第5話 税と冬
「疑問。鍋とか包丁とかクワとかの鉄って、役立つ?」
ミチルは石ナイフの出来上がりを確認しつつ、作りながら思っていた事を尋ねた。
隣にはミチルと同じ『呆れた』表情で石斧や石クワを作っている奏太が居る。
「まったく役に立たないとは言わないけど、そこまでするか、とは思うね」
税にと昨年、鉄や銅等の再利用が出来る物は全て徴収され、足りない分は働ける力のあるまだ若い者達と呼べる者を労働力として連れて行ったらしい。
なるほど、確かに『死ね』と言っているようだ。と話を聞いた四人は思った。
「自暴自棄になるのも分かる」
「そうだね」
「でも、それもあるけどぉ、なんて言うか、全てにおいて色々不味いよね。農法も、日常生活も、料理も。……煮込み料理も蒸し料理も何もかも無かった事がびっくりなんだけど……」
二人の会話に混ざりながらきららは唇を尖らせていた。
この世界では、木々は大地の女神の化身と言われている。それだけ多くの果実を実らせて人々の生活を支えていた。それを切り倒すのは不信仰であり、不敬であるとされていた。一般には自然に倒れたものや落ちた枝を薪として使うくらいで、それ以外は神殿に赴き、神の許可を得て、伐採していた。そのため、薪を多く使うような料理や工芸はこの世界では発展どころかまだ日の目すら見ていない物も多いと言う。
料理と言えるものが食べられるのは、魔道具が手に入る貴族や大商人だけだという。
そんな物が手に入らない者達は生で食べるか、薄く切り軽く焼くかだけで、『保存食』の概念も無かった。なんの工夫をしなくても食べるものが豊富にあった弊害だったのだろう。
そして、この村に火の魔道具なんてものがあるわけもなく、四人の様に魔法を使える者も居なかったため、料理方法が発達してはいない。さらに税の代わりに鉄製品を差し出したので鍋やフライパンのようなものもなく、直接焼く以外の方法が無い。
きららとミチルが狩ったビックバードも解体できずにそのままの姿で丸焼きしか出来ないとなった時、いっそ、これは異世界ロマンだと言い張ればと良いのかと四人は途方に暮れた。
魔法でおおざっぱに切ってしまおうか。きららの目が怪しくなり始めた頃、村人が手作りだという石ナイフを持ってきた。
「これで出来るだべか?」
渡された石ナイフ。それを手にした誠は一言。
「……良し、時代を縄文時代に合わせよう」
彼らは頭をすぐに切り換え、石器及び土器を作り始めた。
誠は解体を、奏太は石ナイフや石斧などの石器造りを始め、ミチルは村に有る全ての貯水槽に水を満杯まで入れ防腐魔法を付け加えると奏太の手伝いをし、きららは土器の食器や湯飲みを作り、手慣れた頃に大きな土鍋を作った。
今はその出来を確かめるついでに薬湯を作っている所だ。
トモに代理詠唱をしてもらって完全回復という魔法を使ったが、村人の体力は低下したままだ。
本来であれば体の調子を明日にかけて治すはずだったのだが、恐怖心に負けて、果物だけとは言え、渡して食べて貰っている。その分胃腸に負担が来ているかもしれないので、少しでも体に良い物を取って貰いたかったのだ。
「ふー……」
二十本目の石ナイフを作り終えてミチルはため息と共に背もたれにしていた壁から離れる。
「渡してくる」
「うん。よろしく」
「よろしくね~」
石ナイフが入った箱を持ち、ビッグバードを解体している広場へと向かう。
「……マコマコは?」
そこに居るはずの人物が見あたらずミチルは頭をあちこちに動かす。
「マコトちゃんかい?」
初老の女が声をかける。四人は実年齢より幼く見えるらしく、女性の多くは四人の事をちゃん付けし、子供扱いするのだ。
誠は地元では正にそう呼ばれているので違和感を覚える事もなく、奏太はそれで親しみがわいてくれるのならと、嫌がる事もしなかった。
「マコトちゃんなら空き家を見に行ったべぇ」
「空き家?」
「んだ。あんたらが眠る場所、見で探す言うて」
「ああ……。ありがとう、行ってみる。コレ、替えのナイフ」
「ごんなに沢山、大変だっただろうにあんがとねぇ」
「気にする必要ない。こっちもその分、面倒な仕事を押し付けている」
「面倒なんて事ないさね。久し振りのおまんまが腹いっぱい食べられるって言うんだべ、これぐらいするさね」
「んだんだ。なんか分かんねーけども、力も漲ってるし、これっぽっち大した事ねーべ」
きららの回復魔法が効いている村人達は久しぶりに思う通りに動く体に動きっぱなしだ。
「無理は禁物。疲れたと思ったらすぐ休憩して」
「分かっただ。今更あんたらの言うことに文句はつけねぇべ」
男達も女達も笑いながら同調した。
「……ならいい」
ミチルは石ナイフを置き、誠を探しに離れる。そんな後ろ姿を見送りながら村の女が不思議さねと口を開いた。
「何であんな凄腕の魔法使いがタダでこんな事をしてくれるんだべな」
「さてなぁ。確かに、羽の芯から羽切り離すんのは面倒やけど、そんだけだべ」
「水代にも、飯代にもなんねぇべな」
村人達はそう口々に言う。
四人は村人達に仕事を割り振っているつもりだが、村人達からすればこの程度の事は仕事というものでもなかった。いや、報酬と仕事内容が見合っていないというべきか。
この地域では食料も貴重だが、水も食料以上に貴重になっている。
泥水をすする村々も少なくない。売られている水ですら濁っているのだ。
なのに四人は何の濁りもない綺麗な水を、村にある全ての貯水槽に満たした。
奴隷に一人二人寄越せと言われても、文句も言えない程高価なものだが、四人はその価値すら分からない様に振る舞う。
巨大な鳥を捌くのは確かに骨は折れるが、水の対価にはならない。村人に分け与えた果物だけでも十二分に賄えると言える。
実験してもらいたいという新しい農法も、誠から聞いた限り手間は増えるが、今までやってきた農業とそう大きく変わらない。
その間、食料の支援もあるという。ならば実った作物を全て納品する事になるのかと思えばそれも違うという。割合はまだ決めてないと言っていたが、一部は村の物となるらしい。
怪しいと言えば怪しいのだが、どのみち、そう日を待たずして死んでいた身だ。他の町に移した子や孫に迷惑がかからなければ、多少この身に不幸が訪れても構わないという気すらしていた。
「変な子達だべ」
「んだんだ」
村人達の評価はそんなものだった。
ミチルが誠を見つけた時、誠は楽しげに壊れた家の壁に手をついた。すると、静電気の様な音と発光が起こった後、倒壊していた家は元通りになっていた。
一瞬にして行われたそれは日本人からすれば、「流石、魔法」の一言で済むが、本来の魔法を知っている村長は、何が起こっているのか分からず目を白黒させていた。
「ん? ミチル、どうした?」
やってきたミチルに誠は声をかける。
「ここに泊まる?」
「おう。そこそこ広いし、二部屋に分けられるだけの広さもあるから、後で扉でも作って女子、男子って分ければいいんじゃないか?」
「……ここに住んでた人は?」
「随分昔に都さ行く言うてたから、まだ生きてたら都さ居るんでねぇべかな?」
視線を受けて村長は答える。
「ふぅん……」
家を見上げそれから「なら良いか」と小さく頷いた。
家人が全て死んで空き家になったというのは、ミチルとしては少々怖いのだ。
「……他にも空き家がある?」
「あるべ」
「使用しても?」
「構わねぇべ。案内するべか?」
「お願い」
何をするんだろうと、誠もミチルと村長の後に続き、一つの空き家へとやってきた。
ミチルも誠と同じように手を叩いて錬金術を使う。
石壁が新品の様に白くなる。これで次の段階に行こうとして気づく。
「あ、屋根」
「屋根がどうかしたか?」
「食料を入れる倉庫を作ろうと思った。けど、この屋根じゃ意味ない」
「あー……、上から入り放題だもんな」
「そう」
ネズミなどが居るかは分からないが何かしらの動物が侵入し、食べ漁っていきかねない。
「むう……」
ミチルはしばし天井の草を睨みつけていたが、やがて何かを思いついたのか、ポンと手を打つと、もう一度錬金し直す。
「何したんだ?」
「一センチくらいの一枚岩にして天井を覆った。その分壁も薄くなったけど、強化魔法はかけた。それに断熱、補強代わりに中は亜空間にしてみた。拡張はしてないけど、扉を閉めてる間は時間も止まるから腐れないし、痛まない」
【中に生物が居る場合は蓋が閉まらないよう設定をお願いします】
「了解」
トモの言葉にミチルは声に出して頷いてしまう。
村長はその言葉を聞いていたが不可解そうにミチルを見る事もなかった。ただ呆然と空き家を見つめているだけだ。
魔法によるその設定もミチルは何の疑問もなく行う。
ミチルの魔法の才能というよりも、トモがそう言ったのなら出来るのだろう。という信頼感からきたものだ。
扉と倉庫内にトモが言うような安全装置を付け、倉庫内に氷の棚を作る。これは腐れにくい事に対する村人達への偽装だ。
「これで腐れにくい」
「あ、肉とか魚とか野菜とか、低温だと腐れにくいってのは、おっちゃん達、知ってる?」
「知ってるべ、この地域だって、雪さ降る。大きな街なら、冬の時期に雪さ溜めて、貯蔵する倉庫もあるべ」
「「へー」」
感心したように口にした後、何か違和感を持ち、同時に眉をひそめた。
「どうしたべ」
「いや、何か、雪が降るんだー。って、思ったらちょっと違和感が有って」
「同意」
「違和感って、なんだべ?」
「うーん、なんだろう」
腕を組み首を傾げる。しかし、答えが出ない。
(トモ、皆とボイチャしたい)
【畏まりました。どうぞ】
(ソウソウ、きらっち、聞こえる?)
(聞こえるよー。どうぞー)
(なあにぃー?)
(この村、冬は雪が降るらしい)
(それを聞いた俺とミチル、ちょっと違和感有ったんだけど、なんだと思う?)
(なんだと思うって言われても~)
(……え? え、え、え? ここ、雪が降るの?)
違和感に気づかなかったきららとは違い、奏太は本気で驚いたようだ。
(この家の作りで雪降るの!?)
「「あ……」」
その一言で氷解した。
「おっちゃん、この家じゃ雪の重みに耐えられないじゃ?」
合掌造りのような三角ならともかく、この村の家は平らだ。
「そうだべ。ここには例年秋までしかおらんべ。冬は、みんなで別の街に行ってそこで仕事しながら暮らすんだべ」
「なる程……」
「面白い仕組み……」
誠とミチルが相槌を打つ。
「でも冬だけとはいえ、村を空っぽにするって凄い選択だよな。今年はどれぐらいの時期に移動するか分かる? それに合わせて俺達の活動も変わるかも知れないし」
何気ない問いかけに村長の顔は曇る。
「……さて、何時というのはねぇべな。大体、収穫が終わった頃だべ」
何かを欺こうとしてるのか、視線を泳がせたのがミチルにははっきり見えた。
「村長。何か隠し事?」
尋ねると村長の目が落ち着き無く動く。
「隠し事なんてしてねぇべ」
「……嘘は良くない。言って。出ないと私達は何も出来ない。直前に知らされる方が困る」
「……」
「おっちゃん、おっちゃん、そんなビクビクすんなって、お困りごとなら言うだけ言ってみようぜ。俺達だって、出来ない事はあるけど、出来る事もあるんだし」
問い詰めているようにも見えるミチルに苦笑しつつ、誠が明るく話しかける。
「何にも出来なくても一緒に考えるくらいは出来るし」
笑顔で言い募る誠に、村長は顔ごと視線をそらしたが黙っているわけにもいかないと思ったのかぽつりと零した。
「………………無いんだべ」
「ない?」
「ないって何が?」
「今年……納めるもんがなんも無いんだべ。だから、今年は…………街には行けねぇんだ」
「どういう事?」
「詳しく教えてくれよ、おっちゃん」
「……この辺りの村は秋に税を納め、冬はさっき言った街で冬を過ごすんだけんども、そこに行くまで護衛や住む場所や仕事は領主様が用意してくれるんだべ。税を納めてない村はその迎えが来ねぇんだ」
「……うっわ。……今のうち聞いてて良かったぜ……」
「税って、何を納める? 作物? 金?」
「同等の価値があれば何でもええべ。でもおら達にはそんなもんはねぇ」
確かに、日々食べるものですら困難なのは村人達を見ていれば分かる。
「……秋までに実る?」
「どうだろ。難しいんじゃないか?」
【冬が始まる前までに花は育ちますが、税の徴収が来るまでにとなると難しいです】
トモがミチルの疑問に答える。これによって活動の仕方が変わるからだろう。
「……騙してると思われても仕方がねぇだが、おら達がおめぇさん方の手伝いが出来るのは冬さ来る前までだ。花はたぶん、収穫出来ると思うべ。その後は別の村さ行って、協力して貰う人を探すとええ。水代や飯代にはなんねぇかもしれねぇ、おら達にはもうそれが精一杯だべ……。黙ってたのは悪かったとは思うんだどもおら達には」
「却下」
村長の言葉を遮る形でミチルはきっぱりとはねのける。
「死のうとするのは許さない。生きるために足掻いてもらう」
「もちろん、おめぇさん方から貰った報酬の分は死ぬ気で働くだ。んだんども」
「勘違いしてる。私達にとって報酬分働くことよりも生き足掻く事が重要。死ぬことは許さない。辛くても明日は良いことがあると、希望を持ち続けることを私達はあなた達に求む。どうすれば良くなるか、どうすれば生活が楽になるか、非道に走らず真っ当な道のりでそれを達成することを模索する。私達はそれをあなた達に課す。そのためには力を貸すし、支援だってする。あなた達だけじゃない。私達はそれを世界中の人にそれを求める。人のせいで神の力が弱まったのなら、人の力で神の力を取り戻すべき。違う?」
「……そんな事無理だべ」
「無理じゃない」
「無理だべ! 世界中に求めるってどうやってだべ!?」
「ここと同じように私達が出向いて協力を願う」
「……気の長い話だべな」
「でも、やれる。ここの皆だって水を手に入れてた。数日分とは言え、食料もある。新しい畑もある。今足りないのは……人手?」
「いや、賄えるだけの食料確保がまだ難しいから人手より、希望じゃないか? おっちゃん、ミチルの言い方はなんかきっついけどさ、でもマジで俺達それを目指してるんだ」
「……こんな村を本当に再生出来ると思ってんだべか?」
「もち」
「たった数日で再生出来るなんてあまっちょろい考えは捨でた方がええべ」
誠の言葉に手厳しく返したが、誠とミチルはきょとんとした。
「数日だなんて思ってない」
「そうそう。きちんと年単位だって分かってるって。だから、最終的にはでいいから、人増やす事も考えてて欲しいんだ。移住してくれる人探すとか、もしくは、町に行っちゃった人たち呼び戻すとか。そこはみんなが俺達の事信用して、生活がやっていけるって感じてからでいいから」
「…………その間、ずっと支援し続けるって言うだべか?」
「うん」
誠はなぜそんな事を今更確認してくるのかと首をひねる。
「本気で言ってるだべか?」
「え? そうだけど?」
「……説明、しなかった?」
「いや、俺、したよ!?」
ミチルのうろんな瞳を見て誠は頭を横に振って否定する。
「いやいやいや、したって! 解体しながら周りのみんなにも言ったし、おっちゃんにも言ったじゃん!」
誠は言い募るが村長は明らかに「今知った」という顔で呆然としている。
「……誠の説明不足」
「…………んじゃ、もう、今後この手の話は奏太に全部させよう」
「そうしよう」
誠の説明不足というよりも、村長達が信じていなかっただけなのだが、今の二人にはそんな事は分からないので、きららか奏太にさせようとなり、なら眼鏡キャラでもあり、どことなく良いとこのお坊ちゃんという雰囲気が漂う奏太が相応しい気がして、二人は一致団結した。
「今、分かってる問題点は、秋までに税金用意。それが間に合わなかった場合の事」
「家を冬用に作り直すって事か?」
「……家を作る職人って居る?」
「……昔はお役人と一緒に職人が来ることもあっだが、今は……」
首が横に振られる。
「なら、最終的には、大工が居て、鍛冶師が居るのを目指す。後、医者と学校」
「医者!? そんなん無理だべ!?」
「今すぐは言わない。最終的には、の話」
「本気で言ってるだべか?」
「本気」
「……何年先の話だべ……」
「そこは分からない。でも、そんな村を作る」
「……出来るだべか? 本当に」
「うん。頑張る。けど、みんなの協力も必要」
「……余所さ行った子供達を呼べるくらいの村になるべか?」
「うん。する。それが無理でも、楽に会いに行けるくらいにはしたい」
「はは、すげぇべな」
信じ切れない。それでもどこか淡い何かが含まれた言葉。
「未来は楽しい。そんな未来を私達が導く」
含まれた何かを肯定するようにミチルは笑顔で言い切った。
「ほうか」
「うん。だから、村の現状も教えて。どうしたいとか、どんな問題があるのか、とか」
「それを解決するべか?」
「解決出来るところからする。今すぐは出来なくても、何時かは解決できるようみんなで考える」
「……そうだべか」
「だから、みんなが、得意な仕事教えて。無理をしてもらうつもりはない。けど私達が居ない間は仕事してもらわなきゃいけない」
「仕事って言うのはどんなのだべ?」
問われてミチルは誠を見る。
「畑仕事とか、織物とか? 裁縫?」
「飯作ってもらうってのと、あ、ポーションの材料を乾燥とかもいいかも?」
「それは良い。どうせならお茶も作ろう。緑茶に紅茶に珈琲」
「お、良いな」
「でも、まずは、健康になってもらうこと、が一番の仕事」
「だなー。もうちょっと肉つけてもらわないとな」
ミチルの言葉に誠が笑いながら頷く。
そんな二人に何も言えなくなった村長。
ミチルが強く言った言葉が頭によぎる。
見捨てのは人であって神ではないのだと。
どこまで本気なのか。どこまでも本気なのか。悩んでいると、奏太が暗い顔でやってくる。
日も落ちて本来であればやってくる人物の顔色どころか人影すら見えないのだが、日が落ちてすぐに、四人は村のあちこちに灯りの魔法を放ったおかげで、真昼のように村は明るかったからその顔色もよく分かった。
「何かあったのか?」
「うん。有ったといえば有った。トモ経由で聞いてたから、疑問が浮かんでね。覚えてる? トモが言うには、村と町で括ったらこの村ですら平均だって言ってたじゃない? だから一番ヤバいとこドコって聞いたら三カ所有るらしいんだ。しかも、その三カ所とも、明後日には全員死んでるか、九割は死ぬだろうって」
「…………むっちゃヤバいじゃん」
「うん。ボクも聞いて言葉失った」
「……それ、聞かなかったら知らされなかったって事?」
「いや、どうだろ。たぶん、ボク達がこっちに来た当初だったら知らせなかったかもしれないけど。今は、こっちの作業が落ち着いたら教えてくれたんじゃないかな? と、言うのもね、誠。空飛んで約六時間らしいんだ。その村や街に行くの」
「六時間!?」
誠が驚いて、口を大きく開ける。それを見て奏太は首を傾げた。
「あ、そっちに反応するんだ。ボク、『飛んで』の方にびっくりしたんだけど」
「言われてみれば。え? 飛翔魔法使えるの」
奏太に尋ねたが、ふとミチルを見る。
「……むしろ、それを使わずに食料集めたのかと問い返そう」
視線を受けてミチルが返す。
「あー……。なるほど。収穫の差はソコか」
「うん。みたいだね。きららもなんで試してないのかと凄く不思議がってたよ。というわけで、ボクと誠は今から飛ぶ練習ですかね」
「ちなみにコツは?」
「重力魔法と風」
「なるん」
「で、ミチルには壺を作ってもらいたいんだ。お願い出来るかな?」
「壺?」
「うん。岩塩手に入ったから、すぐに渡せるようにしたいかなって。この村も塩不足らしいけど、同じように塩不足の所あるかもしれないし」
「ああ。理解した」
こくりと頷いて、粘土質の土がある所に向かう。
「それで村長さん。ボク達、明日からしばらく戻って来られないと思うんです。今、お渡ししてる食料で、四、五日持ちますでしょうか?」
「それは……ビックバード置いてくって事だべか?」
「ええ、あ、いや、明日どうなるか分からないので、一塊くらいはお譲り頂けるとありがたいです」
手で示したサイズにも奏太の言葉にも村長は呆れる。
熊並のサイズがあるのに、たったの三十センチくらいだ。その上、本来の持ち主は四人である。それなのに「お譲り頂けると」とはどういう事なのか。
「……ビックバードの肉は美味くて臭みも少ない分、高く売れると聞くべ」
「そうなんですか? じゃあ、持って行って売ってきても良いですよ」
「あ、そうだな。それでいろんな食材買った方がいっぱい食べれて良いのかも。おっちゃんそうしなよ」
「……おら、おめぇさん達が悪い奴らに騙されねぇか本当に心配になってきたべ……」
「あれ? なんか心配された」
「うん。心配されたみたいだね」
流れが分からず、誠と奏太は互いに首を傾げるしかなかった。
二次扱いになる危険性が高いみたいなので、ちょっと変更しました。