エピローグ『空が見える』
ダンジョン騒動から少しだけ経った。
勇者でもなければ、賢者でもない私達二人は幸せに、幸せに暮らしましたとさ。とは行かないのかもしれない。
大変な事はまだ沢山残っている。だけれど嬉しい事はいくつか耳に入ってきた。まずは魔族と人間との戦いは終わったという事だ。魔族の最後の足掻きだったダンジョン騒動も、魔王が討ち取られてすぐに魔族の協力があり、死者は出来るだけ最低限で抑えられたようだ。
責任を取るべき魔族はちゃんと責任を取り、戦争だったという事で人間も魔族も同じ目線で話を進めているらしい。
その情報は当てもなく旅をしている私達の耳にも入る程の事で、まだまだ安定するには至らないかもしれないけれど、人間側も譲歩し、魔族側も理解に励んでいるようだ。
「結構大物だったんだなー、あの人」
ティアが、数日間宿を取っていた街で聞いた話を思い出したように口に出す。
「そうだねぇ……まぁドラゴン相手にアレだけやれる人だったらねぇ」
なんと魔族側の代表は、私達のよく知るアロンソという魔族だった。
つまりはまぁ、魔王の重心的な位置か何かだったのかもしれない。
「下っ端みたいに見えたけどなー」
「まぁ……実力だけは本物みたいだったし」
彼の身の上こそ知らないが、私達を見て、何か思う所があったのならば幸いだ。
そうして、人間も魔族も変わっていく。
それがより良い方だったら、良いなと、ぼんやり思っている。
だって、私達の世界はちゃんと幸せな物になっているのだから。
それを引き伸ばしていけば、この世界そのものだって、上手く行くんじゃないかって思うのは、ティアの影響が大きすぎるだろうか。
「もう少しで王都かー。冒険者ギルドの試験、受かるかなぁ」
「大丈夫だよ、私達なら」
珍しく心配そうなティアの背中を、軽く叩く。
彼女は嬉しそうに驚いて、ぴょんと小さく飛んだ。
今の私は、二人一緒ならきっとなんとかなるんだって、信じている。
たとえ一人になる時があったって、想えば強くなれるのだと、信じている。
考えて、考えて、考え抜く事だって、きっと悪くない。
いつかひょんな事で、答えが出るのかもしれないのだから。
生きていたならば、病める時はきっと来るだろうと思う。
だけれど、絶対に健やかなる時も来ると、そう信じている。
私達の世界が変わるんだ。きっともっと大きな世界だって変わるんだって、なんとなく信じられる。
私は、そんな私と、そんな私にしてくれた隣の彼女が、好きだ。
「ほーんと、空が見えるっていいなー」
ティアがのほほんと空を見上げる、空は曇っていたけれど、彼女はそんな事気にもとめない
「空が見えるだけで、ほっとするよねぇ」
私もそれに同調して、微笑む。
空があるなら、雨も降るし、雲が太陽を隠したりもする。
空があるから、雨で育つし、雲が太陽を隠して涼やかになる。
空が見えないダンジョンでの冒険譚は、私達にとって、忘れられない日々になった。
悲しい事も、楽しい事も、ちゃんと、ちゃんと覚えている。
いつかアロンソに会ったら、もう一度、賭けをしてみよう。
お酒が飲める歳になっていたならもう一度、ちゃんと酌み交わしてみよう。
今度は同じ生きる者として、話をしてみたい。
さぁ、そんな日が来るまで、沢山の冒険をしよう。飽きる事なんて絶対に無い。
何故ならば、まだまだ私達にだって、知りたい事が山程あるんだから。




