第14話 商品は何にしよう。
いつもありがとうございます! 遊びに来てくださる方がちょっとずつ増えてくれしいです。
今日はいつもに比べてちょっと短めです。
「第一回、ジャパニーズアンテナショップ開店会議~」
ノリノリできららは言うが。
「いや、商品、全然日本と関係ないし」
「良いじゃないあたし達が出すアイデア商品ってことで」
「後日特許料が取られるわけか」
「徴収出来るものならして欲しいところだね~」
突っ込みを返してきた誠にきららはそれで帰れるのならと言った希望を少し混ぜて、受け流す。
「でも、店の名前は必要じゃない? そのうち、ドーンと自分達の店を持つわけだし」
「なら格安店の名前をそのまま使うとか。もじるとか」
「ドン・ホーテとか?」
「丼・スキーヤ」
きららの言葉に重ねてミチルがそんな事を言う。
「ミチルちゃんがそんな事言うなんてびっくりだよ!」
「他に格安店って、行ったことねーけど、コス……なんたら?」
「コスココとか、あっ! ココアココとかだったらかわいくない?」
ノリノリの師匠四人。
それを見逃せなかったのはここでは唯一の(この世界の)常識人であるキマエルだ。
「師匠方。お楽しみの所申し訳有りませんが、師匠達の考える商品を格安で販売されるとその他の店が潰れてしまいます。転売しようと思っても師匠達の方が空を飛んで行くので移動速度で負けるのが分かってますし」
「うーん、それを言われると」
きららが苦笑いする。確かにうまくいけば翌月には別の大きな街で同じように売っているかもしれない。
「別にそこまでして儲けようってわけじゃないしね~」
「それと、店の名前は代表者の名前を使うのが普通なのですが」
「それは却下で」
即座に奏太がその案を破棄する。
「そのまま、このメンバーの代表者にされそうで嫌だよねぇ」
奏太の不安を感じ取ったのかきららが笑う。
「アンテナショップってのは間違いでもない気もするけどな。俺たちが売るのって色んな村で作ったものって事になるし」
「その『アンテナ』?というのはなんなのです?」
「……って聞かれても答えに詰まるね」
キマエルの質問に対する答えは、きららのそんな言葉で、師匠達の秘密主義に内心キマエルは嘆息した。
「そんな顔しないでよ。意地悪したいわけじゃないし。ただ、あたしもあんまり説明できないんだもん。どんなもの、ってのは分かるんだけど」
「電波の送受信?」
「って、答えると今度は電波って何? ってなるわけだろ?」
「この国に電波は無いから説明無理」
ミチル、誠がたたみかねてきて、キマエルは理解を諦めた。
きっと詳しく説明されても分からない事だけは理解した。
「店名は嫌味を込めて『創意工夫』をプッシュする」
「本当に嫌味だね、ミチル」
「でもいいんじゃない? 分かりやすくて」
「俺も反対は無し」
「まあボクも反対はしないよ」
四人の意見が出そろうと、四人はキマエルを見た。
「えっと、店名として通じるかどうかは、実際にやってみないと分からないと思いますが……」
ただ、キマエルからすると店名にはふさわしくはないが、自分たちの名前を使うのが嫌だと言っているのだから、仕方がないのかもしれない。それにここで変に否定したら自分の名前が使われそうな予感も若干して、キマエルは肯定も否定もしない選択をした。
「反対意見がないって事でいいのかな?」
奏太の言葉にキマエルは頷く。
「じゃあ、店の名前はそれで決まり。次に置く商品の事だけど」
「今決まってるのは洋服だけか?」
「土器もだね。後は布の端切れを使って髪を結ぶ紐なんかもどうか、って案かな? 前髪留めてるの見て、皆がいいね、って。あとそうだ、試着室作ろうよ試着室。似合う、似合わないは実際に着てみないと分からないし」
「あ、ピーラーもどうかな? 魔族のみなさんの反応を見るに良い感触だと思うけど。わざわざ販売したいって言ってくるぐらいだし」
「茶葉」
「お茶か~。……卵が使えたらクッキーとかも出来るのに」
「卵アレルギー用のお菓子だったら?」
「……なるほど、やってみる」
「なら、いっそ、喫茶もするか? 実際に飲み食い出来るように、奥の応接室を喫茶店にしたら外の音もそんなに聞こえないだろうし、ゆったりくつろげるんじゃね?」
「いいね! 軽食とかも出したい~!」
「誠、きらら。ボク達四人しか居ないからね?」
手広くやりすぎても手が回らない。
「なら、人を雇う?」
「雇うって」
「魔族?」
「止めた方が良いと思います」
今まで会話に入れなかったキマエルが慌てて待ったをかける。
「まだ魔族を憎む人も多くいますので」
キマエルの言葉に沈黙が落ちる。
「……そっちの課題は後回しにしよう。衣類コーナーに関してはおばさん達の手を交代で借りよう。本人達も作ってるのが売れていくのは嬉しいだろうし」
「あ、あと、岩塩は売ってもいいんじゃないか? 駄目なのは真っ白な塩なんだろ? 俺達が使う分の塩はミチルがまだ作ってるんだろ?」
「海水引き込んでずっと作ってる。ついでに蒸気を利用して水も作ってる。にがりもあるから、大豆があれば豆腐が作れる」
「じゃあ、岩塩は売る? それともきらら、使う?」
「普通の塩でいいよ。岩塩は癖があるし、溶けにくいし。使いにくいもの」
「じゃあ、それも売ろう」
奏太が結論を出したところでミチルが手を挙げた。
「いっそ、毎日先着100名様にプレゼント」
「それは、買った人?」
「……来店記念のつもりだった。が、どうせならその方が良さげ……」
「じゃあ、幾ら分買ってくれた人にはって感じでこっそりプレゼントは?」
大々的にやると市民よりも商人の方が来そうで、先に提示はしたくないな。ときららは思う。
「小分けしてやった方がいいんだろうが、その小分けがめんどくさそうだなぁ」
「入れ物も土器だと、ちょっとした拍子に割って散乱しそうだなァ……」
きららの案に、反対するつもりはないのか、いかに小分けするかで頭を悩ませる。
布の袋とかでもいいのかもしれないがどうせなら、ここでしかやれない事をしたいと思うのだ。
「開店準備とか、開店直後とか、慌ただしそうだもんね。間違ってやっちゃいそう」
「プラスチック容器が欲しい……」
誠がため息と共に言って、せめて、木製の入れ物とかせめて……。と、思い当たった事に誠は顔を上げる。
「竹は!? 樹木は神の許可が無いと伐採出来ないんだろ!? なら竹は?」
突然勢いよく尋ねられたキマエルは少し面食らいながらも答える。
「竹なら何も実らないので問題なく切っても良いですが、あんなの、何に使うんです?」
「よし! 細い竹に塩入れて使おうぜ」
誠の言葉に奏太がもう一つ思いつく。
「あ、竹があるならたけの……」
「タケノコは米のとぎ汁が無いと灰汁が抜けなかった気がするよ」
きららに遮られた奏太は、「そっか」と力なく呟くだけだった。
稲や大豆や麦やらとここ数日のうちに何度も出てくる単語に、ミチルは密かに「原点に戻る」と考えつつ、もう一つの議題を出す。
「あと、遊ぶ物」
ミチルがそう言うときららが声を弾ませ答える。
「トランプ!」
「紙的に無理」
今度は奏太がをばっさり切り捨てた。しかし奏太の言う事は正しいときららも他の案を考える。
「昔の遊びってなんだ?」
誠が腕を組み考えつつ問うとミチルが即座に答える。
「蹴鞠、貝合わせ」
「昔すぎるそして、貝合わせは絵がすぐには無理だろ……」
「その技術を今のうちに練習って、手もあるけど。それも追々だね」
「て、なるとぉ……。なに?」
必死に頑張って考えようとするが、きららが考えて出てくるのはウノやら人生ゲームやら、将棋にチェスと作るのも難しいが説明も難しいというものが多かった。
「けん玉、メンコ、コマ、竹とんぼ、竹馬、紙相撲、福笑い、凧……あとは、えーっと、ヨーヨー?」
誠が頭をひねりながら出す。
「あ、積み木に……なわとび?」
「縄跳びはおもちゃか?」
ミチルの言葉にいささか疑問をもって誠が訪ねる。
「みんなでやる」
「あー。大縄跳びか。それなら遊びと言えば遊びだな」
「……トランプは無理でもジグソーパズルは?」
やっと一つ思いついたきららが伺う様に口にしてみた。
「あの形に切るのは俺達じゃないと無理じゃないか?」
「それでもいいんじゃないかなぁ? 大人向けって事できちんと着色もして、ちょっと割高に」
「ジェンガとかリバーシでもいいかもしれないけど……どっちにしても、多くは木材か……」
奏太が言葉を切り、一番の問題点を上げた。
みんなで上げたものの多くは紙や木を使う。その方が安全で、安かったという事情もあったのだろうが、ここではそうもいかない。
「神様に許可が取れれば斬って良いんだろ? それをしたらいいんじゃないか?」
「それか、商品用に植林して使う」
「それ、何年計画?」
ミチルの言葉に誠が苦笑と共に質問すると、ミチルがにやりとする。
「トモに確認した。魔力を消費させて植物を成長させる魔法がある!」
「マ・ジ・デ・カ!」
「へー。それは良いね。……なら、色々売れるもの増えるかもしれないなァ」
「あ、あたし、それなら油も売りたい。揚げ物のレシピと一緒に」
「俺、明日急いで米と麦と砂糖と小豆を見つけて来る。で…………どこで栽培する?」
「え? 村じゃダメなの?」
「いや、魔法を使って栽培速度を上げるってんなら、村じゃない方がいいんじゃないか? たぶん、それ多く魔力使うんだろ? 村のみんなには無理だよ」
「あ、もしかして夕飯の時に家が欲しいって言ってたの、それもある?」
そんなやり取りが繰り広げられる。それをキマエルは必死に聞いていた。
四人から出てくる単語の多くは分らないものばかり。それでも必死に聞いているのは、時折飛んでくる非常識な話に一声入れる事だ。
(……魔法で栽培速度を上げる……って、師匠たち、さらりとトンデモナイ事を言うんだよな……)
色々話が二転三転する上に、キマエルには着いていこうとするのに必死だ。
なので気づけば。
「じゃあ、商品はこんなものかな? 残り期間は短いけど、魔法で切り抜けるって事でガンバロ! オー!」
きららが〆に入っていた。
とりあえず、キマエルも空気を読んで、「オー!」とだけは口にした。
*****・・・*****
その日、奏太はアメニウム総合商会の買取カウンターの処に居た。
「すみません。カヒロ代表はいらっしゃいますでしょうか?」
言いつつ、塩が入った壷をカウンターに置く。
「ぜひ、これの買取をカヒロ代表にと思いまして」
「……少々お待ちください」
買取カウンターに居た女性はすぐに店の奥へと入って行った。ほどなくカヒロは出てきて、ほんの少し驚きを顔に出し、それらをすぐに消して笑顔を見せた。
「いらっしゃいませ、塩の買取との事ですが」
「はい。以前、こちらできららと誠がお世話になったとの事で、開店の報告も含めて挨拶に参りました」
奏太の言葉にカヒロは少し安堵したような笑顔を見せた。
「そうですか。こんな処ではなんですので、どうぞ奥に」
「はい、失礼します」
中に通されて、あの日の様に座るとやはり持ってこられるのは水で、奏太はなるほどねェ。と内心呟く。きららが「意外だった。納得だけど、意外だった」と言っていた事を思い出す。
水は確かに貴重である。しかし、こういう店ならそれこそ『お茶』が出そうなのに、と思ってしまう気持ちも分かる。
「私は奏太と申します」
「これはご丁寧に。私は、カヒロと申します。ソウタ様がキララ様達がおっしゃっていた代表の方で?」
「……そんなつもりは本人にはないのですが、まあ……消去法で、そうなるんでしょうね……」
ほんの少し遠い目を見せて奏太は口にする。
「それで、カヒロさん。塩なんですが、布と皮が欲しいので、そのままいくつか交換出来ないでしょうか?」
「布と、ですか? 先日キララ様がいらっしゃった時もいくつかお求めになられましたが」
「はい。でも足りなくなりそうなので」
「そうでございましたか。いかほどご用意いたしましょうか?」
「在庫の半分程」
「……半分、ですか?」
「はい」
言いつつ奏太は塩をテーブルに並べていく。
「あと、ぼ……私たちで作っている塩も、月一度くらいのペースで買取をしてもらえたら、と思うのですが、いかがでしょうか? 買取価格自体は適正より安くで構いません。この付近で買い取りをしてもらえそうなのはアメニウム総合商会ぐらいしかないので」
「それは構いませんが……。自分でお売りにはならないので?」
「……そのうち、売るかもしれませんが、今はまだ」
「そうですか」
「それと、コレ」
そう言って奏太が差し出したのはチラシだ。
「明後日オープンするので、作ってみました。こちらで買い物した方々に配ってもらえないでしょうか? もちろん、料金はお支払いします」
差し出されたチラシにカヒロは商人として大きな衝撃を受けた。
こんな形で店を紹介する方法を見た事がなかった。大体は人を使い呼び込みをするものだし、紙がそう安くも無い。
人を呼び込むためにいったいいくらかけたのか。そう思うが、その紙自体が見た事もないもので、下手な呼び込みよりもずっと多くの商人の興味を引くのが分かる。
このチラシ一枚で、必ずその店に行く気になる。それほどの物だった。
「……この紙も、売り物ですか?」
「……そうですね」
売るつもりは無かったが、確かに売ってもいいかもしれない。と奏太は思い当たり、売値の基準を知るためにカヒロに質問する事にした。。
「……カヒロさんならこれ、一枚幾らで買います?」
「……そう、ですね……。一枚七千円でしょうか」
(たっっっか!!)
奏太は上げそうになる声を必死に押さえた。
【この世界の紙はおおよそ五千円です】
(……)
トモからもたらされた情報に、奏太はもはや無言だった。
(日本の雑貨をここで売ったら一気に億万長者だなァ)
そんな事を思いながら奏太は笑う。
「いえいえ、そんなにはしませんよ」
紙を売る時は絶対に五千円以下にしよう。
「……なんでしたら、チラシを配って頂く代わりにこちらを差し上げましょうか?」
おおよそ二百枚くらいを取り出して差し出す。
「おぉおお! よろしいのですか!? このカヒロ必ずや、みなさまの店を宣伝してみせましょう」
がっつりとその紙束を捕まえてカヒロは良い笑顔をみせた。
その笑顔と紙を捕まえる力強さに商人だなと奏太は心の底から思った。
土日のどちらかはなるべく更新しよう。と思うのですが、今週は色々用事もあるので、難しそうです。