの目の前まで転がる。

シャウラ王女「ジュニア、分かってくれてありがとう」

ヨウフェーメーは、転がり落ちた運命の石を素早く拾い上げた。

ジュニアより一瞬早く動いたことで、その場にいた誰もがジュニアより渡されたと思っていたのだろう。

リブラの石を受け取ったヨウフェーメーだけが、底知れぬ違和感を感じていた。

シャウラ王女に早馬を渡して、城への帰路についたヨウフェーメーは、風の精霊を呼び出し城門まで移動した。馬ほどの速さは無いものの徒歩で帰るよりかは遥かに早い。

シャウラ王女達がラムと青龍メリクの元にたどり着いた頃と同じ時刻に、ヨウフェーメーは城下町を通っていた。

それは丁度、アルキバがスピカの元へたどり着いた時刻と重なる。





第11章 アクエリアスの章 パートⅠ



シャイン「貴様!メリク様から与えられた知性を無駄に使いやがって!」

スピカの元へ辿り着く前にアルキバが、シャインの両足の爪で取り押さえられた。

アルキバ「カカカ。俺がどうしようが俺の勝手だろ。メリクの呪縛が解かれたというのに、お前はなんでまだ従う」

そこへシャインの声を聞いた大鷹のタイルが到着する。

タイル「おとなしくメリク様の意思に従え!」

アルキバ「お前までもか。なぜこの自由な空を満喫しようとしないんだ。勿体無い」

アルキバの渾身のクチバシの一撃がシャインの足に襲いかかり、シャインは捕まえたアルキバを解き放した。

アルキバ「メリクを連れてこい!良いものを見せてやる!」

アルキバは叫びながら、二羽から遠く離れた。

タイル「この先には、多くの運命の石があるようだな。シャイン」

シャイン「ああ、俺も感じる。メリク様を連れてきたほうが良いかもしれない。メリク様の元へ戻ろう」

・・・

青龍メリク「その石を我に返して己の重荷から開放されよ」

青龍メリクはその緑青色に輝く体を執拗にラムが作った木々の壁に爪を立て引きちぎっていた。ラムの姿が見えたかと思うと、新しい枝木がその間を遮りラムの姿を隠す。

ラム「この石を渡すわけにはいかない!」

木の中からラムの篭った声だけがメリクの元に届く。

メリク「お前の下した選択が……本来のバランスを壊しているということに何故気が付かない!」

メリクの爪が木々を払い除け、ラムの腕をかすめるとその痛みからメリクの運命の石を地面に落とし木の檻から出してしまった。

ラム「しまった!」

メリクは素早く自らの運命の石を拾い上げ、口の中に放り込み飲み込んだ。

これでメリクの体は元通りの大きさに戻るはずだった。しかし、元の大きさに戻ることはなかった。ラムの周辺では、水瓶の精霊が力を持っているためだろう。

メリク「まあよい。もう一つ、我に必要な石がある」

飛び立とうとするメリクの足首に、ラムは精霊の力で木を巻きつけた。

メリク「我にこのような小細工が通用するとでも思っているのか」

メリクの足を縛り付けていた木は、ゆっくりとメリクの足を離していった。

今まさに飛び立とうとした瞬間に、シャウラ王女達が到着した。

ラムの作っていた木の檻がなくなっているのを遠くから見ていたシャウラ王女一行は、メリクを捕らえるためにラムと同様に木の精霊の力を借りてメリクを木の檻の中に入れた。

その檻は、破壊されることもなく内側からゆっくりと開いていく。メリクの運命の石に対し、木の精霊の力はあまりにも無力だった。

ラム「取られた!」

ラムはシャウラ王女一行に、置かれている事態を短く伝えた。

そこにシャインとタイルがメリクの元へ飛んでくる。

三体は空高く舞い上がり距離を取るが、そこへ石つぶてが大量に飛んでくる。

メリク達は石つぶてを軽快に交わしながら上空で話し始める。

シャイン「メリク様、アルキバが単独行動を行っております。勝手に運命の石を集め始めました」

メリク「そうか、ならばアルキバの元へ行けば、目当ての石もあるのだな」

タイル「はっ、おそらくは」

メリク「タイル、北へ行ったファクトを連れてこい」

石つぶては徐々に大きな物となり、タイルにぶつかると、石と共にタイルを地面に叩きつけた。

石つぶては、ラムが放った精霊の力だった。

メリク「くっ、小賢しい!」

ラムの周辺に木々から伸びた枝が、体を縛り付け、首や手足を引っ張り始める。

ラム「ぐわっ」

早馬で駆けてきたアクベンスが、素早くラムに巻き付く枝に剣を突き刺しこみ切断する。

アクベンス「間に合わなかったか」

アルレシャ「遅くなってごめんなさい」

咳払いをして倒れ込むラムをアルレシャが走りより抱き支えた。

メリク「あやつは!倒したはず!」

ラムもちらりとジュニアを見る。

ラム「くそっ!メリクに間に合うのか」

メリクはジュニアを見つけると、怯えたように射程距離を取って更に高く舞い上がった。

シャイン「急いでアルキバの元へ参りましょう」

メリク「分かっている。急ぐぞ!」

メリクとシャインは東へと飛び去っていった。

シャウラ王女「ラム、大丈夫か」

ジュニアがタイルの羽根を掴み、身動きの取れない状態でラムを気にかけて集まるシャウラ王女達がいる場所に戻ってきた。

シャウラ王女「素早いな。ジュニア。あの青龍もお前を見て怯えていたようだったぞ」

皆がジュニアの手の中にいる大鷹に注目する中、息を吹き返し落ち着いたラムがジュニアとタイルを見ながら話し始めた。

ラム「青龍は、もう一つ運命の石が必要だと言っていた。空でどんな会話をしたのか、その大鷹に尋問すれば、何処へ行ったのか分かるかもしれない」

タイルは、ジュニアに羽根を掴まれた状態でジタバタと動き暴れるが、暫くすると諦めたのか力を抜いた。

タイル「俺が喋るかよ」

シャウラ王女「青龍は何を企んでる!運命の石を集めて何をしようとしているんだ」

タイル「メリク様は秩序を取り戻そうとしているだけさ。こいつ・・・」

タイルを掴んでいたジュニアが、タイルのクチバシを地面に押し当てて話すのを遮る。

アクベンス「待てよ!運命の石が必要だと言ったな。あの大烏やろう!」

ラム「アクベンス殿、あなたの精霊を解放してください!精霊ならばまだ間に合います」

アクベンス「分かった!精霊!!」

アクベンスは持っていた精霊の運命の石を空高く放り投げた。精霊の石は大きな水の塊を身にまといながら形を変えて蟹の姿に変わり、まるで歩道が川のように水しぶきを上げながら、あっという間に流れて去っていった。

アルレシャ「間に合うと良いのですが」

アルレシャはラムを介抱しながら精霊の言った先を見つめて呟いた。

シャウラ王女もまた暫く精霊の言った先を見つめる。

シャウラ王女「我々も急ごう。アクベンス、ラム。青龍の向かった先は分かるのか?」

シャウラ王女は動揺することもなく、冷静にアクベンスとラムに訪ねた。

ラム「おそらく!レオがこちらに戻って知らせてくれることと思いますが、アクベンス殿」

私の持つ精霊の石の力で、運命の石の持ち主が本当は誰の物なのかが分かる。アルレシャもシャウラ王女もまた、自分の石ではないものを持っている。ただ、その石はまだ手放してはならないことは感じ取れる。

そこにいるジュニアという男の子がいる事も、彼の石の存在も、私には分かるようだ。この先には何が待っていようか。私の選択は、間違えていないだろうか。

アクベンス「気配を感じる。アルレシャはラム殿を、大鷹は鳥の籠にでも閉じ込めておきましょう。我々も急ぎましょう」

アクベンス殿の言うとおり、今はみんなが自分の石を早々と獲得することが重要なのではないだろうか。

シャウラ王女「アルレシャ、ラム。共に来てくれるか?」

ジュニアがタイルを木の精霊で作った鳥籠に閉じ込めると、シャウラ王女の馬に飛び乗る。

私達はアクベンスを先頭に、東へと駆け出した。





第11章 アクエリアスの章 パートⅡ

スピカ一行の元にアルキバが生の石を持って戻ってきた。

アルキバ「ほら、これがお前の運命の石だ。後それから、レグリーさんって居るかい?」

アルキバは一行を見渡しながら、スピカに運命の石を投げつけた。

レグリー「私だけど」

アルキバの前にレグリーが一歩前に出る。

アルキバ「あんたの持っている運命の石を返せと、傲慢な男が俺に言ってきたぜ。まあ、どうするかはあんたが決めな。それから、カシミールさんって言ったっけ、あなたの探しているジェミニの石を持つ者なら、こっちに向かってるぜ。ここで待ってれば、現れるだろうよ」

アルキバは何かに追われでもしているかのように、後ろを振り返り遠くの空を警戒してキョロキョロしている。

アルキバ「おっと、これ以上の長居はゴメンだ。約束は守ったからな」

アルキバはそそくさと来た方向とは逆の遠くの空へと消えていった。

レグリー「カシミール!良かったわね♪すぐに会えるわ」

レグリーはカシミールに向き直り、カシミールの両肩を掴んだ。

カシミールの目がまっすぐとレグリーを見つめている。カシミールだけではなく、スピカやプレアも心配した顔を伺わせていた。

レグリー「何?みんなして変な顔して、アルキバの言ったこと?私の運命の石は私の石じゃないの。返して欲しいっていうのなら返してあげてもいいのよ」

カシミールはレグリーにされたことと同じように両肩を掴んだ。

カシミール「レグリー。大丈夫?」

運命の石が本人のものじゃない。カシミール一行にとってこれは衝撃的だった。今まで自分の石だと信じて大切にしてきた石がまさか他人の物かもしれないのだ。

プレア「どうして今になって、私の石も自分のじゃないの?私のはどこ?もしかして、この石が壊れたら誰か他の人が死んじゃうの?どうして生まれた時にこの石だったの?」

プレアは思わず自分の運命の石を手のひらに乗せ、思い切り握りしめて座り込んだ。

これまで信じてきた自分が自分では無かったんじゃないかという戸惑いを隠しきれずに震えている。

カシミールとレグリーはそっとプレアに寄り添い声をかける。

カシミール「プレアはプレアよ。運命の石が違ってもいいじゃない。いつかきっと自分の元に返ってくるわ。私のも私のではないかもしれない。でも、ずっとやって来れたもの。あなただってやれるわよ」

レグリー「そうそう、カシミールの言うとおりよ。私を見なさい。自分に必ず会えるは、そしてそれが運命の瞬間。大切な時間になるはずよ。私が自分の運命の石と出会って、あなたが産まれたの。プレア、あなたが産まれたのよ。私とあなたの父親は、運命の石をそれぞれ持っていたの、引き合うように結ばれて、そして離れたは色々あったのね。今、彼には自分の運命の石が必要みたい。だから私は手放すわ」

レグリーはそう言うと、運命の石を机に置き、「精霊」と優しく語りかけた。

小さな炎の精霊レオは姿を現す。

精霊レオ「遂にこの時が来た。時期にお前の本来の石も帰って来る。彼が解き放った。彼の意思はここにある。だから私はここから離れるわけにはいかない。ここに災いの火種がある限り、彼はここへやってくる。もう時期ここに来る」

精霊レオは自らを宿す運命の石を飲み込み、皆へ外へ出るように呼びかけた。

外に出るとスピカ一行の目の前に水の壁が立ちふさがる。

体の大きくなった青龍メリクが水の壁にぶつかり、距離を取って高い空に舞い上がった。

メリク「くそっ!邪魔な壁め」

精霊キャンサー「危ないところだったな。お前の運命の石を手放すなよ」

水の壁から運命の石が飛び出し、レグリーの手の中に収まる。

精霊キャンサーの形に変わると水鉄砲を青龍メリクに打ち付ける。

精霊キャンサー「アクベンスの最後の指示は守った。レグリー、次はあなたの支持だ。さあ、どうする」

精霊キャンサーはそう言うと、姿を消した。

それと入れ替わるように、精霊レオが青龍メリクの前に陣取り炎の攻撃を始めるが、その姿はまだ弱々しく小さい。

レグリー「精霊!出てきて!応戦を手伝って!あいつはなにもの?」

精霊キャンサーは再び姿を現し、青龍メリクの進行を阻む。

精霊キャンサー「その男が持つサジテリアスの石を欲している」

精霊キャンサーは、スピカを爪の先で指した。

先程、アルキバが持ってきた石だ。

精霊キャンサー「その石は生の石さ。別名、不老不死の石とも言われている」

カシミール一行は皆、スピカを見る。

スピカ「何だよ。全部俺が悪いみたいになってるじゃねえか。俺は自分の運命の石を取り戻しただけだぜ」

カシミール一行を払いのけるようにスピカは一歩後ずさった。

攻撃は激しさを増しつつも、攻守変わらずせめぎ合いが続いていた。

メリクは空高くにホバリングし、レオとキャンサーの攻撃をゆるゆるとかわす。時折、丸太を空中に製造し投げ捨てるも、レオの炎とキャンサーの水圧で砕け散っていた。

精霊レオの体が見る見るうちに大きくなると、そこにシャウラ王女一行の姿が見え始めた。

そこに大きな砂嵐がシャウラ王女一行とカシミール一行の狭間に竜巻となって発生する。

その砂嵐は激しさを増し、辺り一面はレオの炎とキャンサーの水と混ざりながら濃い霧を作り、視界を遮った。

シャウラ王女「何が起きてる!」

シャウラ王女は竜巻が作り出す暴風にたまらず馬を手放し地面に着地する。アクベンスやアルレシャ、ジュニア、ラムもそれに続き馬を降りて吹き飛ばされないように座り込む。

ラム「運命の石が集まりすぎたようですね。全ての石がここに集まりました」

シャウラ王女「お前!さては知っていて!」

風に舞い上がる砂が目に入らないように手をあてがいながらシャウラ王女はラムを一瞥する。

ラム「アルレシャ、シャウラ王女。時は成りました。今お持ちの運命の石を手放してください。そして、自らの本来の運命の石を手にする時です」

風と煙と霧はその勢力を強めている。

アルレシャ「ここに私の運命の石もあるの?」

シャウラ王女「貴様!図ったな。何のために!竜巻など飲み込んでくれるわ!精っ!!」

暴風の中ジリジリとシャウラ王女に近づいていたアクベンスがシャウラ王女の肩を掴む。

アクベンス「お止めください!シャウラ王女。今それは出してしまうと制御できなくなります」

思わずアクベンスの腕に力が入ると、シャウラ王女は痛っ!と顔を歪めると、アクベンスは申し訳ございませんと頭を下げた。

しかし、その腕力のお陰でシャウラ王女が精霊の力を召喚することに失敗し、この場を更なる混乱から退けたことは誰の目にも明らかだった。

アルレシャ「私はピーシーズの石を手放すわ。精霊。あなたの主人に還って私の石を連れ戻して」

アルレシャが石を放り投げると竜巻の中に吸い込まれた運命の石は、風の中を泳ぐ魚となってピーシーズは雲のようにゆうゆうと泳ぎ、プレアの元へ到着した。

プレアの目の前にピーシーズが泳ぐ。

精霊ピーシーズ「さあ、あなたの運命の石を受け取りなさい。そして、トーラスの石を手放すのです」

プレアは言われるがままにピーシーズの石を受け取り、トーラスの石を手放した。

トーラスの石は、砂埃を上げながら竜巻の中央を力強く走り抜けアルレシャの目の前で止まる。

目の前の霧は晴れ渡り、強い風は消し飛び竜巻と砂埃はこの場から消えていた。

精霊トーラス「さあ、あなたの運命の石を受け取りなさい」

アルレシャは、トーラスの石を手にした。





第11章 アクエリアスの章 パートⅢ

突然、アルレシャが苦しみだす。

アルレシャ「熱い!熱い!」

地面に体をこすらせながら、まるで体についた炎を消すかのように暴れだした。

シャウラ王女「ラム!アルレシャに何をした!アルレシャ。あつっ」

シャウラ王女はアルレシャに近づこうとするが、アルレシャの体の周りは灼熱のごとく熱い蒸気を発している。

アルレシャの口から炎が燃え上がると、体を炎が包み込んだ。

炎の中から羽の生えた蛇が姿を表し、上空に舞い上がる。

悲鳴にも似た甲高い鳴き声が、炎を身にまとったワイバーンから発せられた。

ラム「あれが本来のアルレシャの姿だ」

精霊レオが青龍メリクに投げた炎が、間違えてアルレシャにぶつかると、アルレシャはシャアアアアと蛇が鳴らす喉の鳴き声で精霊レオを威嚇した。

それを見たアクベンスは精霊レオを引っ込め、手元に自らの運命の石を取り戻した。

シャウラ王女「ダメだ!アクベンス!すまない!うわぁーーー」

シャウラ王女の叫び声とともに、精霊の石がはじけ飛んだ。

今まで押さえつけていた精霊の力がシャウラ王女の力で制御できなくなって力に押し倒された。

シャウラ王女の持っていた運命の石は、サソリの姿に変わり地中へと姿を消した。

アクベンス「あれが暴発しなかっただけ良かったと思うしかありませんね。皆吸い込まれて消されていたかもしれません」

アクベンスはそっとシャウラ王女を肩に担ぎ抱き起こす。

シャウラ王女「私の運命の石は何処へ行ってしまったのか」

アクベンス「恐らく近くに居るのでしょう。シャウラ王女の運命の石もおそらく近くへ、アルレシャ殿が戦っているうちにあの者たちと合流しましょう」

上空では青龍メリクとワイバーン・アルレシャが戦っている。

力の差で青龍メリクの方が力が強いのだろう。ワイバーンは押されていたが、レグリーの解き放っているキャンサーがワイバーン・アルレシャを上手くサポートしていた。

体が燃えているワイバーン・アルレシャにレグリーの精霊キャンサーの水が大量に浴びせられると、ワイバーン・アルレシャは地面にゆっくりと降りて人の姿へと戻っていった。

地面には濡れた体のアルレシャが裸のまま横たわっている。

私は自分の着ていた服を脱ぎ、人の姿に戻ったアルレシャに服を差し出した。

精霊キャンサーは青龍メリクを攻撃し二人を擁護する。

ラム「アルレシャ、行こう」

ここに居ても青龍メリクの攻撃が飛んでくる。二人は急いで距離を取りカシミール一行がいるところまで走った。

既に先行しているシャウラ王女とアクベンスの後ろに近づく、シャウラ王女一行がカシミール一行と交わる時、地中からサソリが姿を表し一行の間に立ち塞がる。

シャウラ王女「邪魔をするな!」

精霊スコーピオ「弱い者よ。私はお前に操られなどしない」

シャウラ王女「なんだと!」

精霊スコーピオは、カシミールに尻尾の毒針を向ける。

精霊スコーピオ「お前の運命の石を受け取れ!」

カシミール「私の?じゃあ、私が持っている運命の石は一体?」

カシミールの持つ運命の石が光を放ち、精霊スコーピオの前に立ち塞がる。

精霊カプリコーン「戻れ!」

精霊カプリコーンは、白いトラの姿に身を変えて精霊スコーピオを踏みつける。

その白いトラの怒りの形相は他の運命の石を持つものにも向けられた。

精霊カプリコーン「力のバランスが崩れる!皆、帰れ!」

精霊スコーピオ「何を今更!」

精霊スコーピオは、その場で暴れ精霊カプリコーンを吹き飛ばした。

青龍メリク「はっはっは。これは面白い。精霊同士で暴れておる。これは見ものだな」

キッド「静まれ!精霊!」

ビクッと硬直し、精霊カプリコーンと精霊スコーピオは動きを止めた。

その声に青龍メリクも反応する。

メリク「こ、こいつか!」

青龍メリクの動きも精霊キャンサーの動きも封じられた。

皆の視線がキッドに集まる。

カシミール「せ、精霊を離して。キッド」

カシミールの運命の石である精霊スコーピオが押さえつけられたことで、その持ち主であるシャウラ王女やカシミールらの動きも束縛されていた。その力は運命の石の持ち主たちの呼吸や心臓の鼓動すらも止めていた。

母親の苦しそうな顔を見たキッドは、集中していた力の紐を解き精霊たちを解放した。

キッドは我を忘れて精霊の力を封じていた事に気がついたのは、母親が目の前で呼吸を整えて倒れ込んでいるのを見たときだった。

キッド「ごめん。お母さん」

精霊を引っ込めていたアクベンスやアルレシャやラムには影響がなかったが、レグリーとシャウラ王女にも同様のダメージが加わっていた。

青龍メリクにも大きなダメージが加わり、精霊の力が弱まったためその大きな巨体はフクロウ大にまで縮小し、地面に伏せっている。

ジュニアの足も止まり、倒れ込んでいた。

ラムとアルレシャがジュニアの体を支え起こすと、シャウラ王女を抱きかかえるアクベンスの元へと近づいた。

カシミール一行とシャウラ王女一行の間には、シャウラ王女の手から飛び出した精霊スコーピオの運命の石が、元の石に戻り地面に落ちている。

アクベンスは、その石を拾い上げるとシャウラ王女の精霊の石を入れる袋に閉まった。

シャウラ王女一行は、カシミール一行と合流を果たした。

その合流地点に、小さなキャンプ地を作りテントを張る。

青龍メリクは、シャインに運ばれその場から姿を消した。

スピカ「君は今何をしたんだ」

スピカがキッドに詰め寄る。

キッド「分からない。無我夢中で……」

精霊を解放していた、カシミール、シャウラ王女、レグリーはテント内に横たわり休息している。ジュニアも長い間の青龍メリクとの戦いで疲弊していたためか疲れ切ってその隣で休息している。





第12章 ジェミニの章 パートⅠ

アンガスとギルタブが城下にジェミニを連れて戻ってきたのは、青龍メリクとキッドとジュニアの集団が一箇所に集合し始めた頃だった。

その頃にはヨウフェーメーは医務室に戻っており、リブラの石を持つヨウフェーメーの元へと担架に寝たままの状態のジェミニが運ばれようとしていた。

問題の災害が起きた中心にはジェミニのみが死に絶えていた。

アンガスとギルタブは災害の騒動を引き起こした最重要人物または、今回の主犯格と位置づけ、その罪を問うべくジェミニを城下へと連れ帰ることにした。

死者をも蘇らせる力があるヨウフェーメーに頼めば、息を吹き返した犯罪者を処罰できる。

騒動の責任を誰かに取らせるのは社会のルールとして当然である。

死者であれ蘇れば罰を負わせることが出来る。

それがこの世界の習わしであった。

災害であっても戦争であっても誰ひとりとして無駄に死ぬことはない。

運命の石を蘇らすことさえ出来れば、死に瀕した体であれ健常者として復活することができる。

しかし、今ヨウフェーメーは「生」の石を手にしていない。彼女の手には「金」の石、リブラの石の二つである。

蘇らせる力は今は持っていなかった。

幸いジェミニは、城下へ搬送されている途上で死の川を渡らずに蘇っていた。

アンガスとギルタブにはその理由はわからなかったが、疲弊している体を酷使してまで罪を問うことはせず、養生するようにとヨウフェーメーの元へと送っていた。

ジュバ国王「今回の任務ご苦労であった。隣国には使者を派遣し状況の確認と報告を済ませている。心配には及ばない。例の男は回復次第、罪状を言い渡す。それよりもシャウラが心配だ。城下に現れたドラゴンがまだ何処かで暴れているらしい。戻って来たばかりですまないが、シャウラを頼む」

アンガスとギルタブはジュバ国王に敬礼し、休むこと無く城下を後にした。

ヨウフェーメーの元にジェミニが連れてこられると、リブラの石と「金」の石が呼応するかのように光りだす。その光はジェミニの体を治癒し始めた。

ジェミニの運命の石は、このリブラの石だった。

ヨウフェーメーが割れたリブラの石を「生」の石で治癒したことによってジェミニは息を吹き返していた。

そして、今は自分自身の運命の石を手にすることで、ジェミニは元通りの体に戻ることが出来た。

ヨウフェーメーは、ジェミニにリブラの石を手渡した。

ヨウフェーメー「あなたが起こした災害は、町を一つ破壊しました。罪を償うべく、私とともに国王の元へ行って頂けますか?」

正気を取り戻したジェミニにヨウフェーメーが問う。

ジェミニ「私が死していた間の事を教えて欲しい。私が起こした災害とはどんなものだったのか」

ジェミニの記憶は断片的に消失しているのかと、ヨウフェーメーは診断した。普段であれば「生」の石を使って診断していた事だったが、今はその力を利用することが出来ないため、今までの経験で診断した。

ヨウフェーメーは全て国王の元でお話するのでと言いながら、一緒に来るようにとジェミニに自らの肩を貸す。

ジェミニは、ゆっくりと体を起こし自らの足で地面に立った。

ジェミニは、山に居た頃の体力を取り戻していた。

ヨウフェーメーの後を付いて行き、王座のある謁見室へと向かう。

ジェミニの後ろには3人の近衛兵が逃亡しないようにと槍を突き出していた。

ヨウフェーメー「連れてまいりました。彼も運命の石を持つ者です。彼の持つ石はリブラの石」

ジェミニは跪き、両手のひらに乗せたリブラの石を見せる。

ジュバ国王「ありがとう。神の子よ」

ジュバ国王はヨウフェーメーに対し、軽い会釈をするとジェミニを見つめ、声の出ない唸り声を洩らす。

ジェミニは国王の顔を見つめ、これまでの経緯を説明した。

何故死ぬことになったのかは分からない。修行中の息子を探していたという事を説明し終えた後、ヨウフェーメーがジェミニが亡くなる少し前から今までに起きたことを話し始める。

城下で救出した少年がジェミニの探している息子であろうと推測しながら、ジュニアが城へ攻撃してきた青龍メリクと戦っていたこと、そのジュニアがリブラの石を持っていたこと、その時はリブラの石が割れており、恐らくジェミニが亡くなった理由はその争いにあるなどが明るみになってくる。

そして、今は「生」の石をヨウフェーメーは持っていない事を、ジュバ国王にこの時初めて説明した。

青龍メリクは「生」の石を追っている。その持ち主が今は危険であるということが紐解かれる。

災害を引き起こしたのは、逃亡したジェミニの息子ジュニアだったのか?

息子ジュニアは何時リブラの石を手にしたのか。何故、その石が割れていたのか。

青龍メリクは今も息子ジュニアと争っているのか。

ジュバ国王の元に知らされる新しい事実の膨大な数、その説明全てに対してジュバ国王は唸ることしか出来なかった。

ただ、何から手を付けるべきかは明白だった。

今回の騒動の発端は、息子ジュニアと青龍メリクとの関係にありそうだと言うことは確かだろう。

国王は二人に外出の許可を与え、ヨウフェーメーには「生」の石を再び持ち帰るよう新たな努めを与えた。

アンガスとギルタブの兵団が移動する方角に、二人も後を追う形で城下から旅立つ。

一方、休息を終えた運命の石の一行は、お互いの強すぎる力を抑制するために互いの石を交換する。

近くに居ても精霊の力を抑制するにはお互い持ち替える方が良いとのラムの指摘からだ。

シャウラ「スピア、お前に生の石は不釣り合いだ。ヨーメーに返せ」

スピカ「ああ、俺も金の石がいい。人生にはお金が必要だ」

お互いの石を交換するため、スピカ共々城へ向かうことにした。

一行がアンガスとギルタブの兵団と交わるのにそれほどの時間を要しなかった。

この移動中にもジュニアは疲労の為か目をさますことがなく、アクベンスやシャウラ王女の馬に繋がれた精霊で作った木の馬車に揺られていた。

アクベンスが馬車の騎手となり、シャウラ王女他はお互いの立場を説明し合う。

シャウラ王女は城下で見つけた少年ジュニアについての説明を控えた。

カシミールとキッドが探している父親と息子は、まだ見つかっていない。ジェミニの石も何処にあるのかは不明だ。

ジュニアの意識が回復することで、少年がカシミール一行が探している息子なのか、そうでないのかは分かるだろう。

もし息子となれば、精霊の反乱を生み出した父親は罪人となる。

シャウラ王女はこの事をどのように説明するべきか悩みながら口にはしなかった。まだ、息子であるという確証がなかったからだ。

アンガスとギルタブの兵団と合流したシャウラ王女一行は、青龍メリクを警戒しながら城下への帰路に経つ。







第12章 ジェミニの章 パートⅡ

シャウラ王女「それにしてもアクベンス。その女性とはどんな関係なんだ。昔から知っているような態度だったじゃないか」

アクベンス「私の妻レグリーです。プレアは私の娘になります」

シャウラ王女、プレア「え!!!」

カシミール「ずっと母子家庭かと思っていたわ」

レグリー「そうよ。アクベンスとは別れたもの。こんな感じでまた合うなんて運命の石もひどいわね」

アクベンス「そうだな……」

プレア「私にパパがいたの?」

レグリー「なにプレア?死んじゃってると思ってたの?」

プレア「だって、なんにも教えてくれないし、ずっと居なかったから……もしかしてって」

レグリー「ずっと何にも聞かれなかったから話さなかったのよ。でも、もっと小さい頃に一度だけ聞かれたからちゃんと答えたわよ。今は居ないのって」

プレア「それよ。今は居ないってそういうことじゃなかったの?」

レグリー「違うわよ。ここに今は居ないのってことじゃない」

プレア「そんなの分かるわけないじゃない!」

レグリー「まったくもう、早とちりしちゃって」

早とちりではないだろうと、その場に居る誰もがレグリーに疑惑の目を向けている。

シャウラ王女「どうして別れたんだ?馬が合いそうじゃないか」

アクベンス「私が城での仕事に掛かりきりになっていたからな」

シャウラ王女「私のせいか」

アクベンス「いえ、そういうわけではありません。私の身勝手な判断です」

ラム「懸命な判断だと思います。そのまま運命の石が3つも揃っていた場所が長く続いていたら、どんな災いが起きていたか」

アルレシャ「でも、家族なのよ。運命の石の力が強いからって、別れなきゃならないの?それじゃ私達もいつか結ばれて、子供が運命の石を持っていたら別れなきゃならないの?」

ラム「それは……」

アルレシャ「なによ。ちゃんと答えて!」

アクベンス「いや、そういうわけじゃない。どんなに強い力によって災いが起きたって、家族は乗り越える力を持っているよ。俺はそう信じている」

プレア「大人が言いそうなことね。ね?キッド」

キッド「え?あっ、う、うん……」

スピカ「別れる必要なかったんじゃないか?」

シャウラ王女「スピア、今はまとめるところだ。口を慎め」

スピカ「王女が初めに聞いたんじゃないか。こっちはその運命の石の力ってやつに翻弄されて参ってんだよ」

カシミール「そうね。運命の石の力が強くなりすぎると離れ離れにならなきゃ行けなかったのかもしれないわ。私がジェミニを探そうとしなければ、こんなにこの場所に運命の石が揃うこともなかったかもしれないのに。私のせいだわ」

シャウラ王女「母と子が、父をまた子や兄弟を探そうとすることに罪はない。それが運命の石を持つものであってもだ。プレアにレグリー。すまなかった。私のせいだ。アクベンスをこき使っているのは私だ」

レグリー「王女様のせいじゃないわ。アクベンスが融通きかないだけよ」

アクベンス「そ、そうだな。全て私のせいだ。すまない。プレア」

レグリー「私にはないの?」

アクベンス「あ、そうだな。す、すまなかった。レグリー」

レグリー「なにそれ、ついでみたいな感じ」

シャウラ王女「アクベンスよ。どうだ。城に戻って落ち着いたら休暇を出そう。家に戻ってみては」

アクベンス「近衛兵長である私が城を離れるわけには……」

シャウラ王女「何を言っている。ここ最近ずっと城から離れているではないか。今更だぞ」

アクベンス「それはシャウラ王女の護衛としての責務であって」

シャウラ王女「ならば、レグリー。私がそなたの住む街でしばらく共に暮らそう。護衛係も付いてくるだろう」

レグリー「いえ、王女様。その気配りは不要ですわ。やはり近衛兵長が長らく城を不在にするわけには行きません。プレアももうこの位大きく育ちました。今更戻ってこられても困りますわ」

プレア「う、うん……どうしていいのかわからない」

シャウラ王女「どんな別れ方をしたらこんなに嫌われるんだ?アクベンス」

スピカ「王女、今はまとめるところだ。この話はもう終わりにした方がいい」

そうだ。もう引き返せない。過去には戻れない。あの日旅立ちを決めた時、こうなることは分かっていたじゃないか。

行くしかない。

突然、ジュニアがふわりと起き出し、風の精霊を呼び出して外へと飛び出した。

その先には、ジェミニが居た。

早馬を走らす、ジェミニとヨウフェーメーにジュニアが飛びかかる。

ジェミニは、襲いかかるジュニアの攻撃を既の所で交わした。

ジェミニ「ジュニア!止めろ!」

ジュニアは反転して、早馬から飛び降るジェミニに飛び蹴りを与えるが、ジェミニは腕で受け止め払い除けた。

ジュニアは、後方宙返りでジェミニと対面したまま前傾姿勢で着地し、攻撃態勢のまま、顔を伏せ片手で地面を掴む。

ジュニア「お父さん。僕は……リブラの石を渡して……」

ジェミニとジュニアが距離を取り身構えている横を、ヨウフェーメーが急ぎ足で通り過ぎシャウラ王女の居る方角へと駆けていく。

ジェミニ「ジュニア……お前!?」

話す間もなく、ジュニアの第二打目が矢継ぎ早に飛んでくる。木の精霊を操り、飛び出してくる枝木に火の精霊を操り火を付ける。

ジェミニは水の精霊を呼び出し、水圧で枝木を跳ね飛ばす。

ジュニアが周辺に風の精霊を呼び出し竜巻を起こすと、ジェミニは土の精霊を利用して壁を作り風を押しつぶす。

土埃を上げて飛び散る土の破片の間からジュニアがジェミニに飛びかかり、ジェミニの持つ運命の石が入った袋を風の鎌で切り裂くと、リブラの石とジェミニの石を含む精霊の石が辺り一面に飛び散った。

ジェミニ「くっ、しまった!」

バサッズドン!

大きな土埃を上げて元の大きさに戻った青龍メリクがジュニアと向かい合う形で、ジェミニとの間に入り込む。青龍メリクの両足の下には、リブラの石とジェミニの石が落ちている。

メリク「お前にだけはこの石は渡せない!あの時は油断して奪われたが次は無いぞ」

ジェミニは突然の来訪者に身じろぎしたが、直ぐにジェミニの石を手にしようと青龍メリクの足の間に入り込む。

それを感じ取った青龍メリクはジェミニの動きを素早い足の動きで封じ込めた。

ジュニアの精霊の攻撃が襲う中、メリクはその場を動くこと無く応戦している。

ジュニア「またリブラの石を破壊するつもりか!」

木の精霊で作られた矢じりが青龍メリクに飛びかかる。

ジェミニは青龍メリクの足元でジュニアの攻撃から守られていた。

メリク「今回はその必要はない。こいつにも手伝ってもらわなければならないからな」

応戦を続けながらジェミニに対し、メリクがリブラの石を蹴りつける。

ジェミニは飛んできたリブラの石を素手で受け止めた。

ジェミニ「止めろ!ジュニア!青龍よ。もう一つの運命の石も返せ!」

ジェミニは運命の石が落ちている場所に向かおうとするがメリクに尽く邪魔をされる。

メリク「それは無理だ。この石は今、破壊する!」

足を持ち上げた瞬間、ジュニアの風の攻撃とジェミニの風の攻撃が重なり合い青龍メリクを持ち上げてズドンと転倒させた。

ジュニアは運命の石を取りに来たジェミニに炎の精霊で焼き付ける。

運命の石を目の前に後方に退き、炎から間一髪で免れるが、ジュニアは続けざまにジェミニの持つリブラの石を奪い返そうと、近くに落ちているジェミニの石に目もくれず、攻撃を仕掛けてくる。

転倒した青龍メリクが起き上がり、ジュニアに体当りしたためジュニアとジェミニの距離はまた少し遠のき、依然としてジェミニの石は青龍メリクの足元にあった。

メリク「貴様だって!この男が危険な存在なのは知っているはずだ!リブラの石を渡すな!そしてジェミニの石をぶち壊せ!」

青龍メリクがジェミニに怒声を浴びせ、ジュニアを倒すのに協力しろと大声を張り上げる。

ジュニア「お父さん!青龍の言うことなんて信じちゃダメだ。リブラの石を早く僕に預けて……」

ジュニアが水の精霊から作った水泡を鉄砲のように弾き、青龍メリクとジェミニに攻撃するが、それを土の精霊の力と木の精霊の力で壁を作り攻撃を防ぐ。







________________





第12章 ジェミニの章 パートⅢ

ジュニアが青龍メリクとジェミニに対し攻撃している所へ、

アンガスとギルタブの兵団とシャウラ王女一行が近づいてきた。

ヨウフェーメー「皆様!あの少年が一連の災害を起こした人物のようです。ご兄弟があの災害の中心から救った御人は、彼の父親だそうです。」

馬車を止めて外に降りる一行の目に映る光景は、どちらの味方をしたら良いのかを躊躇させた。

カシミール「ジェミニ!!それじゃさっきここに居た子が家の子?!」

先程までジュニアが寝ていた場所に目を動かし、皆は空中にてジェミニと青龍メリクを攻撃しているジェミニの息子に目を移す。

ラム「そうなるな。でも、しかしだ。何処から対処するべきか」

アルレシャ「ラムは青龍から運命の石を取り返すのでしょ」

ラム「ああ、だが、しかし今となっては何故それが必要なのか」

シャウラ王女「どうなっているんだ。ジュニアが災害の元凶だと?!」

アンガスとギルタブの兵団は、災害の源であるジュニアに向かって一斉攻撃を始める。

しかし、青龍メリクとジェミニの精霊使いの力が強く、アンガスとギルタブの兵団は、ジュニアに近づくことも出来なかった。

アクベンス「これはひどい。誰が味方なのか。シャウラ王女、ご兄弟の兵団を一時城へ撤退させたほうが良いかと」

シャウラ王女「運命の石の力が増している今、脆弱な精霊の力では太刀打ちできないか。兄上達!」

アンガスとギルタブの兄弟は、シャウラ王女と話し合い、ジュニアと青龍メリクとジェミニの戦いに巻き込まれないように退却を開始した。

レグリー「でも変ね。青龍とジェミニさんは自らの運命の石を持っているから強い力を引き出せるのは分かるけど、カシミールの息子さん達はどうしてあんなに強いの?キッド君も誰よりも強いけど」

プレア「そんなの関係ない!親子で戦い合うなんて変よ!私が止める!キッド手伝って!」

ラム「青龍は俺が引きつけておく。アルレシャ、サポート頼む!」

プレアとラムが走り出そうとした瞬間、彼らの持つ運命の石が全てキッドの精霊の袋に吸い込まれていった。

シャウラ王女「何をしている。キッド。君の父親と兄弟が争っているのにふざけている場合か!運命の石を返せ!」

キッド・ジュニア「返さない!運命の石は僕が全て譲り受ける!」

シャウラ王女ら一行からキッドだけは少し距離を取って離れた場所に居た。キッドとジュニアの声がシンクロする。

ヨウフェーメー「シャウラ王女。ジェミニさんの息子さんは、この子の精霊です。彼が操っているの。あの時、彼を復活させた時の違和感はそういうことね」

この戦場で自由に動けているのは、ジュニアとキッドと青龍メリクとジェミニだけだった。他のメンバーは金縛りにあったかのように動くことが出来ないでいた。

アクベンスもシャウラ王女もアンガスとギルタブの兵団を返してしまったことを悔やんだが、遅かった。とは言え、仮にここに居たとして精霊を操る力に長けたキッドの手を煩わすことが出来るかは疑問が残った。

キッドは近くにある石の所有権をすでに手中に納めていた。

彼には特殊な力があった。目に見た精霊の石は彼の物になる。

幼いころからの特殊能力で、それは他の誰にもない特別な力だった。

僕だけが持つ特別な力だ。

ジュニア「メリク!足元の石を僕に!」

キッド「ちっ、近づきすぎた!」

キッドは舌打ちをして、悔しがる。

リブラの石を奪い取ろう必死になりすぎ、ジュニアを不用意にジェミニの石に近づけすぎた。

青龍メリクはジュニアが離れるよりも早く、足元にあるジェミニの石を蹴りつける。

青龍メリクに蹴られたジェミニの石がジュニアの心臓にめり込んで突き抜けると、浮遊力を失った体は地面へと叩きつけられる。

地面に落ちたジュニアを青龍メリクが踏みつけようとした所へ、ジェミニが石の壁を作りその攻撃を防いだ。

ジェミニはジュニアの元に駆け寄り、素早く治癒の精霊を呼び出し手当てを始める。

飛び出したジェミニの石は、キッドの元に風の力で流される。

ジュニアの治癒をしている所へキッドが風に乗り襲いかかるが、青龍メリクがキッドを尻尾で払いのけると口から炎を吐き浴びせかけた。

ジェミニの迅速な治癒のお陰で、ジュニアの傷口は直ぐに塞がり息を吹き返す。

体が軽い。やっと僕に戻れたんだ。もう好きにはさせない!

ジュニア「精霊を解放しろ!」

ジュニアの一言でみんなの硬直は解かれた。

カシミール「キッド!どうしてこんなことを!」

キッド「理由なんかない!運命に決められた道だっただけだ。これは僕の道だ」

キッドは青龍メリクを風の力で吹き飛ばし、カシミール一行が居るところまで吹き飛ばした。青龍メリクの巨体が馬車を破壊する。

プレア「止めてキッド!精霊!」

キッド「無駄だよ。みんなが動けるようになっても、精霊は自由に操れない。僕が制御しているんだ。精霊達!」

精霊レオと精霊キャンサーがキッドの前に壁のように立ち塞がると、ジェミニとカシミールに炎と水の攻撃を浴びせかけた。

アクベンス「くっ!俺の運命を操りやがって」

レグリー「ダメ!私も負けそう……」

レグリーが精霊の石を使いプレアに水泡を放った。

アクベンスも精霊の石で火の玉を作るとシャウラ王女に投げつける。

シャウラ王女「アクベンス!何をする!」

プレア「レグリー!ちょっと何するの!」

ラム「これなら固まっていたほうがまだマシだったな……」

キッドが運命の石の精霊を操ると、その運命の石を持ち手とする人もまた操られた。

戦いの場は誰が味方なのか分からないほどに、精霊が入れ替わり立ち替わり攻撃者を変えて襲いかかる。それぞれに仲間を攻撃することもなく防戦を強いられていた。

青龍メリクとジェミニ、ジュニアのみがキッド本体への攻撃が行えていた。

時にアクベンスやレグリー、ラムやアルレシャがジェミニやジュニアや青龍メリクの間に立ちふさがり、キッドを守るように立ち塞がる。

プレアやカシミールやシャウラ王女やスピカやヨウフェーメーも例外なく操られてはキッドに対するジェミニらの攻撃を防いでいた。

キッドは同時に操られても2体までだった。

それはどんなに抵抗しても防ぎようがなくプレアは泣き崩れながらもピーシーズを解き放って戦いに巻き込まれた。

キッド「リブラの石を俺に渡せ!」

キッドの目当てはあくまでもリブラの石だった。

ジェミニ「お前には渡さない!」

操られている皆を何とかしなくっちゃ。

僕が、僕にしか出来ないんだ!

キッドがジェミニに攻撃を集中させている時に、ジュニアが青龍メリクの後ろに隠れてキッドに近づき、精霊の袋を取り返す。

ジュニアは精霊の袋を開き精霊の石をばらまいた。

ジュニア「みんな!自分の運命を捕まえて!」

風の精霊の力が竜巻を巻き起こすと、運命の石は天高く舞い上がりキッドの体にめり込んだ。

オデコに自身のジェミニの石がめり込み、右手にレオの石、左手にキャンサーの石、右足にトーラスの石、左足にピーシーズの石、右肩にスコーピオの石、左肩にカプリコーンの石、右膝にアクエリアスの石、左膝にヴァーゴの石、そして胸にサジテリアスの石だ。

アリエスとリブラの石がキッドの手元にはまだ存在していない。

それらの石は青龍メリクの胃の中とジェミニの精霊の袋に納められている。

キッド「お前らの運命も全部俺のものだ!」

右手に炎、左手に水の玉を握りしめ、右足は風に乗りジェミニへと攻撃する。

ジェミニ、青龍メリクを除く全員「止めて(ろ)!」

キッドは空中で十字架に縛られたように動きを止めた。

キッド「ぐぉっ!嘘だ!僕が……僕が逆に!」

キッドが無理やり動こうとする度にメキメキと肉と骨が軋む音が辺りに響く。

カシミール「お願い止めて!それ以上無理したらキッドが……壊れちゃう。お願い止めて!」

左肩の拘束が外れ、キッドの左肩だけが暴れだすと左足の力も弱まり左半身は左手を残してもがき始める。

プレアは泣き崩れて立っていることも出来ない。

レグリー「プレア、カシミール!まだダメよ」

キッドの拘束が解かれる前に青龍メリクがキッドの体に尻尾を振り下ろし、地面に叩き落とした。

キッドは青龍メリクの足の下にそのまま踏みつけられる。

カシミールとプレアがキッドの名前を叫ぶが、キッドの耳には届いていなかった。

ボロボロになったキッドの体から、それぞれに運命の石を取り戻し、スピカが生の石の力でキッドを治癒する。

キッドのジェミニの石はジェミニが持ち、力を抑止した状態だ。

青龍メリクがアルレシャ同様に人形になると、アリエスの運命の石をラムに渡す。

メリク「交換だ。そして再び会うことがないように」

各自運命の石を相対する運命の石の持ち主に返し、再び会うことがないよう旅立っていった。

カシミールとキッドはレグリーとプレアと元の街に帰り、その後4人は別々の街を目指した。

ジェミニとジュニアはキッドの石を守り力を抑止しながら誰もいない山ごもりへと戻っていった。

力の源が集まり

再び巡り合わない為に

パワーバランスを保つために


力は分散される


格差を減らし、平等を保つために

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