第22話 芸術家の方が向いてるかも
▼幹細胞のコア
└ 効果:分化 ※生体不適合:使用不可
▼癌細胞のコア
└ 効果:分裂 ※生体不適合:使用不可
スライムから入手した『核』について確認してみると、ステータス画面にはこのように表示されていた。
どうやらスライムというのは、とてつもなく巨大な単細胞生物だったらしい。
それにしても『幹細胞』に『癌細胞』か……言葉自体は聞いたことがある。特に後者は『とても恐ろしい病気』という認識はあるけれど、具体的にどういう細胞なのかまでは詳しく知らない。
以前、虹色真珠に異物を取り込ませた結果、『真珠の木』というバグじみた現象を引き起こしてしまった前例がある。それゆえ、これらを吸収させるべきか一瞬迷ってしまった。
僕は、この場を立ち去ろうとした。
そんな時だ。ナーガの姫君が、あの独自の敬意を表すポーズを取りながら、こちらへ近づいてきたのは。
彼女は瀕死の重傷を負った騎士団長――ヴァースキさんを連れており、どうやら僕に彼の治療を懇願しているようだった。
見れば、彼の腹部に穿たれた大穴はあまりに凄惨で……まるでサーカスの火の輪くぐりの如く、僕がそのまま通り抜けられそうなほど巨大だった。
彼とは赤の他人だし、血縁も義理もない。けれど、目の前で消えゆく命を見過ごせるほど、僕は冷酷にはなれなかった。
僕は試しに、既存の『コンクリ』の力で治療を試みてみた。
……しかし、傷は塞がらない。
すぐに悟った。今の僕の力では、たとえ全力を尽くしたとしても、この欠損を埋めて彼を助けることは不可能だと。
――ならば、賭けるしかない。
『好奇心こそが人類の進歩の原動力』なんて言葉があるけれど、それはホタテにとっても同じこと。
僕は意を決し、虹色真珠に二つの細胞核を吸収させた。
すると、虹色真珠のステータスが以下のように書き換わった。
▼虹
├ 効果:他真珠の吸収・統合
└ 【装備スキル】 『発光 Lv.Max』『分化』『分裂』
新たに獲得した装備スキルは、まさに騎士団長を治療するためにあつらえたかのような能力だった。なんという偶然だろうか。
『分裂』スキルは文字通り、真珠を二つに分かつ能力だ。目測ではあるが、分裂後の総体積は変わっていないように見える。だが、サイズが小さくなっても保有スキルはそのまま保持されるようだ。
そして『分化』スキルはさらに強力だ。これは真珠のスキルを、自由自在に付与、あるいは削除できるというものだ。
もちろん、無からスキルを創造できるわけではない。付与可能なスキル、いわゆる『スキルプール』のソースとなるのは、僕の貝殻の中に収められている、最も多くのスキルを宿したあの『万能真珠』だ。
特筆すべきは、全能性を持つ真珠が、『分化』によって生体を構成する細胞そのものへと変質できる点にある。
僕はクサムライさんの野球バットを再形成し、『分化』によって『分化』および『分裂』スキルを付与、代わりに不要な『発光』と『他真珠吸収』の能力を削除した。
『分裂』によって真珠たちを小さくし、 細胞レベルの大きさになるまで分割していく。続いて『分化』を行い、それらを強力な成長治癒能力を持つ細胞へと変化させ、騎士団長の創面を覆うように付着させた。
創面を覆ったそれらは、さらに周囲の組織に合わせて、あるべき皮膚へ、筋肉へ、血管へと『分化』していく。
元の傷口は消え失せ、代わりに彼らの青い肌とは異なる、白い肉体が現れた。見る角度によってわずかに七色の光沢を帯びており、まるで石膏像のようだ。
この手法を応用すれば、僕はホタテ彫刻家になれるかもしれない。ダビデ像だって、これなら朝飯前じゃないか!
治療は効果を発揮し、騎士団長は徐々に目を開けた。その時だ。ナーガの姫君が、ずっと首にかけていた水草の茎で作られたネックレスを外し、僕に差し出してきたのは。
これを治療費の代わりにするつもりだろうか? ほな、ありがたく貰っとくわ!
ネックレスに繋がれたそれを受け取る。くすんだ黒色をしており、見た目はそれほど綺麗ではない小さな球体だ。
だが芸術とはそういうものだ。自分が綺麗だと思っても、いわゆる『通』の目には良いものと映らないことがある。キャンバスに適当に絵の具をぶちまけたように見えても、専門家からは絶賛されたりする。一体なぜなんだろうか。
もしかしたらこれ、通にしか分からへん、とんでもない値打ちモンの宝石かもしれへんで! それに丸いし、真珠として認識されるはずや! ほな、いっちょ見てみよか!
▼磁石 Lv.1
└ 効果:磁力
ただの磁石やないかい!
いや、待てよ。
僕の真珠はすでに『分裂』と『分化』のスキルを有している。そこにさらに『磁力』が加われば……。
せや!
でっかい真珠を分裂させて、磁力を帯びた無数のちっこいバッキーボールにして遊べるんちゃうか!?
植物の茎に結ばれていたその不格好な磁石を、真珠に取り込んだ。主を失った茎は、水流にさらわれ、どこかへと漂っていく。
ナーガたちが独特な姿勢を保ったまま近づいてくる。だが悪いけど、今は君たちにかまっている時間はないんだ。
真珠のなる木を失った今、どうやって新たな大真珠を調達しようかと思案していた、その時だ。
クサムライさんが唐突に傘を地面に突き刺し、高く跳躍したかと思うと――着地と同時に、赤と黒のスライムの体に根を下ろしたではないか!




