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第13話 想い

いつもありがとうございます。

ちょっとずつではありますが、頑張っていきます。

これからもよろしくお願いします。



 きららは薄い木板を床に置き、トモが用意した型紙をモニタに映し出し、木板に合わせる。

「トレース!」

 それを合図に木板が燃え、型紙通りに余分なものが燃え落ちる。それを繰り返しながら新しく作った土鍋に途中で拾った植物を煮詰め、買ってきた白い布を入れ、着色していた。

 ここは四人が最初に来た村、チプーラ村。

 秋の税を自分達で確保してもらうためにも、この村に仕事を持ってきたのだ。

 誠は買ってきた種を半分渡し、適切な栽培方法を(トモが)レクチャーしていた。

 仕事があるとみんな落ち着くのか、男達はやる気に満ちた顔で誠の話を聞いており、女達は自分達が着る服を縫っていた。

 時間短縮のためか、布から染色するのと、作った後に染めるのと両方をするようだった。

 四人が初めて来た時に比べたらずっと活気のある村の様子だったが、初めて来たキマエルはどこか茫然としながら見回っていた。

「キララ師匠、ここは……なんなのですか?」

 村人がいないのを確認してキマエルが声を潜めて尋ねてくる。

「……なんなのってのは、どういう意味?」

「ここまで酷い農村は初めて見ました」

「……割と平均的な村らしいよ」

「なっ!?」

「過疎化したというか、させた村を見捨てて、働ける人だけを街に集めるってのが一部の領主達がとってる政策みたいだね」

「そんな、民を守るべき領主がそんな事を……」

「少人数を切り捨てて、大勢の人を助けるっていう意味では、正しいのかもよ?」

「本気で言ってるんですか!?」

「そういう考え方もあるし、領主がそう考えちゃったのなら、仕方がないでしょ? ここの人達が直談判にいけるわけないし、だから、あたし達はあたし達で出来る手助けをするの」

「……手助けですか?」

「そう。まずは練習がてら自分たちの着る洋服を作ってもらう」

 洋服というよりも、もはやボロ布を巻いただけの格好に近い村人達なので、まずはそれが最初の仕事だろう。

「そのあとは売るための洋服作り。出来上がった物をあたし達がお店に並べて売るの。で、売上の一部から材料費は取るし、お店代と人件費は取るけど、基本的に売上はこの村に返すつもり。そうやっていくつかの村や町の自立? 自活? とにかくそんな感じの支援をするつもりなんだ」

「……この村の人々は裁縫の適性を持っているのですか?」

「適性がなくても裁縫くらいは出来るよ。上手い下手はあるかもしれないけど。少なくともほつれを直すとかはお母さんがしてるんじゃない? キマエルさんのお母さんだって、適性とは関係なしに料理したり、裁縫してたりしてたんじゃない?」

「しかし、売るとなると……」

「買う買わないはお客さんの自由だよ」

 きららは言って笑った。どこか自信満々だった。

「あたしなら同じお金払うならかわいいもの着たいもの」

「……その結果がそのスカート丈ですか……」

「これは学校の制服! そこまで短いわけじゃないよ!」

「十分短すぎますよ!!」

「……ここの国の人の感覚だとそうなっちゃうだけだもん」

 少しふてくされた感じできららは返した。




「テレッテッテ。テレッテッテ。テレ~レ~レーレテレレレ♪」

 誠が音程を外しながらとある料理番組のBGMを口ずさみ、水に浸けてふやかしたトンフを茹でていく。

 満面の笑顔だ。初めて見るほどの笑顔で誠は味噌作りをしていた。

 誠君がちょっと不気味だ。と思いながらきららは報告していく。

(で、来月の頭からお店使えるみたい。当主様には会えなかったよ)

(そう)

 きららの前には綺麗な色に染められた布が乾かすために干されいて、のどかな景色に見えた。

 鯉のぼりってやったら観光になるかなぁ。とかそんな呑気な事も考え始めた。

 そう思うぐらいには見所があった。

(で、実際に染めをやって思った事は、染め作業はここでやるのは止めようって思ったの)

(どうして?)

(生地だけでも結構売れそうだなって思ったから。ここがエリリスカイ領になった後ならいいけど、今はやだなぁって)

(でも洋服作りだって金は入ってくるんじゃ無いの?)

(Tシャツ作りは簡単なやつだから。デザインも布の組み合わせぐらいの簡単なやつだし。型紙を奪われたとしても気にならないかな。その気になったら買った奴を分解して型紙にしちゃえるくらい簡単だし)

 そう思ったから、服そのものよりも、着色技術の方が重要だときららは思ったのだ。

(あと、そっちで裁縫用の針、何本か作って貰えないかな? あと、はさみ。裁縫用にって買ったののどちらかというとカッターっていうか小刀っていうか、使いにくいものだったんだ~)

 針は思ったよりも太かったし、動物の骨を使っているものも多かった。

(分かった)

(魔族のみなさんには頼ってばっかりになっちゃってるなぁ、あとでお礼しなきゃ……)

(あァ、確かにそう思ってたんだけど、昨日誠が作ったピーラーだっけ? 皮剥くやつ)

(うん。それがどうかした?)

(あれを作らせて欲しい、そして売りたいって言われてね)

(いいんじゃない?)

(うん。だからたぶん、ハサミのお礼も結局の所それを売る許可を出せばそれですむんじゃないかなっと)

(奏太君がそう思うならそれでいいと思うよー。自分達で広めようって思うのなら全然かまわないしぃ。なんというか魔族領のみなさんはそこまで手がかからないようで嬉しいねぇ)

(確かにそうだね。じゃあ、あと九日間でどこまで商品作り出来るか、か)

(あ、そういえば塩は売らない方がいいみたい。高品質過ぎてたぶん、お店のコンセプトと合わないかも。安く売ると他の業者さんに迷惑になるし)

(……じゃあ、今日会った商人さんに定期的に売って、友好関係を結んでおこうか。領主さんと会う時のツテに出来るかもしれないし)

(それは良い考えだね)

(後は品揃えと在庫かぁ)

 塩が使えないとなると、土器と洋服くらいだろうか。高級品とした扱いで塩を売るのも可能ではあるが、きららが言うように店のコンセプトには合わないので主力商品にするわけにはいかない。

(宣伝方法も考えないとね)

(それもあった……。パピルス紙の作り方でも調べてチラシでも作るかな)

 和紙だと確か糊のようなものが必要だったはずだと奏太は他に浮かぶ古紙を口にする。

(とりあえず、夜までにあたし達しかできない事と、他の人にも出来るってものにわけて、明日には作業を……って、そうだよ、まだほとんどの村とコンタクトとってないよぉー!)

(ああ、そういえばそうだね。昨日行ったのは魔族領がほとんどか……)

(うん。そう。明日の炊き出しについて行って、ノウハウ教えてくるかぁ……大変そう)

(頑張れ)

(頑張る。そっちも頑張ってね。魔王様達に説明するんでしょ?)

(草木染はそんなに難しいわけじゃないし、問題ないと思う)

(そっかぁ、いいなぁ。魔王様達にお願いするだけで良いってのは楽だよね~)

(そうだね。まあ、貴族達が邪神族と繋がってる時点で人族には絶対名乗れないなって思ったけど)

(はぁ……。前途は多難だ)

 きららはもう一度ため息をついた。上機嫌で味噌を作っている誠がうらやましく感じた。それとも自分も砂糖が見つかったらあんな風にウキウキと作業をするのだろうかとまだ見ぬ調味料に思いを馳せた。




「みっそしる・みっそしる・みっそしる」

「はーい、もー、もうすぐで出来るから!」

「見てくれよ、これ! すごくねぇべか!?」

「色が着いただけでずいぶんとかわるべ」

「もうちっと若い頃にこんなのがあったら……」

「キララちゃんみたいに切れ端で髪を結んでみるのもいいかもしんねぇべ」

「ソウソウ、落ち着いたらどっかに家を作ろう」

「急にまたどうして?」

「トンフってトドフの事だべ? あれって家畜のえさじゃなかったべか?」

「四人が変なもん食べさすんはいつもの事だべ」

 そんな色んな会話が花を咲かせている中、キマエルは村人達が作ってきている新しい洋服を見る。今彼らが来ているのは、既存の作り方で作った洋服だ。しかし、布に模様や色がついているだけで別物に見えた。

 同じ値段でプロが作った白い服と、素人が作った色のついた服、どっちを買うかと言われると。

「色付き……だよな」

 ぽつりとキマエルは零す。

 こうやって出来上がりを見たらキマエルはそう思わざるえなかった。たとえすぐにほつれたとしても、その部分は自分で直せばいいだけだ。

 服そのものよりもその布の方がずっと価値がある。

 キマエルは村人達を見る、正確にいえばその表情だ。

「……御見それいたしました」

 四人は自分よりもずっと若いのだろう。しかし見ているものは自分よりも深くて広い。

 聖女の息子として、人々に希望を与えたい。母から授かったこの力で人々に希望を持ち続けてもらうのが自分の使命。

 その考え方の何と浅い事か。

 彼らは勇者かもしれない。そう思う心はまだどこかにある。しかし、彼らが勇者を名乗らない理由が少しわかった気がした。

 キマエルは着ていた鎧と剣を外す。

 神殿のマークをしばし眺めた後、小さく笑みを作っていたが、意思を決め、ミチルの所に向かう。

「ミチル師匠! お話中すみません!」

 大声で割って入られたためミチル達の会話も他の人達の会話も途切れ、キマエルに視線が集まる。

「自分には、水の適性がありません。それでもミチル師匠たちは水を生み出す事が出来ると言いました。それは今も変わらないでしょうか?」

「変わらない」

 ミチルは頷く。

「では、この村の人達はいかがでしょうか? 彼らも水の適性はないと思われますが、それでも」

「出来る」

 言葉をかぶせてミチルは力強く頷いた。キマエルは安心したように笑って、頭を下げた。

「では、自分ともども村の人たちにも水を生み出す方法を教えてください!」

 ざわざわと、取り止めのなかった村人達の会話が一つの話題だけになる。

「……いいよ」

 ミチルが頷くとざわめきが一層強くなった。その大半が疑問と否定的な声だ。

「全員目を閉じて」

 その言葉にキマエルは従い目を閉じた。村人達は素直に従い目を閉じたり、否定的な話をしたりと反応が分かれたが、やるだけでもやってみようと言葉が飛び交い最終的には会話が止まり、全員が目を閉じた。

「想像してみて。貴方達にとって雨が降る雲はどんな雲? 朝起きて、外に出て、空を見上げたら、どこからこんなに流れてきたのか灰色の雲が一面を覆っていて太陽がかけらも見えない」

 そこで一度ミチルは言葉を切った。みんなが想像する間を作ったのだ。

「空気もどこか違う。肌に触れる風がどこかいつもと違う。そんな朝。灰色が濃くなってきて、一雨きそうだなって思っていたら、ポツリと水滴が落ちてくる。一粒二粒。雨の匂いがしてくる。そんな雲を、あなたたちの魔力が作る。あなたたちの魔力が煙の様に空に昇って雲になる。空を覆い、風の匂いが変わり、空気が変わる。…………魔力の雲から、水滴が落ちてくる。魔力が雨となって、落ちてくる。目を閉じて、想像して。落ちてくる雨を」

 静かにミチルの言葉が響く。無言の中、味噌汁を作る音だけが小さく響く。

 それだけだ。

 ああ、やはり駄目なのだ。

 そう誰かが目を開ける。

「つめたっ」

 そこに別の誰かの声がし、あちこちから、小さな声が起き、全員が目を開けて空を見上げた。

 ポツポツと、肌に触れる水滴。

「雨だべ」

「ああ、雨だべ」

「ほんとうに、降っただべか?」

「降ったべ」

 小さな声が広がり、呆然としていた声に喜色が混じり始めたその瞬間。

 バケツをひっくり返したような雨が突如降り出した。

「「「わぁぁぁぁ!!」」」

「全員食べ物もって退避~!!」

 喜ぶよりも先に、食べ物の避難が一斉に始まるのだった。

 どこでもいいから近場の建物にと鍋や肉を移動させ、干していた布も慌てて魔法で防御する。

 慌てふためき作業をする中、奏太が一言もの申す。

(ミチル! やり過ぎ!)

(違う!)

 奏太の言葉にミチルが全力で否定する。

(え? これ、ミチルがやったんじゃないの!?)

(え!? ミチルちゃん、皆を騙したの!?)

(あー、なるほど、どうりで上手くいきすぎる、と)

(だから違う! 最初の一、二滴は私だけど!)

 強く否定してミチルは空を見上げた。

(今降ってるのは、私じゃない。みんなの出来たっていう自信。あの瞬間、それが本当に形になった)

(なるほど、嘘からでた真ってやつか)

 味噌汁を大事に魔法で守りながら誠は空を見上げた。

(へェ、やってみるもんだねェ)

(これで皆の自信になって、希望になると良いよね)

 奏太、きららも嬉しそうに空を見上げた。

(……だから、私も止められない)

(((oh……)))

 ミチルの言葉に、三人はその瞬間だけ、確かに空を見上げる顔に悲壮感を表した。


 結局夕飯は所々で雨漏りのする村長宅でみんな仲良く食べる事となりそうだ。


 その日、みんなの想いで作った雨は、三時間も降り続けた。

 三時間も降り続けたのは、キマエルの魔力のせいだろう。

 だから村人達だけでやった場合、こんなに長くは降らないだろうという事は説明した。慣れないうちは失敗する事も多いだろうとも。それでも、誰も出来ないとはもう口にはしないはずだ。

 雨が止むかもしれないと待っていた時間、村人達の何名かは、お皿に水を出現させる事が出来たのだから。

 器の底を気持ち満たしただけの水ではあったが。

「村長ん家の雨漏りの方がもっと皿を満たすべ」

「おめぇん家の方がもっと雨漏りすげぇべ!」

 村人の冗談に村長の野次を飛ばす。

 そんな一幕もあったりした。それくらいには村人達は水を出すことが出来るようになっていた。そんな中、魔法を学校で習った影響で、村人達の様に素直になりきれないのか、キマエルは一滴分の水すらも皿の中に出す事が出来ずにいて、「兄ちゃんへただべなぁ」と村人達に笑われる事もあった。

「ミチル師匠~。他にも何か助言とかありませんでしょうか!?」

「えー……」

 そんな和気藹々とした中で再開した夕食会。

 今日は新しい調味料、味噌を使った料理が振る舞われて、村人達やキマエルの興奮はさらに高まる。

「師匠! これ美味しいですね!」

「トドフがこんな風になるべか、凄いべ!」

「マコトちゃん達はえらい、色んなコト知ってるべなぁ」

 大興奮の皆に、きららは笑顔を返した。

 返した横で少し首を傾げた。

「これはこれで、おいしいんだけど」

「うん。美味しいのは美味しい」

「それは否定しない」

 きらら、奏太、ミチルは肯定する。けしてそれは否定しない。

「でも、味噌汁っぽくはないね」

「なんか、『っぽい』味なんだよね」

「スカスカ」

 三人の反応はあまり芳しくはない。そして一番楽しみにしていた誠だが。

「うま味がないんだ……。麹菌がもたらしてくれる、深いうま味が……」

 黄昏れていた。

 かわいそうになるくらいに黄昏れていた。

「あー……。誠、明日は、麹菌探しに行ってくる?」

「そうそう、こうじ菌探しつつ、さとうきびとかテンサイとか探してきて欲しいかな?」

「稲に麦。任せた」

「任せろ!!」

 三人の気遣いに、誠は大いなる野望に燃えながら請け負った。

 明日にはみんなが求めているものが揃うかも知れない。そう思うくらいには誠は燃えていた。




キマエルの想い。村人達の想い。誠の想い。色んなもの含めてのタイトル。

タイトル付けようと思ったら今度はタイトルを考えるのが難しいなって思うようになり始めました。

そのうちくじけて『第●●話』だけで終わってしまいそうです。

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