第8話 魔族
ミチルは誠とも別れ、水害に遭っている街へと飛び続ける。
視界に濁流が見えて、ミチルは気持ちを強く引き締めた。
街が濁流に飲み込まれていないのは奇跡のように見えた。
堤防が決壊し、辺り一面は泥水に飲まれている。その被害が広がっていくのが分かる。
「これ、下流は!?」
【流れる範囲が広くなったので、農産物以外の被害はすぐには出ません】
「……食糧難になる?」
【はい】
「……」
面倒な……。
ミチルはそう思ったが口にはせず、周りの状況を見て、街を囲う様に土で壁を作る。
応急処置である事は理解していた。
(水を無くさなきゃ無意味)
街を囲っても水が止まらなくては解決しない。
(いっそ、これをそのままどっかに持って行きたい)
昨日、トモからあちこちで日照りの影響で深刻な水不足が起きているのは聞いている。それを思うとここにこれだけの水が無駄にあるのがもったいなくて、ミチルは圧縮して魔石のように出来ないだろうか。と考え始める。
それを砕いたら圧縮した分の水が出てくる。そう思いつつ水を操って集めようとした時、別の考えが浮かんだ。
「そうだっ!」
思わず口にした言葉。
氾濫し、水が広く流れている場所よりも上流。ミチルはそこに飛ぶと水面すれすれで亜空間の入り口を開いた。
大量の水が亜空間へと一気に流れ入ってくる。
「トモ! 水不足! 上流!」
【はい!】
ミチルの端的な言葉にも関わらずトモは理解しマップにマークを示す。
ミチルはそこに向かって空を行く。
「トモ、亜空間の容量をバーで」
【はい】
中央よりも下の部分にバーが現れる。普段であれば視界の邪魔にならない所にするが今回ばかりはこれが重要なのですぐ目につくところに現れた。
先ほどまで5%も行っていなかった使用量が刻一刻と増えていく。移動している間に目に見える形で亜空間の使用量が増えていくのが分かる。
30%を超えたところでトモから知らせが入った。
【誠様が上流の雲を日照り続きの所へ移動させようとしています。一時間ほどで上流で降っていた雨は止むと思われます】
「もう着いたんだ!」
予想よりも早かった気がする。
【はい。少し無理を言って早めて貰いました】
「マコマコ流石。じゃあそのうち水の量も落ち着く?」
【いえ、しばらくは水の勢いは止まりません】
「ああ。そうか、下流に来るまでの時間があるのか……」」
ミチルはバーを見る。このバーが満杯になってしまえば、亜空間へと入りきらない水はまた下流などに流れるのだろう。その際は鉄砲水になる可能性もある。それまでにはなんとしても入ってくる量と出る量を調整したい。とミチルは思った。
あっという間に亜空間の使用量が半分超えた所で目的地に着いた。
ミチルはこちらにも亜空間の出入り口を作った。
昨日、きららとの食料探しの経験から複数開けられる事は知っていた。ただ、ここから離れてもずっと出し続けられるかが分からない。しかし離れていても水を亜空間に入れられ続けている現状を考えると、出す方も離れていても大丈夫だろう。とミチルは決めつけて亜空間の出入り口を水が流れやすいようにと開いた。
ぱかりと裂けた空間からは透明な綺麗な水が出てきてミチルは驚いた。
「ろ過済み?」
【はい。亜空間の仕分けの際に分類別けされています】
ミチルは所持アイテムを見る。すると水の量もさる事ながら、土の量も凄かった。
「……この土、栄養豊富?」
【はい。川の水をろ過する際に出た微生物などはこの土に混ぜた形となっております。またそれ以外の拾得物は食用や売れるもの等にもわけました】
「……うん」
ミチルは小さく頷く。川魚もそれの種類ごとに分かれ、川エビも種類ごとに分かれている。そのほかの石や流木も売れるもの売れないものに分かれている。驚いた事にいくつか宝石の原石があったり、砂金などもあった。
「ゴミはない……」
日本で同じことをしたらペットボトルや空き缶、たばこの吸い殻、下手をしたら自転車なども入ってくるだろうと思っていたので、布きれ一枚もないのは意外だった。
【どこかの村を飲み込めばミチル様が考えるゴミもあったかもしれませんが……】
この世界にはポイ捨てする人はいないらしい。そう思い感心したがトモは違うと答えた。鉄の一欠片でも金になるため、余程の事がない限り捨てる事はなく持ち帰るらしい。捨てられるのは魚の骨や木の実の皮や殻などなので土に還るため、土の中に混ぜられているらしい。
「そう」
ゲームではそういうものこそゴミとして別枠として取られるのだが、それが欲しいというわけでも見たいというわけでもないのでミチルはそのまま土に混ぜてもらう事にした。
【ミチル様。あまりのんびりしている時間はないと思いますが】
トモに声をかけられてミチルは慌ててバーを見る。60%をすでに超えていた。
出る量と入ってくる量の差だろう。
ミチルは慌てて次の場所に飛ぶ。
それでも先ほどよりは亜空間の使用量はマシになっているはずなのだが。全然変わらない気がする。
【ミチル様、下の窪地に水を。もともとはこの辺りの動物の水場となっていた湖です】
それを聞いてミチルは一気に下降すると湖に一を大きく描くように横断し、亜空間の出入り口を作ると水を染み出させる。
潮の満ち引きよりもゆっくりとではあるがこれだけの広い範囲であればその水量はかなりのものになる。水を飲むのに夢中になって、動物が湖の真ん中に取り残されるという事はこれで防げる。とミチルはなるべく信じることにした。
ミチルが目的地に向かってまた飛び立つと、誠の弱り果てた声が飛んでくる。
(やっべー。重大事件発生)
(どうしたの?)
(もしかして、攻撃された?)
きららと奏太の心配した声が聞こえてくる。
(攻撃された方がまだマシだったのかな? いや、マシって事はないか。マシって事はないんだけど、なんか自暴自棄になってて、村人の大人たちが全員勝手に奴隷になって、俺、主人になった……)
(イミフ!)
ミチルが抗議する。
(トモ、説明お願い)
奏太の要望を受けトモが代わりに説明する。
【推測ではありますが、事の発端は、勇者及び聖女が共に人族の元へと現れた事だと思われます】
え? なんで? という疑問が皆から上がる。
【神にとって、人族も魔族も変わらぬ子ですが、子同士は争いあってました。勇者は強欲だったため、魔族からすれば人族に相応しいと理解も出来たのですが、聖女に関してはそうでもありません。彼女の癒しがあれば助けられた魔族も多くいました。人格も素晴らしかったため、なぜそれが魔族に現れなかったのかという空気が流れました。魔族領土も人族領土と同様、神の加護の減少により生活が苦しくなっていました。聖女の子供たちは聖女と同様癒しの活動を続けましたが、それが魔族に行われた事はありません。人族領土から出ていないのでそれは仕方がないのですが、魔族からすれば人族のみが選ばれたように見えました。魔族達の多くは不満では無く、不安を抱えていました。その中で、三回目の勇者召喚もやはり人族の領土に送られたので、魔族からすればその不安が実現し、神は人族を選んだように見えたのでしょう】
(実はさっき、勇者かって聞かれたんだけどな、昨日の設定通りで行くつもりだったから違うって否定したんだよ。そしたら、落胆が目にわかるくらいでさぁ。んで、急によく分からんこと言い始めて、さらには呪文なんか唱え始めて、戦闘かと思ったら、気づけば主になってた、っていう……ナニコレ状態……)
【どうやら人族の奴隷になった場合、どんな扱いを受けるか、子供たちを託せるか、その実験も兼ねていると思われます】
(これってどうしたらいい?)
心の声は分かりやすく感情も表に出してくる。誠は間違いなく困っている。逃げ出せるのなら逃げ出したいくらいなのだろう。
(とりあえず、取れる方法は三つかな? 一つは、勇者である事を打ち明ける事。二つはそのままただの学生である事を続けること。三つ目は、聖女の息子を神輿として担ぎ上げて活動する事。かな)
(((……)))
奏太の言葉に三人はしばし無言になった。
(……三つ目って下手すると、面倒な事とか厄介ごととか押し付ける形になるんじゃ?)
(なるよ)
誠の言葉に奏太は素直に頷いた。
(……その分、息子の方は危険になるよな?)
(なるね。その分、ボク達は安全になる)
(待てよ! いくらなんでもそれは酷いだろ!? 非人道的すぎるだろ!?)
(そうかな? 彼自身は割と聖女の息子として人々の希望になろうとしているから有とは思うけど)
(無しだろ! 人身御供にするために仲間にしようなんて俺は思ってないぞ!? お前はそれでもいいと思ってるのか!?)
(……ボクとしてはどっちでもいいと思うけど。本人次第じゃない?)
(お前っ!)
(マコマコ煩い。ちょっと黙る)
ミチルが怒鳴り散らそうとした誠を制し、代わりに奏太に話しかける。
(質問。仲間ではなく、弟子にした理由は?)
(きららが土下座でドン引きしてたのと、生真面目すぎて亀裂が生まれないかなって思ったから。生まれも育ちも違うから、仲間としてすぐに完全に内側に入れるよりも、彼の人となりを知る機会が欲しかったから。彼がこだわっているのは『完全回復』魔法だからそれを教えれば彼はきっと満足する。お試し期間は一か月。ボク達はその間に彼を知る事も出来るし、彼もボク達を知る事が出来る。合わないと思ったら彼を仲間にすべきじゃないと思う。彼は彼で独自に動いてもらう方が良い。そう思ったからだよ)
(それって、つまり……三番を選ぶ気はなかったってこと?)
きららが少し考えて確認をとる。
(魔族に関しては、一つ目が一番良いように思うよ)
(お前なぁ。それならそうと)
また怒りがにじみ出てきた誠に奏太は慌てる。
(ちょっと待って違う。三番目も本心ではあるんだ!)
(はぁ!?)
(魔族に関してはボク達は勇者と名乗った方がいい、でも人族には名乗る気は今のところない。その分、ボク達は身元不明で、それなりに力がある人にアポイントを取る力がない。ただの学生に貴族が会うとは思えない。商会の代表者だって怪しい。でも彼は別だ。彼自身に価値がある。神殿を通して働きかける事だって出来るかもしれない。新しい農法が上手くいって、大々的に広めようとした時、困る。土地だって勝手に開墾していいかもわからないし、魔法に頼らない医療なんかは、ただの学生じゃ確実にアウトだと思うんだ)
(…………なる……ほど……)
(それにボクは、この世界の住人の身の安全より、みんなの安全を真っ先に考えるよ)
(お前な。俺達はなんのために来てるんだよ! お前の考え方の方が亀裂を生むんじゃ無いか?)
(そう受け取るのも分かるけど。でも、誰かはそういう考え方はしなきゃいけないと思う。それを実行するかしないかは別として、ね。多種多様な考え方を持つべきだってボクは考えるじゃないと、じゃないと色々見落とすと思う)
(……そんなもんか?)
(そんなものだと思うよ)
(確かに、そういう考え方もあるんだって思ったのは思ったかな? 仲間にした時のメリットとデメリットも考えなきゃいけないのかな?)
(注目は浴びる事になると思われる。それとソウソウ、魔法に頼らない医療は、聖女の息子でもアウトだと思う。彼は直接神に会って頼まれたわけじゃない。勇者自身の言葉より価値が下がると思う)
ミチルが淡々と告げる。
(って、事はどっちみち勇者と名乗らなきゃならないって事か)
(もしくは、神託とやらで神の許可を取る)
誠の言葉にミチルが一応、身分を伏せたままの方法を口にする。
(んー……じゃあ分かった。奏太の考えは一拍おいて、本人の結論意見まで聞いてから、って事になるべくする。で、息子の方をどうするかに関しては一月後に結論を出すとして、魔族のみんなには俺が勇者だって事は話してもいいんだな?)
(いいよ)
(いいと思うよ~)
(同意)
(んじゃ、告げとく)
(でも弱ったな。聖女の息子、そっちに連れて行こうかと思ったんだけど、今は勇者だって思われたくないなぁ……)
こっちが嫌だと言っても絶対に付いてくる言い出しそうだ。
(こっちに連れてくるつもりだったのか?)
(うん。本当に魔族について何とも思わないのか確認したくて。彼自身は魔族も神の子だって思ってるっていってたし)
(一応弟子にするって言ったのに、数日放置っていうのも悪いしね~)
(じゃあ、勇者である事は黙っててもらうよう言ってみる)
(うん。よろしく。それで大丈夫そうだったら連れてく。ダメそうだったらそっちじゃなくて別の村に連れていくよ)
(了解)
誠はそう答えて、息を吐き、それから振り返った。
そこにいるのはやはり自棄になった魔族、誠からすれば獣人と言いたくなる大人たちが居た。
彼らは背を向けて何やら考え込んでいる誠に何を思ったのか、その表情からはやはり諦めと自棄しか伺えられない。
「ワレらをどうするか決めたのか主よ」
「一応、その前に確認取りたいんだけど、こんな事した理由尋ねてもいい?」
こんな事。といって軽く上げたのは左手だ。その甲には奴隷を所有するという事を表す痣が有った。
「ワレらは、遠からず滅びる。ならば、ワレらを助けに来たという主の言葉を信じて、ワレらを預けてみる事にした。ワレらの行く末を他の者達も見ているだろう」
他の者というのは他の村の魔族達の事だ。
「……三番目の勇者達が人族の領土に行ったっていうのは、あんたたちにとってはそんなに辛い事だったんだな」
「神に捨てられたという事は世界に捨てられたという事だ。ワレらに生きる場所はもはやどこにもないっ!」
誠の言葉がきっかけで受け答えしていた彼に憎しみの炎が灯る。
しまった、と誠は思った。不用意な言葉だっただろう。自ら奴隷になるほどのショックだったのだ。それを選ばれた人間が口にするというのは、不味かったと反省する。
奴隷契約を解除するつもりだったが、先に名乗りを上げようと順番を変えることにした。
「えっとそんなつもりで言ったわけではなかったんだけど、えっとまずは先に、訂正させてもらうと、さっきは勇者じゃないって言ったけど、俺は勇者の一人です。異世界から来ました。あと他に三人居て、俺たち四人は本当に世界を救うつもりで活動中ですっと。あ、世界を救うと言っても、邪神族と戦うとかは無理。俺たち戦争とかした事ないし、戦ったこともないし、ケンカだってガキの頃ちょっとやったぐらいだろうし。人を殺した事も当然ない。動物だって……こっちの世界に来て初めて殺したって程だ。だから俺たちが言う『世界を救う』っていうのは、『みんなの生活をよくする』って事だ。えぇっと、だから俺たちの活動の根本は『神の力の復活』なので、魔族の人たちがそんな風に自暴自棄になってたら困るわけで」
時折密かにトモのサポートを受けながら誠は説明し、左手の甲を獣人たちに見せつける。
「【解約】」
トモの代理詠唱により、その刻印はあっさりと消え、獣人たちの首にあった首輪もきれいに消滅する。
「ちなみに、人族は俺たちが勇者である事を知らない。いろいろ面倒事が起きそうなので隠して、学生って事で世界中を回ってますって事でこれからもしばらくは勇者だと名乗るつもりはないので、魔族のみなさんも、人族がいる所で俺たちを勇者とは呼ばないでくださいっと。これだけはお願いします」
「……ほ、本当に勇者様なのか!?」
「本当に勇者だけど……証明するものってない……よな?」
神からの身分証明などは渡されていない。ステータスとかに勇者という称号があるわけでもない。
【いえ、簡単な方法があります】
(え? マジで?)
【はい。神の姿を思い浮かべてもらい、『私は神に問います。私は神が呼んだ勇者ですね』と言っていただけば、神が答えます】
「うっし、じゃあ、証明として、『私は神に問います。私は神が呼んだ勇者ですね』?」
トモが言った言葉を誠はなんの迷いもなく口にした。
それに驚いたのが魔族達だ。
天から光が一筋落ちてきて、誠の前に『あなたは私たちが呼んだ勇者です』と文字が描かれて消えた。
「これで証明になりましたかね?」
「……それはなったが、しかし、神の名も上げずに神判を受けるなど! 邪神が答えたらどうしていたんだ!? 下手したら嘘をついたと、奴隷落ちだぞ!?」
(ん? え? え!? そんな危険性もあったの!?)
【ありました。しかし、皆様は実際の神にお会いしているので、不要だと判断しました。むしろ、名前と顔が一致していないのに神の名を出すのは危険だと判断しました】
(なるほど……)
「実際に神様に会った事があるから出来る裏ワザだよ」
誠はそう魔族たちに笑いかけた。愛想笑いでも浮かべていたら安心してもらえるだろうと。
誠は気づいていないが、まさに勇者だからこそ出る言葉だった。
「……勇者だ……」
ぽつりと誰かが言った。それがきっかけで勇者だと叫ぶ者達が出始めた。
「おい! 誰か報告をあげろ! 勇者様が来てくださったぞ!」
「勇者様! 勇者様!」
「うれしい! 勇者様が来てくださったわ! 私たちは見捨てられてなかったのね!」
「神よ!!」
「勇者さま! 勇者さま! 勇者さま!!」
勇者コールが出始め、勇者に触りたいという魔族たちに誠はもみくちゃにされつつも、なんとか頑張って笑顔で耐える。
(そうた~……、こっち収集つかねぇから別の村行って……)
誠はなんとかそれだけを送って人生初の胴上げを体験する事となった。
太陽が傾き、影が長くなり始めた頃。ミチルはとある場所に居た。
「やあ、空の旅人さん、水魔法を使えたりするかい? もし使えるのなら、この辺を水で満たしてくれると助かるんだけど」
ミチルを見上げて一人の少年が声をかける。
人族でも魔族でもない。そのどちらからも存在するとは思われていない大陸に住む少年は、まるでエルフに見えた。
(エルフ?)
【確かに皆様が想像するエルフに似ていますが、容姿が似ているだけになります。彼らは放牧民です】
(ふうん)
ミチルは下に降りると亜空間の出入り口を開き、水を流し始める。
「面白い魔法だね」
「別の場所で得た水。あちこちに配り回ってる」
「それはいいや。最近、雨が余り降らないからね。他の所でも水が不足してたんだ。よろしくお願いするよ」
ミチルが水を配りまわっている事に対して、疑問を持つような事はなかった。
助け合いが基本だと思っているのだ。
【ミチル様。そろそろ最初の水源と、湖は止めても大丈夫だと思います】
(ん)
ミチルは最初に行った上流の水源となっている亜空間の出入り口の裂け目を閉じるイメージをする。それだけで亜空の出入り口は閉じ、裂け目も消える。湖も同様だ。
トモは何も言わなかったが、本当にそれが可能であったのかは、トモ自身にも分からなかった。四人の力の根本はイメージだ。この世界のものと、元居た世界の力。それが混じっているせいで、四人の力に関してはトモからしても『やってみなきゃ分からない』という事になっている。リモートコントロールに慣れているからか、仕組みを理解していなくても、使えてしまう文明機器があるからか、四人のオリジナル魔法は、人よりも神が使う魔法に近い。そして、ミチルはやはり何の疑問も浮かべずに、二つ口を閉じた分、ここで出す水の量を増やす事にする。そんな事を考えるくらいだった。
「……こんなにもらって平気かい? ここだけじゃなく、ほかのところの水場にも水をやって欲しいんだけど」
「今からいく、問題ない」
「そうなんだ。じゃあ帰りにも、こっちにもう一度寄ってくれるかい?」
「分かった」
頷いてミチルは別の場所に飛ぶ。四か所程水源に亜空の出入り口をセットし、先ほどの少年の所に戻ると付いて来て欲しいと言われた。
少年の部族の所に行くという。どうやら水のお礼がしたいらしい。そしてそのお礼を聞いてミチルの顔が喜びで溢れる。
(きらら! 牛と豚と羊と馬と鶏、全部もどきだけど、ペアで貰えるのならどっちがいい? 生でも肉でもいいって!)
(鶏! 鶏がいい! 卵とか卵とか卵とか!!)
(分かった!!)
ミチルのどこか大喜びの声が飛んできたと思ったら、きららの返事も力に溢れている。おかげで誠と奏太は口を間すらなく、決定されてしまった。
そもそもきららの名前しか呼んでいなかったので、二人の意見を聞く気はなかったのかもしれない。
ミチルの雰囲気がいつもと違いすぎて、声を挟めなかったとも言う。
(……いや、いいんだけど、俺達にも意見は聞こうぜ、一応)
(畜産かァ……。重要だよね……。でも、なんでそんな話に?)
(水のお礼。魔法で家畜や人の飲み水増やすにも限界があって、潰す間際だったらしい)
(へー……チーズとかはないのかな?)
【いえ、この世界にチーズはありません】
ミチルが少年に聞く前にトモが答える。
(じゃあ、そのうち、チーズ作ろうか)
きららがとても楽しそうに声を飛ばす。
(朗報! 鶏だったら、オス二羽、メス四羽くれるって!)
(やったぁ!)
(おー、養殖する場所考えないとな。最初の村に持ってくか?)
【止めておいた方が良いと思われます。税に持っていかれる可能性の方が高いです】
(そうだった……)
(鶏もどき持って帰るから遅くなる。あと、最悪、誰か迎えに来てってなるかも)
(確かにMPやばそうだね。誠と合流したら、ボクが迎えに行くよ)
(ん。よろしく。きらら、これでプリン作れる?)
(プリン? プリンはえっと、……牛乳と砂糖がないとダメかな? そっちで牛乳が貰えるのなら、貰ってきて、砂糖が手に入ったら作ろうか)
(分かった)
(プリン好きなの?)
(うん)
奏太の言葉にミチルは素直に頷く。
(じゃァ、頑張って砂糖見つけなきゃね)
(砂糖はぜひとも増やしたい!)
(俺もそれについては賛成! 落ち着いたらトモにお願いして案内してもらおうぜ)
(同意!)
(俺、ケーキ食いたい。ホットケーキでもいい)
(お菓子もいいけど。砂糖があるだけでもご飯の種類ってかわるっていうか、味が大分変わるっていうか)
そんな砂糖の話で四人はしばし盛り上がる。
四人の心はすでに人助けよりも砂糖に傾いているようにも見えるが、一人現実逃避が混じっていた。
(とりあえず、これから魔王との謁見、頑張ってきます!!)
(((頑張れ!!)))
どうやらそこまで話が進んだらしいと三人は誠に声援を送り、心の中で見送った。
いつもありがとうございます。
やっと主人公達が魔族と会いました。