第17話「澪の覚悟」
ChronoSeedが静かに起動音を響かせた瞬間、
如月遥人の意識は時を越え、過去へと跳躍した。
跳躍先は――2057年。
澪が事故に遭った、あの日。
彼の心には、期待と不安が入り混じっていた。
失敗すれば、すべてが終わる。自分の命も、妹の未来も。
(よし……異常なし。安全センサーも正常作動。
マシントラブルの報告もゼロ。今のところ、完璧だ)
遥人の胸の奥にある澪への強い思いが、
まるでChronoSeedに意志を与えたかのように、
跳躍は驚くほどスムーズに進んでいた。
そして彼は、事故現場に現れる。
澪の運命を変えるために。
妹を救うことに成功し、
事故そのものを未然に防ぐというミッションも、
彼にとっては容易だった。 すべてが順調に見えた。
しかし――
跳躍先での“記憶の干渉”が、
静かに、しかし確実に彼の意識を蝕み始める。
過去の自分との接触。 記憶の重なり。
それらが、遥人の意識の座標を狂わせていく。
「澪……お前を救えた。それだけで、僕は……」
彼の言葉は、どこか遠く、霞んでいた。
意識は自己崩壊を始め、
ChronoSeedは“帰還信号”を受信できなくなる。
遥人の存在は、時空の狭間に溶けていった。
研究所の制御室では、モニターに赤い警告が点滅する。
“意識断絶”――それは、彼が戻れないことを意味していた。
澪は、兄の死を受け入れることができなかった。
涙をこらえながら、ChronoSeedの記録ログを解析する。
そこに残されていたのは、遥人が最後に残したメッセージだった。
「澪へ。ChronoSeedは、誰かの“命”を代償にしてはならない。
だが、お前が“誰かを守るため”に使うなら、僕はその礎になる」
その言葉は、澪の心に深く刻まれた。
彼女は涙を流しながら、ChronoSeedの設計を根本から見直す決意をする。
“跳躍”ではなく、“復活”を前提とした新たな設計へ。
兄の犠牲を無駄にしないために。 愛する人を“取り戻す”ために。
澪の「護衛としての覚悟」は、もはや任務ではなかった。
それは、兄の遺志を継ぐ使命となったのだ。
そして、ChronoSeedは新たな進化を遂げる。
過去を変える装置から、未来を取り戻す装置へと。
──兄の跳躍は、妹の希望となった。
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