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プロローグ

 人族と魔族の戦い。

 互いを悪と呼び、憎しみあい、疲弊していく。

 何事にも戦う事が優先され、夢も希望も色褪せ失われていく。だからそれは必然だったのかもしれない。

 邪神誕生。

 全てを破壊しようとする意思、全てを滅ぼそうとする意思。世界すらも噛み砕かんとする力の塊。

 力を失いつつあった神々には邪神を止めるだけの力は無かった。

 神々に出来たのは異世界の者の力を借りる事だった。

 一つの世界から子を一人借りた。

 いや、もはや返すすべもないのでもらい受けたと言うべきだろう。


「異世界の勇者ですか?」

<そうだ。英雄になれる>

「英雄……」

<そうだ。ただこちらには帰れなくなる>

「別に、こんな世界、惜しくないですし」

 そんな言葉に神は少し不機嫌になる。しかし、それこそがこの男を選んだ理由であると表情を戻す。

「でも、俺なんて、大した力もないですよ」

<それは問題ない。こちらから向こうに渡る時、神々からの加護が与えられる。お前は国一番の猛者になる>

 そんな言葉に男の顔色が変わる。ギラギラと野望に満ちたように。

<女も得る事が出来よう。お前を選ばなかった女達よりもより良い女を選べるだろう。お前は誰よりも強いのだから>

「あはは、ほんとですか? この俺が? 世界最強? あはは、やります。やりますよ! 英雄になる! 俺は英雄だ!」

<……良いだろう、向こうの世界に送ろう>

 神の言葉と共に男は異世界について降り立った。

 神より使わされた勇者。何人も肩を並べる事を許さぬ力を持った男。

 男は邪神の眷族を容易く倒す力を持っていた。

 希望が生まれる。この男を手放せば人族は滅んでしまう。

 男のために全てが用意された。女も酒も食べ物も。ありとあらゆる贅が用意された。

 食べ物も無く、飢えで苦しむ者達も居た。力つきた者達もいた。それでも勇者が邪神を倒し、世界を幸せにしてくれるであろうと耐えていた。

 しかし、あまりにも辛い現実の中にあった希望である。

 子が餓える。冷たくなっていく。死のみが身近で、苦しみのみが続いていく。

 邪神の力はまし、神の力は衰える。

 そして、手に入れた力の巨大さ故に、自身の力を磨かなかった勇者は、邪神に届くことなく、殺される。

 希望が失われ、さらに過酷になった現実だけが残った。

 勇者を呪う声すら出た。

 神々はさらなる窮地に立たされる。

 二つ目の世界からの召喚はもう少し堅実に選ぼうとなった。

 神々の力も減り、そう多くの力も渡せない。それでも邪神の力を削げる者をと望んだ。



<死期の近い我が子よ。貴方の力を必要としている者達が居ます。行ってくれますか?>

「女神様。私のような者が行っても何かの役にたつのでしょうか? 私はもう二年も生きられないと宣告されました」

<私の力、そして、向こうの神の力により、十年という時間を授けましょう>

「十年ですか?」

<そうです。その十年で貴方は出来うる限り周りの人を幸せにしてください>

「はい。分かりました。私にどれだけの事が出来るか分かりませんが、やってみます」

 女は頷いた。

 女はある裕福な老夫婦の元へやってきた。

 子が居ない老夫婦に神は言った。異世界から来た勇者であると。

 老夫婦は戸惑った。老夫婦は勇者が生きた時代を経験しているからだ。

 それを知らない女は頭を下げた。

「精一杯頑張って皆様が少しでも幸せになれるよう、これから十年、頑張っていきたいと思います!」

 決意を女は告げた。

「さぁ、おじいさん、おばあさん、病人や怪我人はどこですか?」

 女は癒やしの力を使った。助けられる者もいたが、助けられない者もいた。

 それでも人々は女を責めなかった。

 女は国に来るように言われたが、神との約束でそれは出来ないと答えた。

 女は無償で人々を癒し続けた。

 さらに女はある花の種を使った料理を発見した。

 その花は生命力が強く栽培が簡単であったために多くの人々を飢えから救った。

 女は神から許された十年を精一杯過ごした。

 己の責務を最後まで果たし、女は満ち足りた表情で息を引き取った。

 女は人々の希望だった。女が死んでも人々の希望は消えなかった。

 女は十年で、恋をし、愛を育み子を授かった。

 女の力を継いだ癒やしの力のある子供達。

 女は聖女と呼ばれた。女の子らも、聖女と呼ばれ、御子と呼ばれた。

 女は一度も勇者と呼ばれる事は無かった。



 それから十五年。女のおかげで少し力を取り戻した神は三度目の勇者召喚を行う事にする。


どきどき初投稿。

異世界物が大好きなので始めてみました。

ありきたりかもしれませんが、お暇な時にでもおつきあいください。

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