第21話 眺める
今回も短い……。
奏太がカヒロ達に課題を出して一週間が経った。
この間に、カヒロ達新人は何も新商品をひねり出すことが出来なかった。
『ただの転売だけ』をしたら課題を増やす、がいつの間にか、『ヘタな物を出してきたら』課題が増えるに彼らの頭の中で置き換わっていた。
あれもだめ、これもだめ、と自ら駄目出しをし、それ故に脅迫概念のようなものを自ら課していく。そのせいで余計新しい考えなど出ない。そんな負のスパイラルに陥っている、そんな時期、こちらの方でも動きがあった。
<あれは、無い>
<無い>
<確かに無い>
<甘やかし過ぎだろ>
神々からも非難の嵐である。
<た、確かに多少は甘やかしてきましたが……>
<多少か?>
<どれだけ多寄りだ?>
<よくもまぁ、今まで他の世界から文句が来なかったものだ>
女神は口を閉ざし、いつの間にか浮いていた腰を下ろした。
言い訳など出来るはずも無いと思い至ったのだ。
別の女神が励ますようにそっと彼女の手を握る。
<……でも、少し変じゃないかしら?>
おっとりとした女性の声が地球側から聞こえてくる。
<あの世界はあまりにもいびつに見えるのだけど……。才能を持っているのでしょう? みんな自分に見合った才能を持っているのに、どうしてここまで何も変わらないのかしら?>
<それはもちろん、あいつらが甘やかした結果、思考を停止しているからだろう>
<本当にそうかしら? 本当にそうだったとしても、全て等しく? 商人だけでもない。農業だけでもない。魔族と戦争をしていたのに、何故、新しい武器が開発されないのかしら? 邪神族とも戦っているのに、何故、新しい兵器が開発されないのかしら? 色移りすると言われて喜んで白い布を染めたのに、どうして新しいデザインの服を作ろうとしないのかしら? 新しい調味料が出たというのに、料理人はどうして決まった料理しか作らないのかしら? ねぇ、私には違和感しか残らないの。全体を見たら明らかに可笑しいと思うの。まるで、『作れない』かのよう……>
女神の言葉に何人かの神がピンッと来たのか、渡されたデータを確認し、それが足りないと追加で情報を出させる。
<確かに変だ>
<こりゃぁ……思ったよりも大事かもしれんな……>
いくつかの情報を精査して神々はある結論に至った。
<お前さん達よりも遙かに邪神の方が頭が良いな>
<しかもこれ、あの子達と一緒に居る、トモとか言ったか? あの子じゃ気づかんだろ>
<邪神による精神支配。しかも適性別>
<既存の物については鼻が効くが、新規の物に関してはかなり強力な物がかかってる。この状態では、新しい何かなどは生まれんな>
<今まで通りするにはなんら問題なく才能を発揮する……か。この辺は怪しまれないようにって措置だろうな>
<でも、これ、少しおかしくないですか? 邪神が生まれてまだ百年は経ってないですよね? でもこれ、明らかにもっと昔からちょっとずつバレないようにって手を加えられてません?>
<邪神の元になるものがあったはずだ。それが影響しているのではないか?>
<邪神の元……。何か思い当たりますか?>
問われて、異世界の神々は創世神を見た。
<……儂だ……>
ぽつりと創世神は零したあと、地球の神々を見た。
<儂がこの世界を作るに至って、不要だと切り離した、我が半身だ>
その言葉に地球の神々は息を呑んだ。
<な、なんて……ことを……>
<……あ、あんな……>
<なんて馬鹿なんだ>
<明らかに失敗するって分かってる方法を! 何をとち狂って使ってやがる!>
<そんな大昔に使い古されて駄目だって結論が出た方法今更使わんでくれ……>
<成功すると思ったのだ!!>
<<<<みんなそう言うんだよ!!>>>>
地球の神々からの反論に創世神は悔しそうに唇を噛みしめた。
<でもそうするとちょっと不味いかも知れませんね。あの子達、そんな事、考えてもみませんよ?>
<後は勝手に周りが真似して、技術が向上するかも、なんて事の方を考えていそうだものな>
<転売だけで、パクリ商品すら出ない、なんて思ってないと思いますよ?>
<本当にそうなる可能性があるからこれっぽっちも笑えんな>
<も、もう少ししたら、キマエルに神託が送れるくらいには回復します!>
<止めてください。それこそあの子達の行動を邪魔する事になるじゃないですか>
<神託を送るのであれば、個人では無く、国や組織のてっぺんにすべきだろう>
女神の言葉に神々が呆れながらもその行為を止めさせる。
<で、ではその時に卵もやりますか?>
<卵だけを食べれるとやっても全くもってなんの意味もない>
<むしろ食べられる食べられないのチェックをしてくれるスキルでも授けた方が遙かにいいと思いますよ>
<十人に一人くらいの割合で出せば、食糧事情も改善されるんじゃないか?>
<……無理です……。そこまでの余力はありません……>
<分かってるよ>
<まあ、神託で、そういう魔道具とやらを作るよう指示を出す事が一番ですかね>
<せっかくだ。その神託で出す内容も、今ここできちんと詰めとこうじゃないか>
<そうだな。せっかく使える機会をあんなんで終わらされると堪ったもんじゃないしな>
やれやれとため息をつく地球の神々。
少しぐらいはこちらでもフォローしておかないと、あまりにも子供達が可哀想だ。しかし過度の干渉は御法度である。難しい線引きの中、神々の会談が繰り広げられる。
** * **
「あら、素敵ね。雰囲気が変わって良いじゃない。でもどうせならもう少し明るい色が良いかしら? 他の色は売ってないの?」
妻の問いかけに彼はゆっくりと顔を上げた。
今、自分の耳に入ってきた言葉の意味を理解し損ねたのだ。
「え? なんだって?」
「だから、その布よ。テーブルにかけてあるの。その色も良いけど、もっと明るい色はないの? って聞いたの」
妻の言葉に彼は今まで自分が見ていた物を見た。
創意工夫で買った洋服と一緒に洗った元は白い布だ。今は薄い青色になっている。
この布で何か新しい商品が作れないだろうかと広げて見ていた。ただそれだけだった。
何も浮かばなかったのに、妻はこの布自体を商品だと勘違いした。
「……雰囲気?」
彼は呟いて、妻が立っている所まで下がる。
部屋に青い色が一色入っただけだ。それなのに変わった。色づいた。確かに妻の言うように明るい色ならもっと変わるかも知れない。
そして妻は、「他の色は売っていないの?」と聞いてきた。
『商品』だと勘違いした。
「ありがとう愛しているよ!」
彼は妻にキスをすると布を取り外し、ぐしゃぐしゃに畳みながら外へと駆けだして行った。
「な、なんなの?」
残された妻は戸惑うばかりだが、最近難しい顔をしていた夫が、明るい顔をして出て行った事を思い出して、不問にする事にした。
このまま元気になってくれるといいのだけど。
そんな事を願い、彼が走り去った方角を見続けた。
「カヒロ様はまだいらっしゃるか!?」
彼は大急ぎで商会へとやってきた。
この時間ならまだ昼休憩にいるのではと焦ってきたのだ。
「あ、ああ。中に」
「分かった。新しい商品が出来そうだ」
「え? えぇ!?」
同僚達にそう声をかけて中に入る。同僚は驚いた声を上げて彼の後ろに続く。
「カヒロ様、新しい商品が出来そうです!」
「本当ですか!?」
少しも成果が出ない日々に不安と焦りが出てきていたみんなの表情が驚きと期待に変わる。
「テーブルの上、あけてください」
テーブルの上に乗っていた皿を片付けてもらい、彼は布をテーブルにかけてみんなに少し離れて貰う。
「妻が、この状態を見て、『部屋の雰囲気が変わる』と言って、そして『明るい色は売っていないのか?』と聞いてきたんです」
「明るい色?」
カヒロは復唱した後、人間がテーブルを囲っていては駄目だろうと一カ所に集まって貰い、視野を上げて部屋を見る。
「……明るい色の布はありましたか? あったら持ってきてかけてみましょう」
彼の言う通り、部屋の雰囲気は変わったような気がした。しかし、それが先入観なのか、実際に変わったように感じるのかが判断がつかず、別の色を試す事にした。
部下が持ってきた次の色は桃色だ。
赤から色落ちして着いたため、鮮やかとも綺麗だとも言えなかったが、それでも青とは違う風合いを感じた。
「……白い布も持ってきてください」
感情を消した声でカヒロはさらに別の色、今まで飽きるほど見た布も持ってきて貰う。
白い布をかけるだけで、他の色と同じように部屋の空気が変わった気がした。
「は……はは、こんな……。……何故、今まで私は、気づかなかったのでしょう……」
悔しげな声が部下達の胸に刺さるようだった。
彼らもまた同じ思いをしていた。
今まで何度も布を広げて見てきたのに、テーブルに広げた事もあったのに、何故、その視点で見る事が出来なかったのか。
悔しいとしか言いようがなかった。
「……私も妻に言われるまで、これが商品になるとは思いませんでした。カヒロ様、これは新商品になりますでしょうか?」
「……なると思います。こんな簡単なことに気づかないとは、自信無くすなぁ……」
ここ数日の不甲斐なさを感じるばかりだ。
「私は念のため、これを新商品として数えて良いのか確認をとってきます。もし駄目だったとしても、白色だけでも売りましょう」
「「「「「はいっ!」」」」」
カヒロは残りのご飯を急いでかっ込むと創意工夫へと走って行った。
「ソウタさん!」
店内に居た奏太を見つけると、奏太を引き連れて店の隅へと移動する。
「あ、あの新商品の事ですが」
「はい」
「テーブルに布をかぶせるというのを思いつきました。これにより、部屋の雰囲気が少し変わるようでして」
「……ああ、テーブルクロスか」
少し考えただけで、奏太にはカヒロが言う物がなんなのか分かった。
「……すでに、出て……?」
奏太が商品名を口にした事によりカヒロは青ざめた。新商品だと思っていたが、違ったのか、と。
「え? ああ、いえ、ここでは売ってないですよ。故郷では似たような物を売っていたので。なので、新商品でいいと思いますよ。だからそんなに不安そうな顔にならないでください」
「い、いえ……、これで転売だと言われて、課題が増えたらどうしようかと」
「あはは、まさかそんな」
奏太は笑う。冗談で言っていると思っているので、気楽に笑っている。
「でも、テーブルクロスを作るとなると、大きめの布も必要ですよね」
白だけで出来ないこともないが、レース風とか刺繍とかそういうのは無理だろう。
「では、この店舗の販売期間が終わってからになりますが、テーブルクロス様の布を卸しますね。希望の色とかってありますか?」
「売っていただけるのですか!?」
「白色だけだと辛いと思いますし、同じやるなら何種類かあった方がいいでしょうし」
「っ、あ、ありがとうございます。では、明るい色を多めに注文したいのですが」
功労賞として妻の部下にはぜひ一枚贈ろうとカヒロは思う。
「はい。分かりました」
後は実際に作って持って行く時に選んで貰えばいいか。と奏太はトモに今後の予定として入れて貰う。
「一つ目クリアですね」
「はいっ!」
「お店の方に報告に行きますか?」
「……いえ、今はもうここで働く時間なので、一生懸命働きます」
「そうですか、ではよろしくお願いします」
奏太は軽く会釈をし、カヒロも釣られるように会釈をした。
それからしばらくして、待ちきれなかったのか、カヒロの部下が客としてやってきた。
カヒロは彼らに笑顔で合格が出たと合図を出し、部下達も無言で合図を返した。
満面の笑みで。
いつもありがとうございます。
活動報告の方のコメントもどうやらログインしないといけないみたいなので、
一時的に制限なしにしてみました。
小心者なので、ふと気づけばまたユーザーのみにしてたりしてそうです……。




