第48話「正月(番外編)」
━━(お餅)━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
地下の第3会議室で冷徹な宣言を終えた後。
会議が散会し、幹部たちが退出した後の静けさ。
葉月は一人、机の上に置かれた小さな包みを開いた。
中には、部下が差し入れた焼き餅。
無骨な指で箸を持ち、湯気の立つ餅を口へ運ぶ。
しかし、餅は伸びて頬にくっつき、葉月はわずかに眉をひそめた。
「……熱い。」
低く呟きながら、指で餅を外す。その仕草は、
会議室で見せた冷酷な姿とはまるで別人のようだった。
傍らに残っていた若い部下が、思わず目を丸くする。
葉月はその視線に気づき、わずかに苦笑を浮かべた。
「……餅には勝てん。」
その一言に、部下は緊張を解かれ、思わず小さく笑みを漏らした。
冷徹な秩序の象徴である葉月にも、餅に手こずる人間らしい一面がある。
―― その光景は、部下にとって忘れがたい瞬間となった。
━━(みかん)━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
会議室の緊張が解け、幹部たちが退出した後。
冷徹な責任者・葉月は一人残り、
机の上に置かれた小さな籠に目をやった。
そこには、部下が差し入れた冬のみかんが数個。
無骨な指で一つを取り上げ、皮をむこうとする。
しかし、厚い皮がなかなか剥けず、葉月は眉をひそめた。
鋭い眼差しの男が、みかんに手こずっている。
――その光景は奇妙なほど滑稽だった。
「……皮が固いな。」
低く呟きながら、指先に力を込める。 ようやく皮が裂け、
甘い香りが広がった瞬間、葉月はわずかに表情を緩めた。
傍らに残っていた若い部下が、思わず目を丸くする。
葉月はその視線に気づき、苦笑を浮かべた。
「……みかんには勝てん。」
その一言に、部下は緊張を解かれ、思わず小さく笑みを漏らした。
冷徹な秩序の象徴である葉月にも、みかんに手こずる人間らしい一面がある。
―― その光景は、部下にとって忘れがたい瞬間となった。
━━(続・お餅)━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
翌日。 会議室の片隅に、再び餅が用意されていた。
前回は伸びる餅に翻弄され、部下の前で「餅には勝てん」と漏らした葉月。
だが、その言葉が自らの耳に残り、妙な屈辱感を覚えていた。
「……今日は必ず勝つ。」
低く呟き、鋭い眼差しで餅を見据える。
まるで敵を前にした戦士のような気迫。
部下たちは息を呑み、餅を前にした葉月の姿を見守った。
葉月は慎重に箸を構え、焼きたての餅を持ち上げる。
ふう、と息を吹きかけ、冷静に温度を見極める。
そして、ゆっくりと口へ運ぶ――。
……伸びる。 餅は再び葉月の頬にまとわりついた。
一瞬、場が凍りつく。 だが葉月は眉をひそめながらも、
力強く餅を噛み切った。
「……勝った。」
低い声でそう言い切ると、部下たちは思わず拍手を送った。
餅との小さな戦いに勝利した葉月の姿は、
冷酷な秩序の象徴でありながら、
どこか人間らしい執念を感じさせるものだった。
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