疑心暗鬼
食堂に六人が集まった。
七人が、六人になった。
「全員、聞いてくれ」とノーランは言った。「V-7の生物には擬態能力がある。今この瞬間、私たちの中に——その生物が紛れている可能性がある」
重い沈黙が、食堂を満たした。
ノーランはそこで、もう一つの事実を告げた。
「それから、全員に伝えておくべきことがある。出発前から燃料消費が異常だった原因は、エンジンの流量調整弁に細工がされていたためだ。つまり、この船の誰かが——故意にこの船を地球に到達させまいとしている」
今度の沈黙は、さっきとは質が違った。恐怖ではなく、疑念。六つの目が、互いを射抜くように動いた。
「擬態生物と、サボタージュ」とベックが静かに言った。「二つの脅威が同時にこの船にあるということですか」
「そうだ」
「偶然ですか?」とテリエが聞いた。背筋をまっすぐに伸ばしたまま、表情を微塵も変えずに。
「偶然かどうかはわからない」とノーランは答えた。「だが、どちらにも対処しなければならない」
「対処と言いますが」とリアが口を開いた。「犯人を特定できるんですか? 流量調整弁は誰でもアクセスできる場所にあるのでは?」
ノーランはリアの顔を見た。穏やかな表情。料理担当としては不相応なほど冷静な目。
「調査は進める。全員、しばらくは単独行動を控えろ。移動は二人以上で。就寝時は必ず施錠」
六人が頷いた。しかし、その頷き方にはそれぞれ温度差があった。
V-7を離れてから、《タクシラ》の空気は変わった。
食事の時間、誰かが必ず最後に着席した。先に他の誰かが食べるのを確認してから、自分も口をつける。廊下をひとりで歩くことを、誰もしなくなった。
笑い声が消えた。ルカがいた頃は、食堂に笑い声があった。その声が今はなく、食事の時間はただ静かで重かった。
ノーランは眠れない夜が続いた。
奇妙な出来事が続いた。食堂のカップが毎朝、置き場所を変えていた。整備用通路に、泥のような黒い痕跡が見つかった。深夜に廊下の奥で何かが動く気配を感じたが、カメラには何も映っていなかった。
十五日目の夜。テリエがノーランの部屋を訪ねてきた。
「ベックが怪しいと思います」テリエは声を落とした。「V-7で一時的に別行動を取った時間がありました。あの時に、擬態された可能性があります」
「根拠は?」
「食堂で、利き手が変わっていました。以前は右利きだったのに」
ノーランは何も言わなかった。テリエが去ってから三十分後、今度はリアが来た。
「テリエに気をつけてください」リアはドアの外を一瞥してから言った。「政府の連絡官とは名ばかりで、あの人物の本当の任務に、この船の制御権の掌握が含まれている可能性があります」
「どこから得た情報だ」
「それは言えません」
リアが去った後、ノーランは一人で天井を見上げた。
全員が嘘をついている。全員が誰かを疑っている。そしてその中に、人間ですらないかもしれない何かが紛れている。
暗い天井に、故郷の夜空が重なった。二つの月が、静かに弧を描いていた。あの夜空を、もう二度と見ることはないかもしれない——ノーランは、それを思い出すたびに、胸の奥が軋んだ。




