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幕末転生 - 転生したら知力だけでガチるしかなかった -   作者: 紫蘭
「Ally」

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第44話「かけそば」

 乗り越えるしかない――そう啖呵を切ったはずなのに、

 現実は甘くなかった。

 新型ChronoSeedクロノシードの開発は、予想以上に難航している。

 設計段階で見えてきた問題点は、どれも一筋縄ではいかない。

 特に本体の演算処理能力が、明らかに不足している。

 もし今の状態で性能が足りないというなら、

 俺自身がパイロットとして搭乗し、演算の一部を脳で補うしかない。

 つまり、そうすることでシステム全体を調整し、

 なんとか成立させるしかないということだ。

 今のところ、それ以外の方法は思いつかない。

 ていうかさ、この状況で他に妙案があるっていう人がいたら、

 ぜひ教えてほしいくらいだ。


 そして、もうひとつの大きな壁――動力源の問題が残っている。

 椅子にもたれながら、俺は指先で空中に数式をなぞった。

 小さく息を吐く。未来なら、こんな問題は簡単に解決できるのにな。

 メモ用紙に書き出した数値を見つめながら、俺は独り言のように呟いた。


「時速100kmを、最低でも2.695秒維持しつつ、

 安定して移動しなければならない。

 つまり、加速・慣性・制御をすべて含めて、

 この時代の物理限界を突破する動力が必要になる。」


 そう言いながら、俺は立ち上がり、大きめの模造紙を広げて、

 中央に大きく「動力=?」と書き込んだ。

 まだ正体のわからない動力を、この時代の技術で用意しなければならない。

 無茶だとは思う。でも、まるで時代そのものに挑戦しているようで、

 正直ワクワクしている自分もいる。とはいえ、冷静に考えれば考えるほど、

 これはかなりの無理ゲーだ。本当に突破口はあるのか?

 そんなことを考えながら、俺は研究室の片隅で思案に暮れていた。


 ふと、暮れ六つの鐘が鳴っているのに気づいた。

 どうやら午後6時になったらしい。

 このまま研究室に残って、もう少し問題点を洗い出そうと思った矢先、

 「ぐぅ~~~っ」と俺の腹時計が鳴った。(カップ麺、食べたいなぁ…)

 今晩は少し長く研究室にこもるつもりだったので、

 外食で済ませることを母に伝えた。

 母からもらった16文をグッと右手に握りしめ、

 俺は家から一番近い屋台のそば屋へ向かった。


 『かけそば』を一つ注文する。

 俺は思うんだ。未来の人たちの中には、屋台そば屋のビジネスモデルが

 コンビニに似ているって言う人が多い。

 でも、コンビニはどんな売り手でも、同じ品質で商品を提供できる仕組みだ。

 つまり、均質化されたサービスだ。


「へい、お待ちぃ!かけそばできたよ!」


 熱々のかけそばが目の前に置かれる。

 まずはそばには手を付けず、汁のうまみをじっくり堪能する。

 「うまいなこれ…」と、小さな声が自然と口から漏れた。


 「兄ちゃん、そばうめーだろ?」と店主が猛アピールしてくる。

 確かに、ひとつ先にあるそば屋より格段にうまい。

 ということは、店によって料理人の技術に差があるってこと。

 だからこそ、コンビニとは違うんだと思う。


 食べながら、俺は何気なく、かけそばが出来上がる工程を目で追っていた。

 湯を沸かし、そばを茹で、汁を注ぎ、具を乗せる。

 ――その一連の動きが、なぜか妙に心に残った。


 そのとき、俺はぼんやりと考えごとをしていた。

 そばをすすりながら、「この時間帯って、

 けっこう混むんだな」と現実に引き戻される。

 最後の一滴まで汁を飲み干す頃には、店内はすっかり混雑していた。

 注文が立て込んでいるのだろう。


 俺の席は、ちょうど厨房からの湯気が当たる位置だった。


 ん?(湯気?)……何かが引っかかった。湯気……蒸気……そうか!


 動力源の問題。俺の記憶が正しければ、案外すぐに解決できるかもしれない。

 この瞬間、ChronoSeedクロノシードに搭載すべき動力の見当がついた。

 あとは、記憶が間違っていないかを確認するだけだ。


 その動力は、構造がそこまで複雑じゃなかったはず。

 材料も、この時代で十分に調達できる。

 研究自体は、かなり昔から行われていた。

 ただ、産業革命以前の人々には、あまり響かなかったらしい。

 そして今、ようやくこの時代になって、ついに出番が回ってきた。

 ……なんとも気の毒な動力源だ。(と俺は思っている。)


 俺は箸を置くと同時に会計を済ませ、急いで研究所へ戻った。

 夢中で澪を探し出し、答え合わせの時間だと言わんばかりに勢いよく尋ねた。


「確か、イギリスのジェームズ・ワットだっけか。

 彼のこと、教えてくれないか?」


 こんなに嬉しそうな宗一朗を見るのは、澪にとっても久しぶりだった。

 驚きながらも、彼女はすぐに該当データを呼び出し、落ち着いた声で読み上げた。

  (後日談になるが、このとき澪は俺の行動から全てを察していたらしい。)


「ジェームズ・ワット……1765年、分離凝縮器の発明で熱損失を削減。  

 1781年には、蒸気の力を回転運動に変換する技術を確立。  

 蒸気機関が“推進力”として使えるようになったのよ。」


 よっし!ビンゴだ。


 ずっと悩んでいたことが一気に解消されて、

 俺は思わずガッツポーズを取っていた。

 暗闇に光が差し込んだような感覚。

 たぶん、周りには伝わりにくいだろうけれど。


 俺は指先で数式をなぞりながら、嬉しさのあまり声を張り上げた。

 その声は研究室の壁に反響し、まるで独り芝居のように響き渡った。


「宗一朗くんに質問!

 この時代で、時速100kmを2.695秒維持するにはどうすればいい?

 そう、答えは――連続出力と瞬間制御が不可欠!


 では次の問題だ!

 これが分かれば、動力源は見つけたも同然!

 何を蓄積し、放出し、姿勢を安定させるのか?

 答えは……その通り!蒸気圧!


 最後の質問だ!これは難問ですよ。

 詰まるところ、“何を再構成する”ことで、時代の限界を演算的に突破できるか?

 さあ、答えはズバリ?――蒸気機関!」


 ……今思えば、ひとりで小芝居する位に、かなり興奮してたんだな。お恥ずかしい…

 しばらくして少し冷静になった俺は、模造紙の余白に新たな式を書き込んだ。


「蒸気圧 × 制御弁 × 姿勢安定 = ChronoSeedクロノシード初期推進力…」


 俺は、この200年前の時代で、知力によって未来を動かそうとしている。

 そのとき、蝋燭の火が静かに揺れた。

 俺の演算は、過去と未来をつなぐ架け橋になろうとしていた。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。


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