21.必殺!色仕掛け
「何もしないでいるよりはいいでしょう、考えられることはやってみるべきよ。……で、色仕掛けって、どうやるの?」
「いや、どうやるのって……」
どうやるんだよ?
「……やっぱ、ミニスカとかですかね?」
エディが以前、街を歩くミニスカートの女の子に興奮していたことを思い出して、あたしは言った。
「スカートを短くするの?」
「はあ、知り合いの男が、以前、そういうのがいいと……」
瞬間、姫様はご自分のロングドレスのスカート部分をつかみ、ビーッと破ってしまわれた。
「姫様、何をなさるんですか!?」
「あなたが、やれって言ったんでしょう!?」
太ももの付け根まで露わになられたお姿で、姫様はこっちを睨まれた。
「リーザさん、あなたも早くしなさい」
「マジですか!?」
しかし、姫様だけこんな格好にして、あたしがやらないと言うわけにも行かないし……いや、そうは言っても、むっちゃ恥ずかしいんですけど!
あたしは意を決して、スカートを横に大きく、ビーッと裂いた。
いや、でもこれ、腰の横まで大きくスリットが入ってるから、ミニスカ状態だと、気をつけないとパンツ丸見えだろ!?
「それで、この後、どうするの?」
姫様が尋ねる。
「どうするのって……」
誰か来たら「うっふん」とでも言えばいいのか?
「スカートめくって、見せればいいのかしらね?」
姫様がスカートの裾をつまんで、ちょっと持ち上げる真似をする。
「本当にそんなこと、するんですか!?」
「あなたが色仕掛けやろうって、言い出したんでしょう!?」
その時、不意に牢屋の外でコツコツと足音がした。
ハッとして、顔を見合わせる、あたしと姫様。
姫様が、コクッと頷く。
マジ!? ほんとにやるの?
カツカツと、足音が近づいて来る。
あたしは恥ずかしくて顔が上げられない。
隣の姫様を見ると、スカートの裾をつかんだまま、真っ赤になって固まっている。
やがて足音が、ピタッとあたし達の牢屋の前で止まった。
今か!?
スカートめくって「うっふん」か!?
って、出来るかアホ!!
冷静に考えたら、こんなのに引っかかる馬鹿な人間が現実にいるわけない!
やっぱ、やめよう……。
「へっへへ、2人ともなかなか上玉じゃねえか」
「モノホンのお姫様だってよ」
不意に目の前で声がした。
顔を上げると、2人の男がニヤニヤ笑いながら立っている。
城の警備兵らしく、上半身だけ銀色のアーマーをつけて、ロングソードを腰に差している。
「何、あんた達?」
あたしが尋ねる。
「つれないこと言うんじゃねえよ、魔法使いのお姉ちゃん。あんたらが退屈してるだろうと思って、わざわざ相手してやりに来たのによ」
男2人は、ガチャガチャと鍵を開けて、牢屋の中に入って来た。
「大声出すなよ、騒ぐとこれでブッスリ行くぞ。おまえらが逃げようとして、暴れたことにすりゃいいんだからな」
男2人は腰の剣を抜いて、あたしと姫様に突き付けた。
冗談じゃない!
色仕掛けどころじゃなかった!
何もしてないのに、向こうから勝手に来た!
「きゃっ!」
男の1人が姫様に抱きついて、地面に組み伏せた。
「姫様!」
「おっと、おめえの相手は俺だ!」
直後にあたしも、もう1人の男に腕をつかまれ、地面に引き倒された。
「痛い、やめて!」
「おっ! おめえ、いい脚してんなあ! なあ、なんでこんな色っぺえ格好してんだ? 俺らを誘ってんのか?」
「違う、馬鹿!」
いや、違わないかもしれないけど、違う!
ちょっと、こいつ、酒臭い!
本当にやだ!
「おめえら、どうせ殺されんだろ? だったら、その前に思い出をくれてやんぜ!」
いい加減にしろ、ばかあーっ!!
不意に、すぐ隣で、ドスッと音がした。
「姫様!?」
思わず隣を見る。
姫様が……立っていた。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
姫様の足元には、ズボンを半脱ぎの男が、うずくまっている。
よくみると、男は口から泡を吹き、その……股間? を、両手で押さえて、悶絶していた。
あたしも、あたしに覆いかぶさっている男も、しばらくぽかんとして、その様子を見ていた。
姫様がこっちを振り向いた。
無表情のまま、ずんずんと近づいて来る。
「ちょ、ちょっと待て! なんでえ、おめえ……!」
男が何か言い終わらないうちに、姫様はその後ろに回り、急所(?)を、ドカン! と盛大に蹴り上げた!
「はおうっ!!」
男は一発で白目をむいて、あたしの上に倒れかかって来た。
「ギャ――――ッ!!」
悲鳴を上げるあたし。
気持ち悪い!
姫様は、男に氷のような視線を向けたまま、その髪をむんずとつかみ、あたしの上から引き剥がして、壁際に投げ捨てた。
「リーザさん、大丈夫?」
「は、はいっ……!」
「男の人って弱いわよね……。こんな所に、弱点ぶら下げてるんだもの」
「はあっ!?」
いや、確かにぶら下がってるけど……!
ていうか、あの親衛騎士や、王宮の剣術指南役が言ってることは、ウソじゃなかった!
この姫様、マジで強かった!
しかも、金……とか蹴った!!
「やったわね、色仕掛け大成功よ、リーザさん!」
にっこりと微笑む姫様。
果たして、これは成功なのか?
「はい、これ」
姫様は、男達の持っていた剣を2本手に取り、1本をあたしに渡した。
あたしは倒れている男の剣帯と鞘を外し、剣をそれに収めて腰から吊った。
剣術の心得のないあたしでも、何もないよりは、ずいぶんマシだ。
「行くわよ」
姫様はあたしを手招きし、男達が鍵を開けた扉から、牢屋の外へ出た。
牢屋の前の通路は、所々松明が灯っているものの薄暗く、しばらく行くと、何かの扉の前に出た。
姫様は、あたしに向かって「しっ!」と指を立てて見せ、そっと、扉の中の様子を窺う。
扉の向こうには誰かいるらしく、物音がする。
姫様はロングソードを構えると、あたしに向かって頷き、扉を開けて中に踏み込んだ。
「なんだ、おまえら、もう終わりか? 早いと女に嫌われる……って、なんだ、てめえら!!」
椅子に座って、何か細長い物で手遊びしていた兵士が、振り向いて立ち上がろうとした。
しかしそれより早く姫様が突進し、剣で兵士の鎧を打ち据える。
どうっ、と倒れる男。
姫様は、素早く男に馬乗りになり、喉元に剣を突き付ける。
「お城の外に出るのは、どう行けばいいの?」
「そっ、そこの階段を上れば、地上階に出られる。あとは廊下の窓からでも城の庭には出られるが、その先は城壁を乗り越えるか、門を破るかしないと無理だ!」
「有り難う」
姫様はそう言うと、男の首筋に手刀を叩き込み、気絶させた。
「はい、これ、あなたのでしょ?」
姫様が、男が手遊びしていた、細長い棒をあたしに手渡す。
「光撃の杖」だ。
騎士ノーマは「保管庫に入れておけ」と言ったけど、見た目銀色できれいだし、勝手に取り出して遊んでたんだろう。
あたしはその場で「攻撃の杖」を点検した。
魔力は充填されたままで、ちゃんとマジックミサイル2発は撃てそうだった。
「使えそう?」
「大丈夫です」
「じゃあ、行きましょう」
さっき男が言った扉を開けて、階段を駆け上がる。
地上階らしき廊下に出た。
「ここから庭に出ても、城壁を越えるのは骨ね。いったん上層階に上りましょう。来るとき上空から見たら、上層階から城壁の上に出られる場所があったから、そこから出て下に降りる方法を考えたほうがいいわ」
姫様はそう言って、廊下を進み、上層階に上る階段を探し始めた。
あたしも後からついて行く。
上に続く階段が見つかったので、一気に4階分ほど駆け上がる。
階段はそこで終わりになっていた。




