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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

健全な短編集

禁断少女

作者: 海原 川崎

妹。私には居ないから幻想を抱いてしまう。だけど居たら面倒なのであろう。

居ないから夢を見れる。妹と姉。

関係ないけれど姉さんって良いよね…。

 「お兄ちゃん。お兄ちゃんにしか言えないから…。」数日前から何も食べなかった妹が私を部屋に呼び出して発した第一声である。


 見るからに弱り切っている彼女の視線が定まっておらず、私の顔の方を必死に見続けようとしているが、すぐに視界は宙を見始め、自分でそのことに気が付くと再び私に視線を合わせようとしている。

 「お願い、この事はお母さん達には言わないで、お願いだから…。」妹は私に脅迫をしているような強い言葉で呟いてきた。

 「ああ、言わない。」私が頷くと彼女は何かの憑き物が落ちたように全身の力が抜け、やがて話を始めた。

 「食べたの。」ゆっくりと話した第一声はその言葉だけでは意味は理解できず、私は次に来る言葉を待ったがそれから彼女は話さなくなってしまった。

 このままでは話が始まらないと思った私は「何を?」と聞くと声に反応する螺子巻人形のようにゆっくりと口を動かして話を始めた。

 「人間を…。最初は彼氏に誘われて行った先で食べた皮肉。焼き鳥の様に串にいくつも刺されたそれを炭で焼いたものを食べた。臭みは無くって、パリパリとした食感と肉の脂身が仄かな甘みがして美味しかった。」思い出すように語り始めた妹は段々とエンジンの掛かった車のように饒舌に話しを進める。

 「その時はまだ人間なんて知らなかった。ただ、美味しいお肉を食べた。それだけだった。それから何度も私は彼氏とあの場所に行っていつしか一人で行くほどはまり込んでいた。」彼女は早口で言葉を言い終えると一拍して再び話を始めた。

 「知る前は求めるように食べた。段々と値段も上がっていったから体を売っても食べた。あれを食べるとなんだか頭の中に罪悪感の後から不思議な心地よさが襲い掛かってくるの。それからしばらくしてあの肉の正体を知った。私はまず吐き気に襲われその場で全てを吐いた。吐いた所で何も変わらないのは解っていたけれど、それでも吐いた。懺悔をしていたのか後悔をしていたなんてもう忘れてしまったけれど必死に吐き続けた。」少女はそう言うと自分の手の甲を私の方に向けてきた。手の甲の中心部分には何か鍵の様な固い物を押し付けた跡が付いており少し考えた後それが歯を当てていた痕だという事に気が付いた。

 「何度も吐いたせいで手がこのざま。リストカットでもした方が良かったのかな?ねぇ、お兄ちゃん。私はあれの正体を知った後は食べなかったよ。我慢もしたし、言えなかったから秘密にした。嫌がらせもされたけれど頑張って家族に心配は掛けないようにした。でもね。もう駄目なの…。」彼女は手で顔を覆うと肩を震わせながら泣きだしてしまった。

 「ずっと頭の中で何かが求めてくるの。あの肉を、あれを食べろって。何度も何度も言ってくるの。他の物を口に入れようとすると食べ物が前と違って美味しそうな臭いだと思えずに胃液みたいな酸っぱい臭いに感じてしまうの。だから何も口に通らない。もう駄目だよ。お兄ちゃん本当にこんな事言ってごめんね。今まで家族皆が心配していたのは知っていたけれど抜け出せないの。駄目なの…。駄目なのよ。」少女はそう言いながら涙を流しながら一言も話さなくなってしまった。


 妹が入院してから一か月が経った。あれからすぐに病院に運ばれた妹は栄養失調だという診断された入院を始めた。

 最初の内は食事に触れることも出来なかったが、とある日から食事に追加された赤いスープはなぜか飲めたらしい。

 それから彼女は少しずつ他の食事も口に含むことが出来るようになっていった。

 お見舞いに行くと、今日も彼女は赤いスープを美味しそうに飲んでいた。見た目はケチャップを水で薄めただけの色。中には細かいひき肉が入っている。

 彼女は私が来たことに気が付くと嬉しそうな笑顔を浮かべながらスープをまた一口食べる。

 少しずつ回復している妹を見ると安心してしまうと同時にあの話を思い出してしまう。

 でも誰にも言っていない。言える筈がないから事件の解決もしないし、肉を売っている人間に妹が狙われるかもしれない。それでも自分は言えなかった。

 ただ、時が解決してくれるだろうと甘い考えにすがりながら一日を生きている。

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