第56話「新型ChronoSeed」
研究室の奥、メンテナンススペースの一角。
工具の音が止んだその瞬間、静寂を破るように声が響いた。
「もう完成したのではないですか?新型ChronoSeedが…!」
声の主は、左内さん。
姿は見えない。けれど、その声の弾み方でわかる。
彼が今、どれだけ高揚しているかが…。
俺は、手にしていたスパナをそっと置いた。
「……まだ、起動試験はしてませんよ」
そう返すと、奥から笑い声が返ってきた。
「試験なんて、もう必要ないでしょう?
だって、君が組んだんだ。失敗するわけがない。」
左内さんの声からは、以前と変わらない信頼がにじんでいた。
それが、何よりも嬉しかった。
というのも先日、対決方法の件で、
左内さんと清隆さんに提案してもらった案を、
俺の一存で廃案にしてしまったからだ。
そのことを、改めて二人に詫びたばかりだった。
もちろん、あの案もよく考えられていた。
俺たちも、何度も話し合って、悩んで、最善を探した。
でも、あの案は“ジャッジの在り方”だけに焦点を当てたものだった。
俺は、それだけじゃ足りないと思った。
対決の意味、参加者の心情、観ている人たちの受け取り方。
すべてを踏まえて、総合的に判断したつもりだった。
そのとき、左内さんはこう言ってくれた。
「わざわざ声をかけてくれて、ありがとう。
私たちの意見よりも、君の視点のほうがずっと広かった。
だからこそ、君の出した結論に、自信を持ってほしい。
私は、君の思いを信じてるよ」
その言葉が、今も胸の奥で静かに響いている。
とにもかくにも、動力の蒸気機関は、すでに新型君に組み込み済みだ。
構造的な調整も終わっていて、今はテスト段階に入っている。
でも、ここまでの試験運転で、ひとつ確かなことが分かった。
この新型君の動力は、高温かつ高圧の状態で初めて本来の性能を発揮する。
つまり、蒸気機関に代わる動力が一般的になった時代から、
すでに動力が存在している時代へと向かう分には、特に問題はない。
けれど、この動力を安定して継続的に使おうとするなら、
それなりの頻度でのメンテナンスが不可欠になる。
だから、新型君をただ起動するだけなら、何度でも可能だ。
けれど、時間を越えたり、過去へ遡ったりするような本格的な運用となると、
その使用回数にはどうしても限界がある。おそらく数回が精一杯だろう。
まあ、それはそれとして。
澪が人間の姿に戻ってからというもの、作業の進行速度がまるで違う。
体感で言えば、作業効率はおよそ3倍。
いや、正確には2.7倍くらいかもしれないけれど、
とにかく、彼女がいるだけで空気が変わるのは確かだった。
今回の新型君には、複数人での搭乗が求められていた。
だから、設計段階から運転席と助手席を含めた5人乗りを想定していた。
イメージしたのは、一般的な自家用車。
2代目君よりも横幅は広くなったが、
そのぶん、どこか粗忽で愛嬌のあるフォルムになったと思っている。
動力の耐久性を考慮して、 “念のために行う飛行テスト”は、
念のために今回は見送った。
無理に飛ばして壊すより、確実に仕上げる方が大事だ。
あとは、外装のカラーリングを仕上げるだけ。
俺の好みで、外部は深みのあるBLACKに、
細部にはアクセントとして赤を差し込んだ。
その配色を思い浮かべながら、完成を心待ちにしていた。
……はずだったのに。
「この子(新型ChronoSeed)のカラーリングさ、
私に任せてもらえないかしら。
前の子(ChronoSeedVer.2067)は時間がなくて、
そこまで気を配れなかったからね。」
そう言って、満面の笑みを浮かべる澪さんが、
いつの間にかすぐそばに立っていた。
(無理無理!あの笑顔を正面から否定する勇気なんて、俺にはない…)
俺は、作業を続けるふりをしながら、
事前に用意していた塗装具一式を、
誰にも気づかれないように そっと処分しようとしていた。
──その時だった。
ドキンコッ!!
心臓が跳ね上がるような音が、耳の奥で鳴った。
俺の名前を呼ぶ声が、背後から飛んできたのだ。
「颯真!よろしい?かしら。私が色を決めても。」
声をかけたのは、もちろん澪さん。
俺は、深く息を吸い込んで、平静を装う。
【内部状態:動揺 68%】
【外部出力:表情制御ON──声、一定・視線、固定】
【演算指令:平静モード維持──“問題ない”と応答】
「問題ない。」
なんとか、ピンチをやり過ごした。
ちょっとだけ、いや、かなり残念ではあるけれど、
── それもまた、悪くないかもしれない。そう思えた。
──翌朝。
研究室の扉を開けた瞬間、思わず足が止まった。
朝日を浴びて静かに佇む、新型ChronoSeed。
その外装は、まさしく俺が思い描いていたカラーリングそのものだった。
深いBLACKに、細部を彩る鮮やかな赤。
まるで、夜明け前の空に燃える焔のような──そんな姿。
「……澪さん、気づいてたんだな」
俺の気持ちを、言葉にしなくても察してくれていた。
あのときの笑顔の裏に、こんな優しさを隠してたなんて、ずるいじゃないか。
俺はChronoSeedの前に立ち、拳を軽く握った。
「よっし!決めた!
今日から君は── ChronoSeedVer.幕末だ!」
その名前には、「時代を越えて進む」という決意を込めた。
過去と未来をつなぐ、大切な役目を持った機体。
いま、時をこえる旅が──ここから始まる。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
━━(付録)守護者紹介 ≪水属性≫ ━━━━━━━━━━━━━
・No11/30(水属性)(レア1)(速さ5)
守護者名:【沈黙ノ花精・睡蓮】詳細:水面に咲く静寂の守り手
与ダメ:0、回復:2
特殊効果:このカードを対戦中バトルフィールドに
合計7回出せたら無条件で勝利
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・No12/30(水属性)(レア1)(速さ6)
守護者名:【深淵触手・クラーケン)】詳細:北海に棲む巨大な海獣
与ダメ:1 復:1
特殊効果:次の2ターン継続回復+1
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・No13/30(水属性)(レア1)(速さ6)
守護者名:【潮路測量士・伊能忠敬】詳細:全国の海岸線を測量した探究者
与ダメ:1、回復:2
特殊効果:このターン、相手が火属性の場合のみ特殊効果を無効、
相手の継続の攻撃、ターン数は含まない
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・No14/30(水属性)(レア2)(速さ6)
守護者名:【渡河雷雨・張遼】詳細:三国志で豪雨の中を突破した猛将
与ダメ:1、回復:2
特殊効果:相手が水属性の場合、相手の特殊効果無効、
次の2ターン継続回復+2
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・No15/30(水属性)(レア2)(速さ8)
守護者名:【海嵐荒神・スサノオ】詳細:日本神話の海と嵐の神
与ダメ:2、回復:2
特殊効果:速さが相手以上の場合、相手の通常攻撃のみ無効
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・No16/30(水属性)(レア2)(速さ7)
守護者名:【東方護水龍・青龍】詳細:幻惑の舞手
与ダメ:2、回復:2
特殊効果:ターン開始時に相手より体力ゲージが、
1ポイントでも下回るとき、与ダメが4になる
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・No17/30(水属性)(レア2)(速さ3)
守護者名:【海底王座・ポセイドン】詳細:ギリシャ神話、海神
与ダメ:1、回復:3
特殊効果:このターンの全相手の特殊効果を無効、
相手の継続の攻撃、ターン数は含まない
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・No18/30(水属性)(レア3)(速さ先)
守護者名:【水影飛将・源義経】詳細:身軽さで敵を翻弄、伝説の武将
与ダメ:1、回復:4
特殊効果:必ず先制回復できる、
さらに相手のターン終了時に追加回復+1
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・No19/30(水属性)(レア3)(速さ5)
守護者名:【潮目の智将・毛利元就】詳細:水陸を制する老練の戦略家
与ダメ:2、回復:4
特殊効果: そのターンの全相手の特殊効果を無効、継続も含む
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・No20/30(水属性)(レア4)(速さ4)
守護者名:【第零守護・水天】詳細:火山に棲む不死鳥
与ダメ:2、回3,:10(1回/1試合)
特殊効果:1回だけ全回復する、その場合必ず後攻めになる
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