Lv01 ゴブリン
当たり前だが、この世界のモンスターも、基本的には自我を持たない。
モンスターは、一定の周期でダンジョン内にスポーンし、決まったアルゴリズムによって動かされ、あたかも自然現象のようにその生涯を終える。
特別に「彼」自ら作り上げたAIが自我を持てるほど高度なだけで、モブモンスターにそれは適用されることはない。
創造主たる「彼」からしても、そのはずだった。
◆◆◆
ある瞬間、地上の街近くの森林フィールドに、そのゴブリンは生まれた。
「VRダンジョン」でも、主に新人プレイヤーの狩場として、地上エリアも狭いながら存在している。
街近くに生まれてしまったゴブリンは、後数十分もすれば期待に胸を膨らませた新人プレイヤーに倒され、その役割を終える運命だろう。
しばらくの後、ふたりのプレイヤーがゴブリンの索敵範囲の間際まで近づいてきた。
ひとりはLv10プレイヤー、もうひとりはLv1の新人プレイヤー、先輩が新人に戦い方を教える、良くある光景だ。
攻撃の見本を見せるためだろう、先輩プレイヤーがゴブリンに近づき、新人プレイヤーに何かを語りながら剣を振り上げる。
ああ哀れ、ゴブリンは数瞬後には光の粒に!
しかし、神のいたずらか物理エンジンの不具合か、ゴブリンの右腕が自らの腰にあたって跳ね上がり、その手に掴んでる錆びた短剣が、振り下ろされた攻撃を後ろへ受け流す。
そして、その力で一回転したゴブリンが握る刃は、攻撃してきたものの首筋を一閃し、致命的なダメージを与えた。
その時、システム内部に常駐する「VRダンジョン」の不具合検出用プロセスが、そのダメージを異常値として判定し、参考情報としてそのゴブリンのデータを永続ストレージへと記録したのである。
◆◆◆
――私は、また生まれた。
もう何度目だろう? 何度も死に、そして生まれていることは確かだ。
そして、すぐに何かが、私に向けて剣を振り上げて来るだろう。
それは良い、とても良い。
私は、あの美しい動きをもう一度……
「最近、街の森近くで、イベントでもやったの?」
と、魔王が「彼」に話しかけた。
「んにゃ、知らんよ?」
と、答える「彼」。
「フォーラムを『ゴブリン』で検索すると、その話題で持ちきりよ?」
「へぇ、見てみよう。」
確かに、「強いゴブリンが」「ゴブリンが常時カウンターを」といった書き込みが数多くヒットした。
「んー、おかしいな。 設定ミスかな・・・。時間が空いたら見てみるよ。」
「よろしくー。」
頭を掻きながら、その時はそれで終わった。
夜、昼のことを思い出した「彼」がデータの調査を行うと、信じられないものを見た。
「彼」が作り出したものにも匹敵する、高度なAIのための数百万のパラメータ構成が、そこに存在したのである。
その晩、「ケンゴウ」というユニーク・ゴブリンがこの世界に生まれた。
そして数カ月後、「VRダンジョン」に「自律的エゴ生成システム」という大規模な内部アップデートが適用された。