春と冬-回帰し宿命の果て-
「覚悟は、決まったか?」
「ああ、君を・・・・・・斬るよ」
青年は腰の刀を抜刀し、中段に構えた。
「良い眼だ、ならば・・・・・・」
刀を構えた青年と対峙した白髪の青年は、龍に変じた。すると天候が変わり、粉雪が降り荒んだ。
「春よ、来い!」
「いくよ、冬・・・・・・たぁぁぁ!」
両目に入ってくる粉雪に苦悶しながら、春は冬に向かって駆けた。そして左腕の付け根から袈裟斬りを一太刀浴びせた。
しかしその刃は、彼の固い鱗で守られ、肉にまで到達しなかった。
続いて心臓を突いたが、やはり鱗で弾かれた。
「・・・・・・温い、こんなモノかお前の覚悟はァ‼」
「うう・・・・・・うわぁ」
春は龍の放つ息吹に吹き飛ばされ、凍土に尻餅をついた。
「春、俺はお前を殺す。お前が死ねば、この世界は真白と灰色に染まった氷の世界だ、永遠にな。そして生きる者は全て絶える」
「う、うぐ」
「役目を違えるな結の一族の剣士! 俺を屠りこの世界を護ってみせろ‼ 俺の為にも」
「冬・・・・・・」
「やっぱり君といると楽しいよ、冬」
「そうか。だが俺達は敵同士の一族、本来ならこうして逢っているのも許されない。きっと何れは俺達も『役目』を背負って・・・・・・」
「僕達は大人になっても仲良くしよう。そして桜木が一本生えたこの秘密の場所に来て、一緒に桜を愛でるんだ」
「浅き夢だな、だけどそれを信じるのも悪くない」
「冬、君は僕にとって大切な親友だ。君は?」
「・・・・・・さぁ、あまりここに居ると皆に気取られる。帰るぞ」
「瞬火終凍」
春が刀身を撫でると、刃に焔が宿った。
「桜火爛漫! たぁぁぁ‼」
「はぁぁぁ‼」
春は冬の息吹を堪えて走り、冬が尾で凍土を叩いて飛ばした氷の飛礫を弾き、一心に冬の懐に向かった。
そして斬撃を見舞った。
「やぁぁぁ‼」
一太刀で左脇腹から逆袈裟に、返し刀で左腕の付け根から袈裟斬りを、最後に心臓に突きを放った。
今度は踏み込みが深く、捉えていた。
「・・・・・・見事だ、春」
冬は元の姿に戻って言った。
「冬・・・・・・」
雪は雨に変わっていた。空と同じく春の瞼からも雨粒が零れ、凍土の氷を解かした。
「立派に世界を救ったな、これで俺も血から解放される・・・・・・。礼を言うぞ、春」
冬の体は徐々に細かな氷の粒子に変わっていった。
「冬、やっぱり僕は・・・・・・君と離れたくない」
「大丈夫、俺はお前の傍にずっと居るさ。舞い散る花弁となって、流れ落ちる雨となって」
「うっうっ・・・・・・」
「そういえば、お前から預かった心に返事をしていなかったな。俺も同じ、お前は俺にとって大切な親友だった。今日までずっと変わらない」
「冬・・・・・・大好きだ」
「俺もだ、春。一族の定めが無ければ、こんな辛い争いはしなくてよかったんだろうな・・・・・・そしたらお前と一緒に夢の続きを――」
冬は粒子の渦となって三回回ると霧散した。
それから春は凍の一族と結の一族の橋渡しをし、長年掛け両一族を和解させた。 そして熱の一族の夏と文の一族の秋を交え、四つの一族はそれぞれの領分を決める約定を交わした。
この約定をもって生まれた循環は、やがて『四季』と呼ばれるようになった。
二人が友好を深め、争った場所に春は来た。
ここに来て瞼を閉じれば、親友の懐かしき声がした。
一本生えた桜木から、一枚、二枚、花弁が降った。




