第36話「一枚の写真」
男は通信回線を切ると、静かに目を閉じた。
そして、ぽつりと呟く。
「流石は、蒼井さんといったところか……それと澪、お前もな…」
男は、ゆっくりと上着のポケットに手を伸ばす。
そこには、彼にとって唯一の私物とも言える1枚の写真があった。
写っているのは、彼自身と、蒼井、澪の3人。
かつての穏やかな時間を切り取った一瞬だ。
その写真を見つめながら、
まるでそこにいる2人に語りかけるように言った。
「僕は、2人を侮っていたわけではないんですよ。
でも、残念ながらこれは想定内のことなんで……
もう演算能力は、使えないと思っていてくださいね。」
その言葉には、冷静さと覚悟が宿っていた。
男にとって、感情は行動の妨げにはならない。
ただ、必要な判断を下すだけだった。
その時、第3会議室の扉が静かに開いた。
男は顔を上げ、入ってきた人物を見つめる。
足音もなく、まっすぐ男の席へと歩み寄ったその人物は、短く言った。
「何を協力すればいい?」
現れたのは、山崎烝――幕末の新撰組に所属していた諜報活動員。
彼の力量を見込んでCIOが、この世界に招致した。
男は、宗一郎=颯真の演算能力を
阻害する方法について、山崎に確認を取った。
もしそれが可能ならば、
状況を大きく動かすことができる。
山崎は腕を組み、しばし考え込んだ後、静かに答えた。
「やってみないとわからないが……この世界に来てから、
いろいろと学んだ。医療のことにも詳しくなった。
だからってわけじゃないが、作る自信はある。
ただ、今回の件は少し時間が欲しい。やるだけ、やってみる。
期待して待っていてくれて構わない。」
その言葉に、男は小さく頷いた。
頼れる――そう思った。
山崎の落ち着いた声と、
確かな腕前に裏打ちされた自信は、
男にとって、何よりの安心材料だった。
「頼みますよ、山崎さん。」
そう言って男は立ち上がる。
第3会議室の空気は、すでに次の局面へと向かっていた。
「もう通用しないですよ……」
男は、誰にともなく呟いた。
かつての仲間に対する敬意と、
今の自分の立場を噛み締めるように。
そして、落ち着いた足取りで会議室を後にする。
果たして、CIOは、宗一郎の演算能力を無効化できるのだろうか?
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