第53話「外見」
人間の姿が光に包まれ、輪郭が揺らぎながら次第に変わっていく。
その瞬間、ChronoSeedの中心部から――『未来の鐘』のような、
ファンファーレが鳴り響いた。
その音は、まるで誰かの帰還を祝福するかのように、研究室全体に響き渡った。
俺はこの光景を見届けながら、
ChronoSeedの演算能力の不足分を補うために全力を尽くし、
警告音とエラー表示に囲まれながら、ぎりぎりの調整を続けた。
結果、疲労困憊で床にへたり込んで、目の下にはくっきりとクマができていた。
その音に気付いた瞬間、澪が無事に人間の姿へ戻れたのだと理解する。
そうして、全身の力が抜けて、思わず小さく息を吐いた。
「……うまくいったようだな。しかしだ!澪さんよ!
普通ならこういう場面、裸で登場するもんだぞ。」
そう突っ込む俺の目の前で、澪は服を着たまま立っていた。
――さすが澪さんたる所以だと感心する。
澪の姿は光に包まれ、青白い輝きが研究室を隅々まで満たす。
その瞬間、外では荒れ狂っていた嵐が次第に静まり、
雨脚は弱まって、雲が裂けていく。
やがて厚い雲の隙間から陽光が差し込み、
研究室の内部を黄金色に染め上げた。
嵐は完全に去り、澄み渡る空が広がっていく。
そして、みんなの目の前には――人間の姿を取り戻した澪が、
光の中に立っていた。
少しだけ、澪さんがどんな御姿で現れたのかを紹介しておこう。
正直、期待していた分ちょっと残念な気持ちもあるが、
俺の知識の範囲でしか語れないから、その辺は大目に見てほしい。
服装はというと、白衣を羽織り、
その下には淡いグレーのハイネックニット。
ボトムはスラックスパンツで、端正かつ機能的な印象を受ける。
足元はヒールではなく、落ち着いた色合いのパンプス。
全体として、研究者らしい冷静さと実用性を兼ね備えたスタイルである。
澪本人の顔立ちは、すっきりとした輪郭のうりざね顔に切れ長の目。
髪型は肩までのストレートヘアで、耳にかけてすっきりとした印象を見せる。
細身のメタルフレーム眼鏡を着用し、淡々とした微笑みを浮かべている。
さらに首元には未来的なアクセサリーが輝き、
彼女の理知的な美しさを際立たせていた。
そんな澪の姿を目の当たりにした俺たちは、
折角だから記念写真でも撮ろうという話になった。
「この瞬間を残しておきたい!」と誰もが思ったのだ。
ところが――奇跡のような不運が起こった。
研究室にあるカメラが、なぜかすべて壊れていたのだ。
直前まで正常だったのに、まるで何かに拒まれたかのように。
電源が入らないものもあれば、シャッターが切れないものもある。
どれも使い物にならない。結局、撮影は断念せざるを得なかった。
その場に妙な沈黙が流れたが、
誰かが「じゃあ似顔絵でも描いて残すか?」的なことを冗談めかして言った。
確かに、こういう時こそ絵を描く人の腕の見せどころなのかもしれない。
限られた情報や記憶だけで、澪の姿を紙の上に再現できるものなのだろうか?
できることなら、こういうのを描くのが、とても好きなんだよねっていう人に、
実際に描いてもらいたいくらいだ。あの瞬間の澪の姿を、
記録ではなく、自分の記憶だけに留めておくのは、
どうにも少し惜しい気がしてならない。
とはいえ、最初の試練は突破した。
次に俺たちを待つのは、さらなる難関か、それとも予想外の運命か……。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。




