第16話 馬車襲撃イベント
しかしこうして見ると、ナーガ族ってのはホンマに夢がない種族やなぁ。
ここにおる全員、男やんけ。妖艶で可愛い女の子とか、どこにもおらへんし!
……お?
あそこに一人だけ、女の子っぽい外見をしたナーガがおるで!
あんなに可愛らしいんやから、まさか「実は男の娘でした」なんてことはないよな?
僕が冷静に観察したところ、彼女は負傷したナーガの男性の元へ必死に駆け寄っているようだった。どうやら、かなり仲間思いの性格らしい。
紅一点の少女と、彼女を守るために傷つき、戦う男たち。
解けた。わたくし、今の状況が完全に理解できたわ!
これ、いわゆる『馬車襲撃イベント』ってやつやん!
どんな物語の主人公でも、一度は盗賊に囲まれた馬車に遭遇するもんやろ?
ほんで、その馬車の中には決まって「お姫様」か「公爵令嬢」が乗ってるんや!
周りに転がってる負傷した男たちが、この説をより確信させてくれてるわ。
よくあるテンプレにおいて、君ら護衛役はいつも「かませ犬」扱いで可哀想なこっちゃ。
せやけど安心しぃ。今はここに、慈愛に満ちたホタテが一枚おるからな~!
まあ、肝心の馬車がどこにも見当たらへんし、そもそも海の中で馬車が走るわけないんやけど……間違いなく正解はこれや!
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。ヘビを打つには、その七寸を打たなければならない。
そして――媚びを売るなら、当然一番の「大物」に限るってもんやろ!
僕は直ちに『ホタテ泳法』を全開にし、ナーガ姫君(仮)が介抱しようとしている男性ナーガの元へと滑り込んだ。
肌の色こそ青いけれど、こうして至近距離で見てみると、彼らの顔立ちは人間にそっくりだ。
まあ、鼻があるべき場所がのっぺりと平坦だったり、耳の位置にただ穴がぽっかり開いているだけだったりと、細部は異なるけれど。
ただ、こうして対比してみると直感的にわかる。今の僕の体、本当に小さいな。
なにせ、ナーガの目よりひと回り大きい程度のサイズ感しかないのだ!
それにしても、海洋生物のくせに髪の毛はちゃんと生えてるんやな! 不思議な生態やで。
さて。
この男性ナーガを助けて、姫のご機嫌取りをするのが当初の計画やったけど……ここでふと、重大な問題に気づいてしまった。
もし彼女の目の前で、僕が口から吐き出した『コンクリ』を与えたとして、どうなる?
いくら『お嬢様マナー』スキルで所作が美しく補正されるとはいえ、絵面的には「ゲロを食べさせている変態」や。
これでは好感度アップどころか、最悪の事態になりかねない。
『わたくしの忠実な兵に、其方の汚い嘔吐物を食ませたのですか!? この不敬な二枚貝め! 者共、やっておしまいなさい!』
あかん。そんな展開になったら詰むわ。
それに僕としては、あの真珠樹から湧き出てくる真珠を、彼らに全部食べてもらって処理したいっていう下心もあるしな。
そこで僕は思い出す。
元を正せば、あの変な樹から生った真珠は、以前ボコちゃんにあげた真珠と同質のもの。
つまり、あの『ヒール』のコンクリから生成された物体だ。
……ということは?
この樹から採れた真珠にも、同じような回復効果が備わっている可能性が高いんじゃないか?
というわけで、ナーガ体実験や!
僕は樹から毟り取ったばかりの虹色真珠の粒を、ポイッと彼の口の中に放り込んだ。
まあ、鑑定結果にも『食用可』と出ていたし、少なくともお腹を壊すことはないだろう。
反動で僕みたいに「口から虹色のものを吐く体質」になってしまうかもしれんけどな!
僕が放り込んだ真珠を、彼は反射的にゴクリと飲み込んだ。
すると経過は読み通り。男性の傷がみるみるうちに塞がり始めたのだ。
よし、これできっとナーガの姫様も『わたくしは悪いホタテではありませんのよ』と理解してくれるはず!
僕はすかさずナーガ姫君の目線と同じ高さまで泳ぎ上がり、元気いっぱいに挨拶をした。
「ごきげんよう! 麗しのナーガのお姫様! わたくしは愛と平和の使者、通りすがりのホタテでしてよ!」
しかし、ナーガ姫君は小首を傾げ、不思議そうな顔をしている。
彼女の唇が動き、奇妙な発音の羅列が僕の耳に届いた。
……あれ?
ここ、異世界っぽい場所やのに、ナーガ族は『異世界共通言語』を使ってへんのかい!
普通ならここで『自動翻訳チート』機能が仕事するはずやのに、翻訳さんの気配が全くせえへんぞ。まさかの言語の壁か!
せやけど、ウチはあのクサムライさんのボディーランゲージすら解読した天才ホタテやで?
言葉が通じない程度の障害、なんのそのや!
僕は姫様の前で、ある一連のジェスチャーを繰り返してみせた。
まず、あの巨大な真珠の樹をビシッと指差す。
次に、腕を使って大きな輪っかを作り、樹に実る真珠を表現。
そして輪っかを作ったままくるりと回転し、水中をゆらりと落下して見せる。これで「実を摘み取る」動作を表してるつもりだ。
さらに、姫様に背を向けた一瞬の隙に、手持ちの『虹色真珠』を取り出し、意識を取り戻しつつある男性ナーガの元へ泳ぐ。
そして、その真珠を口へ放り込むフリをした。
勘違いせんといてな、この手持ちの虹色真珠はあげられへんよ。僕は即座に真珠を引っ込めた。なにせエンドウ豆を吸収していないため、食用には適さないのだ。
どうや? 伝わったか?
今の僕の図体では小さすぎて、あの樹になっている巨大な真珠は運べない。
だが、君たちなら自由にあの真珠を採って、好きなだけ仲間の治療に使えるのだぞ?
――という、僕なりのメッセージだ!




