表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/27

第3話 最初の村

「トモはゲーム画面、分かる?」

【はい。開発中のPV用含めて把握しております】

 誠の言葉にトモは即座に答えた。流石だ。と内心褒めるとありがとうございます。と小さく褒めた分、小さく答えが返ってきた。

 全体用と個人用の違いなのだろう。

「じゃあ、なんかこー……、ゲーム画面の様に俺たちが使いやすいようにって、何か出来る?」

【了解しました。システムを再構築します】

 四人の視界の真ん中に、『NOW LOADING』の文字が泳いでいた。

 それもまたゲームっぽいと四人が思った所で視界に複数のディスプレイが現れる。右上にはマップ。最大縮小で世界地図、拡大も3メートル範囲内までなる、たぶん、もっと細かく見ることも出来るのだろうが、意味もなさそうなので、ここから一番近い村が画面に入る範囲内に収めた。

「敵が近づいたらマップに何か出る?」

【害意を持つものであれば、赤く表示が出ます。皆様の表示は青。友人、知人であれば緑。それ以外は灰色と致しております。ターゲット設定をしたものであれば、黄色く表示されます】

「へー。それはすごい」

 奏太は満足そうに頷く。

「なんか、HPとMP以外にも色々あるね……」

 ちょっと弱ったようにきららが言うとトモも弱ったように返した。

【すみません。ゲームの様にHP、MPのみで区切られたら良かったのですが、数値化するのも難しく、また数値化してしまった場合、重大な事故になりかねないので、控えさせていただきました】

「そっか。そうだよね。説明してくれる?」

【はい。赤いBと書かれているバーは血液の量となっております。これについては出血多量で命に関わる量を0と設定しております。赤から青、青から白とバーが変化していきます。また0となっても適切なアイテム及び魔法を使用すれば一命は取り留めます】

「また意外なのが出てきたね……」

「でも、正しい……」

【次にsTと書かれている桃色のバーは体力を示しています。半分以下になると薄くなり、減りが早くなります。透明になったらすぐに休憩を推奨します。次に、緑色のMと書かれているバーはMPです。こちらはゲーム同様数値化しても問題ないので数値化しております。MPが0になっても、気絶することはありませんが、その下にある黄色のsPのバーは精神のバーで、集中力や気力を表しています。ここが五以下の場合は気絶しやすくなってしまいます。死亡に関しては、B・sT・sPの三つのバーが0になった場合となります。Bバーが0になるとsTバーの減りが加速し、同時にsPバーも減少します。それまでに適切な処置をお願いいたします。なお、敵に対しては、推測での数値が表示がされます。HPは緑、MPは青となります。あくまで推測ですので、油断なきようお願い致します】

 命に関わることだと聞き流す事もなく四人は真剣に頷いた。

【アイテムは個人の亜空間の内容になっています。所持金も同様です】

「……うーん。当然と言えば当然なんだけど、レアなものを手に入れた時が怖いよな」

「トモに判断を任せるべき。トモなら冷静に判断をしてくれる」

 誠の言葉にミチルが固い声で返す。表情も眉根を寄せて厳しい。

「どうしてレアが出た時が怖いの? レアだったら良いことじゃない」

「四つ出たら問題ない」

「問題なのは足りない時だ。誰だって欲しいレアのアイテムってあったりするだろ? そういうのが出た時喧嘩になるかもしれない。それが泥沼化しないかが心配って事かな」

「……そっか、そんな問題があるんだ……」

 二人の心配を理解したきららが不安を覚えて自分の手を握る。

【この世界のアイテムであれば、素材が揃えば複製は可能です】

「なら、それまでは皆で回し使ってみたらいいんじゃないのかな? で、誰が使ったらいいか決めるとか。なかなか決まらなかったらその時はトモに頼ろう。全部が全部、トモ任せってのも、可哀相だし」

「そう……だな。二人はそれでいいか?」

「ん。問題無い」

「うん。あたしも賛成」

 奏太の提案に三人はすぐに頷く。

「じゃあ食料探しつつ最初の村に行こうぜ。トモ、何かいい素材とか食料とかあったら教えてくれよ」

【わかりました】

 いつまでもここでしゃべっていても意味がないと誠が切り出し、四人は歩き出す。しかし歩きながらでも四人の欲求は止まらない。

「なァ、トモ。魔法の一部をリスト化して、多少威力が落ちてもいいから集中しなくても言葉だけで発動って出来ないかな? 咄嗟の時に役立つように」

【この世界で一般に使われている魔法であれば、周りのイメージを利用し、発動しやすくする事は可能です。リスト化しますか?】

「うん、ぜひお願いするよ」

【ではリスト化します。また発動が『言葉』だけでは危険のため『発動させたい意志』も発動させるための一つとします】

「ん? あっ、ああそっか。会話の中で出ただけで魔法が発動しちゃう危険性があるってことか。うん、じゃあ、それでよろしく頼むよトモ」

 奏太の無茶振りにもトモは見事に応じる。

「なあなあトモトモー。オレさ、今、一番大事な事思い出したんだけど、この世界って味噌ある? オレ、朝は味噌汁飲まないと一日が始まった気がしないんだけどぉ」

【味噌はこの世界には存在しませんが、原材料の大豆に似た成分を持つ、トンフは少量ではありますが、三つ先の町、クスールにて購入が可能です】

「マジか! 資金繰りしなきゃって! 原材料だけ仕入れても!!」

【錬金術により、味噌への加工は原材料が手に入ればすぐにでも可能です】

「やったー!! ありがとう! トモー!!」

 嘆き悲しむ誠を慰め、手に入れる方法を教えるトモ。

「ねえ、トモ。この世界の料理ってどんな感じ? おいしい?」

【残念ながら、地球の方がおいしいと思われます】

「え!? そうなの!?」

【塩はまだ求めやすい値段になってはおりますが、安くはありません。砂糖は高級品です。コショウの発見は比較的最近で、まだそう多く流通していません。それ以外はハーブでのアレンジになりますが、王宮など一部階級の者たちのみが食すのみとなっております。また料理酒などによるに匂い付けや臭み取りの技術はまだないため、食材の臭みが強いものも多くあります】

「うぅ……。予想はしてたけど、予想以上な気がする」

【胡椒や岩塩などは高く売却できるので、周辺にありましたらお伝えします】

「ごめん! たぶんそれ、自分たちで消費して、売らないと思う」

 きららはきっぱりと答え、ポーションだなんだは他の人に任せて自分は料理の方に走ろう。そう密かに決意する。

 そしてミチルは、トモの外見を作成していた。既存のソフトではなくトモによるものなので、編集自体はありえない程楽だった。

「むぅ……。やっぱり二重がいい。それともうちょっと黒目大きく……。うん、かわいい。トモはかわいくて美人。これ絶対」

【ありがとうございます】

 すぐに礼を述べていたが戸惑っていた様子は聞き取れた。

「眼鏡かけると知的お姉さん」

 満足いったのだろう。大げさに頷く。

「お披露目」

 ミチルがそう口にすると四人の前にトモが現れる。

 流れるようにきれいな黒い髪がふとももまであり、ぱっちりとした目は愛嬌に満ち溢れていた。

「っていうか、なんでセーラー服?」

 誠の言葉に奏太も首を縦に振る。

「だって、みんな高校生。ならトモも仲間としてこっちの方がいいかなって。『先生』になる時はこっち」

 ボタンを押すとトモは眼鏡をし、異世界の学者らしい恰好になっていた。

「なるほど……って、高校生!?」

 誠が慌ててミチルを見る。

「高一。両親がともに童顔でチビなので、成長は諦めた。大人しく貧乳趣味の人を探す」

「あれ!? 話そっち飛ぶのかよ!?」

 自身がきっかけ故の発言に誠が驚きながらも、広げてはいかんと話題を戻す。

「じゃ、じゃあ。確かにセーラー服がいいかもな」

「っていうか、ミチルって可愛いのに、なんでそんなぶっきらぼうな口調なの?」

 きららが改めてミチルを見て尋ねる。

 本人がいうように幼い顔立ちではあるが、小柄の体とくせっけなのか、緩くウェーブしている髪が、黙っているととても可愛らしいイメージを作ってくれる。実際かわいいので、『イメージ』というのはおかしいのだが、喋るとなんだかちょっと残念な感じになるのだ。

 『不機嫌を隠さずに不平不満ばかりを口にし、周りのテンションを下げていく子』が一番イメージに近い。声を低く、いや、あまり感情を乗せ過ぎないように喋っているだけで不平不満を口にするわけではないから、「ちょっと残念」で落ち着いているのだときららは思う。思うからこそもったいないとどうしても思ってしまう。

 ミチルは口端を上げて形だけの笑みを作った。

「大して可愛くもない女子が、男子に可愛い声で媚を売り彼氏の競い合いをしてるのを見ていたら、ああはなりたくないと思っているうちにこうなっていた」

「そ、そう」

 相づちを打ちながら悟る。これは、その競い合いに巻き込まれてしまって面倒な事になったのだなと。

「将来、天涯孤独な入り婿を探せば問題ないと思われる」

「そ、そっか……」

 それ以上何も言えず、もったいないなと思う気持ちはあるものの、それを強く言うものでもないだろうときららは口を閉ざした。

 素材はとてもいいのだ。本人のきっかけ一つでどうにでもなるだろうと。

 だからそれ以上はその話は止め、楽しい話にしようと切り替えた。

 それからは個別でトモと話すのではなく、四人でどういうアニメを見てたとかどういうラノベを見てただとか、おすすめはなのはどんなのだとか。話が盛り上がる中であの作品にはこういう魔法が有ってどういう効果があった。というのが入っている辺りが状況を理解した上での会話なのかもしれない。

【皆様、そろそろ村が見えてきます】

 そう声をかけた後、トモの姿は四人の視界から消えた。実はお披露目が終わった後すぐに消えても良かったのだが、四人がお喋りに夢中になっている間、迷子になっては行けないと先導をしていてくれたのだ。

 四人は期待で足を速めて村へと勇んで行ったが、やがてそれが鈍り、終いには足が止まった。

 最初の村が本当の意味で見えてきた。

 石を積み、屋根には草を敷き詰めた家。数は十二。一部崩れかかっているものも数えたら十五世帯はあったのだろう。

 健在である家の中に、まだどれだけの人が生きているのか疑いたくなる程村は静かだった。

 人が居ないわけでは無い。四人の目には人の姿が確かに映っている。

 まるで餓鬼のようにやせ細り、頭蓋骨に皮が一枚貼ってあるだけのような顔。汚れすら落とされることなく、着古されてボロボロの服。靴もなく体を丸め歩く姿はまるで死人のようだ。

【これが、この世界の現状です】

 トモの言葉に四人は言葉に詰まった。


 もっと有っただろ!? こうなる前にやるべき事が! やれた事が!!


 誰に怒鳴ればいいのか分からない。それでも怒鳴りたい気持ちだけしか頭の中には浮かばない。体は一歩たりとも動かなかった。

 そんな四人に気づいた村人が近づいてくる。

「今度はなんだべ」

 村と四人との中間くらいで立ち止まり初老の男は感情のない声で尋ねた。

「え?」

「女か?」

「え? 女?」

 村人の言いたい事がわからず誠はビビりながら聞き返す。

 なんで俺を見るんだよ。と口には出来ない思いを抱えながら村人を見つめた。

「こんな骨と皮しかない女で良ければ、何人でも連れてけ。その方がいいもんも食わせてもらえそうだ」

 一方的に言い捨てて、背中を向ける。

「丸々と太ってからに」

 四人にそう吐き捨てて立ち去っていく。

 四人は決して太っているわけではない。平均である。誠は筋肉が有る分やや平均を上回り、ミチルは下回る。それでも、この村の人達から見れば肥えていると言われても仕方がない。

 訳がわからず立ちすくんでいるとトモが答える。

【どうやら、皆さんの身なりから、領主による徴兵もしくは徴用か何かと思われたようです】

「……女の人を連れてけってのは……」

 嫌な予感を感じながらもきららは質問する。

【兵士へのあてがいでしょう】

 四人は嫌悪を表す。

「領主がそんな事をする?」

【この村は納税を怠っていると思われます。納めるべきものを納められないのであれば、労働力を差し出すしかありません】

 ミチルの言葉にトモは淡々と答える。

「トモ、この村が世界で一番やばい村なのか?」

 ある種の望みを誠は尋ねた。

【いえ、村と町で括れば平均的な村になります】

 その言葉に四人は愕然とした。

【大地の女神の力が弱まり、作物が育ちにくくなり、同様に天の神の影響で、天候が安定しないため、このような村が増え続けています。神の力は人々の祈り。人が少ない分、小さな村ほど影響が大きく、一部の為政者はこのような村を切り捨てる事に決めたようです】

 つまり、なんの助けもこない。このまま死にゆくだけ。

「一揆とか起きないの?」

【無理です。村から移動している間に、モンスターに襲われて死んでしまうだけです】

「モンスター、やっぱりいるのか。でもこの村、簡単な柵はあるけど、そんなに強いモンスターに対抗できるだけの備えもなさそうだけど」

【村の中央に、守りの像と呼ばれる『盾を構えた騎士の像』があります。モンスターが近づいて来た時に結界を張り、村を守ります。納税を行えば、領主からその動力とも言える『盾』が貰えるのですが、未納のこの村では擦り減った盾の代わりはもうないでしょう】

 答えを得た奏太は言われた像を見る。確かに騎士が盾を構えているが、目を凝らせば盾にヒビが入っているのが見える。

「なあ、あれって何日くらい……」

「まずは食料を集めようよ」

 奏太の言葉を遮りきららは言った。

「詳しい話は、あの人達にご飯を食べてもらってからでいいじゃない? まずは食料を集めようよ」

「……だな」

「うん。まずはそれからだね」

 きららの言葉に誠、奏太が頷き、ミチルも無言で頷く。

【この周辺で胃腸に負担をかけないものを重点的に、次に、後日のために保存の効くものをマップに示します。あと、ミチル様、村全体にクリーンアップをかけてください】

「ん! 了解。『クリーンアップ!』」

 ウィルスだろうが、なんだろうが、あの人達に害になるものはすべて消えればいい。不潔もだめだから、体も服も何もかも真っ白になればいい。

 そんな強い想いで唱えられたクリーンアップは、空気が入った大きな袋が地面へと叩き付けたかのように「ぼふんっ」と音をたて、風を周りにまき散らす。

 遅れて消毒液のニオイが四人の鼻に届く。

「クリーンアップってアルコール除菌なの?」

【いえ、ミチル様の想いが強かった結果によるものです。本来風も起きません】

「どんなけ想いを詰め込んでいたんだよ」

 呆れを交えて誠は言う。

「怒り心頭くらいには」

「はは。なんか気持ちはわかるよ」

 奏太はミチルに同意し、四人は顔を見合わせる。

「どうする? 四人で行くか、二手で別れるか」

「効率がいいのは二手。ただ、危険度がわからない」

【この辺りのモンスターであれば、二手に分かれても問題ありません】

「んじゃ、二手に分かれるか」

 特に考えることもなく、男女に分かれて四人は食料を探しに駆けだして行った。



サブタイトルに内容を表すような一言を入れました。1,2話もそれに合わせてつけてます。

感想・誤字指摘などがありましたら、コメント等によろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ