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幕末転生 - 転生したら知力だけでガチるしかなかった -   作者: 紫蘭
「Ally」

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第46話「プレゼント(番外編)」

 龍馬の手にある清隆からの贈り物は、ひときわ強い存在感を放っていた。

 包みを解くと、その正体が明らかになる――焼酎「森伊蔵」の一升瓶である。


 瓶から漂う独特の甘みと香りは、ただの酒ではないことを示していた。

 薩摩の地で育まれた銘酒、その芳醇さは場の空気を一瞬で変えるほどだ。


 左内が静かに口を開く。


「森伊蔵……薩摩でも特に希少とされる焼酎だ。

 甘みと香りの調和が絶妙で、まさに銘酒と呼ぶにふさわしい。」


 清隆は本来、自ら説明するつもりでいたが、左内の知識に驚き、

 むしろ感激の面持ちを浮かべた。薩摩の酒を理解していることに、

 心から嬉しさを覚えたのだ。


 その空気に合わせるように、龍馬が豪快に笑い、声を張り上げる。


「こりゃあ、わしの気分にどんぴしゃじゃ!

 清隆さん、ありがとよ。ほんなら、みんなで飲もうぜよ!」


 場の空気は一気に華やぎ、森伊蔵の瓶を中心に

 仲間たちの笑い声が広がっていった。

 その温かな輪の中で、宗一郎は頃合いを見て、

 澪にそっとくじを引くよう促した。


 澪は小さい頃から兄と二人きりで暮らしてきたため、

 こうして皆と一緒に過ごす経験はほとんどなかった。

 だからこそ、この瞬間が胸に迫り、言葉にならないほど感動していた。


 澪が引いたくじには「橋本左内」と記されていた。

 途端に、場の視線が左内へと集まる。

 左内は静かに膝をつき、澪の前に丁寧に包まれた贈り物を置いた。


「ありがとう」と澪が微笑みながら礼を言うと、

 宗一郎がやさしく包みを開いてくれる。

 中から現れたのは、とても上品で香り高い香木だった。


 左内は澪に向かって穏やかに言葉を添える。


「心を整える時間を、どうか持ってほしい。」


 澪はその思いやりに胸を打たれ、感激の面持ちで香木を見つめた。

 すると、小箱の隅に一枚の手紙が添えられていることに気づく。

 澪は震える手でそれを取り上げ、

 目を潤ませながら何度も左内に「ありがとう」と繰り返した。


 その短い言葉――「心静かに、志高く」――は、


 澪にとって兄の面影を思い出すには十分すぎるものだった。

 涙が頬を伝いながらも、周囲の楽しい雰囲気が澪の心をやさしく包み込み、

 彼女の胸に新たな温もりを刻んでいった。


 やがて場の空気が少し落ち着いたところで、

 今度は俺がくじを引く番となった。

 どうやら澪からのプレゼントらしい。

 自然と「中身は何だろう?」という期待よりも、

「どんな思いが込められているのだろう?」という気持ちが強くなる。


「開けてもいいか?」と澪に確認すると、彼女は静かに頷いた。

「包みを解くと、中から現れたのは、真新しい紙の白さが輝く、

 高級そうな一冊の空白ノートだった。」


 澪のプレゼントは、派手ではないけれど、深く心に残るもの。

 それは彼女自身の生き方と重なっていて、

 贈る相手の心に静かに届くようなものだった。


 宗一朗がふと表紙の裏に目をやると、

 そこには澪の直筆で短い言葉が記されていた。――「未来を描く」。


 澪は少し照れたように微笑みながら言った。


「使うかどうかは、颯真の自由だけど……たぶん、颯真なら

 何か面白く誰もが興味のあることを沢山書いてくれそうだと思ったのよ。」


 その言葉に宗一朗は目を細め、笑顔を浮かべた。


「俺にピッタリなプレゼントだ。」


 その瞬間、澪の思いと宗一朗の心が静かに重なり合い、

 場の温もりはさらに深まっていった。


 やがて場の流れは自然に次の番へと移り、

 今度は左内さんにプれゼントを渡すのは俺のようだ。

 俺が差し出した袋からは、ふわりと甘い香りが漂う。

 今までに嗅いだことのない、やさしくも新鮮な匂いだった。


 袋のラッピングは少し不格好だが、その中に込められた思いは真剣そのもの。

 澪に教わったレシピをもとに焼き菓子に挑戦してみた。

 ――不器用ながらも心を込めた贈り物だった。


 俺は短く言葉を添える。


  「……味は保証できないけど、まあ、食べてみてくれ。」


 左内は静かに受け取り、一口かじる。そして落ち着いた声で語り始めた。


「外側は軽く焼き締められていて、歯を立てると心地よい音がする。

 中は柔らかく、甘さは控えめだが素材の香りが際立っている。

 後味はすっきりしていて、次の一口を自然に誘う……これは、

 作り手の誠実さがそのまま表れている味だね。」


 その言葉に場の空気がふっと和み、仲間たちの間に笑いが広がる。

 澪が小さく頷きながら微笑んだ。


「左内さんの言葉で、颯真の気持ちがよく伝わった気がするよ。」


 俺はただ静かに頷き、焼き菓子を見つめる。

 派手ではないが、確かに「相手を見ている」誠実さがそこに宿っていた。


 そして、色々あったプレゼント交換会も、とうとう最後の番となった。

 龍馬から清隆へ――その瞬間を前に、場の空気は少し張り詰める。


 龍馬は胸の奥で迷いを抱えていた。


「みんなの贈りもんと比べたら、わしの持ってきたもんは……

 この場にゃふさわしゅうないがやないろうか。」


 彼の手にあるプレゼントは『ピストル』。

 実用的でありながら、華やぎの場にはあまりに異質な存在だった。


 一方の清隆は、心のどこかで淡い期待を抱いていた。


  「砲術ん本や資料が欲しかっじゃっどん、

 龍馬からそげんもんは貰えんじゃろなぁ。」


 そう思いながらも、心の奥底では願いを捨てきれずにいた。


 本来なら、龍馬の反省と清隆の願いが素直に交われば、

 互いにとってこれ以上ない贈り物になるはずだった。

 しかし、龍馬は「場違いではないか」と自分を責め、

 清隆は「望みは叶わない」と諦めかけている。


 互いの思いがすれ違い、もどかしさが場を支配する。

 袋の中に眠るピストルは、龍馬の迷いを映すように重く沈黙し、

 清隆の胸にある砲術への渇望は、叶わぬ夢のように揺れていた。


(普通にやれば、互いにウィンウィンなのに……)

 二人は一歩を踏み出せずにいた。

 ちなみに、この状況を正しく理解できている者は一人もいない。


 場の空気は緊張と期待の狭間で揺れ、

 最後の贈り物が渡される瞬間を待っていた。


 俺はしびれを切らし、龍馬に言った。


「大事なのは、何を渡すのかではなく、どんな思いで渡したのかが重要なんだ。」


 その言葉に押され、龍馬は清隆へ贈り物を差し出す。

 そして、力強く言葉を添えた。


「自分の身は自分で守らんといかんきね。

 もし危険を感じたら、これを使うてほしいがよ。」


 袋から現れたのは、一丁のピストル。

 場の空気が一瞬張り詰め、誰もが息を呑む。

 清隆は目を見開き、そしてゆっくりと笑みを浮かべた。


「……おいが求めちょったもんとはちいと違っどん、

 砲術に繋がっちょっもんじゃ。  

 龍馬君、こいはおいにとっちゃありがたい贈りもんじゃっど。」


 その声には、心からの喜びが宿っていた。

 龍馬の迷いと清隆の願い――すれ違っていた二人の思いが、

 この瞬間に重なり合い、互いを満たすものとなった。


 仲間たちの間に温かな笑いが広がり、

 緊張に包まれていた空気は、

 やがて祝福のような和やかさへと変わっていく。


 こうして最後の贈り物は渡され、 それぞれの心に残るのは、

 物ではなく「思い」だった。

 その夜の記憶は、誰にとっても忘れがたいものとなり、

 静かに、しかし確かに、未来へと続いていった。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。


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