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ファーストコンタクト


 お盆で実家に帰省する時期、それが僕と彼女が初めて出会った季節だ。ただし、眩しい日差しと共に溶けてしまいそうな熱気が広がり、その中で人々が狂ったようなはしゃぐ明るい夏の日ではなく、雨雲が空を覆って鬱陶しい蒸し暑さが広がるような日だった。

 その頃、僕はバイトでお小遣いをためようと思って遊園地でバイトをしていた。実家はそれほど遠くないので、月に一度訪れていたから特にお盆だからと言って強制的に帰省する必要はなかった。

 それで、僕がバイトをしていたのはお化け屋敷だった。しかしお客を驚かせるようなお化け役ではなく、小さい子が怖くて泣きだしてしまった際に非常用の出口へと誘導する役だ。結構怖い事で有名だったので、そういう出口を設けたらしい。

 だけど、そもそも途中で泣きだすような子供は最初から入らないということもあり、僕の仕事はどちらかというと悪ガキが悪戯しないように見張ることだった。後は、驚いた拍子にこけたりして怪我した人への対応。ああ、最後に忘れちゃいけないものとして、落し物の点検。

 でもって彼女はというと、どれとも違う存在だった。別に怖くて泣きだすような年でもないし、悪戯するほどやんちゃでもない。抜けてはいるけどどんくさくは無いからこけたりもしなかったし、落し物でもなかった。ただし、順路が分からなくなったお客として遊園地スタッフの中では伝説のお客様として言い伝えられることになるだろう。

 そのお化け屋敷は、一度に入る人数に特に制限はなかった。一人でも良いし、何なら七人とかでも良い。その代り、一組ごとに、前に追いつかないように時間は多めにとっていた。そのため、毎度長蛇の列になってしまうかと思いきや、そうでもない。怖いから中々近づこうとしない、あるいは皆大勢で入る、といった理由から、それほど待ち時間は長くなかった。実際一人で入る人なんてめったにいなかった。

 まあ、彼女は一人で入ったのだけど。

 繰り返し言うと、その日は曇り空だった。いつ降り出してもおかしくない天候、実際に雨は降った。天気予報を見ていたから僕はちゃんと折り畳み傘を持ってきていたが、それでもやっぱり雨は降っていない方が良い。後十分程度で業務は終わるという時間帯、バイト仲間に聞いてみるとまだ降っていないらしかった。

 その時、僕が考えていたのは、とりあえず雨が降らないでくれという事だけだった。結局のところ何度もお化け屋敷内をうろちょろして何事もなく終わるバイトだから今日も何も起こらないと高をくくっていたのかもしれない。

 数分後、その日の最後の客が僕の近くの順路を通り過ぎた。ずいぶん長い間閉じ込められるため、かなり夜目は効く。最後のお客さんは、たった一人で歩いていた。それも髪型から判断するに女性である。

 正直、僕はかなり驚いた。男の人でもあんまり一人では入らないから、まさか女性が一人で入るとは思わなかったからだ。実際、後にも先にも一人で入る女性は彼女しか見ていない。

 だが、自分の仕事はまっとうせねばならない。彼女が通り過ぎて間もなく、そこらに落し物が無いか確認する。「きゃー」という甲高い悲鳴が聞こえてきて、彼女も一人で満喫しているんだなと思っていたその時、ふと正規のスタッフさんが突然慌てた声で叫んだ。


「ちょっとお客さん!」


 どうしたんだろうかと思って僕はそちらに向かおうとする。曲がり角にさしかかり、右折しようとしたその瞬間、人影が僕に向かって衝突した。


「きゃ――――!」

「うわぁっ!」


 弁解をしておくと、僕は彼女の事をお化けと思ってびっくりした訳ではない。そもそも内部の構造を知っていて、そこからは誰も飛び出してこない位置だと知っていたからだ。そして、誰かとぶつかった僕の頭の中には恐怖はなくて、驚きと当惑ばかりだった。何でこんな所で誰かが飛び出してくるんだ? そんな思いでいっぱいだったと思う。

 そんな中いきなり炸裂した声の爆弾。黄色い悲鳴が大音量でいきなり爆発したら、それは驚くだろう。語弊を恐れずに言うと、僕が怖れて恐怖したのは、彼女の五月蠅さだった。

 彼女よりも僕の方が先に状況を呑みこんだ。先程の先輩の声からするに、彼女は驚いた拍子になぜか方向転換して逆走したのだろう。それが分かった僕は、反射的にその事を告げていた。


「お客さん、逆です?」

「はい?」

「ですから、向こうに進んでください」


 そして僕は彼女の向こう側の通路を指差した。


「あ、すいません……」


 上ずった声で彼女はそそくさと方向転換する。そして恥ずかしいのか、急いでその場を去っていった。

 それにしても面白いお客さんだったなあと一人で思いかえす。クスクスと笑っていると、本来の目的を思い出した。地面の方に視線を向けて、落し物の確認をする。

 もう二度と会う事はないだろうと思っていたのだが、この一時間後に僕等は二度目の邂逅を迎えることとなった。

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