第41話「分担協力」
宗一郎の部屋に集まった5人の話し合いは、
夜の帳がすっかり降りた頃、再び静かに始まった。
窓の外では街灯がぼんやりと灯り、 部屋の中には、
思索と緊張が入り混じった空気が漂っていた。
「まずは、土台の話からだね」と澪が口を開く。
澪が話し始めると、誰もが自然と耳を傾けてしまう。
彼女の声には、理屈じゃない説得力がある。
今回の対決を成立させるには、まず“世界”が必要だった。
つまり、主義主張をぶつけ合うための舞台。
―― それをどう構築するかが、最初の課題だった。
宗一郎は頷いた。
「俺たちが目指すゲームの世界、実現はもう少し先になると思うけど……
仮想空間を使って、“互いの主張を言える場”として成立させたい。
澪の設計する世界には、それができる可能性があると思ってる。」
澪が構想するゲーム世界は、ただの娯楽ではない。
主張をぶつけ、相手の感情を揺さぶり、 構造を可視化する。
―― そんな仕組みにすることができると、宗一郎は信じている。
だからこそ、彼女と共にこの世界の土台を準備する役を担うことにした。
ただし、具体的なシステム設計にはまだ踏み込む段階ではない。
それは、次回の話し合いまでの重要な宿題になると思う。
今は、問題点と改善点を洗い出し、
どうすれば“決着のつく構成”にできるかを探る段階だ。
「主義主張がぶつかっ場っちゅうこつは、
勝敗ば決める基準が要るじゃっど。」
清隆がそう言って、腕を組む。
その目は深く考え抜いた人の目だった。
「そんためには、審判ん仕組ん要るっど。
公正さと見えやすか構造がなけりゃ、
どげな主張も正しかかどうかは分からんど。」
左内が静かに頷いた。
「主義主張は、時に暴走します。主張が別の主張を呼び、
感情が制度を突き崩す。だから、逸脱を防ぎ、
制度の均衡を保つために、審判機構の設置は不可欠です。
そして、そこに中立的立場の人工知能を導入したい。これは、
できるだけ早く設計を進めるべき案件だと考えています。」
左内はその必要性を強く訴え、清隆は制度としての安定性を重視した。
2人にとって、主義主張のぶつかり合いを暴力ではなく 、
“構造”で裁く仕組みを作ることは、もはや絶対条件だった。
頭はクールに、心はホットに。
冷静な設計構想の裏には、誰も犠牲にしないという強い信念があった。
この2人なら、きっと“決戦のための舞台”を、ちゃんと形にしてくれる。
――宗一郎は、そう確信した。
そして、清隆が再び口を開く。
「たとえばじゃっど、
主義主張の共鳴があんまり強うなっせば、
審判機構が暴走すっ可能性もあっど。
そいば、どう抑えっかが肝心じゃっが。」
宗一郎はその言葉に深く頷いた。
「ゲームの世界観だから、多少の融通は利くと思う。
でも、それなりの弊害もある。だからこそ、
審判制度の枠組みが必要になってくるんだ。」
その時、龍馬が立ち上がった。
湯上がりの髪を乱暴にかき上げながら、
場の空気を一気に変えるような声で言った。
「ほんなら、CIOとの交渉は、わしがやるぜよ。
宗ちゃんの言うこと、わしはよう分かっちゅう。
命張るがは得意やけんど、言葉でぶつかるがも、嫌いじゃないき。」
澪が驚いたように目を見開いたが、すぐに頷いた。
「……CIOにこの形式を認めさせるには、
ただ理屈を並べるだけじゃ足りない。
相手に構えさせず、自然に懐に入れる人じゃないと、話にならない。
龍馬君なら、それができる。だから、心強い。」
清隆が腕を組んだまま、静かに言った。
「交渉ん場じゃっで、
主義主張ばはっきり示さんといけんど。
CIOの“知力監視=排除”ち言う構造に、
わっぜらが気づいちょっこつば、
きちんと見せんといかん。」
左内も頷いた。
「彼らは“主義主張”を秩序の不確定の要素とみなす。
だが、我々は“主義主張”こそが自由な発想を守る鍵だと考えている。
その違いを、制度の中で可視化する必要がある。」
俺は、みんなの言葉を聞きながら、静かに言った。
「これから作るゲームの世界は、主義主張を拒絶する構造への対抗手段だ。
主張を暴力で裁かず、構造で評価する。それが、俺たちの提案だ。」
その空気を受けて、龍馬がもう一度、前に出た。
彼の声は明るく、しかし芯が通っていた。
「宗ちゃんらが考えちゅうこの世界っちゅうがは、
主義主張の自由を守るためのもんじゃき。
CIOの“知力監視=排除”っちゅう構造に、
わしらの主張をぶつけるための舞台や。
ほんなら、わしがその意志、ちゃんと伝えてきちゃるき。」
宗一郎は、龍馬の言葉に感謝の眼差しを向けた。
「頼む、直さん。俺たちの主義主張が、
ただの理想論じゃないってことを、伝えてきてほしい。」
そして―― この瞬間、場の空気が変わった。
誰もが、ただの構想ではなく、
“互いの主張をぶつけ合う戦場”が始まることを感じ取っていた。
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