第6話「違和感」
宗一郎は考え込んでいた。順調に真相に迫っているように見えた。
しかし、知力999の彼には、どうしても腑に落ちないことが一つあった。
それは、――なぜ、母の蘭学書に暗号が仕込まれていると思ったのか?
ということ。
確かに、文体の違和感、句読点の配置、ページ端の模様。
それらは、彼の論理演算スキルによって“異常”と判定された。
だが、それはあくまで“気づいた後”の話だ。
そもそも、なぜ彼は、「この書物に手がかりがある」と直感したのか?
そんなに身近に、しかも家庭内に、歴史改変の鍵があるはずがない。
そう思うのが自然だ。
(俺は……最初から“気づくように”仕向けられていたのか?)
知力999だからこそ、違和感に気づいた。だが、逆に言えば、
違和感を“感じるように設計された”可能性もある。
母の読書習慣、蘭学への理解、
そして宗一郎の転生先がこの家だったこと
―― すべてが、あまりにも都合が良すぎる。
(この世界は、俺に“気づかせる”ために構築されている?)
宗一郎は、暗号の解読結果を見つめながら、もう一つの仮説を立てた。
――設計者は、情報を隠しているのではない。
むしろ、“見つけさせる”ために配置している。
それは、宗一郎の知力999を前提とした“知的誘導”の世界。
彼が気づくこと、解読すること、そして動くこと。
すべてが、設計者の想定内なのではないか。
(俺は、自由に動いているようで……すでにレールの上を走っている?)
その違和感は、彼の中に静かな問いを残した。 世界の設計者とは誰か。
そして、なぜ自分はこの時代に“選ばれた”のか。
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