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第25話

ものすごく短いです。ごめんなさい。


 キマエルは客室のベッドの上で瞑想していた。

 魔力を巡らせる事も魔力を圧縮させる事も、トモの協力を得て、今出来る最大限を行って貰う。

 瞑想のポーズでベッドから数センチ浮く。それもトモに体を任せたらなんの苦労もなく出来た。

 魔法を使うだけならトモに体を任せた方がずっと威力が高いなとキマエルは感じていた。


 キマエルは瞑想を解き、ベッドから降り、剣を取って中庭へと出る。

 剣を振りながら、キマエルはトモに話しかける。


(俺が剣で戦いつつ、君が魔法で攻撃って出来る?)

【可能です】


 あっさりと言われてキマエルは苦笑した。


(じゃあ、練習しよう)


 いきなり本番でなんてしたくないので、キマエルは剣を振るう。

 トモはすぐに魔法を使わなかった。


【よく思いつきましたね】

(何が?)


 型の練習をしながらキマエルは尋ね返す。


【私に魔法攻撃をさせつつ、自身は剣で戦うという戦法です】

(変か?)

【貴方のお師匠様方なら思いついてもおかしくないのですが、貴方が思いついたというのが少々意外でした】

(ああ……。そうか、言われてみたらそうかもしれないなぁ。でも、一月近く師匠達と一緒にいたしね。あの人達平気で同時にいろいろやるクセして、苦手な事は得意な人に任せようっていう他力本願なところもあるし。いろいろ吹っ切ったら一気に染まったのかもしれない)


 苦笑しながら剣を振るっていたら、なるほどと返ってきて、キマエルの練習に付き合う事にしたのか、魔力が流れるのが分かる。

 まずは身体強化、剣の強化、それから小石や風や重力などを使って周りから見えにくい魔法を使っていく。

 剣を振るキマエルの頬に汗が浮かび始める。

 

「……きつっ……」


 思わず言葉に出るくらい、魔力の消費が激しく、剣を振るうのにも精細さが駆けてくる。それでもトモの魔力消費はいっこうに減らない。むしろどんどん増やされて、すぐにキマエルは膝を突いた。


「はぁ、はぁ……。はっはっ」


 荒れる呼吸。魔力の消費が止まって、楽になるのと同時に一瞬めまいを感じた。


【貴方が考える戦法は、総魔力が必要となります。頑張って総魔力を増やしてください】

(はい……)


 俺が考えてたものよりも強力で、過酷な気がするんだけど……。と思いつつも、自身の地力を底上げして貰えるのであればありがたい。最悪は背後に敵が回った時だけという手もある。

 キマエルはそんな事を考えながら地面に大の字になった。


「なんだ、ずいぶんと軟弱になったじゃないか」

「……魔力の消費によるものですよ」


 むっとしながら先輩に返し、キマエルは立ち上がり、もう一度呼吸を整えて剣を振るう。

 といっても今度は魔法ない。キマエルの魔力はほぼゼロ。ほんの数分で使い切られてしまった。

 いつ気絶してもおかしくない状態だったが、キマエルはまた剣を振り出した。

 こんな状態だからこそ、自身を鍛えるべきだと。


「なんだったら俺が鍛えてやろうか?」

「……俺は先輩の事を師匠なんて呼ぶ気はないですよ」

「『俺』~? お前、いつからそんな言葉遣いになった」

「昔は俺でした」


 そう答えて型を繰り返す。キマエルの答えに男デールは何か違和感を持ったのか、険しい顔をして、キマエルを見た。


「……昔の呼び方に戻したのは、何でだ?」

「…………けじめです」

「けじめ?」

「ええ、そうです」

「……どんなけじめだ?」


 デールの問いかけにキマエルは動きを止めて剣を下ろして、彼を見る。


「人々のためにというのであれば、俺は師匠達のやり方が正しいと思います」

「本気で言ってんのか、お前」

「本気ですよ。先輩は僻地と呼ばれてる場所でどれだけの人々が絶望を覚えていたかしっていますか?」

「確かに首都から離れればそれだけ人々の祈りも少なくなり、神の加護も弱くなるだろうが」

「違いますよ」


 彼らを捨てたのは人であり、神ではない。


「あ?」

「全然違います。何も知らないのに、師匠達の事を『何も知らないガキ』なんて言わないでください」

「……キマエルおめぇ」

「俺だって怒ってるんです。俺が先輩と一緒に行くのは、勇者と名乗るやつと戦うためじゃない。姉さんと妹を守るためです。だからけじめです」

「まるで、勇者を騙りのように言うんだな、お前は」

「……正直にいうと偽物だと思ってます」

「お前!」

「魔族側にも勇者を名乗る男女が現れたらしいですよ」

「!?」

「神からすると人族も魔族も変わらない。二回続けて人の地に降りて駄目だったんです。今度は魔族側の協力を得るべきだって思っても間違ってないと思いますけど」

「…………それならそれで神託が降りるはずだろ?」

「勇者が来た神託は降りたじゃないですか。なんで、人族の地に降りるのが当たり前になってるんですか?」 

「それは…………というか、待て。お前、なんで魔族側に勇者が来たって事を知っている?」

「師匠達と魔族領土に行って治療をした事がありますので、その時に」

「魔族領土に行ったのか!?」

「行きましたよ、あちこちの村々を回って治療を施した後、あの店を開いたんで」

「……日数的に無理だろ」

「それが出来るのが師匠達でしたので」


 そう答えてキマエルはまた型を取り始める。


「あの人たちは子供でしたけど、世界を救うことに関しては真剣でしたよ。俺から言えるのはそれだけです」


 キマエルはそれ以上何も語ろうとせず、デールは舌打ちを一つして、戻っていく。去って行くのをマップで確認しながら、キマエルは動きを止め、しゃがみ込み剣を地面に突き立てる。


(心臓に悪い……)


 剣の腕だけなら向こうの方が上だ。あんな口を利きながらも『しごき』に発展しないか、実は内心ビクビクだったのだ。


(これで少しでも勇者に疑問を持ってくれるといいんだけど……)


「よし。もう一踏ん張り」


 自分に声をかけてキマエルは立ち上がると、剣を振り続けた。




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