13.作戦会議
あたし達の向かいの席には、コールマン隊長とガードナー調査官が着いている。
2人とも、ハドソン隊長の様子に半ば苦笑、半ばは心配顔だ。
ブロワーズ団長がみんなに状況の説明を始めた。
「……現在、敵の使節とのやり取りにより、敵は亡命者であるミライトホルプ氏と、彼の乗ってきた『スカイドレイク』の返還を求めていることがはっきりした。これが成されれば、国境地帯に集結している敵は撤収するそうだ。しかし、殿下のご意向としては……」
そこでブロワーズ団長がちらっと王女様のほうを見る。
「……殿下のご意向としては、せっかく我が国を信じて頼って来てくれた者を、無碍に引き渡すことなど出来ないということだ。なおウィンディ王女殿下は現在、国王陛下の全権代理として、この場にいらっしゃる。従って、この決定は絶対だ」
みんなの視線が一瞬王女様に集まった。王女様はとくに表情を動かすことなく、黙ったままだ。
「……そこで殿下としては、ライティアの魔法皇帝に、直接国王陛下からの親書を手渡したいと、そういうご意向であられる……あられるのだが……」
「親書? そんなものがあるんですか?」
コールマン隊長が尋ねる。
「はい、父から預かって参りました」
その時、初めて王女様が口を開いた。
そんなもの持ってたのか、この王女様。
ガードナー調査官が手を上げて発言する。
「その親書というのは、この事態を打開できるような内容のものなのですか?」
「いや、その前に!」
コールマン隊長がそれをさえぎって立ち上がった。
「その親書をどうやってライティア皇帝の元に届けるんです? そこにいる敵軍に託すんですか? それとも今からライティア皇城まで使節を派遣するんですか? 騎馬でも往復20日はかかりますぜ! その間、敵軍はじっとおとなしくしてるんですか?」
「飛行杖なら……」
ブロワーズ団長が苦しそうに言った。
「飛行杖なら、片道5時間程度で行ける距離だ。足の長い『ナイトゴースト』に魔力増加アイテムを付けて……帰りの分は向こうで補給が受けられれば、なんとか……」
「地図はどうするんです団長!? ライティア領内の航空地図なんてありませんぜ! 地図なしで、どうやってライティアの皇城までたどり着くんです!?」
コールマン隊長が至極当然のことを言った。
地図がなければ地文航法が出来ない。
いくら航続距離だけが足りていても、どっちへ飛べばいいのかもわからない状態では、ライティア皇城とやらまでたどり着くのは不可能だ。
地図を使わず、飛行した距離と方位から現在位置を割り出して飛ぶ推測航法という方法もあるにはあるが、精度が悪く、あまりアテには出来ない。
そのため、まったく未知の空域なんか飛んだら、大事な親書を抱えたまま、途中で遭難する可能性が高い。そもそも、ライティア皇城の正確な位置座標がわからなければ、この推測航法すら使えない。
……というより何より、あたしは今猛烈に嫌な予感がしてるんだが……どうしてあたしはここに呼ばれたの?
ガードナー調査官が発言する。
「敵に道案内は頼めないんですか? どちらにしても敵の領空内を飛ぶんだから、話は付けないといけないわけでしょう?」
「まあ、ワシもそれしかないと思うが……」
団長は難しそうな顔だ。
「敵が、皇城までの飛行経路をこちらに知られるのを嫌がりませんかね?」
と、コールマン隊長。
「それだなあ……」
団長が唸ると、ガードナー調査官が懸念を表明した。
「となると、敵軍に親書を託して、竜騎士部隊にでもライティア皇帝のもとへ届けてもらうしかありませんが、外交上非礼になりませんか? 下手を打つと、かえって敵に攻撃開始の口火を切る口実にでもされかねないと思いますが……」
すると、突然、それまで黙っていた人が口を開いた。
「親書は、私が直接ライティア皇帝陛下にお渡しします」
王女様だった。
「いやですから、先程から申し上げている通り、殿下をライティア皇城までお連れしようにも、その方法に問題が……」
ブロワーズ団長がますます苦しそうに言い訳する。
それに対して、王女様はきっぱりと言い放った。
「親書をただ先方に渡しても、それで事態が解決するというわけではないでしょう。私自身が父の代理として、直接皇帝陛下と交渉します。現状を速やかに打開するには、もうそれしか方法がないでしょう。ですから、なんとか私がライティア皇帝陛下のもとまで行ける方法を考えてください。我が軍の飛行杖がライティア皇城まで飛べないというなら、私1人が先方の竜騎士の背に乗せてもらってでも……」
「いや、それは無茶ですぞ!」
「殿下、いけません!」
ブロワーズ団長とガードナー調査官が同時に叫んだ。
「殿下お1人が、供の者もつけずに、敵と同行するなど、危険にもほどがありますぞ。どうかご再考ください」
ブロワーズ団長が頭を下げると、
「では、なんとか魔法帝国軍に道案内を頼んでみてください。先導さえしてもらえれば、味方の飛行杖はライティア皇城まで行けるのでしょう?」
「ううむ……わかりました」
ブロワーズ団長は腕組みをしたまま、苦虫を噛み潰したような顔で同意した。
「リーザ!」
突然団長に名前を呼ばれた。
「へっ?」
「おまえ、殿下を乗せて、ライティア皇城まで行ってくれんか?」
そら来た! ていうか、なんでだよ!
「あたしですか?」
「いや、待ってください、団長!」
隣にいたハドソン隊長が手を上げた。
「ライティア皇城には俺が行きます! リーザでは荷が重過ぎます!」
「ケガ人は黙っとれ!」
「いや大丈夫です! なんのこれしきのケガ……!」
「おい、無茶言うんじゃねえぞ!」
向かいの席のコールマン隊長も怒鳴った。
「おまえさん、そのコンディションで飛んで、万一殿下の身に何かあったらどうするんだ? 無責任もたいがいにしろ!」
「ぐぬぬ……」
ハドソン隊長は悔しそうに唸った。
「おいリーザ!」
あたしのほうを向いた。
「はい?」
「すまんが俺はライティア皇城まで行けそうにない! かといってコールマン隊長達の『バルチャーF2』では、魔力増加アイテムを付けても航続距離が足りん!」
「いや、でも……」
「俺が行けない以上、トーラ編隊のナンバー2はおまえだ。おまえに行ってもらうしかない!」
「あたし1人ですか?」
確かに、飛行杖の後ろに人を乗せてタンデムで飛ぶことは可能だが、運べるのはせいぜいあと1人ぐらいだ。普通に考えて、外国の皇帝に面会するのに、王女様1人ということはないだろう。最低限、あの親衛騎士は一緒に行くだろうし、他にも随行者がいれば、当然あたし1人では運びきれない。
あたしがそれを言うと、
「大丈夫、運んでいただくのは、私1人で十分です」
王女様がにっこり微笑んで言った。
いや、そんな微笑まれても……。
「でも、そちらの親衛騎士の方も、ご一緒されるんですよね?」
恐れながらあたしが尋ねると、
「いえ、彼は連れて行きません」
王女様はきっぱりと答えた。
「え? でも……」
「私は父様……国王陛下の特使という立場です。礼儀上、供の者は最小限にしたいですし、それに、今回はこちらからお願い事にあがるようなものです。相手の心証を考えても、出来れば武装兵などは連れて行きたくありません」
「はあ……」
あたしは王女様の隣の親衛騎士を見た。
とくに「いや、ぜひ自分も連れて行ってください!」などと言うでもなく、すまし顔のまま黙って聞いている。
「あなたと私、2人で行きましょう。随行よろしくお願いします」
王女様は、あたしに向かってそう言った。
「はあ……」
まあ、ライティア皇城まで飛んで帰ってくるだけなら……でも、それも魔法帝国軍が道案内してくれないとダメだけど……。
ブロワーズ団長もあたしに謝るようにして言った。
「リーザすまん、そういうわけでよろしく頼む。……殿下、それでは、なんとか竜騎士部隊による先導を敵に頼んでみます。ただし断られた時は、この作戦は遂行不可能となりますので、その点、お含みおきください」
「わかりました、ブロワーズ将軍。よろしくお願いします」
姫様がそう言ったその時だった。
「ああ、残念だよウィンディ! 僕がそばにいれば、何があっても完璧に君を守ってあげられるのに! 一緒に行けないなんて!」
突然、親衛騎士が大げさな身振りで嘆くように言った。
「有り難うレナード、その気持ちだけで十分よ」
王女様が優しい微笑を向けてそう言うと、
「運命とはなんて残酷なんだろう! 僕にはここで君の無事を祈っているしか出来ないなんて! ああ僕の胸は君を思って張り裂けそうだよ!」
「レナード、私は大丈……きゃ! ちょっと!」
突然、王女様が小さく悲鳴を上げた。あろうことか、親衛騎士が王女様に手を伸ばし、自分の胸に抱き寄せたのだ。
「ウィンディ、必ず無事に帰ってきておくれ、僕は待っているよ」
「やめなさい、レナード……みんな見てるでしょ!」
「おっと失敬、つい気持ちを抑えられなくて」
ようやく親衛騎士が手を緩めて王女様を解放し、王女様は真っ赤になって親衛騎士から離れた。
おまえら、そういうことかよ!
ブロワーズ団長はゴホンと咳払いをし、コールマン隊長は「ケッ!」と呟いて横を向き、ガードナー調査官は黙って目をつぶった。
「リーザ、頼んだぞ……」
ハドソン隊長が脂汗を流しながら、あたしの肩をつかんだ。
マジですか……?




