第26話「新たな脅威」
ある日の午後、
―― CIO(知性監視機構)の本部にある重厚な扉の応接室。
その部屋には、
柔らかな笑みを浮かべながら数人の客人と談笑する一人の男がいた。
彼の声は穏やかで、しかしどこか冷ややかな響きを含んでいた。
「皆さん、ちょっと耳を貸してください。面白い話がありますよ。」
男は、見ていた資料を邪魔にならない場所に置き、静かに語り始めた。
「信じられますか? あの蒼井総裁が、私の変装に気づかなかったんですよ。」
客人たちが驚きの表情を浮かべる中、男は続ける。
「私は密貿易商人に扮して、彼の目の前に現れたんですよ。
それなのに、彼は一切疑う様子もなく、
私をただの取引相手として扱ったんです。 」
「あの蒼井颯真が、ですよ? かつての世界の英雄が、ですよ?」
男は肩をすくめ、皮肉めいた笑みを浮かべた。
「そんな彼が、知力によって世界平和を実現するだなんて、
――笑わせてくれますよね。 滑稽にもほどがある。
まるで子供の夢物語です。」
一瞬、場の空気が張り詰める。
男は、先程置いた資料に手で触れながら、少し声を低めた。
「とはいえ、CIOの方針は揺るぎません。
潜在的な知性の脅威となる存在は、徹底的に排除する。
それが我々の使命であり、存在意義です。
だからこそ、蒼井颯真の排除は既に決定事項。
彼は、この世界にとって不要な存在――いや、むしろ害悪です。
その事実に、誰も異論はないでしょう。」
男は立ち上がり、窓の外に視線を向けた。
「正直に言えば、今の彼には失望しかありません。
かつては多少なりとも期待していたんですがね。
今の彼では、私どころかCIOの末端職員にすら敵わない。
脅威にはなりえない存在です。 だから、彼の排除は急務ではない。
優先順位は下げても問題ないでしょう。」
そして、ふと視線を戻し、話題を変える。
「それよりも、現在行方不明となっている知性戦略局長補佐
――如月澪。 彼女の対応については、現在保留中です。
彼女の動向次第では、事態は大きく動く可能性がありますからね。」
客人たちが帰った後、男は一人、静かにソファに腰を下ろした。
部屋に残るのは、彼の吐息と時計の針の音だけ。
「僕が本気になったのが、間違いだったのかな……」
そう呟いた彼の表情からは何も読み取ることはできなかった。
しかし、男は続けて呟きとは思えぬほどの圧を持って言い放った。
「命を懸けて抗ってみてくださいよ、蒼井さん。
ですが――僕とCIOは、あなたをこの世界から確実に排除します。」
「それが、この世界の秩序を守るための、唯一の選択なのですから。」
そう言い残し、男は振り返ることなく部屋を後にした。
その背中には、冷酷な決意と、揺るぎない使命感が滲んでいた。
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