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7  思った以上に最低な男だった!

 数日後、最近、タクリッボで買い物をしたことがあるというお客さんがいたので話を聞いたところ、タクリッボの店長はとうとう店を閉めて、訪問販売だけするようになったそうだ。

 店の中に置いてある魔道具は怖くて触ることができず、魔法をかけた魔道具師が見つかるまでは放置しておくことにしたらしい。

 といっても、私が売った魔道具はほとんどあの店内にあるし、倉庫にあったものや他の魔道具師から買ったものもすぐに底をつくはずだ。

 猫の置物はタクリッボの店長のみの金運を悪くしているらしい。ターゲットをしっかり把握できていることは私にとって幸運だった。ちなみに魔道具の効果の解除ができるのは、物に付与魔法をかけた人間だけで、他の魔道具師や付与魔法を使える人間が解除することはできない。

 タクリッボの店長は私を見つけ出さない限り、今までのような贅沢な暮らしはできなくなる。

 

 ざまぁみろだわ。

 これで別れ際の様子を思い出して、苛立つことはなくなるわね!

 気がかりなことが減って日々の暮らしを楽しみ始めていた頃、ロンドさんが来店した。


「お久しぶりです!」

「ああ、リリーちゃん。久しぶりだね」


 注文を聞きに行った私に、ロンドさんはフェルスコット領で買ったという絵葉書をくれた。


「念じた相手にメッセージを届けられる絵葉書だよ。女将さんたちと分けてくれ」

「ありがとうございます!」


 私以外の魔道具師が作ったもののようで、綺麗な花が描かれていて女性に人気がありそうだ。


「魔道具ということは、タクリッボに行ってきたんですか?」

「そうなんだ。といっても店内には入らなかったんだけどね。店に伺った時、ちょうど、彼とフェルスコット伯爵が店の前で話をしていたから、一緒に話をしたんだけど、気になることを言っていたんだ」

「気になること、ですか?」

「うん。その時に聞いた話では、亡くなったリリーノ様が魔道具師だったのじゃないかって嘆いていたよ」

「……そ、そうなんですかぁ」

「うん。タクリッボの店長はリリーノ様が亡くなる前日に話をしたらしいんだけど、とても元気そうで自分で死を選ぶような人じゃないと泣いていたよ」


 私のために泣いているというよりも、これから魔道具をどう仕入れたらいいのか悩んで泣いているんでしょうね。

 人を馬鹿にするから、そんなことになるんだわ。


「大変ですね」

「僕も他人事じゃなくてね。本当に困っているよ。魔道具店なのに売り物がなくなってしまった。今日はたくさん飲んで、しばらくは節約生活でここに足を運ぶのは控えるよ」


 寂しそうに笑うロンドさんを見て罪悪感を覚える。

 どうしよう。ロンドさんは良い人だから助けたい。かといって、私が魔道具師だと明かしてもいい人なのか判断がつかない。


 ……そうだ! 信用できる人か判断できる魔道具を作ればいいんだわ! 難しそうだけど、やる前から諦めるのは性に合わない。


 魔道具を取引する人を見極めるのにもちょうど良いもの。チャレンジしてみましょう!


「待っててくださいね、ロンドさん!」

「いや、それはこっちの台詞なんだが……。まあいいか。本当にリリ―ちゃんは元気だねぇ」

「ありがとうございます!」


 お礼を言ったあと、注文を伝えるため厨房に向かった。



******


 試行錯誤した結果、私は無事に嘘をついているかいないか判断できる魔道具を作ることに成功した。

 嘘をついているかいないか見極める魔道具を手に入れたので協力してもらえないかと女将さんに頼んでみると、お客さんにその話題をしてみて、相手が興味を持ち許可が下りたなら試してみたらどうかと言われた。

 お言葉に甘えて試してみると、本人が必ず本当のことを言うとは限らないということがわかり、逆にそれが私の作った魔道具の性能が良いことが証明された。


 そして私は、自分が魔道具を作れることを打ち明けても良い人と駄目な人を判断する魔道具を作った。私は職業柄、シルバートレイを使うことが多い。だから、判断したい人に触れてもらい指先に痺れが走れば伝えてはいけない人。何もなければ伝えても良い人だとわかるようにした。


 女将さんと娘さんは触っても何の反応もなかったので、信用していい人だとわかった。


 あとは、ロンドさんにも試してみようと思っていたのだが、その前に予想外の出来事が起こってしまった。私の嘘を見抜く魔道具の噂が、タクリッボの店長の耳に入ってしまったのだ。


「あなたが例の店員さんかな? 嘘かどうか判断できるという魔道具を売ってほしいんですよ」


 タクリッボの店長は店に入ってくるなり、出入り口付近にいた私に話しかけてきた。


 なんで、この人がこんな所に!?


 私が言葉を発する前に、タクリッボの店長は目を見開いて叫ぶ。


「あ、あなたはリリーノ様じゃないですか!」


 タクリッボの店長は私を指差して腕を掴もうとしてきたが、女将さんの反応のほうが速かった。


「あんた! 前にうちの子のお尻を触ろうとした奴じゃないか! 二度と来るなと言っただろう!」


 女将さんはタクリッボの店長の体を両手で何度も突っ張って店の外まで追い出した。


 店長って痴漢してたの!? 思った以上に最低な男だった!


「二度とこの店の敷居をまたぐんじゃないよ!」


 女将さんはそう吐き捨てると、何事かとやって来た警備中の騎士に「うちの店の子をナンパしようとした」と訴え、店長を繁華街の外へ追い出すようにお願いしたのだった。


 女将さん、カッコいい!


 ……って、そんなことを考えている場合じゃないわね。まさか一介の酒場の話が、遠い地域にまで伝わるとは思っていなかった。

 本当に私が馬鹿だった! いつかはバレてもいいと思っていたけど今じゃない。今の幸せな生活が続けられるように手を打たなくちゃ!

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