第5話 魔術師は綺麗好き
タクトが他のモンスターを連れてくることは珍しくない。ここ、俺の部屋はなぜかわからないけど清浄な空気がながれ神聖な空間と化しているようなのだ。だからタクトがよくモンスターの新人や知り合いを俺の部屋に連れてきてここで気分が悪くなったら休みに来ていいよと誘っているようなのだ。
「タクト、その子は?」
「この子はユメ、恋愛小説の本から生まれた子だよ」
「よ、よろしくお願いします」
俺は右手を差し出し握手の構えを取る。そして恋愛小説から生まれたと言うBOOKモンスターの女の子と握手を交わす。モンスターの大きさはモンスターそれぞれだ。このユメという女の子は人間の十歳児ぐらいのサイズだったから普通に握手ができた。ちなみに、モンスターたちは空が飛べるし透明化もできる。壁をすり抜けることだってできるから、タクトとユメの二人は俺の部屋の窓から入ってきた。
「よろしく、俺の部屋で良ければいくらでもくつろいでいって」
「はい、ありがとうございます」
「それにしても、なんで連の部屋はこんなに居心地がいいんだろうね」
「さあ、俺に聞かれてもわからないし。そもそも、タクトたちはモンスターだからなにか感じるのかもしれないけど、俺は俺の部屋になにも感じないんだけど」
「うーん、やっぱり連の優しい性格が出てるのかな? それともこの家になにか秘密があるとかかな」
心当たりが一つあった。
「前に一度、地球に話しかけられたことがあったんだよ。その時、地球の意思が俺の家に憑りついたことがあったんだ」
「そうなの? 地球に意思があるなんて聞いたことないけど……まあ僕らが本から生まれたんだし不思議ではないか」
地球には意思があると僕は考える。地球だけじゃない。他の星々や時間や空間という概念、自然に生きる動物たち、海に生きる魚たち、風や火山に溶け込む精霊たちなど。僕は今までいろんな意思を持った不思議な生き物と会話してきた。その中で特に印象に残ったのは三つ。風の精霊は普段から幸福と破滅の二つの効果を伴った自然風を振りまいている。それが人類をどう振り分けているのかわからないけど僕に被害が出ないことを祈る。次に火山だ。火山の精霊は時々いたずらで灰を振り散らかすことがある。それは大抵いじめたい人間が居たり、遊びたい人間が居る時だ。次に水の精霊たち。僕は時々雨の降る日が来ないかなと考えることがある。毎日雨だったら嫌だけど、時々の雨なら気持ちが落ち着くからだ。僕が雨の気分になったら水の精霊たちが雨を降らせてくれるのだ。そして僕が一番驚いた存在。それは龍だ。他にも驚いた生き物、見た目に反して力を持った生き物たちを見てきた。
「連さん、入ってもいいですか?」
扉の向こうから少華の声がしてきた。俺はいいよと声をかける。
「あれ、なんかモンスターが増えてますね」
「うん、名前はユメ、恋愛小説の精霊みたいなモンスターらしいよ」
「そうなんですか。あの、ちゃんと魔導書は作ってますか? サボって本ばかり読んでいるんじゃ」
「そんなことない」
「でも──」
俺は自分の部屋、ベッドに横になって本を読んでだらけている最中だった。お腹の上にはタクトが乗っており、一緒に本を眺めてる。ちなみにユメは俺の部屋にある本棚を散策中だ。
「連、その態度じゃサボっているようにしか見えないよ」
タクトに言われた。まあ、やる気がでないから読書に逃げていたのは事実だけどさ。
「連さん、魔導書を作る作業を横から眺めていてもいいですか?」
「いいけど、単純な作業だから退屈だぞ?」
「それでもいいです。わたしが勝手に見て勝手に学びますから」
「そっか、じゃあ今から作るよ」
俺は椅子に座り机のパソコンを開く。パソコンを開いて魔術協会の人にお願いされた魔導書の内容を思い出す。それを考えながら、文章を紡いでいった。この作業は特に集中力が必要なわけでもコツがいるわけでもない。魔導書づくりは呼吸をするようにできるからあまり苦にはならない。
「書いているだけで魔導書ができるものなんですか」
「まあ、信じられないかもしれないけど、俺が念じたら自動的に魔力が本や文字に編まれていくみたいなんだよね」
「連さん、魔力持ってるんですか? 連さんからは魔力を感じませんけど」
「うん、魔力持ってないからね」
「──? ならなんで魔力が編まれるんですか、その魔力はどこから」
「さあ、世界の誰かがどこかから引っ張ってきてんじゃないかな~」
「また適当なことを……」
俺に魔力がないのは俺自身も不思議なことだ。俺の身体には魔力が一切ない。しかし、魔法が使える。うーん、謎だ。ほんと誰が俺の魔導書づくりに協力してくれているのか。
「俺は魔力なんて必要ないと思うけどね、誰かが協力してくれるなら、分けて貰えばいいんだからさ」
「簡単に自分の魔力を分ける魔術師なんていませんよ」
「そうなの」
「そうです」
「潔癖症なのかな」
「それとこれとは違う問題でしょう」
なるほど、確かに。




