着陸
翌朝。着陸まで、あと三十分。
ノーランは操縦席に座り、前方のスクリーンを見つめた。
地球が近い。
雲の切れ間から、大地の色が見えた。緑だった。こんなに豊かな緑を、ノーランはこれまで見たことがなかった。川が銀色に光っている。海が広がっている。大気の青さが、太陽の光に透けて輝いていた。
背後に人の気配がした。オーレンだった。
「少しよろしいですか」
ノーランは頷いた。
オーレンは静かに、操縦席の隣に立った。窓の外の青い惑星を見ていた。
「一つだけ、確認させてください」
「何だ」
「今ここにいる我々は——あの星にとって、何者ですか」
ノーランは答えなかった。
「我々は故郷を失いつつあります。食糧が尽き、生きる場所が消えていく。そして今、あの青い星に、食料を求めてやってきた」オーレンの声は静かだった。「あの星の生き物は——プローブの映像に映っていましたが——我々のことを、何と呼ぶでしょう?」
ノーランはゆっくりと答えた。
「宇宙人だ」
その言葉が出た瞬間、操縦室の空気がわずかに変わった気がした。
「その通りです」とオーレンは言った。「我々は——あの星にとっての宇宙人なのです」
ノーランは何も言わなかった。ただ窓の外を見た。
着陸シーケンスが始まった。
ノーランは操縦桿を握った。オートパイロットが軌道を描き、大気圏突入の角度を計算している。
窓の外が橙色に燃えた。摩擦熱が機体を包んだ。
ノーランは胸の奥で、何かを手放した気がした。故郷の赤い大地。二つの太陽が西の地平線に並んで沈む夕暮れ。二つの月が重なる夜。飢えた人々の顔。
全部を置いてきた。
セタの声——いや、ナディアの——いや。
録音された航行ガイドの音声が流れた。「着陸準備完了。全員、衝撃に備えてください」
ノーランはスクリーンを見た。
目標地点の拡大映像。緑の中に、構造物が見える。集落のようなもの。プローブのデータと一致する。
あの構造物の中に——いる。
あの二本腕の生き物が。
「降下する」とノーランは言った。「全員、衝撃に備えろ」
ノーランはプローブの記録映像を、もう一度だけ思い出した。
二本の腕。二本の脚。直立歩行。奇妙な形だが、大きさとしては悪くない。記録では、この星の表面に推定七十億以上が生息しているとのことだった。
資源としては、十分すぎる。
《タクシラ》は大気を裂きながら降下を続けた。
廊下の奥で、黒い泥の痕跡が一つ増えた。ノーランはそれに気づいていた。
拘束されたリアが、静かに泣いていることも。
それでも、着陸スイッチを押した。
地球が——青い惑星が——近づいてくる。
その表面で、まだ何も知らない生き物たちが暮らしている。歌を歌い、構造物を建て、死者を悼んでいる。
あと数分で、空に見慣れない光が落ちてくる。
彼らはきっと空を見上げるだろう。
そして叫ぶだろう——「宇宙人が来た」と。
ノーランの口元が歪んだ。故郷の者たちはそれを笑顔と呼ぶ。しかしそれが笑顔なのか、それとも全く別の何かなのか——地球の生き物たちには、きっと判別できないだろう。
青が、近づく。
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