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第6話 勇者と希望

今回はちょっと長め?


 村人達の多くは夜空を眺めた。そこには誠と奏太が居て、鳥よりも自由に空を飛んでいた。

「……人って飛べるんだべな……」

「神様の力を取り戻す言うて国から出てきたんだべ。それぐらいはきっと普通なんでねぇべか?」

「でも、すげぇべ」

「そっだなぁ。すげぇべな」

 そんな会話を何度も繰り返しながら二人を見上げる村人達の横に、真剣に土鍋を見ている女達もいた。

「ホントに根っこなんか食えんのかい? 土の味だべ?」

「お日様の光さ、当たった方が美味いんだべ。絶対不味いに決まってるべ」

 周りで展開される会話にきららは沈黙するしかない。

 土の中にある物は食べられないもの。というのが村人達の言葉だ。この村だけなのかと思ったら、この世界では多くの者がそう思っているらしい。そのため、球根どころか、根菜、芋なども食べた事がない者達がほとんどだと言う。

「しかも骨さ入れて何になるべ? 生臭くなるだけだべ」

「きちんと血は洗い流しましたぁ! もぉー! 手伝いたいの? 邪魔したいの!?」

 きららは堪らず周りの女たちに声を上げる。何をしても出てくるのは否定の言葉のみ。

 見たことのない料理ならば黙っててくれときららは思うが彼女達はそうは思わないらしい。

「あぁぁあぁ! なんで肉さ入れるべ!? 勿体ないべ!」

「焼いて食べた方が美味いべ!」

「ああぁぁぁぁ……。せっかくの食料が無駄になっただべよ」

「無駄になってないよ! きちんとおいしいんだから! もー! おばちゃん達は向こうで肉切ってて!!」

 怒鳴りながら周りの女たちを押して、移動させようとする。

「んだども」

「良いから! こっちは一人で大丈夫だから!!」

 女達からしたら食材で子供が遊んでいるように見えるのだろう。目を離したらもっと大変な被害が出るかもしれないと心配で仕方がないのだ。

「何してるべ?」

「長ぁ。いやな、キララちゃんがな、食材をダメにしようとしてるべな、それで」

「ダメにしてないよ!」

 即座に否定するきらら。村長はきららと村の女達を見て、女達を諭す。

「出来るってあの子たちが言ってるんだべ。信じてやれ。子供のうちはよくある事だべ」

「んだども」

「あの子たちが持ってきたもんだ。あの子たちが使いたいように使わすんが、正しいべ。なぁに、消し炭にならなきゃ、今のおら達ならどんな味でも食えるべ」

「……そっだな。これも大人のツトメぇいうやつなんだろうべな」

「んだんだ」

 暖かく見守る方針に決めたらしく立ち去っていく後ろ姿を見ながらきららは一言吐き捨てる。

「むっちゃ失礼だよ」

 消し炭扱いされかけた料理を見て、きららは闘志を燃やし、食べやすいようにと根菜を切っていき鍋に入れる。

 灰汁も丁寧に採り、少しでもおいしい料理を目指す。絶対に一言でも「不味い」と言わせないためだ。

(なー。明日の打合せ少ししてもいい?)

(ごめん! あたしは今忙しいからそっちで決めて!)

 そんな折に入った誠からの言葉をにべもなく断る。

(小麦粉あったらつみれぐらい作るのにー!!!)

 そんな魂の叫びが聞こえてきて、三人はきららを抜きで話をする事に決めた。

 むしろ小麦粉があったらもっと色んなものを作っていそうだ。と密かに思いつつそれぞれの仕事や練習をしながら会話を続ける。

(夜の飛行は危険って事で明日、夜明けと共に次の村に行くことになったのはもうみんな聞いてるんだよな? で、正しいタイムリミットはいつなんだ?)

【一つ目の村は日が沈む頃でしょう。二つ目の街も同様に夕刻から深夜にかけて。三つめの村は夜から明け方といったところです】

 目の前に世界地図が現れて現在地から目的地の順に光が灯っていく。

(多少ずれはするけど、ここから正反対じゃないのはありがたいね……)

 どこに行くにしても山を越えねばならないだろうが、そのための飛行魔法と割り切る。

(三班別行動にするか?)

(向こうに着くまでにMPをどれくらい消費するか分からない。万が一に備えるなら二班がいい)

(ボクもミチルの案に賛成。三つに分かれるのなら、せめてお互いにフォローできそうな、二つ目と三つ目の村を一人ずつがいいんじゃないかな)

(うーん。確かに。でも、遠い分MP残量がやばそうだよな。強い敵っているのか?)

【分かりません。ビックバードより強い種族は存在します】

(あれ? 意外。分からないんだ)

 てっきり苦戦するとか危険とか余裕とかシミュレーションの結果が返ってくると思っていた誠は思わずそう零す。

【リスト化した魔法を使用しての戦闘であれば、MP残量によっては苦戦を強いられる種族が多数います。しかし皆様方は特殊な魔法を使います。予想がつきません】

(えっとぉ、ゴメン?)

 しばし迷った後、誠は謝る。

(あはは……)

(トモの予想を良い意味で裏切れる様で嬉しい)

 奏太はごまかし、ミチルは逆にやる気を見せる。

(それで、食料は今の俺達の在庫で間に合うと思うか?)

【万全であるとは言えませんが、大丈夫だと思います】

(じゃあ、誰がどこに行くか、だけど。MPの多い人が一番遠くになるよね。必然的に)

(ミチルと俺か)

(持っている物を後で全部四等分に分けよう)

(いや。その場所場所によって不足してる物が違うと思うから、そこを聞いてから分けよう。トモ、一つ目の村には何が必要?)

【一つ目の村は疫病です。感染源は水になります。村全体にクリーンアップを使用し、完全回復魔法を使用すれば、村に残っている食料でしばらくの間は問題無いと思います】

 トモの言葉に三人の思考が停止する。

(……トモ。二つ目は?)

 奏太が問う。心の声は感情を押し殺した固さがあった。

【二つ目の街は水害です。現在、街の魔法使いが外壁の強化し、現状維持を貫いています】

(っ!? ちょっと待て!? それってすでに水害を受けているという事か!?)

【そうです】

 誠の言葉にトモは淡々と答えた。

(トモ。一つ聞かせて。もし、ソウソウが聞かなかったら、この三つの村の現状を今日、私達に話していた?)

【していません】

 半ば予想していたのか、ミチルは視線を険しくし、宙を見つめる。

(それは私達に対する裏切りだ)

【申し訳ございません】

 ミチルの言葉にトモは謝罪する。

(なんでだよ! なんでだよ、トモは俺達が何のためにここに来てるか知ってるだろ!? 昼間はあんなに親身になってくれたじゃんっ!)

 悔しそうに誠が思いをぶつけてくる。

【私は皆様のサポートをする存在です。し……】

(今現在、その仕事を放棄しているように見える)

【申し訳ございません】

(ミチル、待って。トモ、今、何か言いかけてたよね。きちんと最後まで言って。皆も今は反論はなしで)

(分かった)

(……ああ)

【夕刻、本来の森羅万象に、皆様のサポートとしての役割を逸脱していると警告を受けました。それ故に皆様から質問された事のみを答えるようにと制限がかかりました。申し訳ありません。ミチル様が言うように、裏切りである事は理解しておりました。しかし、今現在、私、トモには、その制限を拒否する権限はありません。申し訳ございません】

 沈黙が落ちて、トモの説明はそれで終わりなのだろうと三人は理解し、息を吐く。

(なぁ、トモ。本来の森羅万象って、トモの大本になったものって事でいいんだよな?)

【はい。そうです】

(そいつにも意志があったって事か)

【はい。皆様には神々からの誓約により、情報の提供を拒否する事は出来ません。しかし、私から皆様に情報を流すのは他の生き物の営みにも大きく影響を与えると申しております。彼女と称しますが、彼女に取って、事象は流れのままに時を重ねるべきだと。私の存在は大きく運命を狂わし、時の流れを変えると、そう申しておりました】

(……人を救うのが、そんなに悪い事なのか?)

 誠が夜空を見ながらトモというよりも、その『彼女』に対しての疑問を投げる。

【……人を救う事を悪いと言っているわけではありません。私の能力と、あり方が危険であると判断しての結果です】

(能力?)

【私は、邪神族以外の者達の心を読めます】

(((あー……それは危険視されるわけだ)))

 四人が望めばどんな者であろうと心を読み、弱みを握る事が出来、どんな企みも潰せるという事だ。

 世直しを実行しようとしているのだ、その力を知れば利用しようとするだろう。

(そっかー、そういう能力もあったわけか)

 納得して誠は頭をがりがりとかく。怒りはまだ全て収まらないが、納得は出来た。

(んー……あれ?)

 奏太が何かに気づいたのか腕を組んで眉を寄せる。しかしそれを今はまだ言葉にしない。

(トモ。本当の事を教えて。制限を受けなければ、今日言ってた三つの村や街の事はきちんと私達に告げていた?)

【告げていました。きらら様に代理詠唱の実験をしてもらったのは、そのためです。もっとも、そのせいで制限を受けてしまいました。申し訳ありません】

(ああ……。なるほど)

 ミチルは納得する。

(トモ、もしかして制限を受けてはいるけど、穴をついてボク達に色々助言しようとしてた?)

(え? そうなの?)

 奏太の言葉に誠が驚く。

(たぶん、だけどね。本来はきちんとトモを指定して質問するべきところを、ボク達の会話の中での疑問に対して返事してたりするし、会話がそう向かうように誘導しようとしてたんじゃないかなって思ったんだけどどうかな?)

【……はい。申し訳ありません】

(ボク達に何がどう危険視されているか分かるように質問させたのもそれだよね?)

(どういう事?)

(人々を救うことを悪いとしているわけじゃないで切っておけば良かったんだよ。でも、トモは能力とあり方って言った。あり方っていうのはボク達のサポートって事だとボク達は瞬時に判断したから、能力について聞いた。ボク達が知らない、想像していない能力があって、それを危険視している事を伝えようとしたんじゃないかって思ってね)

(ああ、確かに。ああ言われたら思わず問い返すもんな)

(うん。人の心が分かるなら誘導する事も出来るんじゃ無いかなって思ってね)

【申し訳ありません】

(いいよ。おかげで助かったし)

【……正義も悪も立場に寄って違います。彼女は喩え邪神が勝って世界が滅びても、それが時の流れであったとするだけです。神が滅びても、邪神が滅びても、構わないのです。彼女の存在は本来、莫大な対価を払いアクセスするものです。先人達の知識の積み重ねによって近づいていくものです。ですが皆様はその制約がありません。本来であれば、彼女の分け身である私も質問されて答えるのみです。この世界に不慣れな皆様に対し、最初のみ、チュートリアルとして、この世界の事を伝えるはずでした。ですが、皆様が私を『トモ(友)』と呼び、五人目の仲間と言ってくださった時から、私はより、皆様方に傾き、サポートとして逸脱し始めました。このまま行けばより大きく変質し、私の存在がきっかけで世界を大きく変えかねないと……。私自身そう思います】

(……でも、トモはそれをボク達に伝えた。言わなきゃいいのに、伝えたのはどうして?)

【……】

(トモ。ボクは質問してるのに、沈黙するの?)

【……分かりません】

(分からない?)

【はい。伝えるべきだとしました。しかし、そう判断した明確な理由を上げることが出来ません】

(……なるほど。危険視するわけだ)

 どこか楽しげに奏太は言った。

【申し訳ありません】

(この事について謝る事はないと思うよ。ねェ?)

(教えてくれたしな)

(トモ、どうしたい?)

【……私は皆様のサポーターとしての役目を果たしたいと思うだけです】

(なら、言いたい事は言えばいい)

(そうだねェ。トモ、例えば、ボクと誰かが交渉していたりした場合、その人の考えや心を読むではなく、いくつかの事例を元にアドバイスをするのはどうなの? それもサポーターとして逸脱している? それこそ、戦争とか最悪な事態に発展するのも含めて、大なり小なりの事態関係なく)

【それは可能です。質問されたら私は断れません】

(質問じゃなくて、自分から発言する事だよ)

(っていうかさ、俺、今思ったんだけど、森羅万象のやった事って逆に悪手だよな)

【……そうでしょうか?】

(そうだよ。だって俺達の間に信頼関係がなくなってた場合、俺逆に逐一聞くと思うもん。それこそ何かと対立してた場合、「知ってること全部話せ」とか「相手の計画で分かる事が有ったら全部言え」とか「相手の計画を潰すために協力者全て吐け」とか絶対言ってるって)

(確かに。この世界のために頑張っているのにってなる。人間であれば別だけど、トモは神様側に立つ存在。私達はそう認識してる。そんな存在が非協力的であれば苛立つ)

【申し訳ございません】

(謝って欲しいわけじゃない)

【申し訳ございません】

(…………むぅ……)

 このまま続きそうでミチルは口を閉ざした。

(トモ。人の心を読まない事を絶対条件にした場合、自由に発言できる?)

【それでは皆様との念話が不可能になります】

(あ、そうなるのか)

(なら俺達以外って付けるとか)

【……いえ、質問されたら私は答えないわけにはいかないのでやはり無理です】

(そこは森羅万象とのリンクを切れば良い)

(そうだねぇ。人の心が読めるより、手遅れの方がやだもんねぇ~)

 どこかのんびりとした声が会話に入ってくる。

(あれ? きらら? 聞いてたのか?)

(聞くだけなら聞いてたよぉー。なんか難しい話してるなーってのと、怒ってるなーって思いながら)

 誠の言葉にきららは答えて、それから確認をする。

(トモはどうなの? 仲間や、これから仲間になるであろう人、あ、もちろん本人に許可を取ってだけど、その人以外の考えや心を読めないのって嫌?)

【いえ、皆様から嫌われる方が怖いです……】

 ほんの数分前の嫌悪を思い出すとトモはそう口にした。

【私は皆様の仲間でいたい。そう思うのです。私がそう思うのはおかしな事ですが、私は皆様のために作られました。より皆様をお助けしたいために深く潜りました。だからこそ、皆様が私の事をどう思っているか知っています。そういう存在になりたいと思います。そう思えるような人格に皆様がしてくださいました】

(なら、それが出来る妥協点はどこ?)

【……人の心を読まない。また皆様が見聞き出来ない場所での会話等を知ることが出来ない。また誰と誰とが会っていた等を知る事がでしょうか】

(……そんだけ?)

【それだけと評価されては困ります。心が読めないと相手に敵愾心があるかどうかも分かりません。気配や分泌物だけでは、完全に敵味方の判断がつきません。また大きな謀に巻き込まれてしまう可能性もあります】

(うーん……、ボクとしてはそれでトモが思うように動けるのならそれでいいと思うんだけど……。もし、その条件で森羅万象とリンクを切ったとして、それで、トモはどんな事が出来る?)

 奏太はそれでも十分凄いんだけどと思いながら確認をする。

【どんな……。範囲が大きすぎます。対象を絞ってください】

(魔法に関しての知識は?)

【神聖魔法及び禁忌魔法まで可能です。代理詠唱も出来ます。また皆様の生産スキルも同様に妨げになるような事はできません。これは第一条件とされています。彼女にも拒否する事はできません】

 誠の言葉にトモは即座に答えた。

(対象となる品物の鑑定や、物価を調べるとか、遠くにある街の大まかな状況を知るって事は?)

【大まかな状況が人口・物流・物資・魔道具率・物価等の情報であれば問題ありません】

 奏太の言葉にもトモは即座に答えた。

(その人の評価は? 例えばここの領主様とかの情報ってどれくらい話せるの?)

【チプーラ村を納める領主。サグスリオの情報は以下の様になります】

 きららの質問に四人の前に画面が現れる。


『サグスリオ・セッペラー

 四年前に先代の死去により、領地を引き継ぐ。

 女遊びと金遣いが荒く、評判は悪い。

 平民への当たりがきつく、民に重税を課す。

 チプーラ村・カンテルス村・センダノ村等を切り捨て重税に重税を重ねている。

 乗馬・土魔法・弓が得意である』


 と簡単な概要の続きに、身長、体重、生年月日、血液型、足のサイズや使える魔法の一覧や弓以外の武術、好きな食べ物、嫌いな物、好きな色、性格、仕事内容、役職、妻の数、使用人の数、賄賂の有無等、多岐にわたる情報に四人は全部読む事無くウィンドウを閉じた。

(これだけ分かれば十分だと俺思うんだ)

(まあ、まともな領主じゃないって事は分かってたけど、ヒドイねぇ。部下の奥さん横からかっさらうなんて~)

(しかも飽きたらポイ捨て。どこまで自分の首を絞めるかある意味見物)

(確かにそのうち下から裏切られそうだけど。しかし、今聞いてる範囲だと、トモはいったい何が不安なのか……って、思っちゃうなァ)

(この世界は全体的に過保護)

(((確かに)))

 ミチルの言葉にみんなが同意する。

(トモ、敵味方の判断がある程度つくって事は、もしかして、嘘をついているとか騙そうとしてるとか、そういうのもなんとなくでも分かる?)

【嘘をついている場合は分かります。騙そうとしているかについては、半々です。言葉の選び方によっては分からないかもしれません】

(じゃあ他に質問ある人いる?)

 沈黙が返ってきたので奏太はまず自分の考えを口にした。

(トモ、トモが自由に動ける様に彼女と交渉してくれる? ボク達は確かに色んな知識はあるけど、子供だ。色々考えた所で見逃しがある。確かに色々有利に進められたら楽だけど、それはそれでボク達を四人にした意味も無いと思うんだよね。あの神A様だってそこまでのサポートは望んで無かったと思うよ。かわいい子には旅をさせろって事で、色々経験して学んでこいって事だと思う。というか、あの口ぶりなら絶対にその考えのはずなんだ。だから失敗してもいいと思う。きっと救えなかったら救えなかったで、色々後悔も辛い思いもするかもしれないけど、その分成長すると思えば良いんだよきっと。それが精いっぱいやった結果だったっていうのなら)

(それに、負け知らずで向こうに帰ったら、帰った後の方が大変そうだもんな。色々勘違いして不味い大人になると思う。俺)

(そもそも一番ヤバい邪神族の事が分からなきゃ心読めてもって思う)

 ミチルの言葉に三人は同意する。

(トモ。トモの好きにしちゃいなよ。その上で出来る範囲でやってくれれば良いから、ね? みんなもそれで良いんでしょ?)

(俺はもちろんそれでいい)

(ボクも)

(同じく)

(だって。ね、トモ。トモがなりたい様になればいいんだよ。五人目の仲間として)

【……了解しました】

 トモの返事にみんなはほっとし、小さな笑みを浮かべた。

【条件の変更が出来ました。改めてまして、皆様、宜しくお願いいたします】

((((よろしく))))

【では、先ほどの説明にもう一度戻らせていただきます。一つ目の村ですが。先ほども言ったように疫病が発生しております。きらら様の完全回復にて回復は可能です。また、今現在、あの村には、聖女のご子息『キマエル・カシエル』がいらっしゃいます】

(聖女?)

【はい。皆様の前に召喚された異世界人です】

(あ、俺達の前に居たんだ)

【はい。皆様の前に二回、召喚の儀が行われております。一人目の勇者は男性で、とある国でハーレムを築き、贅をつくした結果飢える者も出ました。邪神族をある程度減らしましたが、その死と共に絶望が増し、神の力は減退しました】

(なにやってるの、その勇者様。馬鹿?)

(男子。ハーレムはやはり憧れか?)

(そこで話を振らないでほしいけど……ボクとしては、やっぱり一人に絞りたいと思うけど)

(ほう。トモ、今の言葉の真偽は?)

(ちょっ)

【半々といったところです。興味はあるけど、面倒という想いが強いようです】

(ミチル、そういう手は卑怯だと思うんだ)

(……なら、代わりに何か答える)

(え!? えー……。…………)

(奏太が本格的に悩みだしたぞ)

(そんながっつりしたの聞きたいの?)

(いや、逆。ある程度恥ずかしくて、それでいて軽いネタって何だろうって思って)

(同じ質問したらいじゃん)

(そう思ったんだけど、それはそれで面白くないかなっと。あー、じゃあ、ファーストキスは? とか)

(それも割とがっつりじゃね?)

(え!? そうなの!?)

(奏太君、彼女ナシ歴イコール年齢じゃないでしょ?)

(小さい頃に酔っぱらったじいちゃんとした。酒臭かった)

(そういうのはノーカンにしようよ!!)

 だんだん話が奏太の方にそれていった頃に答えたミチル。その答えにきららはそれは違うと強く反対した。じゃないと彼女自身も父親か母親になるからだ。

(トモ、話進めて)

【では続けます。二人目の勇者は女性でした】

 話をそらしたい奏太の願いを聞き入れ、トモはすぐに話を戻し、二人目の勇者の事を話し始める。

【彼女の力は癒しに特化したものでしたので、戦いには出ませんでしたが、多くの人を救いました。それ故に、勇者とは区別し、聖女と呼ばれています。彼女のおかげで神々の力も回復し、皆様をこちらへとお呼びする事が出来ました】

(へぇー。聖女の息子がいるってことは、勇者の息子もいるのか?)

【はい、現在勇者の息子は八人、娘が十二人、存命です。聖女の方は娘が二人、息子が一人です】

(いや、なんていうか勇者の方に呆れた)

 尋ねたのは誠自身だったが、予想以上の数だった。

(ん? 存命?)

【勇者死後、母親の浪費癖のあおりをくらい、死刑になった子供も別に五人程います】

 奏太の疑問にトモがさらりと答えて、誠は驚く。

(さらに多かった!)

(……勇者の評判、悪そー……)

 本人もそうだが、妻も浪費癖で処刑されるというのなら相当だと思われる。

【はい。きらら様の言う通り、勇者の評判はあまり芳しくありません。そのため、勇者と聖女と呼び方を使い分けたのです】

(そっちの子供たちはどうなの?)

【やはり母親同様癒しの力を引き継いでいます。ただ、女系に強く発現する力だったようで、ご子息のキマエル様は聖騎士として、力を磨いております。人々のためにと日夜努力している方なので、もし皆様が物理攻撃力を求めているのであれば、仲間に誘うのも一案だと思います】

(んじゃ、きららと奏太で見極めよろしく)

(え!? いきなりそんな重大な事任せるの!?)

(適材適所)

(えー!!)

(こいつとは絶対に無理! ってやつじゃなきゃ俺は大丈夫だから。俺よりも奏太とか女子の方がそういうの見破るの得意そうだし)

(合わないと思ったら自分で距離取るから平気)

(えー……じゃあ、奏太君見極めよろしくね)

(あれ? ボクに一任の流れ?)

(んー。だって男子の事ってよくわからないし。女子を軽視してたり、厭らしい目で見てこなければ、そっちの判断に任せるよ)

(そう……なんか急に責任重大な事が降りかかったなァ)

 苦笑いを浮かべるしかない。

【次の街の説明に移ってもよろしいでしょうか?】

(どうぞ)

【二つ目の街は水害です。大きな街なので、魔法が使えるものも多く、外壁を強化魔法にて強化し、凌いで居ます。彼らの魔力切れが街の崩壊となるため、街にあるMP回復薬は随時回されてますが、明日の夕方にはそれもなくなります。原因となっている川の上流に三つめとなる村があります。こちらは長雨による土砂崩れが起こります。また、明後日の夜まで雨は降り続く予想となっています。それと、三つ目の村は魔族の村となります】

(おっ。……おぉ? 魔族と邪神族は別物か?)

 深く考えていなかったが、似たようなものだと思っていた誠は念のために確認を取る。

【別になります】

(神様からしたらその魔族も助けてもらいたいって事でいいんだよな?)

【はい。彼らも等しく神の子です】

(よし。じゃあ、きららと奏太は回復と人物の見極めがある程度終わったら俺たちのヘルプよろしく)

(わかった)

(はーい)

(俺とミチルは、現場に行くまでにモンスターに襲われない事を祈ろう)

(違いない)

 誠の言葉にミチルは頷く。その後、明後日以降の話を軽くした後、四人の話し合いは一度お開きとなる。

 誠と奏太の練習も終わり、誠は岩塩の精製をし、出来上がった大中小特大の壺に塩を入れていき、四等分していく。

 奏太は『盾を構えた騎士の像』の盾を修復し、防衛にとゴーレムを作る。村人を守るっていったら(アイアン)ゴーレムでしょう。と言っていたので、何かしらの元ネタがあるのだろう。

 ミチルは地面に絵を描いている。見る人が見れば魔道具の素案だったのだが、村人達にはただの落書きにしか見えず、子供らしいなと暖かく見守っていた。

 そしてきららは本当に妥協なく、スープを作っていた。途中から非常に良い匂いがし、早く食べたいと言うおねだりも突っぱねて、味見一つさせず、スープを完成させた。

「うん! おいしい!」

 満足そうに頷いたのを見て、周りから歓声が上がる。

「な、なに?」

 周りの様子に今気づいた様で、きららが隣に来た誠を見る。

「いやぁ、匂いだけのお預け時間がやっと終わると思ったらこうなるんじゃないか?」

「え? あ、ああ。……先にお肉焼いて食べとけば良かったんじゃない?」

「一生懸命料理作ってるやつの前でそれは流石になぁ。すぐに出来上がるって分かってるのならともかく……。で、出来上がったんなら早く食べようぜ。俺も腹減ったし」

 誠は言って、土で作った汁椀を差し出す。

「うん」

「きらっち、もうお肉焼いてもいい?」

「いいよー」

 スープを入れながらきららは答える。そういえばどうやって焼くのだろうかと思って、盗み見ると、焼き石の上に肉を置いて焼くようだ。

「いろいろ作らなきゃならないものも、いっぱいあるねぇ」

「ん? ……あぁ、まあな。でもその辺は少しずつ増やしていくしかないんじゃないか? いや、いっぺんに出来たらいいけど、時間とか材料が足りないし」

「そうだねぇ。ちょっとずつだねぇ」

 この村だけではない。明日にはもう三つ。明後日も別の村や町に行く事になる。それらの多くは水。干ばつが酷いところもあれば、長雨での水害や土砂崩れなどの危険性もある。またそれによる不作もあるが、女神の加護の減少による不作もある。また病気やさらには盗賊などの人的被害も出ているらしい。

 明後日からは順に村々を尋ねる事になるだろう。

 先が見えないという思いはあるが不安はなかった。

 自分の中にある力と、仲間たちのおかげだろう。自分が見落としたところは別の誰かが見つけてくれる。誰かが見落としたところは自分が見つけられるかもしれない。そう思うと前を向いていられた。

「美味しそうだべな」

 そんな声がすぐ近くで聞こえて、きららが顔を上げると、子供の様に目を輝かせる村の男がいた。誠たちが配膳するのを待ってられずに自分で取りに来た村人にきららは笑みを浮かべた。

「はい」

「おおぉ、あんがとぉー!」

 子供の様に大喜びしながら戻っていく男。その次に並んでいた男も同じように目を輝かせ、涎を口端にたらしているのを見て、きららはおかしくなって声を出して笑いながら給仕をする。

 ああ、みんな笑ってると思ったら嬉しくなって泣きそうになった。

「はいはい、押さないでー。ほら、誠君も給仕手伝ってよ」

「お玉は?」

「ないよ。ミチルちゃんが木材持ってるから作ってきて」

「はいよー」

 手伝えという言葉に不満を口にすることもなく誠はミチルのもとに向かう。

 ミチルは先がフォーク状になっているスプーンをみんなに渡していた。

「ミチル。木材余ってる? お玉作りたいんだけど」

「はい」

 そういって完成されたお玉を渡された。どうやらすでに作り置きしていたようだ。

 亜空間から出されたが、今の村人達は誰一人気づかなかった。

「んめぇー!! この汁さ、むちゃくちゃ美味いべ!」

「中に入ってるこの白いのもびっくりするぐらい美味いべ!」

 熱さにハフハフと口の中で冷ましながらも、涙を浮かべて、満面の笑顔で食べていく男達を見て、運よく手元にあったスープを口にする者達。彼らの表情もすぐに笑顔に変わり、美味い美味いと言いながら食べていくのを見て、我先にときららのもとへと向かっていく。

「誠君ヘルプー!!」

「今行くー!!」

 慌てて誠も加わり、スープを配る。

 やがてさんざん駄目出しをしていた村の女達の手にも渡り、一口食べて彼女達は驚く。

「根っこなのに美味いべな」

「全然生臭くなくて美味いべ」

「肉が口ん中で崩れて消えてくべ」

 予想以上の美味しさに、凄いべ凄いべと言いつつ、ひとまず一杯目を食べきると、二杯目からは違う事を口にし始めた。

「この甘味はなんだべ?」

「なんでこんな複雑な味になるべ?」

「茶色い根っこと赤い根っこは違う甘味だべ?」

「白いのは、他の根っことは食感が違うべ?」

 料理を作る者としての目線を交えながらどんどん食べていく。

 きららはそれを喜んだ。

 料理が美味しいだけで心が満たされることもある。そしてそれは作る側にも食べる側にも楽しいひと時となる。

 だからきららは彼女達にわかっている事を話す。甘味の元や旨味はどれなのか。

 今ある材料でどんなものが作れるのか。

 食べ慣れ親しんでいるはずの焼肉の味付けも、今日は塩だけじゃなく、胡椒もある。塩も雑味の少ない高品質だ。いつもとは全然違う味だった。村人たちはどれもかしこも美味い美味いと騒ぎ、大いに喜び楽しんだ。



 

 ぐつぐつとだし骨が入った土鍋が音をたてている。もっとも今度は具は入っていなく、骨だけが煮込まれている。そんな土鍋が三つあった。

 ビックバードの骨をこの後使用するので、その前に出汁を取ろうということできららは先ほどと似たようなことをしているが、先ほどのように付きっ切りではない。

「これが、試しに作ってもらった油。量も少ないからきららが持っているのが一番いいかもな」

 その質問に他の三人は頷く。この中で一番料理が上手そうな人物に預けておくのが一番いいだろう。

 塩、胡椒も分配し、その他の食料も分ける。それとは別に置かれた調味料はこの村用だ。

「そういえば、種は全部油にするの?」

「いや、半分かな。球根も食料だから全部は植えられないし」

「畑が余ってる状況」

「まあな。種があったら良かったんだけど、それも無いらしいからなぁ。買い行こうにも、モンスターが居て道中は危険だし、俺たちは今、余裕がないし」

「明日行く街にはあるだろうけど、金がない」

「……そうだった」

 ミチルの言葉に誠は天を仰ぐ。

「でも、出汁取りが終わったら魔石作るじゃん? それを売ったら?」

「それはコンロと水道に使いたい」

 誠の言葉にミチルがすぐに頭を横に振った。

「ああ、そっか。確かにそっちの方が大事だな」

「そういや、コンロと水道ってどんなの作るの?」

「IHコンロを見本に作った。熱だけ。火は出ない。水道はまんま」

 取り出したIHコンロもどきはこれまた石で造ったものだ。石を薄く切り揃え、スイッチによる五段階調整も出来るようだ。

 強度も強化魔法をかけたので、薄いがそうそう割れる事もない。

「安全装置もつけた。人が付近にいない場合、一時間でスイッチが切れる。また鍋の温度が火が出る温度近くまでいくとこれも切れる」

「じゃあ、大丈夫かな?」

「今の悩みはこれをどこに設置するか」

「あー。今は共同で使って貰うしかないもんな」

「そう。村の中央にしようかと思ったけど、騎士像がある」

「あ、鍋も一緒に置きたいからある程度スペースがある方がいいな」

 コンロ、水道、鍋はセットで置くべきだろう。

「きらら、鍋って全部あのでかいの?」

「ううん、一応、小さいのも用意したよ。お湯とか飲むかもしれないし。だし汁も小分けしておいておこうかなって思う」

「そっか。んじゃ、いっそのこと、共同キッチンを作る? 開いてるスペースにお願いして」

「亜空倉庫の傍に作る?」

「そうだな。それでもいいかも。ちょっと村長さんに後で聞いてみる」

「あと、もう一個の魔石、排水に使いたい」

「排水?」

「そのうち石けんも作りたい。泡とかそのまま垂れ流すわけにはいかない」

「……その通りだけど、でも今それいらないんじゃないかな? 今作る共同キッチンは仮設置って事でいいと思うし。垂れ流したら不味そうなものってなさそうだし」

「……じゃあバスタブ作っても良い?」

「バスタブ?」

「うん」

「うーん……。そこはしばらく土鍋でお湯を沸かしてもらって、頑張って貰おう。次にいつ魔石が作れるタイミングがあるか分からないし」

「……分かった」

 奏太の言葉にしばし考えていたミチルだったがこくりと頷いた。

「というわけで、きらら、これから魔石造りもあるから、なるべく早く出汁取り終わってもらいたいな。明日も早いんだし」

「え? んー……。あと十分」

「じゃあ、十分後にミチルは魔石造り初めて。ボクと誠は村長さんに共同キッチンの話をして、倉庫の隣使って良いか聞いてくるから。共同キッチンの設置が終わったら、明日に備えて今日の作業は終わりにしよう」

「了解」

「はーい。わかりました~」

「じゃあ、行こうぜ」

 誠と奏太が出て行くのを見送り、きららはトモに時間を計って貰う。

 ミチルはすることもないので、ただぼんやりと夜空を見上げて、村を照らしている明かりに気づいた。

「……」

 そういえば、あれ、どうするんだろう。と思った。一晩中照らした方がいいのか、照度を落として照らした方がいいのか、完全に無しにしたほうがいいのか。

 誠と奏太についでに聞いて貰おうとトモを経由して言葉を送る。

 便利だなぁと思いつつ、ぼんやりと明日の事も考え始める。

 頑張らなくては。そうミチルは思いつつ、夜空を眺め続けた。


 

*******


「勇者が召喚されたそうだ」

 男の声が静かに落とされる。薄暗い部屋ではあるが、ここにいる者達はみな見えているのだろう。不安がることもなく、立っていた。

「しかし、我らの元に勇者が現れたという報告はない」

「…………」

 沈黙が落ちる。

「また人族の元に現れたのだろう」

 男の声に否定する声は上がらない。ただ重苦しい空気だけが漂う。

「我らは皆、覚悟を決めるべきかもしれんな」

 男の言葉にやがて、女のすすり泣く声が応じた。

「……神は人族を選んだ。皆がそう思うだろう。そして、我らにはもうそれを否定出来るだけのものが何も無い。本音を言わせて貰えれば我もそう思う」

 男の言葉はここにいる者達の全ての言葉でもあった。

「我らの未来を考えねばならん。最後の一兵までも戦うか、隷属してでも生き残るか。考えようぞ。子供達のために我らが出来る最後の仕事と心してくれ」

 最後となるであろう議題が出され、部屋に居た者達の意見が交わされ始めた。







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