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第15話 世界規模のバグ、それは真珠樹

 クサムライさんの背中に乗っている感覚を強いて例えるなら……そう、オープンカーとでも言うべきだろうか?

 本物のオープンカーがどんな乗り心地なのかは、知らないけれど!


 僕は自分で運転しているわけではなく、彼の植物繊維にぐるぐると巻き付かれて固定されている。

 その姿はさしずめ、レーシングカーの助手席に座るナビゲーターといったところか。

 実際にはガッチリ固定されているので振り落とされる心配はないけれど、この猛スピードだ。気分的には、車体の上部にあるアシストグリップを握りしめてバランスを取りたくなる。


 カーブのたびに、クサムライさんはその独特な体をしならせ、海底を滑るように曲がっていく。

 これがいわゆる、ドリフト走行というやつか?


 疾走感は悪くない。けれど、あまりのスピードに景色を楽しむ余裕なんてこれっぽっちもない。

 僕はどちらかというと、ゆっくりと景色を眺めながら散歩する方がしょうに合っているのだけれど……。


 しばらく爆走していたクサムライさんが、ようやく減速し始めた。どうやら目的地が近づいてきたようだ。


 と、思った次の瞬間――。


 彼は高く、高く跳躍すると同時に、さっき僕たちがプレゼントした傘をパッと開き、空中で華麗なバック宙を決めた!

 アクロバティックすぎるだろ!


 案の定、その遠心力でカニさんと僕、そしてボコちゃんは空中に放り出されてしまった!

 ちょ、ウチら振り落とされてもうたやん! アホかあのクサ!


 僕はとっさにカニさんへ意志を送った。

 さすがカニさん、器用なハサミ捌きで空中にいる僕とボコちゃんをキャッチし、自分の背中に乗せると、これまた器用に傘を開いて、水中のパラシュート降下を開始してくれた。

 ふぅ、助かった。


 ところが、僕の横でボコちゃんが突然泣き出してしまった。

 赤ちゃんになってからも一度だって泣かなかった子が、一体どうしたんだろう?


 手で彼女の頭を撫でながら、どうしたのと尋ねる。

 彼女はしゃくりあげながら、たどたどしい言葉で答えた。


「うぅ……ママ、くれた……たま……おちた……」


 ああ……そういうことか。

 さっきのバック宙で放り出された拍子に、以前洞窟探検用に作ってあげた『発光真珠』を落としてしまったらしい。


 なんだ、そんなこと?

 真珠なんて、僕のスキルを使えばいくらでも代わりは作れる。

 でも、ボコちゃんにとっては、あの『元の真珠』じゃなきゃダメなんだろう。きっと愛着があるに違いない。


 それなら、見つけ出すまでだ。

 幸い、僕たちは今、パラシュートでゆっくりと降下している最中だ。この高さを利用して眼下の海底を広く見渡せば、落ちた場所が見つかるかもしれない。


 僕は眼下の地面を確認しようと視線を向けた。

 もし落とした真珠が直接目視できれば、着地点を修正できるはず――。


 だが、僕たちの真下にいたのは……んん?


 半人半蛇の集団が、トラック並みに巨大な二つの球形ゼリー状生物――赤いのと黒いの――と戦っている真っ最中だった!

 しかも、僕たちの着地点はそのド真ん中だ!


 その二体の巨大ゼリーは互いに寄り添っていて、上空から見ると数字の『8』の字に見える。

 いや……あの形は……まさか……。


 ビキニアーマーやないかいっ!

 あのクサムライさん、また勘違いしよったんか!


 さっき、服の素材が欲しいと伝えるために、即席で『ブラ』作ったけれど……。

 クサムライのやつ、前のエンドウ豆の時と同じで、また『ビキニアーマーの形をした何か』を探せっていう指令だと受け取りよったんや!

 なんでそう斜め上の解釈ばっかりすんねん!


 あの二体の巨大ゼリーは、どう見てもゲームやファンタジーの定番ザコキャラ、スライムだ。

 「ボクは悪いスライムじゃないよ」なんて可愛いセリフを期待したいところだが……あの禍々(まがまが)しいオーラは、どう見ても悪そのものだ。


 周囲の半人半蛇の人たちはボロボロで、何人かは倒れて血を流している。絶体絶命のピンチじゃないか。


 すると、赤いスライムがイソギンチャクのように変形して無数の触手を、黒いスライムが球形サボテンのように変形して無数のとげを伸ばしてきた。

 その矛先が、降下してくる僕たちに向けられる!


 ヤバいっ!


 僕とボコちゃんは慌てて殻を閉じて防御体勢をとる。

 だが、夜目の効く視界の端で、信じられないものが映った。


 クサムライさんだ。

 彼は僕たちの前に立ちはだかると、僕らがあげたあの傘を、まるで本物の日本刀のように構え――次の瞬間、その姿がブレた。


 ドドドドドドドドドッ!!


 一瞬千撃!!


 傘が残像に見えるほどの超高速乱舞!

 スライムたちが放った無数の触手と棘を、全て鮮やかに叩き落とし、弾き返したのだ!


 なんでやねん! それ格ゲーの超必殺技やんけ!

 というかクサムライさん、どう見てもランク『きょう』 入ってるやろ……!


 あまりの凄技すごわざ呆気あっけに取られてしまったが、いけない、本来の目的を忘れていた。

 そうだ、ボコちゃんの真珠を探さなきゃ。


 真珠は小さいけれど、自ら発光している。僕はすぐにその位置を目視で捉えた。

 『あそこだ!』カニさんに意志を送り、そのすぐそばに着地してもらう。


 だが、カニさんが僕たちを乗せてふわりと着地した、その瞬間。

 とんでもないことが起きた。


 落ちた衝撃だろうか? あの真珠がパカリと割れて、中からなんと、新緑色の可愛い双葉が顔を出したのだ!


 ちゃうやろっ!!!

 なんやねんそれぇぇぇ!!


 なんで鉱物の真珠から、植物みたいに芽が出んねん!?


 常識どこ行ったぁぁぁーーっ!!

 僕は混乱のあまり、発芽した真珠のそばでワタワタと不審な泳ぎを繰り返してしまった。


 すると、僕のパニックが伝わったのか、あるいは単に面白がって真似をしているだけなのか、カニさんにクサムライさん、そしてボコちゃんまでもが一緒になって、苗の周りをグルグルと泳ぎ始めたではないか。


 何してんねんお前ら! キャンプファイヤーか!


 ……はっ、待てよ。わかったぞ。

 原因はあれだ! さっきクサムライさんがくれたエンドウ豆!


 あの豆は丸かったから、ステータスの中で『真珠』として認識されていたんだ。

 当時の鑑定結果はこうだったはず。


【エンドウ豆(美味) 効果:食用可、植え付け可】


 そして僕がボコちゃんにあげた真珠は、おそらく他の真珠を吸収・統合する能力を持っていたんだ。ボコちゃんが豆を食べずに持っていたせいで、真珠があのエンドウ豆を吸収合併してしまったに違いない!

 その結果、真珠のくせに『食用可』で『植え付け可』なんていうトンデモ性能を獲得してしまったんだ!


 なんちゅう化学反応やねん!


 しかし、発芽した真珠は僕の意思などお構いなしだ。

 すごい速度で成長し、あっという間に立派な樹木になってしまった。


 樹皮はまるでペンキをぶちまけたように、僕が吐き出すコンクリと同じ極彩色の七色だ。

 ある程度の大きさで成長が止まると、今度は枝の先に丸い果実――いや、紛れもない真珠がたわわに実り始めた!


 僕は慌てて枝へ泳ぎ寄り、まだ小粒な実の一つをもぎ取ると、すぐさまステータス画面を開いて鑑定する!


 ▼『虹』

  ├ 効果:他真珠の吸収・統合/食用可、植え付け可

  └ 【装備スキル】 『発光 Lv.Max』


 終わった……。

 これ放置したらアカンやつや。世界規模のバグになる。

 この実が種になって、ネズミ算式に次の恐怖の真珠樹が生えてくるわけだろ?


 栄養源がどこにあるのかは謎だが、このままでは遠くない未来、海中がこの樹で支配されてしまう。

 さらに最悪なことに、僕の手の中にある実も含め、全ての真珠が自己主張の激しすぎる七色の光をビカビカと放っているのだ。

 そうなれば海はもはや海ではない。巨大なパチンコ屋かディスコ会場へと変貌してしまうだろう!


 そんなん絶対阻止せな! この実は廃棄処分だ!


 その時、強烈な光に刺激されたのか、二体の巨大スライムがこの真珠樹への攻撃を開始した。

 おっ、ええぞ! もっとやったれ!


 問題は、どうやって他の真珠を処分するかだ……。


 ふと見ると、他の枝になっている真珠は、既にリンゴほどの大きさに育ってしまっている。あんなデカい真珠、僕の殻には収納できないし、運んで捨てるのも現実的じゃない。


 どうする……どうすれば……。


 僕は視線を、周囲にいる半人半蛇の人たちに向けた。


 ……そういえば、さっきの鑑定結果に『食用可』って書いてあったな。


 ここは一つ、僕の美少女パワー(※自称)全開でお願いするしかない!

 傷ついた彼らにこう頼むんだ。「お願い、これ全部食べて♡」って!

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