プロローグ
残酷な描写はありませんが少しだけ過激な発言があるので15禁タグを付けました。
☆プロローグ
……
…………
瞳を開く。
闇が……流れ込んでくる。
目の前には牢獄が広がっている。
少しずつ意識が覚醒していき、周りの様子がうっすらと見えてきた。四方は土や岩石で覆われており、外界に続きそうな雰囲気を出している扉がわずかに一つあるのみ。
そこはまるで、地面を掘り起こして作った……地下施設のようだった。
そんなことをぼんやりとした頭で考えていると、突然男性と女性が僕の視界に現れた。いや、僕が認識したのがその瞬間だっただけなのかもしれない。
初め、女の人は男の人に覆いかぶさるようにして立っていた。だがそう思ったのもつかの間、その女の人は何かを男の人に告げると、ずるずると地面に引き込まれるように倒れこんでいった。
そこにいた男の人は何かを呟いた後、すぐ近くにいた……子ども……かな? に、何かを言って、また女の人の所へ戻ってくる。
僕は目の前で一体何が起こっているのか理解できていなかった。
それ以前に、一体自分自身が誰なのかも、何もわかっていなかった。
僕はゆっくりとその男の人に近づいていく。その人は、涼しい顔をしながらこちらを向いた。
しばらく、無言のまま時が過ぎる。
「あの……」
何を聞けばいいのかわからなかったし、こんなことを聞いても良いものかわからなかったが、とにかく聞いてみた。
「ぼくはいったいだれですか?」
男の人は一瞬目を丸くした……ように感じたが、それも一瞬のことで本当にそうだったのかもわからない。
「貴様は、市ヶ谷恭平。私の息子だ」
わたしのむすこ、つまりぼくはこの人の子どもなのか。
一つりかいする。
「その女のひとはだれですか?」
「お前の母だ」
ぼくのお母さん。言われてみればそんな気がしてきた。
そうか。この人がぼくのお母さんなんだな。
だけど……
「お母さんは、なんで起きないんですか?」
「死んでいるからだ」
すぐにへんじがかえってきた。
「どうして、死んでいるんですか?」
ぼくがそうしつもんすると、少し間をおいてから男の人……ぼくのお父さんは言った。
「私が殺したからだ」
……少しあたまがこんがらがってきた。
ぼくはこの人とこの女の人の子どもで、この人がこの女の人を……
お母さんを殺した。
今まで停止していた思考が急激に頭の中で一本の糸となって繋がっていく。
「か、母さん? 母さんが死んでる? ど、どうして? なんで?」
男の人は、僕をじっと観察するように見たあと、言った。
「そうする必要があったからだ」
必要? 必要って何なんだろう。
僕は急激に動き出した思考の考えるままに、何かを口走っていた。だけど、内容は支離滅裂で何を言っていたのかもわからない。
そんな僕を見ていた父さんは一言言った。
「愚か者が」
……愚か?
何を言っているのかわからない。僕はただ、何もわからず立ち尽くすしかできなかった。
そんな僕に嫌気がさしたのかよくわからなかったが、父さんはいつものように僕に指導するように言った。
「貴様はいつまで震えているのだ? 目の前で人が倒れている。その女の前には私しかいない。ここから導き出される解答など一つしか無かろう。現実を受け入れよ、夢を見るな。これが真実だ」
その男の人は迷っていた僕に答えを教えるようにそう言い、出来の悪い子供を見るかのように、僕を蔑んだ瞳で見ていた。
僕……
俺はその時の親父の目をきっと一生忘れることはないだろう。その時の顔は何とも形容しがたい、まるで、何かに取りつかれたような微笑だった。
その顔を見る中で、俺の頭には昔聞いたことのある言葉が蘇ってきていた。おそらくこれは母との記憶だろう。
母の故郷には守り神がいる。ただ、そいつは正確には守り神というよりは祟りのような存在だったそうだ。
あるとき「儀式」を行うことになった。母は本当に嬉しそうに、「これでもう大丈夫」と僕に言っていた。
その村で「神」として存在していたそいつは、他人との調和よりも自分の主張・考えを強要する存在だったそうだ。
村ではそいつを称える者も少なからずいたが、一部では悪霊とまで言われていた。
確か、そいつの名前は……。
「悪魔……」
乾いた口からその単語が発せられたあと、あいつは俺に何かを言ったが……
その言葉を理解する前に、視界を急激に闇が覆っていった。
…………
……
ある作品の世界観にインスピレーションを受けたものです。
よろしくお願いします。