第16話 こんな客もやってくる。
更新お待たせしました!
……と、勝手に思ってます! でも実際にちょっと間が空いてしまいましたね。ごめんなさい。
ほう。と、ため息をつくのが聞こえる。
「いやぁ、堪能しました」
そういって笑うカヒロ。彼のテーブルには緑茶や紅茶、せんべいにみたらし団子等の甘味の食べ終えた皿が残っていた。
やはりこれも一人五つまでだったが、もともと日持ちしないと聞いていたので店で留守番の者達の分のみを買い、部下の一部を商会に戻らせ、残った者はもう一度洋服を買うために並んでいる。
カヒロ以外にも幸せ気分で甘味を食べている者達は多い。
「それにしても、葉っぱとは驚きです」
新商品の「お茶」を見ながら感動した様子を示す。
木の葉と聞いてドキリとしたが、神からの許可は取ってあるらしく、売り上げの一部を神殿に寄付するらしい。また神殿でも売られているとの事だ。
神殿がかかわっているという事で買う側も安心である。
「いやぁ、見るもの全て新しい! 本当に素晴らしいですよ」
「ありがとうございます」
喫茶スペースの担当となった奏太が感動するカヒロの相手をずっと立ったまましていた。
忙しいんだから帰れ。
四人は思うが、この世界ではこういう場合だからこそ、この街の有力者と歓談できるほどの人脈があり、そして他の客に煩わしい思いをする必要もないくらいには人を使うだけの地力があるのだと、見せつけるものらしい。
本来なら応接室で行われ、代表者は? というあいさつに対し、それとなく誰々と会っているのだという感じで行われるそれは、カフェのおかげで、誰の目にも明らかな感じになっている。
そのせいかカフェに入ってきた客はカヒロの顔を見かけると、「へぇ」と呟いて入ってくるのだ。
どうやら人脈のお披露目は出来ているのだろう。しかし、四人からすると、とても無駄に思えるのだ。
「カヒロさま、せっかくです。お茶漬けも食べていきませんか?」
「オチャヅケ?」
「はい。まだ試作品段階なんですけど」
そういって奏太は一度引っ込むと、四人用のお米を用意し、海苔、それに割れて粉になったアラレを振りかけて、鯛のような魚の刺身をのせ熱々のお茶をゆっくりとかける。
それを通り掛けに見て、ぎょっとしたのはキマエルだ。
奏太はそれをお盆にのせ、小皿とスプーンを乗せてカヒロの所に向かう。
「どうぞ、パパイ茶漬けです」
お膳をカヒロの前に置く。
「……これは?」
「これは、我が国では、鯛茶漬けとして好まれているものです。お酒と一緒に食べる大人が多いとか。私達はまだ酒は飲めませんので、酒と一緒に味わうパパイ茶漬けの良さは分かりませんが、ここ数日はわりとずっとコレっていうくらいには好きなのですよ」
「……これは、生の魚ですか?」
「はい。お湯を軽く通してあります。鮮度の方は問題ありません。もしそれがダメなようでありましたら、どうぞ、そこの小皿によけてください」
ちょっとした嫌がらせだった。
忙しいんだから帰ってくれよー。っていうのが奏太の本音だったが、回りくどく言うわけにもいかないらしい。
ただ大人しく会話をするしかないのだと諦めていた時に思い浮かんだのがこれだったのだ。
自分の中で「帰れ」っていう意思表示が出来ればいいや。くらいだった。
パパイ茶漬けにしたのは、四人が最近忙しくてそれしか食べていないせいだ。
「……初めて見ますね。食べ方などは?」
「特にありません。好きなように食べてみてください」
カヒロはしばしそれを眺めていたが、スプーンを取るとお茶の中にパパイの刺身を沈め、ちらりと奏太を見上げる。奏太は逆に何でしょうとばかりにカヒロを見た。
「……こういう食べ方でもいいのですか?」
「はい、もちろんです」
笑顔で肯定する奏太に、カヒロはご飯とパパイの刺身を絡めて、それから一口頬張った。
「おー……」
小さく口にしたのはキマエルだ。奏太は注意するように顔を向けると、キマエルはすみませんと小さく謝って試飲用のお茶の準備をしていく。
「……全然魚臭くないのですね……。甘くて美味しい……」
飲み込むとカヒロは自分の口元を手で押さえ、それからお茶漬けをじっと見つめる。
「この固くも柔らかい食感はどれだろうか。ぷりぷりとした食感も良い」
試作品と言ったためか、それとも商人故か、真剣に商品として『パパイ茶漬け』を吟味している。
「……お口に合いましたでしょうか?」
「ええ! これは美味しいと思います!」
「それは良かった」
ほっとしたような笑顔を見せる奏太。
「ところで、この黒いのはなんでしょう?」
「海苔ですね」
「ノリ?」
「海藻といいますか……藻の一種になるのですが……」
「カイソウ……」
呟いて、カヒロは残った刺身を見る。
「パパイと言うと海の魚ですよね? どうやってここに?」
「そこは企業秘密という事で」
「おっと、これは失礼を。いやぁ、それにしても美味しい……」
もう一口と食べようとしたところに、老婆が一人入ってくる。
「ソウタちゃん。大変だべ!」
「どうかしましたか?」
おや、問題ごとのようだ。とカヒロはお手並み拝見とばかりに小さな笑みを浮かべて見守っている。
「外でお客さんが、この店の売り方はおかしい言うで、難癖つけてきで、それで」
なるほど、そういうところから攻めてきましたか。とカヒロは納得する。
適正価格にて販売しているから値引き交渉は受け付けない。チラシにあったこの言葉は、一方的すぎる。批判を集めたのだろう。
カヒロからしても、ある意味不適正。この値段でずっと常駐されたら、あおりを食らって何店舗か閉まってしまうのではないだろうか、という安値である。
少なくとも洋服店は今すぐに何かしらの改革が必要だろう。
「そ、そんでな! マコトちゃん、トイレ行く、いうてちょうどいなくて」
「ああ、それでボクを呼びに?」
奏太が確認すると老女は頭を横に振った。
「ミチルちゃんが、対応に出たべ!」
「「あー……」」
奏太とキマエルの言葉が重なる。
「……キマエル、お願い出来る?」
「はい」
「見た目で判断して、馬鹿な行動をし始める前に、大人の君が言った方がいいと思うから」
自分やきららでは見た目的に舐められるだけなのが目に見えて奏太はそうお願いする。
「はい」
キマエルは駆け出していく。
「君がいかなくて、大丈夫かね?」
「問題はないでしょう」
「ミ、ミチルちゃん、怒って、魔法どかーんと使ったりしないべか?」
「大丈夫ですよ。ミチルなら、こんなところで騒動を起こしたりしないはずです。なるべく静かにご退場願うと思いますよ」
少しだけ視線をそらして奏太は言った。
「……従業員の心配はしないのかい?」
「……仲間の心配はしますけど、ミチルはたぶん、ボク達の中で一番の魔法の使い手ですよ? 頭だって良いです。問題ないですよ」
奏太の言葉にカヒロはピンっと来た。朝、順路を作った少女であろうと。
「……見に行ってもいいかな?」
「……どうぞ」
野次馬をしたいというカヒロに奏太は小さく頷いた。
「ちょっと目を離した隙に、これか」
トイレから戻ると強面の男性二人がミチルに対して威嚇の様に見下ろしながら怒鳴りつけている。
「だーかーらー、お前んとこのぉー、売り方は可笑しいっつってるんだぁー! わかるか、ガキ」
「お前みたいな子供じゃなくて、大人を呼んで来い! 責任者呼んで来い!」
長い待ち時間の時間つぶしが出来たという意識なのか、オロオロするのは従業員としてここに来た老婆のみで、周りは傍観の構えだ。
「それともバアサン! あんたが責任者かぁ!?」
「ヒィィィ」
突然怒鳴りつけられて、老婆はお盆で顔を隠した。
「止める」
ミチルは男と老婆の間に入って男を睨み付けた。
「値引き交渉が出来ないのが不満だというのなら、買わなければいい」
ミチルがそう告げる。
「そもそも、値引きが必要な値段では売っていない」
「そんなのお前たち店舗の言い分だろ~」
「お客さん、困ります!」
店舗から出てきたキマエルを見て、男たちはキマエルに矛先を向けようとしたが、ミチルが片手を上げてキマエルを制した。
つまり、立場はミチルの方が上なのだと男たちの前で示す。
「店内では全て商品が陳列している。実際に商品に見て、触れて、選ぶことが出来る。出来上がりの細かな違いも、全て納得するまで見比べる事が出来る。値段も全ての商品に表示してある。会計の時にだまして高額を表示する事はない。表示価格と違うのら違うと、言えばいい。計算できないというのなら一個ずつ買えばいい。見て触って、この値段なら良いと納得して買うのだ。何がおかしい? 値段が高いと思うのなら買わなければいい。ただそれだけ、一体何が問題だと言う?」
「それとも、店に入ったら何かを買うまで出たらいけませんってチラシに書いてあったか? それなら、俺達もあんたたちの言い分認めるけど?」
誠が後ろから男達の肩をポンッと叩く。
「そもそも店に入ってもいないのに、売り方がおかしいなんて言われる覚えはない」
「チラシにも値段は記載してあったし。おっさんたちが言うほど、変な売り方はしてないと思うけどなぁ」
「黙れっ! このクソガキ!」
肩に置かれた手を払いのけて男たちは誠とミチルを睨みるける。
「ミチル師匠。街中で魔法はやばいですからね」
キマエルが小声で言う。
「…………そう……
ミチルが小さく呟いた。若干どころかかなり不安になるキマエル。
「そもそも! 塩をこの値段で売るのはありえねえだろ! 何かしらの混ぜ物をしているに決まっている!!」
「だから、買いたくないのなら買わなきゃいいだけ。希望する人にはきちんと中身を見せてるし、味見もさせている」
「砂糖だってどうせ中身の半分は偽もんだ!」
「そう思うのなら買わなければいいと言っている。そもそも半分は偽物だったとしても、買った人には不利益にはならない」
確かに。
そんな声があちこちから聞こえる。それだけの破格の値段だった。
「じゃあ! みんなに配ってる! その『オチャ』ってのはどうなんだよ! 聞いたぞ! 木の葉っぱを使ってるんだろ!? それをみんなに飲ませやがって!」
「神々からの許可は得てる。神殿の許可マークもある、神殿でも売っている。売り上げの一部は寄付になっていて、神のためにもなる。何か問題がある? あるのなら、この売り方に許可を出した、神殿の方にぜひ直談判を」
ミチルは冷めた目で男達を見つめる。
そのうちの一人は顔を真っ赤にさせ、肩を怒らせて、呼吸を荒くしている。
今にもミチルに殴りかかりそうな様子だ。
「はぁっ、はあっ、はぁつ」
歯を食いしばり、顔をこれ以上赤くなったら、いよいよやばいと思った時、その男の体が揺れた。
キマエルは思わずミチルの前に立ち、身構えたが、男は殴り掛かってくる事はなかった。
白目をむいて倒れたのだ。
「うわ、あぶね!」
誠が慌てて、男の体を捕まえ、隣で一緒に難癖つけていた男も倒れた男の腕を捕まえる。
「おぉおい! 大丈夫かぁ!?」
仲間の男はその両頬を何の漫画だと思うくらいに往復で叩く。
「はっ!?」
男は目を覚ました。しかし、勢いが止まらなかった右手がその頬を叩き抜く。
「いてぇなっ!!」
「目を覚ましたー!!」
怒鳴り声も喜ばしいとばかりに、男は両手を上げて喜んだ。
「大丈夫か? おっさん」
誠が様子を眺めながら尋ねる。
「……ああ、悪かったな……」
尋ねられて、男は自分が倒れた事に気づいた。
「どうしたんだよ~。急に倒れるからびっくりしたじゃないかぁ!!」
「いや、あんな小娘に言い負かされるのが許せなくてな……。頭に血が上りすぎたのか、呼吸の仕方まで忘れちまった」
「なんだよ、それー! 心配するだろうが~!」
「……とりあえずおっちゃんたち、もう帰った帰った。客として来るんなら明日以降にしなよ」
「「……」」
誠の言葉に男達は、呆れながら誠を見上げていたが、何かをいう事もなく、静かに立ち去っていく。
これ以上ごねるのは無理だと理解していた。
それを見送った後、ミチルはキマエルを見た。
「お騒がせしたお詫び。ここにいる人達にこれ、配って」
そういって差し出したのは皿いっぱに入ったおせんべいだ。
「は、はい!」
何が起こったのか、いまいち分からなったキマエルだが、どうにかなったらしいと、安堵して、言われた通り受け取ると先頭から順に渡していく。
「お騒がせして申し訳ありませんでした」
ミチルがそう頭を下げ、誠も頭を下げる。
それを見て、キマエルと老婆も頭を下げ、お茶とおせんべいを配っていく。
みんなからは笑顔が零れて、男たちに同調する動きはない。
それを安心したように誠は見た。そして声をかける。
(さて、ミチル。何やった?)
(男の周りの酸素を少し薄くしただけ)
誠の確認にミチルはしれっと答えるのだった。
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