第22話「封印」
西暦2067年――それは、世界の歴史が大きく転換する年だった。
若干37歳という若さで、蒼井颯真は「知力による平和戦略」を掲げ、
混迷する国際社会の中で圧倒的な支持を得て、
世界の指導者として君臨することになる。
だが、その未来は脅かされていた。
敵対勢力――CIO(知性監視機構)。
彼らは、知性を脅威とみなし、制御しようとする組織。
颯真の存在は、彼らにとって“未来の反逆者”だった。
彼らが狙っていたのは、まだ何者でもない中学生の颯真。
未来の英雄が、まだ少年だった頃の話だ。
その情報を早い段階で入手した澪は決断した。
CIOの目を欺き、颯真の未来を守るために。
「知力封印プロトコル」――それが、彼女の切り札だった。
当時、まだ中学生だった颯真の脳に、特殊なプログラムを施す。
彼の知性を封じることで、敵の監視網から逃れさせる。
だが、それはただの封印ではない。
彼の肉体能力――特にスポーツ分野における潜在力を最大限に引き出す、
もう一つのプロトコルも同時に発動させる必要があった。
2043年、春。
澪は、廊下の窓辺で一人、
運動場を見つめる少年に声をかけた。
風の音だけが響く静かな午後だった。
けれど、春風のざわめきと少年との間にある距離のせいで、
彼女が思っていたよりも、ずっと声は大きく響いてしまった。
――それは、秘密。
その記憶がよみがえったのか、澪の声には、
どこか照れくさそうな笑みが滲んでいた。
「そこの君ぃー。ちょっとぉー、聞かせてぇー。欲しいんだけれどぉー。
あな たの 将来 はぁー、どうなるとぉー、思いますかぁー?」
その言葉は、ただの問いかけではない。
澪が設定した“封印コード”
――『あなたの将来』というフレーズが、
知力封印プロトコルの認証キーだった。
その瞬間、プログラムは起動した。
澪は、セット完了を確認するために、
予め用意していた質問を投げかけようとした。
だが、颯真は先に口を開いた。
「運動が好きなんで、そのあたりの職業に就けたらいいなって思ってます。
あと……将来、未来の世界で俺と婚約とかしてませんよね?」
その言葉に、澪は思わず息を呑んだ。
封印が本当に機能しているのか、一瞬疑った。
だが、彼の目は純粋で、何も知らない少年のそれだった。
「あなたの知識や能力が目立てば、敵にすぐ見つかってしまう。
だから、封印は必要だったのよ。」
澪の声には、微かな哀しみと決意が滲んでいた。
だが、知力を封じただけでは終わらない。
代わりに、颯真の身体能力を極限まで引き出すプロトコルが発動された。
その結果、彼はどんな競技でも瞬時に適応し、
優秀なパフォーマンスを見せるようになった。
周囲の人々は、彼を“ただのスポーツ少年”として認識する。
それこそが、澪の狙いだった。未来の敵対勢力に気づかれないよう、
知性を封じ、肉体を際立たせる――それが彼女の選んだ偽装戦略。
「あなたが総裁になる前のことは、世間的には知られていないし、
知っている人は皆無に等しい。だからこそ、
今のあなたは“無名の人間”である必要があるの」
それは、未来を守るための孤独な選択。
澪は、少年の未来を信じていた。
だからこそ、彼の知性を封じ、彼の可能性を守った。
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