航海と異変
出発から十二日目。
「船長!」
ナディアの声が操縦室に飛び込んできたのは、ノーランが仮眠から目を覚ましたばかりの朝だった。
「エンジン二番の燃料消費が想定を十八パーセント上回っています。このまま進むと——」
「目的地に届かない、か」
「はい」
ノーランは計器盤を見た。赤いランプが点滅している。
十二日かけてここまで来た。引き返す燃料もなければ、このまま進む燃料もない。
ノーランは、ルカを呼んだ。
「エンジンの状態を見ろ。消耗か、それとも——」
ルカはしばらくエンジン室にこもったあと、操縦室に戻ってきた。いつもの笑顔はなかった。
「通常の消耗じゃありません」ルカは声を落とした。「燃料ラインの流量調整弁に、手が加えられた痕跡があります。微細な調整で、一見しただけではわからないくらい巧妙に。でも確実に、燃料を過剰消費させる設定に変えられていました」
沈黙が、操縦室を満たした。
「サボタージュか」とノーランは言った。
ルカは静かに頷いた。
ノーランは窓の外を見た。星が流れていく。誰かが、この船を地球に到達させたくない。
「最寄りの着陸可能な天体は?」
「V-7です」とナディアが答えた。「通称〈黄色の星〉。四十七時間で到達可能です。ただし——」
「ただし?」
ナディアはわずかに目を細めた。「事前調査では、生命体の存在が示唆されています。詳細は不明です」
ノーランは少し間を置いた。
「ルートを修正しろ。V-7で補給できるかは分からないが、このまま漂流するよりはいい」
「了解です」
ナディアが去った後、ノーランはルカに小声で言った。
「流量調整弁の件は、まだ他の乗組員には言うな」
「……わかりました」
ルカの目が暗かった。ノーランも同じことを考えていた。
七人の中に、敵がいる・・・




