第24話 磁力スイカで大空へ!
草の精霊さんの大盤振る舞いは止まらない。
僕のために雲の如きローブと下着を仕立ててくれただけでなく、ボコちゃんにも素敵な衣装を用意してくれたのだ。
たっぷりのレースがあしらわれた、白と黒を基調としたゴシック調のドレス。少し伸びてきた白のメッシュが入った黒髪は、赤いリボンで愛らしいツインテールに結い上げられている。
装いも新たになったボコちゃんは、とびきりキュートだ。けれど、その少し吊り上がった瞳のおかげで、可愛らしさの中に凛とした英気も感じさせる。
さらに精霊さんは、蔦という蔦に奇想天外な食べ物まで実らせてくれた。
ナーガたちは水草で編んだ網袋にせっせと収穫しているけれど、こんなファンタジックな光景を前にして、つまみ食いを我慢できる聖人君子なんて存在しないだろう。
僕も大きなキャンディを抱きしめて舐めてみる。ん〜、甘い!
一方、ボコちゃんはチョコレートに夢中だ。豪快に頬張るもんだから、口の周りがチョコまみれになっている。まったく、世話が焼ける子だなぁ。
「あらあら、じっとしていてくださいな。お口を拭きましょうね」
最初こそお行儀よくしていたナーガたちだったが、雲行きが怪しくなってきた。
草の精霊さんの悪戯心だろうか、実った食べ物の中に「酒入りピーナッツ」が混ざっていたらしい。アルコールに免疫がなかったのか、たった一粒食べただけで、彼らの青い肌はみるみる真っ赤に染まっていく。辺りはすっかり無礼講の宴会ムードだ。
一方こちらでは、カニさんが餅の粘着攻撃に苦戦していた。口にくっついた餅を剥がそうとハサミで懸命に引っ張るものの、餅はビヨーンと伸びるばかり。あろうことか、伸びた餅が自身の体に絡まりつき、自縛状態に陥ってしまった。カニさんは今、諦めの境地で水底に仰向けになっている。
さて、僕とボコちゃんはというと、即席の遊園地アトラクションを楽しむことにした!
僕はまず、巨大なスイカたちに『磁力』と『分裂』の魔法を付与し、手頃なサイズの小玉スイカへと変化させる。そして、草の精霊さんに頼んで、それらの磁力スイカを樹冠から水底まで伸びる無数の気根の中へ、維管束を通じて等間隔に配置してもらった。
準備は万端だ。僕はボコちゃんを自分の貝殻の中にしっかりと固定し、自身は『磁力』を帯びた真珠を抱え込む。そして、一本の気根の根元に開けられた入り口へと滑り込んだ。
周囲の気根内部には、先ほどの磁力スイカが埋め込まれている。僕が抱える磁力真珠と反発・吸引し合い、さらに草の精霊さんの制御も加わることで、リニアモーターカー顔負けの磁力加速システムが完成したのだ!
安全第一ということで、初速はかなり抑えめだ。海水の抵抗も相まって、上昇速度はカタツムリの歩みのように遅い。
……って、遅っ! これじゃ日が暮れてまうわ! せっかくのアトラクションなんやから、もっとこう、ガツンとこんかい!
僕は痺れを切らし、さらなる加速を決意した!
草の精霊さんにそう伝えると、速度は一気に跳ね上がった。
まるで海底トンネルを疾走しているようだ。いや、これはまさにジェットコースター! 急上昇に急旋回、そして横移動と、目まぐるしく景色が変わっていく。
中盤に差し掛かると、気根でできたトンネルがなんと半透明に変化したではないか! まるでガラス張りのチューブだ。おかげで、僕とボコちゃんは周囲の景色を存分に堪能できるようになった。
ふと見れば、僕らはもう精霊さんの樹冠の上方まで来ていた。眼下では葉が微かに黄金色の光を放ち、頭上からは太陽の光が降り注いでいる。上も下もあまりに幻想的で、どこに目を向ければいいのか迷ってしまうほどだ。
ただ、こうして光の届く高所から見渡してみると、少し違和感を覚えた。
ドキュメンタリー番組で見る海といえば、視界を埋め尽くす魚群や、色とりどりのサンゴ、巨大な海藻で賑わっているイメージだ。けれど、目の前の景色は美しいとはいえ、生き物の数がどこか疎らで、海底も少し荒涼としているように感じる。
まぁ、テレビなんて映えのいい場所を選んで撮ってるに決まってるしな! リアルな海なんて、きっとこんなものなのだろう。
僕とボコちゃんを乗せたチューブはさらに上昇を続け、ついに水面へと迫る。管の中だからイルカのようにジャンプするわけじゃないけれど、水面を突き抜ける瞬間は最高に爽快だった。
懐の中のボコちゃんも、目を輝かせて「わぁっ」と感嘆の声を上げている。
チューブは空中へと伸びているが、内部は海水で満たされているため、水生生物の僕らでも息苦しさは感じない。僕はどこまでも広がる蒼穹と、空を舞う鳥たち、そして天頂に輝く眩い太陽を見上げた。
「普通のホタテには、一生拝むことのできない景色でしてよ、ボコちゃん」
すると、一羽の海鳥が僕らに気づいたのか、高度を下げて並走し始めた。人間からすればただの鳥かもしれないが、僕にとっては自身の数十倍もある巨体だ。
まさか、僕らを啄ばもうとしているのか?
警戒して見つめ返してみたが、鳥はただこちらの様子を伺うように並んで飛ぶだけで、襲ってくる気配はない。
「ごきげんよう、海鳥さん!」
「ごきげんよう、うみとりさん!」
チューブが再び海面へと潜ろうとしていたので、僕はお別れの挨拶をしたのだ。ボコちゃんも僕の真似をして、丁寧にお辞儀をする。声は届かないかもしれないけれど、こういうのは気持ちが大事だ。
再び水中世界へと戻り、精霊さんのエスコートで僕らは無事に水底へと送り届けられた。
出口では、緑のマスコット猫ちゃんが待っていた。先ほどの魔法使いの帽子ではなく、今度は鉄道員の制帽に制服という、凛々しい車掌さんスタイルにお色直ししているではないか。
「お嬢さん方、空の旅はお楽しみいただけましたかな? 当遊園地では、さらにメリーゴーランドや観覧車といった新アトラクションもオープンいたしました。本日は開業初日につき、入場料は全額無料! どうぞ心ゆくまで遊び尽くしていってくださいね〜、ンフフフ!」
なんて太っ腹な! これは遊ばなきゃ損というものだ!
遊園地の園長こと猫ちゃんに案内され、僕らは次々とアトラクションを梯子した。合間には美味しいグルメに舌鼓を打ち、遊び疲れるまで満喫してから、ようやくカニさんの元へと戻った。
カニさんは、いつの間にか餅の呪縛から解放されていた。
だが、その背中には何やら黒っぽい物体が乗っかっている。
おや? あれは一体なんだろう。
不思議に思った僕は、カニさんの背中まで泳いで着陸し、その物体を観察してみることにした。
驚いたことに、それは新しい貝殻だった! 綺麗な楕円形をしている。
僕がまじまじと見つめていると、その貝殻がわずかに開き、白い足のようなものが恐る恐る伸びてきた。そして、隙間がさらに少しだけ広がる。
僕はその隙間から中を覗き込んだ。
暗がりの中で目が合った瞬間――。
「きゃっ!」
可愛らしい悲鳴と共に、貝殻はピシャリと閉じられてしまった。




