Lv92 ヒキニート
「今日、これからどうする〜」
と、流れのままに議題を口に出す。
うん、自分で考えるつもりは毛頭ない、こういうことは大抵「コウリツチュウ」が決める。
私は「ヒキニート」、リアルもバーチャルも女性だ。
ひどいキャラクター名の通りのガチ引きこもりニート、という訳では実はない。
ニート歴は家事手伝いという名目で大学卒業から1年半ほどで、引きこもりではない、単なるアマチュア・ニートなのだ。
キャラ名の由来は、ネット被れの半端な反骨心からである。若かったね!
「VRダンジョン」は、大学入学時からプレイしている。
「ハイジン」と「コウリツチュウ」のふたりとは、昔からぼちぼち野良パーティを組んでいた知り合いで、彼らが本格的に攻略を考えだした1年前頃から正式に組みだした。
お陰様で、今や「VRダンジョン」の注目プレイヤーのひとりになってしまった。
「新階層攻略用の資材調達だな」
と、「コウリツチュウ」が少し考えて答えた。
彼はこういう、何かを決めたり、段取り的なことについてとても頼りになる。
リアル職はシステム開発のマネージャーと言っていた。
良くわからないけど、同じようなことをするお仕事なんだろうと思っている。
「あ〜、狩り面倒くさいなぁ」
「金で買ってもいいんだが、ついでにあいつのLvも少し上げたい」
「ウチのエース様、その辺適当だからね〜」
「ああいう奴は、どこか抜けてるものだからな」
「あはは」
パーティを組んでから、エース様である「ハイジン」はソロプレイで離れたり、そうじゃなくても気付くとどこかに消えていたりするので、こうやって「コウリツチュウ」とふたりでダベる機会が多くなった。
「今回は、Lv1に戻ってないといいね」
というと、「流石にないだろ」と彼は苦笑した。
◆◆◆
彼らと初めて出会ったのは、街の神殿、初リスポーンの直後だった。
勝手がわからずウロウロしていると、同じくリスポーンしていた「コウリツチュウ」とぶつかった。
謝罪をして振り向くと、今度は死亡した彼を探してキョロキョロしていた「ハイジン」とぶつかった。
すみません、鈍くさくてすみません。
「くそ、何だよあのゴブリン……」「仇はとったぜ!」と会話する彼らをボケッと眺めていたら目が合い、リスポーン直後のLv1同士でパーティを組まないか?と誘われたのだった。
それから、街で見掛けたら挨拶するような間柄になり、何度か一緒に遊んだ後、フレンド登録をした。
ちなみに、「VRダンジョン」だと、街がひとつしかないため知り合いと偶然顔を合わせる機会が多く、フレンド登録は必須ではなかったりする。
◆◆◆
それから、色々なことがあった。
「ハイジン」がアバターをリアルのものに変えてきた時は驚いた。
なんか変わったヤツとは思ってたが、こいつはガチだと思った。
私もそれを真似て、無用なトラブルを避けるために男性アバターにしていたのを、女性アバターに変更し、体格をリアルに合わせた。顔もまぁ可能な限り雰囲気は合わせた。
変更したら、ふたりが「前とあんまり変わらないな!」「これなら前のアバターでも大丈夫じゃない?」と言ってきたので、こっそりと落ち込んだ。
そうですね、良くも悪くも悪くも凹凸の少ない体型ですし……
「ガチ説教事件」というのもあった。
パーティを正式に組み始めてすぐの話だ。
魔王討伐計画を始める直前に「ハイジン」がソロプレイで死亡して、Lvや貴重な装備・アイテムなど一式をロストしてしまい、綿密に計画を練っていた「コウリツチュウ」が社会人の本気でガチ説教したという事件である。
結果として「ハイジン」は、本当に大事な時だけは、私達に合わせてくれるようになった。
そうじゃなかったら、いずれパーティは解散していたように思う。
そして、魔王討伐。
ちょっと頭の回転が早いだけの私が、一躍有名プレイヤーだ!
ゲームの世界とはいえ、誇らしくなかったかといえば嘘になる。
何より、彼らの一員だということが嬉しかった。
――そうだ、彼らは凄いのだ。
◆◆◆
狩りの結果は上々だった。
私もレベルが上って93になった。
解散間際に、私は公務員試験を受けようと思っていることと、それまでログインは週1程度に控えることを伝えた。
「新ダンジョンがあるのにごめんね、あんまり遊べなくなるね」というと、「コウリツチュウ」は、驚いたような困ったような、妙な表情をしていた。
「ハイジン」は「おー、タイミング良かったじゃん!」と、ニヤニヤ顔で相方の背中をバン!と叩いた。
何、何の話?
「この状況でフレンドメッセージでなんて、ダサいことはすんなよォ?」
「黙れ、クソガキ」
怖い顔をした「コウリツチュウ」が私に近づき、不安そうに口を開いた――
◆◆◆
元々、勉強は出来る方だったので、試験勉強は順調だ。
たまに欲望に負けてログインしたくなるけど、優秀なマネージャーに端末を奪われてしまったので、そもそも無理だ。
来週、もうひとりを誘って、ご飯を食べに行こうという話をしている。