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第12話 街に来てみた


「ありえません……」

 ため息交じりのキマエルの言葉にきららと誠は苦笑する。

「いやぁ、そう言われても、ねぇ」

「なぁ?」

 きららと誠はごまかすしかない。

「確かに確認しなかった自分も悪かったのですが」

 そう一言入れつつキマエルは前を歩く師匠二人を見る。

 塩を売って、それで得た金を軍資金にし、色々買い物がしたい。と二人は言っていたので、キマエルは神殿に売る事を勧めたのだ。そうすればお店で売っている値段での買い取りをしてくれるだろう。と。事実神殿ではその条件で買うと言っていた。それが本当に普通の塩であれば、だ。

「……しかし、あんな真っ白な塩なんて初めてみましたよ……」

 これを売りたいんですけどって言って机に並べられた塩壺。その入れ物自体も中々に珍しいものだったが、中身はもっと珍しいものだった。

 雪でも詰まっているのかと思う程の真っ白な塩だった。

 ナニコレ。と思ったのはキマエルだけで、料理担当や経理担当だった人物は知っていたらしく、目が飛び出しそうな程、目を大きく開けて異口同音に「無理です」と叫んだ。

「これ、海で取れる塩ですよね!?」

「貴族向けの塩じゃないですか!」

 と、二人は口にし、「こんな高級品神殿では買えません!!」と、むしろ話を持ってきたキマエルに対し、「常識知らずな」というような視線が飛んできた。

「海で取れる塩ってすっごく貴重だと言ってましたよ。珍しいと」

「俺達からしたら珍しくもないんだけどなぁ……」

 二人の言葉は事実なのだろうとキマエルは思う。何故なら、一壺を寄付金代わりに置いていったのだ。仰天しているのは神殿関係者だけで、誠もきららも惜しんだ様子もない。

「あたし達の感覚だと、岩塩の方が珍しいもんね~」

「そうなのですか……」

 三人は仕方がなく神殿で売るのは諦めてこの街で一番大きな商会へと向かう事となった。

「まあ、あたし達の国は島国だしね。周り海だったから、海での塩の方が当たり前なんだ」

「島国……」

 キマエルとしては塩の事よりも四人が住んでいた場所の方が気になった。

 島国。海に囲まれているという事だ。

(確か、北西の方に陸があるっていうのは噂では聞いたことあるな。天気が良い日にはうっすらと見えると……)

 しかしその陸地が島なのか大陸なのかはキマエルは知らない。誰も知らないはずだ。

(あの周りは海流も早く、大型の海の生き物も居て、未だに辿り着いた者はいないと聞いているが……、師匠達は問題無く全員飛べるからなぁ……)

 海流が早かろうが海に巨大な生物がいようが四人には関係ないのだろう。

 師匠達はあそこから来たのかもしれない。と心の中でメモする。

「それにしても、どうしてエリリスカイ領の都に?」

 近い所にもっと発展した街も、首都もあったのだ。そこではなくここにした理由が何かあるのだろう。もっとも秘密主義な所も多い四人故に教えて貰えない可能性も考えていた。

「もしかしたら将来ここにお店を持つかもしれないから」

 キマエルの懸念をあっさりと裏切り、きららは答えた。が、内容は意外すぎた。

「お店?」

「そう。お店。神殿の方で食糧支援をしてもらえるのならあたし達はお店を持ちたいなって」

「え? ……師匠達はもう村々を回って怪我や病気の治療はやらないのですか?」

「完全にやらないわけじゃないよ。ただ昨日のようにはやらないかな」

「…………」

 きららの言葉にキマエルは立ち竦む。それに気づいた誠が足を止めた。

「治癒魔法は教える。空の飛び方も教える。俺達のやり方についていけないと思ったら、弟子を止めて自分で世界各国を回れば良い。そんだけのことっすよ」

 今までに無かった新しい魔法。これだけのものを教えるというのに、そりに合わないと思えばすぐにでも抜けて良い。そんな風に軽く誠は言ってくる。 

「……師匠達は懐が広いですね……」

「懐が広いというよりは、やりたくない事を無理して付き合わなくてもいいよって思ってるだけかな。仕事ってのならまた話は別だと思うけど、俺達、キマエルさんに給料払ってるわけじゃないし。キマエルさんの意志一つで付いてきて貰ってるわけだしさ、無理強いなんて無理じゃん。師弟の関係だからって堅く考えすぎる必要はないって事で」

「……やはり師匠達は変わってます」

 その一言で気持ちを切り替えて、止まっていた足を動かす。

「それで、何を売るのですか? 塩ですか?」

「塩も売るね。あと、食べ物かな?」

「卵ですか?」

「警戒しなくてもここでは早々売らないので、安心して。魔族領では卵を使った料理を出すけど」

「……なんでそう卵を使おうとするのか自分にはわかりません」

「食べてみたら分かると思うんだけどねぇ」

 きららは笑う。自信を持っているようだ。

「ゆで卵とか卵焼きとか目玉やきとか」

「……卵を形変えて焼くだけじゃん」

「だって塩だけなんだもん」

「塩だけだときつい?」

「きついよぉ。早めにソースとか作りたいって思う物。でも、一番きついのは、お米も小麦粉もない事かなぁ……」

「あー……早めに見つけないとなぁ」

「ねぇー。他にもお味噌とか醤油とかも作りたいなぁ」

「味噌はぜひお願いします!」

 きららの言葉に誠は懇願した。

「いや、そこは誠君が頑張ろうよ」

「デスヨネー」

「そしたら味噌汁作るし」

「おう! ここでトンフってのを買う!」

「トンフ?」

 聞き覚えはある。と首を傾げるきららに誠はしっかりと答えた。

「味噌の材料。これで作れるって言ってたやつ」

「あ、流石。しっかり材料名を覚えてたのね」

「トンフ? 馬を飼うんですか?」

「馬? いや、食べ物のはずだけど」

「食べ物? 馬の餌にするやつですよね?」

「あー……そうなんだ」

 そんな扱いなのか。そう思ったが、だからどうしたという気分だ。

「ま、出来上がっての楽しみって事で。あとは洋服とかも売りたいかな?」

「師匠達が着ているような洋服ですか?」

「いや、これはすぐには無理だと思うからもっと簡単なやつかな?」

「そうですか……」

「あれ? 少し残念そう?」

「キララ師匠の丈の短さはどうかと思いますが、マコト師匠のズボンとか上着とかは素晴らしいと思います。言っては何ですが、お二人だけで街を歩いていたらスリの被害にあってること間違いなしと言えますよ」

「文無しだからスレる財布もないけどな」

 キマエルの言葉に誠は笑う。

「っと、あそこか」

 誠は視界の端に入ってきた店を見て呟く。

「お二方はこの街に来た事があるんですか?」

「無いよ」

「……無いのに、何故、迷わずに行けるのか自分には謎で仕方が無いのですが……」

 教会の場所にしても、商会の場所にしても、二人は迷うこと無く歩いて行く。

「師匠達の七不思議って事で気にしないでくださいね」

 適当な事をきららは言って、ナナフシギ? とキマエルは首を傾げながら付いていく。

 街一番の商会という事もあり、周りの店と比べて豪華で絢爛だった。……という事もなく、周りとの差がほとんどなかった。店のデザインはほとんど統一されていて、大きさだけがその店の力の差をしめしている気がした。

 店の種類を示す旗が揺らめき、出入り口付近には店名と店舗の種類が彫り込まれていた。

 アメニウム総合商会。

 この街で唯一高価な塩を適正価格で買い取ってくれそうな店と紹介された場所だ。

 中に入ると、すぐにカウンターがあった。

 店内は狭かった。そして商品がない。窓口があって、あとは順番待ちのベンチがあるだけだ。

 こんな店内は予想していなくて二人の動きは完全に止まった。

「師匠方、買い取り窓口は向こうのようですよ」

「え、あ、うん」

 戸惑いながら二人はキマエルが示す所に向かう。

「買い取りかい? 売るのはなんだい?」

「塩です」

 買い取りの窓口に居た男性にきららはそう答えて塩壺を一つ置いた。

「なんだソレ」

 見たことのない壺にきららは塩壺です。と答えた。

「中に塩が入ってるんです」

「塩? 家から持ってきたのか?」

「いえ、旅先で手に入れた塩でして」

「もしかして、自分達で塩を精製したのか?」

「はい」

 答えると、はぁぁぁ。と深いため息をつきながら男は横柄な態度で、カウンターを指でトントンと鳴らす。

「あのな、お嬢ちゃんよ。今度持ってくる時は岩のまんまで持ってきてくんねぇか? 素人が精製すると塩の部分まで捨てることが多いんだよ」

「はぁ……」

 いきなりの駄目出しにきららは、とりあえず相づちを打った。

(……商人の適性……があるから、ここにいるんだよね?)

 昨日のトモの説明を思い出しながらきららは問いかける。

【はい。彼の適性は商人になっています】

 どの辺に適性があるんだよ。ときららは言いたかったがぐっと飲み込む。

「買い取り額は低くなると思えよ」

 そう言って塩壺へと手を伸ばすが、それを遮るように、誠が塩壺を押さえた。

「……なんの真似だ?」

 男性は誠を見上げる。座っているために見上げる形になっているが、その目は誠達を嘗めていた。

 たぶん、ここに居たのが自分一人だったら誠はここでこの男を止めなかっただろう。

 どうでも良い気分で、負けず劣らず投げやりな態度だったかもしれないが、ミチルが付くって、きららが男と対面している。

 というか、こんな態度で『適性有り』と言われるのは、頑張ってる人に失礼ではないだろうか。という気がしてならなかった。

 魔王だってもっと丁寧だったぞ、と。

「なあ、おっちゃん。俺達、一応、客だよな?」

「はぁ? 何を言ってやがる? 買い取るのはこっちなんだ。客なわけないだろ」

「でも、買い取った塩をさらに売るんだろ? 最終的にはそっちに利益が出るようにさ」

「そんなのは当たり前だろ? それが嫌ならここで売らず自分達で売れば良いじゃないか。それが出来ねぇからここで売ってんだろ?」

 ちらりと塩を押さえ続けている誠の手を見て顔を上げた。

「買い取り額をさらに下げられたくはねぇだろ?」

「……」

 その態度に誠は塩壺を取り、カウンターから引っ込めようとした。

「お前は懲りないね」

 男の後ろに立った、別の男、口調からして上司だろう。男よりも若く、しかし身につけている服は男よりも上質であろうと思われる格好をした青年が声をかけて、男は驚いて振り返る。

「下がってろ」

 青年が言うと、男は舌打ちをして、カウンターの椅子から降りる。

 青年は後ろに控えていた部下に合図し、部下と男は一緒に店の奥へと入っていく。

「大変失礼いたしました。買い取りですね」

 にっこりと青年は笑顔を向けた。

 誠は青年を見て、きららを見た。それからもう一度青年を見て、軽く息を吐き、肩に籠もっていた力を抜き、塩壺から手を離す。

「それでこれをお売りに頂けるのでしょうか?」

「はい。旅先で手に入れた塩です」

「塩でございますか?」

「はい」

「失礼ですが、塩を作る職人の方ですか?」

「いえ」

 きららが首を横に振ると青年はなるほどと小さく頷いた。

 子供だから嘗めていた。というのもあるが、売る物が塩だという事もあったのだろう。

「塩には等級というのがあり、不純物の混ざり具合や雑味などにより値段が変わります。のでいくら塩と言えど、思ったほど高値にならない可能性はありますが、よろしいですか?」

「はい。構いません」

 きららはしっかりと頷く。

「そうですか。分かりました。それでは確認させて頂きます」

 そう言って塩壺を取り、蓋を開けて、一度その動きを止めた。

「……失礼ですが、味を見てもよろしいでしょうか?」

「はいどうぞ」

 同意を得て青年は塩を一つ摘まむと手のひらに乗せ、そのきめ細やかさと白さを確認し、それから匂いをかいで味を確かめた。

「……これ、全てお売り頂けるのですか?」

「はい」

「これは特級でございます。王都に持って行けばここよりももっと高値で売れますが?」

「王都までいくのが大変なのでここで売りたいんですけど、ダメですか?」

「駄目という事はありません。ただ、確認しておかないと怖かったので。……ところで、これは変わった物に入っておりますが、この容器事お売りになるのでしょうか?」

「あ、はい」

「……そうですか。では塩の重さを量ってもよろしいでしょうか?」

「はい」

 頷くと青年はカウンターの下から天秤のようなものを取り出してその片方の皿に紙を敷き、その上に壺の中身の塩を入れていく。塩の量と皿の大きさからすると皿の大きさは小さいのだが、中身が入れられていくごとにどんどん皿が広く深くなっていく。

 面白いときららと誠はその魔道具に魅入る。

「……五百グラムですか」

 青年は反対側の皿を見る。すると文字が浮かんでいた。500dと書かれていた。何故にグラム? と二人は思ったが自動翻訳されているのだろう。

「塩の代金は四万になりますね」

「「はい?」」

「きららと誠が思わず聞き返す」

「1g80円となります」

 (円って……)

 これも翻訳が入っているのだろうと二人は思う。思うが、だからこそ戸惑いが大きい。

【この街では適正価格より、少し高いですが、十分に範囲内です】

(マジデスカー)

(うっそぉー……)

 二人とも声が出ない。

【塩は王家や一部の貴族が採取場所、精製技術などを秘匿しているため、どうしても高くなるんです】

 だからと言って、これはない。と、思うが、そう思うのは日本人だからなのだろう。と二人はなんとか無理やり納得することにした。

 それに、1円と言われても、自分達が思っている1円とは違うかもしれない。という事も考えた。

「そしてこちらの入れ物ですが、このような物は初めてみました。珍しいので、二万の買い取りでよろしいでしょうか?」

「……よろしくないです……」

 きららは頭を抱えた。

 1円=1円とは限らない。でも見知った単位だからこそ、戸惑う。何よりトモからの注意が来ない。それはつまり、1円=1円なのではないか。つまり、自分達が思うお金の価値観で正しいのではないだろうか。と。

「それは塩の値段ですか? それともこの入れ物の値段でしょうか?」

「えーとですね……」

 きららは借り物の鞄から取り出すようにして亜空間から塩壺を六つ取り出した。それに驚いたのは青年だ。

「これは……まさか、全て同じ物ですか?」

「ええ、実は、全部買い取ってもらいたいんです。で、壺代は要りません」

「要らない? しかし、これはこの国では見た事がない珍しいものなんですよ?」

「いえ、塩の値段も高いって思ってるくらいなので」

「ご冗談を」

「いえ、本当に」

 首を横に振るきららの顔は真剣だ。

「……本当に壺代はいらないのですか?」

「はい、要りません。少なくとも今回は」

「……分かりました。では七つ全てで、三十万で買い取ります。いかがでしょうか?」

「なんか高くなってますけど?」

「これだけの物は中々に入ってきませんので。その値段で買い取ったとしても、こちらも十分に利益を見据えています」

「……分かりました。あの、その代金で、布とか種とか色々買い揃えたいのですが……商品って見られますか?」

「もちろんでございます。どうぞ、こちらへ」

 青年が進めたのはカウンターではなく、店舗の奥へと続く扉だった。

 どうやらVIP対応のようだ。一瞬気後れしたが、きららと誠。そして、キマエルは付いていく。

 いくつかの部屋を横切り着いたのは、店内や通りの騒がしさが聞こえない応接室だった。

「どうぞ」

 勧められるまま椅子に座る。

「先ほどは当方の者が失礼いたしました」

「いえ」

「私は、当商会の会長を務めている、カヒロと申します。どうぞお見知りおきを」

「あたしはきららです。こっちが誠で、彼が護衛でもあるキマエルです」

「おぉ、聖女の子息と同じお名前ですね。わたくしも息子が出来たら……と、思っているのですが、なかなか縁遠く……」

 残念そうに口にするカヒロに二人はあいまいに笑う。

「失礼します」

 そう声をかけて一人の女性が入ってきて、水を三人分置いていく。キマエルの分がないのは彼が護衛だからだろうか。

 一人だけ立っているし渡されても困るかもしれないが、そこは同じ扱いでもいいのに。と思うがやはり護衛だと服毒の可能性も考えて飲まないのかもしれない。ときららや誠は考えを巡らせる。そして、きららは紅茶でもなくコーヒーでもなく、「水」なのだな。とも思っていた。

 とても綺麗な水なので、上客と扱ってもらえているのだろう。しかしここはやはりお茶の出番だ。いろんな茶葉を作ってこれも商品にしてみよう。そう密かに店に並べるものを一品増やす。

「キララ様のお求めは布と種でございましたね。種というのは、どのようなものをお求めでしょうか」

「色々試したいので全種類ちょっとずつ買えれば、と、思います」

「かしこまりました」

 カヒロの言葉を合図に廊下付近で待機していた部下が下がり、女性達が布を持って入ってきた。

「こちらは我々がお勧めしている布です」

 彼女達が広げる布。自然の色がそのままのものばかりだ。それ以外にも洋服に使うものを用意してもらうと毛皮や皮などが取り出された。やはりこちらも着色などをしていないようだ。

 ついでに、布だけではなく、ドレスや一般的な服なども見せてもらい、それ以外にも靴やかばん、あと、紙なども見せてもらった。そのほかにも色々上げたが存在しないものも多く、首を傾げられる事もしばし有った。

 とりあえずきららは布を三種類と洋服を各自三着ずつ、裁縫に必要な物一式と、トンフを含めてた食料と種を購入した。

「あのカヒロさん。この辺りでお店を持つとなるとどういった事をすればよろしいでしょうか?」

「お店を持つのですか? 塩をお売りになるので?」

「えっと、そのつもりだったのですが……皆さんには中々手が出ないみたいだし、かといって安く売ると……問題ありますよね?」

「そうですね。他の者達が立ち行かなくなってしまいます」

「ですよね……なので、洋服とかさっき見てもらった壺とかそういうのを売ろうかなって思ってまして」

「なるほど……。洋服というのは今皆様が身に着けていらっしゃるような……」

「あ、いいえ、ここまで作る技術は今はないので」

「そうですか。もし、出来るのであれば、当商会にも卸してもらおうと思ったのですが」

「……そうですね。もし、うまく行ったら色々よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げるきらら。誠も習うように会釈した。

「……代表はキララ様ですか?」

「……どうでしょう?」

「では、マコト様で?」

「あ、いや、俺じゃなく、もう一人こういうのに向いてそうな人間がいまして、まあ今別件で別の所に言ってるんですが。たぶん、そいつが代表になるんじゃないかな、と」

「そうでしたか。それではその方がいないと登録はできませんね」

「あ……。そうなのか~」

「そっちの可能性は忘れてたなあ」

【いえ、登録できるはずです】

 トモの否定の言葉に二人は驚く。

「……でも、いなくても登録できる、という話も聞いて来たのですが……」

 伺うように言われたきららの言葉にカヒロは首を傾げた後、思い当たったらしい。

「もしや、エリリスカイ子爵の賃貸店舗ですか? 借りるのに一月十万くらいしますが」

【それです】

「あ、はい。それです」

「なるほど、それなら確かに予約が無ければ今すぐにでも登録できるかもせいませんね」

「帰りに行ってみて予約できそうなら予約していこうと思います」

 きららの言葉にカヒロも頷いた。それから軽く雑談をしたあとお暇し、三人は領主の館に向かいながらも、通りにある店を見て回り、きららと誠は難しい顔をし始めた。

「どうしました?」

「いや、ウィンドウショッピングとか冷やかしとかないんだな。と。付き合う方は堪ったもんじゃないけど、なかったらなかったで、味気ないというか……」

「衝動買いってなさそうだよね」

「あー。確かに。衝動が起こるタイミングがねぇもんな」

 ちらりと誠は通りがてら見えた店内を見る。

 窓口があって、そこに欲しい商品を言うと奥から持ってくるという方式らしい。万引きはないだろうが、購買意欲につながるとは思えない。その上、値段は先に提示されているわけじゃない。客の反応を見てから決められるのだ。

「これ、基本は値切るのかな?」

「もしかしたらそうなのかもな」

「カヒロさんの所ももしかしてそうだったのかな?」

「もしかしたらそうたのかもな。どうだったんだ?」

【ふっかけられてはいませんでした。お二方の表情を見て、適正価格で売ると判断したようです】

「表情?」

「きららがしっぶい顔してたのは見た」

「誠君だって楽しそうな表情はしてなかったよ。なんか苦手な野菜を見た表情のような……」

「店で商品を見ていた時の話ですか? それで言ったらカヒロ殿が気の毒なほど、興味なさげでしたよ。お二人とも」

「「…………」」

「帰りに、お詫びに塩、もう一壺、おいていくか?」

「ね」

【流石に塩はやりすぎなので、土器の方が良いと思われます】

「そうすっか」

「だね」

 二人はこくりと頷いた。

「塩はやめたほうがいいと思うのですが……」

「あ、うん。塩は止める」

 その話に少し前に行きついたとは知らないキマエルの言葉に誠は少しだけ苦笑して頷いた。

 心の中でやりとりをしなかった自分たちが悪いのだが、こういう時、ちょっとややこしいな。と思った。

気づけばユニーク数が300越えていた。

ありがとうございます!

これからも頑張りたいと思います

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