第10話 ちょっとキちゃいました。
いつもありがとうございます。
今日は2話上げる予定です。
「きらっちお腹空いた~」
ミチルは帰ってくるなりきららに抱き付いてそう口にした。その腹ペコ具合を知らせるようにお腹が鳴る。
「何でもいいから食べたいお腹空いた。昼も食べてない」
「ああ、それは大変だ。頑張ったね~。炊き出しの残りがあるから、どこかで座って食べよう。奏太君と誠君は?」
「二人は裏切り者」
ミチルが忌々しげに言った。
「断れなかったんだから仕方がないだろ~」
なだめるように誠が言って、奏太もすまなさそうな表情を作っていたが、きららと目があって答えた。
「ボクと誠は向こうのお城で食べたんだよね」
「あぁ……」
「酷い裏切りだ」
「じゃあ、二人の分まで食べちゃえ食べちゃえ」
「そんなには食べきれないけど、食べる」
きららの言葉にミチルはこくこくと頷いて、きららの後についていく。
結局男子部屋か女子部屋かの選択になり、奏太がキマエルを連れてくるというので、男子部屋に集まる事にし、きららは亜空間から炊き出しの残りを出してミチルに差し出す。ミチルはそのまま床に置くのはといって、昨日手に入れた倒木を使いお膳とお箸を作り夕食を食べていく。
「そろそろ違うご飯が食べたい」
昨日の夕飯、今日の朝・夕飯がほぼ同じメニューという事もあって、ミチルの小さな呟きは同じ境遇のきららには酷く心に響いた。
「そうだねぇ。味付けもほぼ同じだもんね」
「でも昨日の方がお肉があった分豪華……」
「そうだね」
お腹が空いているしこれしか食べるものがないので仕方がないから食べるが、とミチルは思ったあたりで気づいた。
「そういえば、今日、川魚を大量ゲットした。エビとかウナギ? みたいなものも」
「エビはともかく、魚とかウナギを捌いた事はないよ。というか川魚ってそのままだったら泥臭いんじゃないの? まずは泥を吐かせないと」
「……そか……」
残念と表情にありありと出ているミチルにきららは笑った。
「ああ、でもエビは大丈夫かな? 試しに揚げてみる?」
「んー……。渡しとくだけにする。今日は我慢して今度おいしく食べる」
「オッケー」
ミチルは亜空間の入り口を開いてエビやら川魚を取り出し渡そうとするが、出てきた瞬間元気よく動きだしたために二人して四苦八苦して捕まえ、きららの亜空間に移動させる。最終的には入り口同士を可能な限りくっつけて、掻き出してそのままきららの亜空間に移動させた。
「あと、これ、塩」
「塩?」
「うん。今日、海上通ったから海水ゲットした」
「あぁ、なるほど。助かる助かる」
岩塩はほんのりクセがあって、いつもと同じように味を足せない時があったのだ。
「しかし、今日、ミチルはすっごく移動したな」
部屋の隅で眠気と戦いながら二人の会話を聞いていた誠はミチルの言葉を皮切りに会話に入ってくる。
豪華な食事を食べてきたために身の置き場がなく無言だったという見方もあるが。
「がっつりMP減った。その分の成果はあった」
「それについては否定しない。おかげで明日は予定が変更になりそうだ」
「あれ? そうなの?」
「おう。明日からは魔族領土から順に回ってく予定だっただろ? その予定がごっそり今日消化できたっぽくってさ。明後日の予定を早めるかって話になってたり」
「待って! それならあたし街に行きたい!」
きららが誠に食いつく。
「いくらクリーンアップがあるとはいえ、いい加減着替えくらいは欲しいよ!」
「あー……そうだなぁ。……俺は着替えよりも風呂に入りたい」
ずるずると床に寝っ転がりながら誠は言った。口にしたためその欲求が強くなってきた。
昨日からずっとそうだが精神的にきついのが続いているため、リラックスしたいという思いが強くなる。
「マコマコ。起きる。絶対寝る」
「むしろ、寝かせてくれ。俺はもう疲れた…・…」
「あはは、誠君、今日、がっつり精神力減ってたもんねぇ」
遠く離れていても四人の状況は分かるのだ。
「減った減った。あれだけ分かりやすく現れると、さらに凹むっていうか、余計疲れてくるぜ」
ただの高校生が何を間違って魔王と謁見なんて事になっているのか。と。思い出すと疲れてくるし、それが数値として現れるとさらに疲れてくる。
「ああ、確かにそうかもね」
「あ、マコマコ。五右衛門風呂っていうか、木桶風呂でいいのなら、材料ある」
ミチルは木材を出す。
「おっ! 作る作るって桶を引き締める紐なくね?」
それでも木材を引き寄せ、どう作ろうか考える。
「砂鉄はある。けど、ワイヤーとか作れる程の量があるかは謎」
「砂鉄があるのかよ」
「砂金もあった」
「マジか!」
「ミチルちゃん凄い!」
「とりあえず、これは残しておこうとは思ってる。そんな量ないし」
「そうだねぇ。何かに使うかもしれないし」
「錬金とかに使った方がよさげか」
「あ、ススキみたいな草も結構流れてきてた。これで麻縄とかの代わりに出来ない?」
「んー。やってみる。とりあえず、そっちもくれ」
手を差し出してミチルが言う背の高い草を受け取る。
「誠君、出来たら二個お願いします」
「はいはい」
お風呂に入りたいのは女子も同じだという事は誠にも分かる。頷きながら草を触りつつ、とりあえず乾燥させる事から始めた。
そのタイミングで奏太と、キマエルがやってきた。
「入るよー」
扉もないので奏太は声をかけることで三人に合図する。
マップで気づいているだろうが、気づいていなかった場合に対しての措置だ。
「誠とミチル、こっちがキマエルさん」
奏太に続いて入ってきたキマエルを奏太は二人に紹介する。
「で、こっちがミチルで、こっちが誠。ボク達の仲間」
今度はキマエルに紹介する。
「ただいま、ご紹介に預かりました、キマエルと申します。これからよろしくお願いします」
直立不動からの一礼。
軍人? いや、体育会系? いや、やっぱ、これ軍人?
誠がキマエルを見ながらそんな事を思っているとミチルはもきゅもきゅと漬物のような食感がするものを食べながらキマエルを品定めしているようだった。
「ん、一か月よろしく」
期限を入れたのはミチルとしては無意識だったのだろう。
「まー、よろしくな」
誠も軽く受け応える。
熱量の差を感じてキマエルは四人を見渡してそれから、どんっと自分の胸を叩いた。
「自分は、一月と言わず、それからもずっと皆様の弟子であろうと思います! どんな雑用でもお申し付けください!」
「「「「……」」」」
四人は無言でキマエルを見つめて、ぼそりとミチルは言う。
(暑苦しい)
(ほんっと、体育会系だなぁ)
(あはは、そう、なんだよねぇ……)
(今日一日割とこんな感じ)
(脳筋?)
(ってほどでもないよ)
ミチルの言葉にきららは一応否定する。
(めんどくさい系?)
(それは否定しづらい)
(二人とも、一応そこらへんで止めてあげて、むちゃくちゃ陰口だからこれ)
ミチルときららの会話に一応奏太が声をかける。
(確かに。ごめん)
ミチルは謝り、キマエルを見た。
「暑苦しい。そのノリ止める」
と、本人にはっきりと言った。
これで陰口ではないとミチルの顔は清々しい。
「あ、暑苦しい……ですか?」
突然の言葉にキマエルは戸惑いつつ、ミチルを見て、それからほかの三人を見る。その表情は意見を求めているようだ。
「まあ、そこまで構える必要はないかな。とは思うけど」
「申し訳ありませんでした!」
きららの言葉に直立不動で謝るキマエル。
「男ども。矯正よろしく」
「さらりと難題押し付けんなよ」
「女なら受け持つが、男だし」
呆れつつ少し怒る誠にミチルはそう言って話を終わらせる。
「キマエルさんはもしかして、上下関係の厳しいところに所属してたりしました?」
「神殿騎士としての訓練を受けましたのでその影響かと」
奏太の質問にそう返した。四人が納得した表情を見せるのに、キマエルは自信のある表情を消し、尋ねる。
「不味いのでしょうか?」
「不味いというよりも、なんというか普段周りにいないノリなので、圧倒されているだけです。気になさらずに」
「はぁ……」
なんとコメントしたらいいのか分からないと相づちを打った所にミチルが質問する。
「キマエル。空飛べるようになった?」
年上という事で周りが敬語を使うなか、ミチルは弟子だし、と呼び捨てて話しかける。これで機嫌を悪くするかどうかも見定めているのかもしれない。
「あ……いえ」
「浮かぶのは?」
「それもまだ出来ません。風の適性は低いために、時間がかかると思います。申し訳ございません」
目を合わせていることが出来なかったらしく一瞬泳がせた後、キマエルは頭を下げた。
「別に頭下げて謝るほどでもない」
「す、すみません」
もう一度謝られてミチルは少しだけ首を傾げたが、そのまま食事を進める。しかしこの対応に不安になったのはキマエルだ。何か粗相をしただろうかと途端に青ざめる。
「本当に申し訳ございません。何か不快に思うような事をしてしまったでしょうか!?」
「は?」
突然の勢いにミチルは目を白黒させる。
「謝ります! お許しをいただけるまでなんでもいたしますのでっ」
終いにはミチルは座ったまま体を少しそらしてキマエルを見上げている。
「あー、キマエルさん。ミチルのあれはあまり気にしないでください。いや、まあ、ミチルも悪いんですけどね。彼女にとってはあれが普通の対応なんです」
キマエルにそう告げてミチルを見た。
「ミチルの事よく知らないと誤解しちゃうよ」
「……ああ、そういう事。年上だけど、弟子っていうなら、直す気無し」
「そう……」
「ミチルのそういうトコ凄いよな」
「マコマコだって昨日、村長さんとかに、おっちゃんとか言って親しげだった」
「あんだけ歳が離れてるとフレンドリーにしつつ丁寧に対応するのが正しいだろうが」
「……丁寧?」
ミチルが眉を寄せつつ昨日の事を思い出し、ゆっくりと首を傾げていく。
「丁寧だっただろ? っと」
誠がなんの予備動作もなしに人がすっぽりと入る事が出来る大きな桶を作る。もはや両手を叩き合わせる事もしていなかった。
「上手くいったかな?」
「水入れればわかる」
「確かに」
ミチルの言葉を受け、誠は桶に水を満たしていく。どこからともなく水が底から徐々に増えてくる。
言葉もなく驚いているのは当然の様にキマエルだけで、キマエルはその事にさらに驚く。この四人はどれだけの力があるのかと。
「ごちそうさまでした」
両手を合わせてミチルは言う。
「おいしかった」
「お粗末さまでした」
きららはにっこりと笑った。
「それで、ソウソウ、明日の打合せはキマエル交えてするの?」
「ぜひ! お願いします」
ここで仲間はずれにされると明日も仲間はずれにされそうでキマエルは奏太を見てお願いする。
「あー、その前に。ちょっと色々質問したいんだけど、まあ、キマエルさんも座って」
言いつつ奏太は座り、キマエルも座る。
「えっとね。今日、あちこち言って色んな話聞いて分かった事が色々あるんだけど」
「……嫌な流れだ」
ミチルが顔を逸らして遠い目をした。これ以上何があるのだと。
きららもトモから色々聞いた身なので、その事なのだろうかと気を引き締める。
「えー、残念なお知らせといいますか、さらなる困難が出てきたというか」
「わりとずっと困難ばっかりな気もする」
「気持ちはわかるけどミチルとりあえず、混ぜっ返せないでくれると嬉しい……」
「……うわぁ、なんかホント嫌な予感しかない」
奏太の悲壮感溢れる顔に今度はきららが嘆いて、ミチルも口を閉ざした。
「えー……、根菜、芋、球根などは食べられていないっていう事は昨日知りましたが。実はキノコ類も一切食してないそうです」
「「……」」
きららとミチルは呆れた表情になった。
「あと、魔族領の方でも、麦、稲系は栽培していないそうだよ。っていうか、どうも、話をまとめてみると……。五百円玉よりも小さいサイズのものは食べてないっぽいんだよね。あと。殻の固いものも」
奏太は指で五百円玉のサイズを大体の大きさで作る。
「おい、食糧難」
「どの辺が食糧難だよ、これー……」
ミチルが突っ込み、きららが呆れた。
「そのような小さなものを植えた所で手間暇が増えるだけなのでは? お腹だって膨れませんし」
キマエルが首を傾げて意見を述べる。
「このような意見が割と普通らしいです」
魔王城でも情報を集めたが大体はそんな感想だった。
「まあ、それはいいかと。それはある種食わず嫌いなので、どうにでもなるかもしれないんだけど、問題は」
さらに何かあるのかと、きららとミチルがげんなりする。
「どうやら、人族って卵は一切食べないらしんだよね」
「「はっ!?」」
驚いた後、二人はキマエルを見た。
「え、ええ。もちろん食べませんよ」
なんでそんな事を聞くのかとキマエルは不思議そうだ。
「魔族はそんな事ないらしんだけどね。問題なのはこれ、宗教がかかわってるって事なんだよね」
「待って待って待って。卵が使えないってなると色んな料理に影響が出る!」
きららが頭を抱えて涙目で奏太を見た。奏太も頷く。
「うん。かなって思って、ちょっとどうするんだろうって」
「どうするっていわれても、マヨネーズはダメでしょ!? ケーキ類もアウトでしょ!? プリンだって無理だし。粉物系も割と入ってるの多いし」
一個一個上げていこうとするきらら。
「……もしかして、魚卵もダメ?」
ふと、ミチルが思い当たってキマエルを見た。キマエルは頷く。
「もちろんです」
「……まじかー……」
そこまでは思い至ってなかった誠と奏太も遠い目をする。
「あの、むしろ、皆様は食べるのですか?」
「「「「食べるよ」」」」
一斉に頷く四人にキマエルは驚いた後、少し眉を寄せた。
「師匠方。自分は感心しません。何も生まれる前の命を食さなくても食べれるものはあります。どんな生き物だろうと、等しく生を受けた存在。生まれ出まで見守るべきです」
「じゃあ、生まれ出たら即座に食べる?」
「どんな鬼畜な所業ですか! 成体になるまで見守るんです」
「ちなみに、こんな事考えるのは人族だけらしいよ。魔族は普通に、凶暴な動物は卵や子供のうちに倒しちゃうって。だから向こうはものによっては卵食べてるって」
「だから、鶏も魔族領土に持って行ったわけね」
納得ときららは頷いて、卵を使った料理は魔族領土で食べようと心に決める。
「……あれ? 魔族は食べる? 同じ宗教なのに?」
「っていうかちょっと待った。キマエルさんの言葉を考えるに、無精卵なら問題ないんじゃないか?」
ミチル、誠の言葉に奏太は瞠目し、それからポンッと手を叩いた。
「そうか……。宗教の教えじゃなくて、風習なのか。誠の言うのはありなのかも? どう思う?」
「どうと言われましても、卵を食べるのは受け入れられません」
「無精卵でも?」
誠が再度確認取ってくる。
「ムセイランというのが何かは分かりませんが、卵であるのならなんであれ駄目です」
「「「「……」」」」
拒絶を示したキマエルに四人は悶え苦しむ。
「キマエルさん……。卵には二種類ありまして、温めても孵化せずヒナが生まれないのがあるんスよ」
誠が頭を抱えながら言い聞かせるようにゆっくりと丁寧に告げた。
「何を言っているんです? きちんと温めればヒナは生まれます。生まれなかったのは、残念ながら途中で卵が冷えてしまったのでしょう」
「まずは実際にやってみせて納得させるしかないのか、これ」
誠がいささか光の消えた目でキマエルを見つめていた。そして、もう一人瞳から光が消えた人間が口を開く。
「もー、やだーもー。お家帰してー」
頭を抱えて、叫んではいないものの、涙を浮かべてきららは嘆いた。
「衛生兵! きらら隊員が精神的に限界に達しました!」
「いや……、誠のノリもちょっとおかしいよ?」
昨日今日の付き合いではあるが奏太はそんな気がしてならない。誠は今日、誰よりも精神的に疲れているので、見た目以上にキツイのかもしれない。そして、同様にずっと病人を相手にしていたきららも疲れてきているのだろう。疲れというよりも擦り減ってきているとでもいうのか。
「……でも、きらっちの言う事は一理ある。こんな状況のどこが世界の危機なのか。神様に一度真面目に問いただしたい……」
「えっと、ミチルも限界?」
奏太が困りながら声をかけるとミチルは首を横に振った。
「たぶん、まだ大丈夫。ただ、怒りが来てるだけ。私は今日、人とほとんど会ってないから、絶望した目を向けられる事もなかったし、あの独特な空気に触れる事もなかったから。街も間に合ったし。ただこのせ……この国の人達がやれる事はもっといっぱいあったんじゃないかと、思うだけ」
「確かにそれはボクも思うけど」
「あー……とりあえず、明日の朝までにはどうにか気持ちを切り替えるから愚痴ってもいい?」
「どうぞ」
きららの言葉に奏太、ミチルは頷いた。
「まず、ちょっと神様に頼りすぎじゃない!? 大地の女神の加護が薄れて実らないからってなんの対策もしてないとか! まずいものをおいしく食べようっていう気力もないの!? 食べられるものがあるのに、成体になるまで見守る!? どんだけ上から目線!? そういう事は自分たちの生活がしっかりしてからやってよ! 武士は食わねど高楊枝って言いたいの!?」
きららは、ミチルと奏太に向かって言う。キマエルに対しては言わない。彼一人にぶつけるのは間違いだと一応思っているのだ。だから、きららのこれは間違いなく愚痴なのだろう。
「でも、確かに、畜産系を一切やってないってのも呆れる話だよな。やってるところってミチルが行ったもう一つの大陸だけらしいぞ」
「そこまでなの!?」
「そこまでだって」
悲鳴のような声に誠が頷き、奏太も頷いた。
きららは両手に顔を埋めて落ち込み始めた。悲壮感が漂っている。
「ソウソウ。とりあえず、きららは明日休みで。街に行って買い物させて」
「買い物? いいけど、資金は?」
「私たちが普段使ってるような塩を作った。それを売れば問題ないかと」
「なるほど。じゃあ、それを売ればいいかな? 誠も一緒に行って気分転換してくるといいよ」
「気分転換に絶対ならねぇよ。母ちゃんと行った時にこりた」
「でも女の子一人だけで行かせるわけにもいかないし」
「キマエルさんがいるじゃん」
「あー……。確かに……」
奏太は左手を顎と唇に手をあて考えると指示を出す。
「誠、やっぱり明日、キララと街に行ってきて」
「俺に死ねと?」
「いや、大丈夫だよ。たぶん、きららの琴線に触れるような洋服ないと思う」
「ああ……その可能性はあるな」
今までの経験を考えるとありえると誠は頷く。
奏太はたぶんと言いつつも絶対に近い自身があった。この村であった人達や魔族の村などを見ても裁縫技術も大した事ないのだろう、と。
「女の目線と男の目線で街を見てきて改善点が無いか確認してもらいたいんだ。あと、種も買ってきてくれる? ボクの着替えは最低限でいいから種を優先させてくれると嬉しい」
「了解」
誠が頷いた時、きららが顔を上げた。幽鬼のような目で三人を見て、笑った。
「みんな今、精神的にどれくらいの衝撃にまで耐えられる?」
「え?」
「小出しに色々出されるのも辛いなって思ったの。トモがね、あたし達の状態を見ながら情報を小出しにしてるのには気づいてるんだよ。あたし達のためにね。なんせいきなりこんな事に巻き込まれて、みんな笑ってるけど、なんでもないって顔してるけど、実は結構キてるって事も分かってるんだよ。あたしもそうだしね。全然楽しくない事ばっかりだしね、今の所」
「そ、そうだね」
きららの言葉に奏太は頷く。
「だからもう、いっそ、寝込むなら一気に寝込んでしまえと思ったわけなの」
「な、なるほど」
今度は誠も静かな圧力に頷く。
「というわけで、キマエルさん。ちょっと席外してください」
「え!? 自分も皆様と」
「呼びますから、それまで退出お願いします。あたし達は師匠で、貴方は弟子ですよね」
にこっと浮かべた笑顔に、拒否権は与えられていない事を理解し、キマエルは仕方なく立ち上がり、二度ほど周りの様子をうかがったあと、仕方なさげに出て行った。
ミチルはそれを見た後、入り口部分に圧縮した土を出し、埋め立てる。扉代わりなのだろう。
「これで、よし」
ミチルはこくりと頷いてきららを見た。
「大丈夫?」
「全然大丈夫じゃない。そのうち、あたし、キマエルさんに怒鳴り散らしそう」
「すでに似たような感じじゃなかったか?」
「全然違うよ。だって、あたし達本当は呼ばれなくても済んだんじゃないかなって思ったんだもん。そう思ったらもっと酷いこと言いそうだったんだもん。……だって、なんの努力もしてないじゃない。神様の加護が弱くなる前兆ってあったわけでしょ? 邪神が誕生して、神様の加護が弱くなっていったら今までのようにいかなくなるって分かってたはずなのに、でもなんの手も打ってないんだよ!?」
「打ってたかもしれないよ」
泣きそうな、というか泣き出したきららに奏太がそういうつつ宥める。
「そうかもしれないね。うん。だから、今日でこんな風に泣くのは終わりにしたいの。もし、みんながいいのなら、トモに教えてもらいたいの。この世界の、本当の現状ってやつを」
きららは顔を上げて、決意を固めた表情でそう口にした。
「俺も賛成かな。毎回突っ込むのも疲れる」
「いっそ、廃人手前まで出し惜しみせずで」
「いや、それはやめとこうね、ミチル。でも、ボクも賛成って事で、お願いできるかな?」
【……】
トモはしばし反応しなかったが、四人の前に人の形として現れるとゆっくりと頭を下げた。
【我が神々のせいで皆様には多大なご迷惑をおかけします】
「……教えてくれるの?」
【はい。ではまず、魔族と人族との戦争が起こる前の生活から紹介します】
予想外からのアプローチに四人は目を瞬かせた。
長くなりつつあるので、一度きり、書いてる部分が終わればもう一話今日中に上げようかなっと考えてます。
読んでくれる方が増えてとても嬉しいです。




