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第18話 機械化




 創意工夫がオープンして一週間。

 ついにというか、本当にというか、そろそろ店が回らなくなってきた。

「カフェは食券制にしよう」

 奏太が名案だと口にした言葉にキマエルが肩を大きく震わせる。

「また新商品ですか!?」

 作る手間を減らそうと言ってきららと奏太はカフェのメニューをコロコロと変えてしまう。最近では甘いものにこだわらなくなり、おにぎりになったり、鍋になったり、試行錯誤を繰り返している。

 もちろんそのせいで、客が足しげく通ってきている。本来なら喜ばなくてはならない連鎖反応だが、従業員にとっては負の連鎖となってしまっている。

「違うよ。従業員の手間を減らそうっていう機械」

「でも食券は魔道具的に難しくないか? 回転寿司形式の方が楽そうな気がするぞ?」

 奏太の言葉に誠が疑問を投げる。

「むしろ、全商品にバーコード貼ってセリフレジにしたいよ……」

「あー、いいな、それ」

「それも欲しいな~」

 きららの言葉に疲れ切ったように、誠と奏太が同意する。

「むしろ、トモが人手で欲しい……」

「「「同感」」」

 ミチルの言葉に三人が同意する。

「簡単に言うと、計算する人、商品を作れる人、材料を調達できる人、接客する人が欲しいんだよね。一人四役じゃなくて、一人一役でいいんだけど」

 指を四本立てて奏太がため息とともに口にする。

 計算機が無いので、人為的なミスがないようにと今、会計は四人のうちの誰かが立ち、トモに計算してもらって会計している感じだ。

「……レジスターはたぶん、作れる。値札を読み込んでそれを計算するってのは出来ると思う」

「じゃあ、それを読み込みする人を雇えば、どうにかなる?」

「たぶん」

「うーん。だとすとやっぱり、カフェは食券の方がいいかな?」

「たぶん」

 奏太の確認に誠は少し考えたようだが、頷いた。

「あ!」

 ミチルが声を上げてぽんっと手を叩いた。

「ぬいぐるみゴーレム」

「「「「は?」」」」

 きらら、誠、奏太、だけでなく、キマエルも不思議そうに聞き返す。

「ぬいぐるみでゴーレムを作って、それに会計をしてもらえば良い。バーコードをスキャンするゴーレムとレジスターを使うゴーレムの二体」

 Vサインにも見える、二本指にきららがさらなるアイディアを思いついたと指を鳴らした。スカった音がしたが誰も優しさでつっこまなかった。

「そうだ! カフェもぬいぐるみにしようよ。お茶くみ人形だっけ? からくり人形で有名なやつあるよね! あんな感じでやったら可愛いんじゃない? 一番テーブルに持って行ってってお願いしたら持って行ってくれるし!」

「あれって、サイズ的にかなり小さいよね。そんなのが足元うろちょろしてると蹴りそうで怖いよ。サイズはせめて子供くらいにしよう」

「あ……、そうか。栽培とかも、商品作りもゴーレムによる機械化をしちまえばいいんじゃね?」

「あ、金平糖とか、餅つきとかもそれで出来るかも、いや、手順を色々考えて工夫したら、もっと色々出来るかな……」

「出来上がったのを亜空間倉庫に保存して貰えば、二十四時間フル活動できるよね?」

 ミチルの言葉を皮切りに、誠、きらら、奏太が考えを口にする。

 疲れ切っていた表情が、活路を見いだしたと明るくなり始める。

「亜空間倉庫を共有化できれば、なお便利」

 ミチルが最後の一押しを口にする。

「って、事は、だ」

「拠点づくり、だよね?」

 きららが誠の言葉の先を口にする。

「ああ、無人島がそれなりにあったよな? それ、まるまる使っちまおうぜ」

 誠は笑い、他の三人をつられて笑う。

【少しお待ちください。人目につかない所をゴーレムによる機械化をしても問題はないのですが、人目が付くところはこの街の住人を雇い、また各商店の商品を購入、加工後に販売する許可を得た方がいいと思います】

(それはなんで?)

 きららが首を傾げる。

【一か月という期間限定のため、悪意を持つ者はまだ少ないですが、連日の盛況ぶりに不満を募らせている者は多いと考えます】

(そっか。念のためも含めてそうしようか。ボクが明日から各店舗回るよ)

 金儲けが目的じゃないので、気楽なものだ。

「じゃあ、拠点をどこに作るかってなると……。北は無いよな」

「ないね」

 地図を見ながら四人はそう結論を出す。北には邪神族がいるからだ。

【農業の事を考えると東側の島がいいと思います】

 地図に候補が赤く色づく。

(じゃあ、それで)

(((異議なし)))

「じゃあ、方針決まったって事で、俺ときららとミチルは拠点づくり及びゴーレムづくりだな」

「ボクは求人ポスター作って貼ったら、そっちに合流する」

「キマエルはみんなの護衛」

「は、はい。やっぱりまだ警戒した方がいいですか?」

「販売してる塩が一向に減ってないからね。独自の製造方法があるんじゃないかってくるんじゃない? みんなに不自由をかけるのは心苦しいけど」

「別に問題ないさね」

「んだべんだべ。いっぱい稼いで、村さ帰る時お土産いっぱいこうて帰るんだべ」

「しょうじゃべ」

「気にするほどの事でもねぇっぺ」

 それぞれの村人達は楽しそうに笑う。

「……師匠方、お願いがあるのですが、よその人を雇っても良いと思うのであれば、護衛も雇いませんか? 元同僚達であれば、信頼も出来ますし」

「んー。そうだね。いいよ」

 奏太が許可を出したのでキマエルは安堵の顔を見せる。

「では泊まる場所も宿屋ではなく、神殿で泊まれるかも聞いてみます」

「ああ、じゃあ、そっちもよろしく」

「行ってきます」

 そういってキマエルは駆け出していき、遅れる形になったが、誠、きらら、ミチルも店から出る。

「毎日大変だべな」

「ちんまいのに、みんな頑張ってるさね」

「この一ヶ月でどこまで稼げるかにもよって、みなさんの生活も色々変わりますしね。頑張りますよ、もちろん」

 奏太はなんの含みも無い笑顔をみんなに見せた。

 その笑顔を見て村人達も笑う。

「ソウタちゃん達は不思議だべな」

「不思議ですか?」

「不思議だべ。どっからそんなすっげ考えが浮かぶのか、わっかんね」

「金儲けしようと思ったらもっといっぱい出来るのに、する気ないさね。こんなジジババ雇わなくてももっと若い子雇えば、もっと安くでもっと働いてくれるって分かってるさね」

「ボク達は皆さんの生活がよくならないと帰れないんです。金儲けよりも先に、そっちなだけです」

「カッカッカッカ。ソウタはあまのじゃくだべ。言ってることとやってる事がてんでばらばらだべ」

 お茶を飲みながら村の男が笑う。

「金さばら撒いて、一時的にでも良い暮らしさせるんじゃなくて、他にない技さ教える辺りがおいらたちの未来を考えての事だってわかっべ」

「ソウタちゃん達はほんっに良い子だべ」

「ソウタうちの孫、嫁に貰うか?」

「ダメだべソウタちゃん、これの孫、まだ四つだべ! それよりもうちの孫、貰うといいべ。花の盛りの十二だべ!」

「お言葉はありがたいですが、将来は国に帰るのでもらえません。それよりも、手を動かしてください」

「連れて行ったっていいんだべ。うちの孫」

「ソウタちゃん達ならちょくちょく連れて帰ってきてくれそうだしなぁ」

「んだべんだべ」

 そんな会話に奏太はもう入らず、求人のポスター作製に集中する事にした。

(十二歳で、花盛りなんだ。って事は十七とかでももしかしたらもう……。いや、考えるのは危険かも。止めとこ)

 もし一瞬でも、ちらりとでも考えた事を、ミチルはともかく、きららに知られたら、明日の朝日は見られない気がして、奏太は頭を横に振り、ただ無心でポスターを作製していった。

 

 

 

「とうっちゃく!」

 目的の島、その海岸に三人は降り立つ。

「家、作るならやっぱり島の真ん中か?」

「そうだね。家の作成は誠君がする?」

「あー……大まかなのはする。内装とかは女子に任せる」

「キララに任せる」

 かぶせるようにミチルが言う。

「はーい。ミチルはどうする?」

「海岸でゴーレム作って、海藻と貝と魚介とかを取る。後、塩を作るゴーレムも作る」

「じゃあ、あたしは畑作るゴーレムかな。ある程度が終わったら掘っ立て小屋作って、その中でサトウキビ絞ろうかな」

 三人はそんな事を言って別れる。

 海岸に残ったミチルは言ったようにゴーレムを作ると食べれる貝や昆布を取ってこいと命令を出し、ゴーレムを作っては命令、作っては命令とゴーレムの数がどんどん増えてくる。

 最終的には森にある蔓などを使って網を作らせるとゴーレム達を海の奥にまで行かせて地引網代わりにしばし立たせて、三時間後には戻ってこさせると干物づくりを始めた。

 一方きららはゴーレムに畑を耕させ、出てきた岩などをどかせて畝を作り、種を植えさせると、次は水田を作らせ、そこに稲の苗を植えさせる。ゴーレムの一部に『促成栽培魔法』の魔法陣を書き込み、順繰りに魔法を唱えさせて作物を育てていく。

 また植林用の苗を使い、五時間に一本のペースで大木まで育つようにゴーレムを並べる。

 その横では石で作った窓すらない小屋にゴーレム達を配置した。

 正方形に紙を切るゴーレム。きららから渡された絵を木炭で延々と正方形の紙に描き続ける子供サイズのゴーレム二十体。それを回収して、二枚二十種の四十枚をそろえて、包装紙に包んでいくゴーレム等だ。

 その横の掘っ立て小屋には薄くスライスした木の板に絵を描いていくゴーレム十体。それをパズル状に切り分けていくゴーレム二体。切り分けた物を巾着に詰めていくゴーレム一体。その隣で巾着を作るゴーレム三体がいた。

 予定では砂糖などを作ってもらうはずだったのだが。

「うーん。やっぱり食品だから衛生に気を付けないといけないよねぇ。煮沸すればいいのかな? それともゴーレムを真っ赤になるまで火にくべればいいのかな?」

 そんな事を悩んでいるきららが居た。

 素材も岩でいいのか、それとも木がいいのか、とトモと真剣に相談していた。

 そして誠の方はというと。

「水洗トイレじゃないと嫌なんだ。こればっかりは現代日本人としては、譲りたくないんだ。後風呂……。浴槽も欲しいけどシャワーも欲しい。あ、トイレットペーパーって、ゴーレムに作れるかな?」

 トモに自分の要望を伝えていき、設計図を書いてもらっている所だった。

 着工にはまだ時間がかかりそうだ。

 

 ゴーレム達はせっせと受けた命令をこなしていく。

 自分たちを作ったマスターが寝ていても。

 不測な事態にはサブマスターであるトモの命令を受け、せっせと夜通し己の仕事をこなしていた。

 

 

 

『急募


 一緒に働いてくれる方募集しています』

 

 そんな文字を見て、カヒロの部下はそのポスターを柱からはがし、慌ててカヒロの元へと走っていく。

「大変です!」

「どうしました、こんな夜中に」

 火急で。という事でたたき起こされたカヒロはやや不機嫌な顔で部下を見た。

 明日も朝一に『創意工夫』に並ぶつもりなのだ。最近では三時間は待つのは当たり前になっている。

 しかも、店の外に時計がつけられ、『8時オープン』と書かれてしまった。

 少しぐらい早く開けてくれてもいいだろう。という声はもはや届かないだろう。

 そもそも連日夜明けと共に行列が出来る状況がおかしいとも言う。

 一体どれほどの在庫があるのか。商品が入れ替わりはするものの、売る数が少なくなるという事はない。

 毎日ほとんど売っている商品の種類は同じくらいあるだろう。

「こ、これを」

「これは?」

「『創意工夫』にて張り出しされていた求人募集です」

 部下の言葉にカヒロは一瞬首を傾げた。しかし、はっとする。

「……働く人間を募集していたんですか!?」

「はい!」

 なるほど確かに火急の知らせだとカヒロは求人募集のポスターを見た。

「……手の内を見せるつもりなのでしょうか……」

「分かりません」

彼らがどこからきたのか、どこから在庫を持ってくるのか。何一つ情報はない。

 街の外に出て行くまでは尾行も出来るがそれ以降は一切どこにいるのか分からなくなってしまう。

 そしてまた不意に戻ってくると店の商品が種類が変わるが補充されていくのだ。

 謎だらけである。

「……求人募集ですか……。なら、私が募集を受けてもかまわない、ですよね」

「資格や条件などがないので構わないと思います」

「では明日朝一に、面接を受けるとしましょう。私がいない間の仕事の引き継ぎをしたいので、幹部たちを叩き起こしてきてくれますか?」

「かしこまりました」

 部下は一礼し去っていく。

 カヒロは改めて求人募集のポスターを見た。

「……こんな方法で求人を募るとは……。彼らは本当に面白いことばかりしますね」

 小さく笑い、ポスターを大事にテーブルに置いた。

 これが無くては面接を受けられないと思っての行動だった。


 

 

いつもありがとうございます。

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