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Lv81 ハイジン

 「VRダンジョン」のゲームシステムの特徴のひとつに、プレイヤーのデスペナルティが高いことがある。

 プレイヤーは死亡するとLv1に戻され、装備していたアイテムは例外を除き全て消滅する。

 いわゆる「ローグライク」と呼ばれるゲームシステムに類似している。


 銀行や自宅に預けた資産は残せるし、次回以降は死亡時のLvまで経験値ボーナスが加算される救済措置もあるが、一般的なVRMMOと比べてかなり厳しいペナルティが課せられている。


 そのため、プレイヤーが他プレイヤーを評価する基準は、Lvの高さや装備のレアリティといった点ではなく、戦闘テクニック、知識、状況判断力、チームワークといった、プレイスキルに重きを置かれる。



 そんな中、現在、最も注目されているパーティは、


 「ハイジン」

 「コウリツチュウ」

 「ヒキニート」


 の、2週間前に魔王討伐に成功した3名パーティである。


 その内のひとり、急ぎ足に街の通りを進んで行く、年の頃15・16歳の青年が、誰もが認める「VRダンジョン」のトッププレイヤー「ハイジン」だった。

 彼はソロプレイでも、数々の偉業を成し遂げているのだ。


「悪い、待たせたな!」


「遅れるなら一言送れよ。」

「遅い〜」


 すまなそうな顔で挨拶をする「ハイジン」に、「コウリツチュウ」と「ヒキニート」はぶすっと答える。


「道場の試合が長引いてさ。」


 その言い訳に、ふたりはよくやるよと苦笑で答えた。


 バーチャル・リアリティの世界では、自キャラの操作をするにあたって、アバターを現実の体型に合わせた方が有利である。特に重要なのが背丈と手足の長さで、これが著しく異なると走ることさえ困難だ。

 それを知ってから、彼はアイドル風の美男アバターを捨て、実際の冴えない顔と体型そのままでゲーム内へ現れるようになった。

 そして、現実の自分を鍛えあげる、という選択をした。


 今の彼は、どこから見てもアスリートまたは格闘家といった体付きである。

 たかがゲームでそこまでするか、と思われるかもしれないが、そこまでするから廃人で、そして何万人というプレイヤーの中でトップになれるのである。



「じゃ、渡すぞ。」


「おう、サンキュー」

「世話を掛けるねぇ〜」


 「コウリツチュウ」が、3名に均等に、最適になるように分配した、魔王のドロップ品が詰められた袋を手渡した。今日は、しばらく仕事でログインできなかった「コウリツチュウ」がこれらの品々を渡す日だったのだ。

 分配したドロップ品についての歓談が終わると、「今日、これからどうする〜」と「ヒキニート」が口を開いた。


 「ハイジン」は、本当は新しいドロップ品を装備して、勝手にライバル視しているあるユニーク・モンスターとソロ対決をしたいと思っていた。

 しかし、それを過去、何かの計画の直前に行ってあえなく死亡しLv1に戻ってしまい、「コウリツチュウ」にガチ説教されたことがある。

 だから、新ダンジョンを間近に控える今は、思い止まることにした。



(ソロもいいけど、こいつらとパーティプレイもいい。)


 彼は「魔王」との戦いを思い出す。


 常に冷静で、準備を怠らない万能戦士「コウリツチュウ」が敵の前面に立ち、ヘイトを集める。

 それを、賢者「ヒキニート」が支援しつつ、同時に相手の行動パターンや弱点を解析する。

 剣士である自分は、常にダメージを狙う。それが対象への牽制にもなる。

 情報がない敵と戦う場合の、いつものパターンだ。


 最初は、多彩で強力な魔法攻撃に苦しめられたが、「コウリツチュウ」は堅実な動きでそれを耐え、その間に「ヒキニート」が、放たれる魔法の種類は、魔王の右手の杖の位置と左手の形で決まることを見抜き、そのパターンを自分に伝えた。


 後は自分の仕事だった。


 突撃する自分に向けて放った魔法がことごとく回避されることに、魔王は驚愕の表情を浮かべていた。その間に一太刀、また一太刀と攻撃を命中させてゆく。

 6人パーティでバランス調整されているはずの自分が、まさか負けるはずがない、と思っているような焦りの表情、光の粒になり消え去る直前、目の端に涙のようなものも浮かべていた気がした。まさかな。



 遠くでふたりが呼ぶ声がする、いつの間にか随分と離されてしまったようだ。

 「ごめん、ごめん」と謝りながら、笑顔で彼らに向かって駆け寄る。


 彼は心より、この「VRダンジョン」を楽しんでいるのだった。

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